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ハリーの告白

 食卓に並べられたのは牛テールのスープ、サラダ、パスタ、トウフ、ビーンズ炒め、

豚の中華風ステーキ、チキンペースト、ピーナッツバターにパン、そして、ハンバーガーだった。


「これはあなたのよ」

 そう言ってドロシーがハンバーガーをジョアンナに勧める。


 ハンバーガーの中身を見て、ジョアンナが明るい顔をいっそう明るく笑わせた。


「信じられない! サラスさんの家でこれが食べられるなんて!」


「ワ〜オ」

 隣のハリーがそれを一緒に見ながら、おどけた声を出す。

「君の大好きなやつだ」


「へんなの! ハンバーガーの中身がピクルスだけなんて」

 キャシーが言った。

「それじゃハンバーガーじゃないじゃない!」


「ハンバーガーはハンバーガーだ」

 ポールが何かのDVDで観たのか、セリフっぽいことを言った。

「それ以上でもそれ以下でもない」


「ありがとう、ドロシーさん。いただきます」

 そう言うとジョアンナは赤い口を大きく開けて、豪快にかぶりついた。

 大袈裟なぐらいにのけぞり、感激した声を出す。

「美味しいっ!」


 ハリーが俺に言う。

「ありがとう、ゲイリー。覚えててくれて。彼女、大喜びだ」


「俺も食っちまったからな」

 にっこり笑ってやった。

「あのインパクトは忘れようがない」


「僕も食べてみよう」

 マイケルが笑顔でそう言って一口齧り、微妙な表情になった。


「ゲイリーさん。定年を過ぎても現役で頑張れる秘訣は何?」

 ジョアンナが俺に聞いて来た。

「本当に凄いわ。70歳を過ぎても現役でいられるよう、この人にも教えてあげてくれます?」


 ハリーが苦笑する。

「俺なんかにゲイリーの真似は出来ないよ」


「コイツが俺の真似をしたら、君は寂しい思いをすることになるぞ」

 俺は自虐的に笑い、言った。

「ハリー、お前は家族を大事にしろ。俺みたいにはなるな」


「そうだそうだ」

 マイケルが言った。


「ゲイリー……」

 ハリーは俺のほうを見つめた。

「とても感謝している。あんたのことを尊敬もしている。俺はあんたのようになりたい」


「いいと思うわ」

 ドロシーが言った。

「ジョアンナさんには覚悟が必要だけどね」

 優しく笑う。


「まぁ、頑張れ」

 俺はヤツに拳を向けると、言った。

「今はウスラトンカチだが、お前が死物狂いで頑張っていることも俺はよく知ってる。

お前は刑事としての俺の、最後の相棒だ。頼りにしてるぜ」


 ハリーは照れ臭そうに笑い、無言で拳を返して来た。


「ハリーさん、どうぞ」

 そう言ってベスが赤ワインのボトルを持ち上げ、勧める。


「あ、その……」


 俺がハリーの代わりに言った。

「コイツは酒が一滴も飲めないんだ」

 

「あら、そうなの?」

 ドロシーが驚いた顔をして言う。


「一滴でも入るとぶっ倒れちゃうんです」

 ハリーが頭を掻く。


 ジョアンナが告白した。

「知らずに飲ませてしまって、救急車を呼んだことがあるんですよ」


 はははっとマイケルが笑う。


「さぁ、これを飲め」

 ポールの前に置いてあったコーラの瓶を手に取ると、俺は勧めた。


 ハリーの表情が泣きそうになる。

「いや……、ゲイリー。やめておくよ」


「いいから」

 俺は柔和な表情を浮かべ、もう一度勧めた。

「俺が許すよ。飲めって」


「コーラはやめたんだ……。誓ったんだ。コーラはもう飲まない」


「これを飲めるようになった時、お前は立ち直るんだ。飲め」


「今はまだ……無理だよ」

 隣のジョアンナと揃って神妙な顔つきで目を伏せてしまった。


「なぁに?」

 不思議そうにベスが笑う。

「なんでコーラの話ごときで重々しい空気になっちゃってんの?」


「いや……、なんでもない。すまなかった」


「話します」

 ハリーが俺が終わらせようとした話をみんなに話し始めた。

「俺がゲイリーの捕まえた連続殺人犯を逃してしまったのは、ご存知だと思います」


 みんなが黙ってハリーのほうを向いた。


「2人で署まで連行する途中、ゲイリーがションベンに行ったんです。その間、俺が1人で、ヤツを繋いでた」


 ジョアンナが励ますようにハリーの肩に手をかける。ハリーは話し続けた。


「コーラを満載したトラックが、そこを通りかかったんですよ。

俺、病的なくらいにコーラが好きで……。

ああ……、飲みたいなぁって思ったら、見とれちゃってて……

そこをサム・ハリンチョに腹に一発パンチを喰らって、倒されちまって……

それで……そういうわけです。ウスラトンカチです」


「手錠を繋いでいたのでは?」

 マイケルが聞いた。

「手錠の鍵を奪われたの?」


「指の関節を外されて逃げられたんでしょ?」

 ポールがまた何かで観たようなことを言う。

「親指の関節を外せるヤツなら、手錠から抜けられるって」


「違うよ」

 ハリーが辛そうに笑い、自分の左手を上げて見せた。

「僕の手を壊して逃げたんだ」


 疵跡きずあとだらけの、親指の歪んだハリーの左手を見て、みんなが息を呑んだ。


「その時の傷も、恐怖も、屈辱も克服して、コイツは這い上がって来たんだ」

 俺は食事の手を止めてしまったみんなに言った。

「ただのウスラトンカチじゃない。きっと雪辱を果たすぜ、俺の相棒は」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 海外の人の名前、なかなか覚えられないのですが、なぜかこの作品の登場人物の名前はすぐに覚えられました!! 話が面白いからですかね…!! [一言] ハリー、、そういうことだったんですね(゜o゜…
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