確定
「第三のヒント……」
俺は思い出し、口にした。
「『ゲイリー・サラス、お前の1番近くにいる者』……。これにゴバン人なら誰でも同じ答えを出すというのか?」
「そうだ」
ハリーはうなずいた。
「その答えとは?」
「ゲイリー……。落ち着いて聞けよ?」
ハリーはフィリップ・オロンチョから聞いた通りのことを口にした。
「ゴバン人にとって個人とは、誰でもが神の化身なんだそうだ。
神こそが『自分』であり、それはいつでも肉体の背後にいる。
名前は神の所有物であって、肉体は神である自分が操っている仮の器に過ぎない。
ゆえに、ゴバン人にとって、名前のある自分──つまり神にとって、いつでも1番近くにいるのは、自分の肉体なんだそうだ」
俺はハリーの言ったことを頭の中で整理した。
「よくわからんが……。つまり、こういうことか。ヤツのターゲット……。正解は……」
唾を飲み込んでから、それを言った。
「俺か」
「そうだ、ゲイリー・サラス。あんただ」
ハリーは心配するような目で俺をまっすぐ見ながら言った。
「第二のヒントにも合致する。あんたの家族で1番の年長者はあんた自身だろ」
「第一のヒントは? 俺が1番愛しているのは俺なのか?」
「よくわからんが……、ゴバン人は自己愛の強い者が多くはあるらしい」
「いや、これはサム・ハリンチョの俺に対する侮辱だな」
「侮辱?」
「『お前は家族を愛しているとか言いながら、仕事を優先してほったらかしにして来た。
お前が本当に1番愛しているのは自分自身なんだよ』という、いかにもヤツらしい侮辱だと考えられる」
「ムカつくな。ゲイリーのこと何も知らないくせしやがって」
「しかし……」
俺は少し考えてから、言った。
「これで俺の違和感の原因もわかった」
「違和感?」
「ああ、ヤツがドロシーをターゲットにすることにはどうにも違和感を覚えていたんだ。
ヤツは自分のプライドを傷つけた者を殺害し、見せしめにその頭部を家族に送りつける。
しかしドロシーの頭部を俺に送りつけるのでは、逆だ。
俺の知るサム・ハリンチョなら、俺の頭部をドロシーに送りつけるんだ」
「確定だな」
「ああ、正解が間違いなくわかった」
俺はほっとした顔をしていただろう。
「ヤツのターゲット、正解は、ゲイリー・サラス……俺だ」
「二階の窓に回答を貼らせるか?」
ハリーがそう言うよりも早く、俺はケイティーに電話をかけていた。
2ベルですぐにケイティーが出る。
俺は言った。
「ケイティー! ドロシー・サラスだ。ドロシーのほうを二階の北向きの窓に貼ってくれ」
「ゲイリー?」
心配そうにハリーが声を上げる。
「自分の名前じゃないのか?」
「そんな回答をくれてやるわけがないだろう」
俺は電話を切ると、笑ってやった。
「死んでもそんな答えは書いてやらん」
切ったばかりの俺のスマートフォンに、すぐに電話がかかって来た。
番号は非通知だ。
俺はその電話を受けてやった。
相手は思った通りの男だった。
『やぁ、ゲイリー・サラス。元気か?』
小馬鹿にするようにそう言う声に、俺は言ってやった。
「サム・ハリンチョか?」
『不正解だ。これからターゲットを殺しに動く』
ヤツは手短にそれだけ言うと、電話を切った。




