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何もかもが合わないこの世界で  作者: いか人参


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【番外編】結婚式当日



迎えた結婚式当日、早朝から支度に追われる花嫁とは異なり、準備に余裕のあるダイテンは自室で会場の警備体制の資料を見て最終確認を行っていた。

そこに入室の許可を求めるノックの音が響く。


こんな時にやってくる人物の心当たりは一人しかいない。ダイテンは意識して穏やかな表情を作り、やって来た相手を迎えた。



「この前は悪かった。」


部屋に入ってすぐ、頭を下げて謝罪の言葉を口にしたのはエイトルであった。



「顔を上げてくれ。男が無闇に頭を下げるものではない。」

「…って、今のあんたに言われても説得力がないんだけど。」


謝罪しようと意気込んできたものの、目の前で茶器を操り紅茶を入れ始めたダイテンに、エイトルの気が抜けた。



「ん?」

「いや、そんなこと普通辺境伯がやることじゃないだろ。」

「ああ。最近ケルシュのために始めたんだ。中々筋は良いらしい。彼女も俺の紅茶を目当てに部屋に来てくれる。」

「ぬるっと惚気を入れてくんなよ。」


仏頂面をしながらも、エイトルは素直に紅茶を受け取り口にした。その味は想像以上に良く、思わず目を見開く。

その反応から悟ったダイテンが目を細めると、彼はまたムスッとした表情に変わった。



「ケルシュのこと、幸せに出来るんだろうな?絶対に泣かすなよ。」


「もちろんだ。世間を敵に回しても、俺は何よりもケルシュを一番に大切にする。この言葉に嘘偽りはない。」


挑むようなエイトルの鋭い視線に、ダイテンは穏やかに凪いだ瞳を向ける。静寂の中、二人はしばらくの間視線を交えた。

そして、エイトルはふっと息を吐きながら目を逸らした。



「もしケルシュが一度でもあんたのことを嫌だと言ったら、どんな手を使ってでも俺が掻っ攫うからな。」

「肝に銘じておく。」


淀みなく真っ直ぐに返って来た言葉に、エイトルが瞑目する。



「姉様のこと頼んだ。」


それだけ言うと、エイトルはダイテンの返事を待たずして部屋から出て行った。



***



「ねぇ、何か少しくらい言って欲しいのだけど…」


式の直前の控え室にて、純白の花嫁衣装に身を包んだケルシュが、不安と若干の苛立ちを見せながらダイテンのことを見上げている。


花嫁姿を最初に目にするのはこの俺だと主張して一歩も引かないダイテンのため、本来なら事前に顔を合わせることのない花嫁と花婿がこの場で向かい合っている。

…のだが、彼から強く要望したというのに、控え室に来てから一言も発さないのだ。



「ねぇってば!」

「………式を取りやめないか?」

「は!!!?」


思ってもみなかった言葉に、ケルシュから絶叫に近い悲鳴が上がった。


「このタイミング何をっ……」

「悪いっ。言葉を間違えた。今教会にいる招待客を全員追い出そう。あと神父もだ。」

「いや、益々意味がわからないわ。ダイテン様はこの式を台無しにしたいの?」

「まさか」


即座に否定したダイテンがボリュームのあるドレスの裾に気を遣いながら側に寄ってくる。そしてケルシュの頬に手を添えた。



「その女神の如く美しい君の姿を誰の目にも触れさせたくない。あまりに尊くて、消えてなくなってしまいそうで怖いんだ。」 


熱を持った瞳で縋るように見つめてくるダイテン。

平時ではあればクラッと来そうな美の破壊力であったが、式を控えたケルシュは意外にも冷静であった。頬に添えてあるダイテンの手に自分の両手を重ねる。



「私はみんなに祝福されたいわ。貴方と会えたおかげで、この世界が少し好きになれたの。貴方のおかげで私はこんなに幸せなんだってみんなにもちゃんと知ってもらいたいし、知らしめたい。この手で掴んだ幸せだから。」


「……ケルシュには本当に敵わないな。」


真っ直ぐに幸せだと伝えてくれるケルシュに視界が滲み、ダイテンは冷静さを取り戻した。



「君の言う通りだ。俺も君と出会えた幸福を見せつけたい。」


「ふふふ。じゃあ式をやらないとね。みんなが待ってるわ。」


「ああ。」


途端に極上の甘さを帯びるダイテンの瞳。ケルシュにだけ向ける特別な光を宿して美しく微笑む。あまりに甘い視線に、ケルシュが頬を染めた。



「それに、これを乗り越えないといつまでもケルシュと夫婦になれないからな。」


ニヤリと揶揄う笑みを向けたが、ケルシュの反応は淡白であった。



「それもそうね。」


「……それ意味を分かって言ってる?」


「もちろんよ。神の前で誓い合って婚姻を結ぶってことでしょう?」


「あと、その日の夜に行う神聖な儀式のことは?」


「ん?儀式…?そんなの習った覚えがないような…」


表現が抽象的過ぎて上手く伝わらなかったことに、可愛いなとダイテンはニヤけそうになったが努めて平然を装った。



「ああ、結婚初夜と言った方が伝わるか?」


「………ケッコンショヤ」


10秒ほどの静寂ののち、


「な、ななななな、なにをっ!!!」


ぽんっと破裂音を発したケルシュは顔を真っ赤にして、ヴェールが取れそうなほど取り乱した。



「可愛い。…だが、可愛過ぎて今すぐ攫いたくなるからほどほどで頼む。」


「だっ、ダイテン様が急に変なことを言い出すから!」


「変なこと…?夫婦なら愛し合うのは当然のことだろう?」


口をパクパクさせて何も言えなくなってしまったケルシュ。そんな姿を見せられて、ダイテンのいたずら心に火がついた。


乱れたヴェールを直すフリをして耳元に唇を寄せた。



「優しくするから、今夜は安心して俺に身を任せて。」

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


首まで真っ赤になってしまったケルシュは立つ気力も失い、その腰をさっと満遍の笑みのダイテンが支えた。


その後、ケルシュの気力回復と化粧直しに時間を取られたため、予定時刻を大幅に超えての式開始となってしまった。


それでも何とか式を終えることが出来、二人は晴れて夫婦となれたのだった。




お読みいただきありがとうございました!

また気が向いたら、二人の日常を投稿できればはと思います(´∀`)

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