熟練度カンストの不本意者
豹の部族の襲撃はちょこちょこあった。
他の標的となる部族をほぼ壊滅させているのだから、狙うのは鷲の部族しかいないわけだ。
だからここに集まってくるわな。
豹の部族は、鷲の部族のように光学迷彩を駆使してくる。
豹も体の模様が周囲の風景に溶け込むタイプの生き物だもんな。
なので、音を忍ばせ、姿を隠し、SF武器で武装した連中が岩山を目掛けて詰めかけてくるのだ。
これはなかなかたちが悪い。
「俺は問題ないが、早苗にはつらいな」
「俺には問題がないが、敵が見えなくては俺がなにもないところで銃をぶっ放しているようで間抜けではないか」
「むっ」
「むっ、なんだお前、女性への配慮を露骨に見せつけるような事を口にして差をつけたつもりか」
クラウドと言わんとすることが被ってしまっている。
ヤツのほうが数倍くらい口数が多いが。
しかし、この男と同じことを考えているというのは不本意だ。
「おいクラウド、黙れ」
「お前が黙れ」
「なにをう!?」
「なんだとお!?」
「「もがーっ!!」」
俺とクラウドでバリバリ戦い始めてしまうのである。
「ユーマくん! ここで戦ったらだめーっ! うわあ、異次元の戦い」
「手数がおかしいぞ! なんだあの戦いは! ただの喧嘩なのに!」
「クラウド負けるななのじゃ! だがここで剣士をたおしたらめんどくさいことになるのではないかや?」
「ハッ」
俺と激しく白兵戦距離で戦っていたクラウドが、ハッとして銃をぶっ放し、その勢いで飛び退いていった。
「確かにジョカ様の言う通りだ。不本意だが……とても不本意だが、お前をここで倒すと敵の撃滅が面倒なことになる」
「俺がお前を倒したら、確かに戦力減ではあるな。極めて不本意だが、共闘を続行しよう……」
俺とクラウドがぎりぎりと歯ぎしりしながらにらみ合う。
早苗がこれを見て笑った。
「良かった。ユーマくんもこういうの見てると、一応人間だよね」
「いや、俺は普通の人間だが……!?」
このやり取りで、場の雰囲気は柔らかくなったようだ。
「私にいい考えがあるのだが」
バララが提案を始めた。
今、周囲に迫った豹の部族は、やはり光学迷彩している鷲の部族と激しくやりあっている。
SF武器のハンデキャップは、鷲の部族の飛行能力でどうにか抑え込めているようだ。
それでも長くは続くまい。
「色を付けよう」
バララの提案は端的だった。
俺もクラウドも頷く。
「それなら分かりやすくなるな」
「敵が認識しやすくなれば、俺が誰と戦っているかも分かりやすい」
「私もそうなったら、射撃ができるようになるわね」
早苗が銃を構える。
彼女が戦力になるのは嬉しい。
射撃の正確さではデヴォラを上回るからな。
ちなみに人を撃ったことが無い彼女が戦力になるかどうかだが……。
「森でトロルの人に付き合ってもらったから、人の形をしたものを撃つのは慣れたかも。それにみんな、躊躇しないで人を攻撃するでしょ? なんか染まってきた気がする……」
「早苗が悪い教育をされている」
かくして、バララが動き出す。
混沌の精霊の巫女である彼女。
リュカやサマラ、アンブロシアの全盛期と比べると明らかに地味なのだが……。
バララの真骨頂は、圧倒的な応用力である。
「混沌の精霊よ、土に変われ。花に変われ。風に変われ。彩りよ舞え。誰も姿を見せずにはいられない!」
バララが呼びかけたのは、周囲一体の精霊だろう。
俺は、大気が、大地が、草木が脈動したのを感じた。
混沌の精霊はあらゆるところに存在しているのだ。
その全てがバララの言葉を聞いた。
鷲の部族と豹の部族を隠していた精霊が、反転する。
それが水玉模様の逆迷彩みたいな色彩になったのだ。
しかも地面が真っ白になり、空の色も白くなる。
木々だって白い。
白い世界の中で、水玉模様の連中があちこちにいるわけで……。
「な、なんだこれはーっ!!」
豹の部族が驚愕して叫んだ。
「なんじゃこりゃあー!!」
鷲の部族も叫んだ。
そりゃあびっくりするよな。
こうして世界は、何もかも視認しやすい状態に固定された。
「私が全ての精霊を掌握していられるのは、夜に湯が水に変わる程度の時間だ。あまり長くは持たないぞ!」
「混沌大陸の夜は寒いもんな!」
つまり三十分ちょっとというわけである。
十分じゃないか。
「行くわ!」
両手で銃を構えた早苗が、お手本みたいな姿勢で射撃を開始した。
おお、豹の部族がどんどん撃たれていく!
