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何もかもが合わないこの世界で  作者: いか人参


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告白②


不安でひどい顔をしているダイテンをよそに、ケルシュはいつも以上にきらりと光輝く丸い瞳で見上げてくる。



「理想の身体つきだわ…」


うっそりとした表情を向けてくるケルシュ。


これまでに見たことのない、彼女の異性を見ている目付きにダイテンは唾を飲み込んだ。


目の前の愛しい人を抱きしめたい気持ちを理性で押さえ込んで平常心を装う。

彼女の言葉の真意が分からない今、無駄に浮き足立ちたくは無かった。



「それは…どういう意味だ…?俺は見栄で嘘をついて君のことを騙していたんだ。虐げられる覚悟は出来ている。」


本当はそんな覚悟など微塵も出来ていなかったが、口先だけでもと虚勢を張った。

また見せてしまった己の無駄な矜持に眩暈がする。



「その華奢だけど綺麗に割れてる腹筋が見事だわ。肩幅が狭いのもかなり好みよ。私、ガタイが良くて熊みたいな大男が嫌いなの。」


「それはその…俺が普段しているような姿のことか?」


「ええ。圧迫感があるし、無駄に暑苦しいのも嫌だわ。あんなのが好きだなんて、本当にこの国の女性は変わってるわよね。私とは何もかもが合わないのよ。」


「………そうか。」


遠回しにこれまで見せてきた姿を全否定されたダイテンは微妙な表情で相槌を打つ。

普段隠している姿を絶賛され、いつも見せている姿を否定されたのだ。複雑な胸中になるのも無理はない。


ダイテンは黙ったまま、頭の中でケルシュの言葉を反芻する。



「俺が隠していたことは責めない、のか…?」


本来の姿をどれだけ好ましく思われていようと、隠し事をしていたことには軽蔑されるかもしれない。

ダイテンは不安に思いながらもケルシュの心を知りたく、勇気を出して疑問を言葉にした。



「そんなのこの国が悪いのよ。」


「え?」


不意をつかれたダイテンが戸惑いの声と共に、大きく目を見開く。

目の前には花のように可憐に微笑むケルシュの姿があった。



「この国がそうさせたの。私だって好きでもない香りを付けて繕う自分に嫌気がさすわ。似た者同士の私たちにこの国は合わないのよ。」


「ケルシュ…」


みっともないと思いながらも心の揺れを止められず、ダイテンの視界が猛スピードで滲んでいく。

生まれてからずっと望んでいた言葉、それを愛する人が口にしてくれた。


その歓びは計り知れず、生きていて初めて心が湧き立つような歓喜に満ち溢れた。

嬉しくて嬉しくて堪らず、感情の動くままケルシュのことを力一杯抱きしめた。



「ちょ、ちょっと!服っ…………………」


半裸のダイテンに強く抱きしめられ、ケルシュは緊張で心臓が飛び出しそうであった。

直接触れた筋肉の硬さからどうしようもなく異性を意識してしまう。



「ケルシュ、心の底から愛している。君に出会えた俺はこの世で二番目に幸せだ。もちろん一番の幸せ者は君だ。ケルシュのことを必ず幸せにする。だからどうか、この俺と結婚して欲しい。」


「……嫌よ。」


「ケルシュ……??」


「二人で一番じゃなきゃ嫌。私は誰よりも幸せなダイテン様といられて初めて幸せを感じるの。だから自己犠牲なんて考えてはダメよ?」


「ああ、肝に銘じておこう。この国で、必ず二人で幸せになろう。約束する。」


ダイテンは目の前の幸福を噛み締めるかのように腕の力を一層強くする。

自分の腕の中にすっぽりと収まるケルシュのことが愛おしくて堪らない。


彼女の肩に顔を寄せ大きく深呼吸をした。

自分と同じ、柑橘系の香りが鼻の奥を爽やかに通り抜けていく。



「ありがとう。多分私はもう…ダイテン様がいてくれないと楽しくない、から……」


勇気を出して自分の想いも言葉にしようとしたケルシュだったが、極度の緊張で囁くような声になってしまった。

そんな彼女の振り絞った勇気に対して、頭の上で微かに微笑む気配がする。



「愛している、ケルシュ。だから無理に言葉にしなくていい。その時までいつまでも待とう。何十年経とうがか構わない。」


そして、ケルシュが何か言い返す前にダイテンが動いた。背中に回していた腕を離して彼女の両肩にそっと移動させる。



「何度伝えてもこの渇望が満たされることはない。言葉だけでは一生無理かもしれんな。」


「え…??」


何を言っているのか分からず首を傾げた瞬間、ケルシュの唇に暖かくて柔らかな感触が訪れる。

それが口付けだと理解したケルシュは、真っ赤な顔をして慌てて目を閉じた。


一度離れてまた降ってくる優しい口付け。ケルシュは戸惑いながらも必死に受け入れた。


何度も口付けを交わしている内に、ケルシュの中にあった恥ずかしさは消え去り、ただただ優しさと幸福に満たされた。

この世界でずっとひとりぼっちだと、自分は異質だと感じていた孤独が取り払われていく、そんなひどく穏やかで心が洗われるような清々しい感覚であった。



「愛している」「大好き」


二人の唇が離れると同時に、互いの愛の言葉が重なった。

言葉が被ったことに一瞬顔を見合わせた二人は、その後幸せそうに微笑み合った。



何もかもが合わないと思っていたこの世界で、ようやく唯一無二の存在を見つけて心を通わすことの出来たダイテンとケルシュ。


この夜から二人はこの国を否定することはなくなり、愛しい人のいる世界にいられることに感謝をするようになったのだった。




ここまで読んでくださった方本当にありがとうございます!本編は一度ここで完結とさせて頂き、番外編として結婚式の話を書きたいと思います。


また機会がありましたら宜しくお願いします!

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