プロファイリング
署に帰ると俺は、サム・ハリンチョの犠牲となった7人の被害者のことを調べた。
もし被害者に何か共通の特徴があれば、狙われるのが誰かを絞ることが出来ると思ったからだ。
若い女性ばかりを殺害していたのなら、ベス。
幼女ばかりならキャシー。
サムはターゲットの近くに現れるかもしれない。
調べたところ、被害者は7歳の少女から48歳の中年男性まで、バラバラだった。
「でも、ゲイリー……」
ハリーが言った。
「これ、中年男性が多いとは言えるよね」
「ああ……」
サムが殺害したのは7歳少女が1人、若い女性1人、若い男性1人、老女が1人、そして35歳から48歳までの中年男性が3人だった。
こんなことを改めて調べなければならないのが悔しい。
若い頃なら頭の中にすべてメモしておけたのに。
「……とすると狙われるのはマイケルということになるが……。しかし、そう特定するには、弱いな」
「連続殺人の動機は不明なんですよね?」
ハリーが俺に聞く。
「ヤツは何やら言っていたが、誰にも理解できなかったので不明ということになっている」
「なんて言ってたんだっけ……」
「俺も忘れた」
しかしそれに関してはトシのせいではない。
「あまりにも意味不明だったからな。少なくとも俺はヤツの頭の中などわかりたくはない」
「でも、確か……、サムの祖国に関することでしたよね?」
「なんとかの神に言われてやった、とかだったな。しかし宗教的な正義とかに基づくものではなく、とても個人的なことだったはずだ」
「でも、何にしろ、今回とは関係がないか……」
ハリーが言った。
「今回の動機は自分を捕まえたゲイリーに対する逆恨みに決まってるもんな」
「決めつけては駄目だ、ハリー」
俺はたしなめた。
「過去の連続殺人の時の動機と繋がっているかもしれん。それも調べてくれ」
「あった。これだ」
ハリーがサム・ハリンチョの語った殺人動機の記された書類を見つけ、読み上げた。
「『自分はゴバンの神シーヴの生まれ変わりであり、神通力を有している。
気の流れを阻害する存在は悪である。神通力が使えなくなるからだ。
ゆえに制裁を加え、見せしめに家族に送りつけた』」
「それで精神鑑定で何もなかったんだからな」
俺はかぶりを振った。
「ヤツの正気の頭の中などわかりたくもない。……が、それがわからなければ誰をターゲットにするかの予測も出来ん」
「嫌な仕事だな……」
ハリーが大嫌いなミントコーラを飲んだような顔をした。
「でも、頑張るぞ」
「俺は息子のところへ行って来る」
「やっぱり中年男性が狙われる、と?」
「気になるからな」
俺は立ち上がると、ノーネクタイのワイシャツの上に背広を羽織る。
「お前は引き続き、サム・ハリンチョのプロファイリングを頼む。何か勘づいたことがあったら教えてくれ」
「了解」
「新婚の奥さんに電話するのは我慢してくれよ?」
「了解」
「信用してるぞ?」
「しつこいな!」
そう言ってハリーは笑った。
■ □ ■ □
息子のマイケルは40歳。
サム・ハリンチョの犠牲になった被害者達の平均年齢を出すなら、まさにその年齢だ。
俺は息子が部長を務めている硝子瓶会社の駐車場に車をつけると、中へ入って行った。
「開発部部長のマイケル・サラスを頼む」
なかなか美人の受付嬢に声をかけた。
「父親が警察の仕事で訪ねて来たと伝えてくれ」
待合室でしばらく待っていると、眼鏡の奥に不機嫌そうな目をして、マイケルが降りて来た。
護衛のボブが後ろに続いて入って来る。
「なんだい、パパ?」
声も不機嫌そうだ。
「仕事から目を離したくないんだ。手短にしてくれ」
俺は聞いた。
「変わったことはないか?」
「ないよ。この人がいつもくっついていること以外はね」
そう言って、後ろのボブを指差す。
「なんで黒人のプロレスラーみたいな人がいつもくっついてるんですか? って、みんなから言われてかなわない」
ボブは表情を変えずに、胸を張って黙って立っている。
俺はボブに話しかけた。
「変わったことはないか?」
「あれば報告いたしますので」
高いところから、こちらを見ずに答えた。
「そっちは?」
マイケルが立ったまま、聞いて来る。
「何か捜査に進展あった?」
「犯人からヒントを貰った」
「ヒントだって?」
「俺の家族から1人、選んで殺害すると、前に抜かして来やがったよな?」
「ヒントって何。早く教えてくれ」
「その1人とは、俺が1番愛する者だとか言って来やがった」
「何だって?」
マイケルの顔色が変わった。
「何してるんだ、パパ。僕のところになんか来てる場合じゃないだろう! 早くママを守ってあげて!」
「やはりお前もママだと思うか?」
「それしかないだろ、あんたが愛してるのはママだけだ。他の家族のことなんか愛していない」
「……愛してるよ、マイケル。ベスのことだって」
「構ってくれなかったじゃないか」
マイケルは子供の頃のように俺を睨んだ。
「あんたはいつも仕事、仕事、仕事。ママを寂しがらせてばっかりだった。
それでもママはあんたを支え続けた。ママに感謝してるか? 感謝してるのか?」
「……感謝してるよ、もちろんだ」
「それなら早く帰ってママの側にずっと居てあげてくれよ!」
吐き捨てるようにそう言うと、マイケルは背中を向けた。
「僕は仕事に戻る」
歩き出したマイケルについて行こうとしたボブを呼び止める。
「ボブ。狙われているのはマイケルかもしれない。
もし少しでもサム・ハリンチョらしき人物を見かけたら、すぐに教えてくれ。頼むぞ」
「へい、旦那」
ボブはようやく俺の顔を見てくれた。
一人残され、俺は呟いた。
「息子も誰かさんに似て仕事人間……か。ベスに感謝しろよ?」