そして向こうからも反撃だ。
トライエッジとか言う、刃付きチャクラムが次々に飛来する。
俺は前進しながらこれを迎え撃った。
いつもならば、中空部分に切っ先を突っ込んで相手に返してやるのだが……。
数が多いのと、俺の戦い方がどこかで調査されていたらしい。
トライエッジは不規則な軌道でこちらに飛んでくる。
さらに、返してやろうとしても逆回転をして抵抗する。
SF側が入れ知恵をしたな?
「対策をされたようだな! はははは! お前の戦い方は臨機応変に見えて優等生すぎる! 敵に動きを読まれては負けだ! つまり、こう戦うのだ!!」
クラウドが走った。
いつも思うのだが、あいつは武器が銃だというのに常に最前線へ突っ走るよな。
そしてトライエッジを銃の背で弾きながら、驚愕する豹の部族に肉薄する……!
「はあーっ! 暗黒破鎧衝!!」
そこで銃を使わず鉄山靠!
「いやなんでだよ!?」
思わず俺は突っ込んでしまった。
いかん、奴の術中だ!
「くそう! 後ろで見ていられるか! 第一あの鉄山靠全然効いてないじゃないか! どうしてクラウドはドヤ顔をしているんだ!」
「ユーマくんがそうやってキレているの新鮮だなあ……」
早苗もほんわかしてるんじゃない。
状況はとても胃に悪い。
最大の敵はやっぱりクラウドじゃないか。
俺はガンガン突き進み、トライエッジは全部切り捨てる。
横合いからやけくそで襲ってくる豹の部族を、斬り捨てる斬り捨て……ええい、刃の数が足りん!
「テュポーン!」
俺の手にした機械じかけの剣が変形を開始する。
互い違いに分割線が走り、装甲板が裏返った。
現れたのは二振りの剣。
これが緑のテュポーン、双剣モードだ。
もう、当たるを幸いと切りまくる。
一瞬でも手を休めたら、クラウドのドヤ顔が視界に入ってしまいそうなのだ。
「こいつ、恐ろしく強いぞ!」
「うわあーっ! こっちで暴れているやつも強いんだかよく分からないが手出しできない!」
さらに、統率を失った豹の部族を、早苗の銃が無力化していく。
いいぞいいぞ。
隣でクラウドは、まともに戦っていないな……!
いかん、いかんぞ!
ヤツのことを考えるな、俺よ……!!
キレたら負け、キレたら負け……。
「オラあ!!」
「ユーマくん、動きが荒くなってるよ! 初めて見るくらい荒くなってるけど!」
「荒くなってないよ! 俺は至って冷静だ死ねえてめえらあ!!」
というわけで……。
豹の部族の攻撃の撃退に俺たちは成功したのである。
ドッと疲れた。
豹の部族は死屍累々なのだが……。
「これは……豹の部族ではない。滅ぼされた他の部族の者たちだ……! どうしてこんなことを……」
死体を観察した鷲の部族の人が、顔を曇らせている。
「そうなのか? 確かに、SF武器と光学迷彩くらいしか使ってこなかったが。俺たちのところに侵略してきた連中は、独自の技を使っていた気もする」
こいつらが洗脳されていたということだろうか?
だとすると、近い技術を俺は知っているな。
アブラヒムが使った狂戦士がそれだ。
どうやら豹の部族に関与している侵略者たちは、象の部族のそれよりも深く関わりを持っているようである。
奴らが他の部族を滅ぼせば、それだけ奴らの手勢が増えていくということか。
混沌の大陸の人間を殺し尽くしてしまえば敵はいなくなるが……。
「ユーマ。頼むぞ! 混沌の大地を救ってくれ……!」
バララの真剣な目を見ているとそんな事言えないな……!
「こやつらがやって来た方向が分かったのじゃ。わらわは優秀だからのう」
どこに行っていたのか、幼女の姿をした精霊王クラスの怪物、ジョカが自慢げに告げた。
「どうやって分かったんだ?」
「秘密じゃ」
ジョカがぺろりと唇を舐めた。
人間を食った?
いや、そこまではしてないとしても、襲撃してきた連中の何かを食って情報を得たようだ。
「地上にはおらぬ」
「ほう」
「ちょっと浮いておるのじゃ。あと、だんだん奴らの世界がこの大陸を染めてきとるのう」
「染めてきている……? ああ、つまりテラフォーミングしつつあるってことか」
侵略者たちは、この星を自分たちの星へ改造しようとしている。
そうなってしまえば、どういうマイナスが起こるのか分からない。
この星、俺が生活基盤を築いたところでもあるので、変なことをされるのは困るな。
豹の部族だけならそれほどの敵ではないが、最大の敵は時間ということか。
「人を撃ってしまった……! だけど、躊躇してる時間は無さそうね」
「ああ、そういうことになる。攻め込むぞ」
次なる方針は決定。
混沌大陸での戦いをこれで終わらせるのだ。




