熟練度カンストのレジスタンス
バララは王と聞き、変な顔をした。
「王……? どこの王だ? 王国は、豹の部族と象の部族が打ち倒し、この世界には存在しなくなっているだろう。そうか、異国にはまだ王国があるのだな」
バララが認識する世界とは、暗黒大陸のことであろう。
なるほど、どうやらこちらにはもう、王国は無いらしい。
「うむ。俺はこの大陸の外から来た人間だ。正確にはこの世界の外側でもあるがな」
「世界の外側……? 聞いたことはある。遥か昔に、異なる世界より降り立った者がいると。それは我ら混沌の民に力を授けた。混沌の精霊界と混沌の大地を結んだのだ。故に、我らは混沌の精霊と親しく、その力を使うことができる」
俺以前にも異世界からやって来たやつがいたようだな。
「お前が異世界の者だというならば、これは吉兆にほかならない。私とともに来い!」
バララが宣言し、胸を張った。
この大陸の女性、けっこう露出度が高いので、なかなか凄いボリュームが押し出されてきて俺はハッとした。
「行こう」
そういうことになった。
下心から出た発言ではないぞ……!
しかしこう、サマラとかアンブロシアに匹敵するな。
すごいな。とてもすごい。
俺の語彙が無くなっていくぞ。
ずっと胸のことを考えながら、彼女についていった。
なるほど、ボン、キュッ、ボンである。
これがそれか。それなのか。
かつての俺は純粋だったので、ここまで冷静には観察できなかった。
だが今の俺は妻子持ちである。
至極冷静に観察できる。
「超ナイスバディすごい」
「何を言っているのだ?」
「なんでもござらん」
いかんいかん、全然冷静では無くなっているではないか。
だが、俺の気持ちは断然、バララの味方をする方向に傾いたぞ。
断じて下心からではない。
「混沌よ、その闇を晴らせ。主の帰還だ」
バララが、一見して何もないようにしか感じられない茂みに向かって言葉を発する。
すると、そこがズバッと開いた。
なんだなんだ。
「茂みの中には、私たちのアジトがある」
「アジトか。つまり鹿の部族の生き残りで、それがレジスタンスを組んで象の部族と戦っている感じだな?」
「理解が早いな!?」
バララが目を剥く。
「こういう創作作品には馴染んでいるからな。お約束というものはよく分かっている」
「そ、そうか」
戸惑っているな。
メタ発言だもんな。
だが、俺も地球を離れて久しい。
最新の知識は持っていないのだ。
俺のメタ思考もそろそろ錆びついていような……。
そのうち半年くらい地球に帰って最新のコンテンツを摂取してくるかのう……。
そう言えば、妹と別れた元彼氏のマサルくんが日本からの使者としてちょくちょくうちの森に来るんだったな。
今度頼んでおこう。
そんな事を考えながら、レジスタンスのアジトに入っていく。
「戻ってきたかバララ! なんだ、その男は?」
「肌が黄色いぞ。外国の人間か」
「腰にぶら下げてるのは、剣……か? 異様な色と形をしているな」
レジスタンスの若者たちが集まってきた。
おっ、警戒してこないな。
「私を助けてくれた男だ。あの鉄の象を真っ二つにするほどの腕前だぞ。心強い援軍だ」
おおーっとどよめく一同。
あまりに素直に驚くので、俺は心配になった。
「ちょっと待て、大丈夫か? 俺はもしかしたら、象の部族とか豹の部族の手下かも知れないんだぞ? どうして疑わずにいられる」
「簡単だ。象の部族は外国人を使わない。豹の部族もだ。世界を全て、自分たちの部族で埋め尽くしてしまおうと考えている」
「ほう」
レジスタンスの若者が、俺を指差してダメ押しの一言を放つ。
「それにこいつ、バララの乳と腰と尻ばかり見てるぜ。こんな間抜けな手下がいるかよ」
「なん……だと……!? 俺の視線を読まれた……?」
「わかり易すぎるんだ」
「だがバララに手を出すなよ」
「象の部族を倒すまで、俺たちはバララに求婚しないって誓いを立ててるんだ」
なるほどである。
ここにいるレジスタンスの若者は三人。
モヒカンで槍を背負った男。
「俺はゴーザムだ」
フラミンゴの羽みたいなのを髪に差している洒落男は、腰に2つにナイフをぶら下げていた。
「俺はグロイズ。よろしく頼むぜ」
マフラーのように毛皮を纏った男は、弓矢を背負っている。
「俺はオーディアだ。お前、腕が立ちそうだな。頼りにしていいか?」
「おう。俺はユーマだ。速攻で象の部族を潰すからな。頼りにしててくれ」
俺としては正直な話をしただけなのだが、これをジョークだと思ったのか、三人とバララがドッと沸いた。
「面白い男が仲間に加わった。鹿の部族の三戦士ともども、頼りにしているぞユーマ」
ほう、この三人組は鹿の部族の三戦士と言うのか。
戦いの中で徐々に脱落していくフラグを感じる……。
いやいや、このフラグは感じてはいかんな。
そういうの折るのが俺の仕事だ。
その後、レジスタンスのアジト内部に案内された。
そこは小さな村のようになっていて、親子連れや年よりもいる。
誰もが戦えそうな感じか。
登場した俺を、興味深そうに見ている。
鹿の部族は、慎重さに欠けているのではないか?
見た感じ、三戦士以外に強そうなのはいない。
ヴァイデンフェラーの辺境騎士団とはぜんぜん違う。
レジスタンスとは名ばかりの、避難民の集まりみたいなものではないか。
「どうだユーマ。生き残った鹿の部族は、誰もが戦う意志を持った強き戦士。それぞれが武器や精霊の扱いに長けている者ばかりだぞ」
「えっ」
「えっ、とはなんだ」
バララが不審そうな顔をした。
いや、すまんすまん。
ああ、これでも訓練を積んだりしてできるようになった連中なのか。
今まで強力な仲間ばかりに慣れすぎていて、俺の感覚が麻痺していたようだ。
「よし、俺はこう見えて多少心得があるので、付け焼き刃にはなるが、死なない方法を教えるとしよう」
そういうことになった。
ヴァイデンフェラー騎士団のときは、俺は戦い方、攻撃力だけを強化するように教えた。
その結果たくさん死んだのである。
これはあれだ。
死なない方法、時間稼ぎをする方法を教えるのが正しい。
彼らが時間稼ぎしている間に、俺が戦場を平らげるからである。
「死なない方法……? 戦い方ではないのか? お前がどれだけ強いのか、私はこの目で見ている。頼む。戦い方を教えてやって欲しい」
「待てバララ。いいか? 相手は混沌の精霊の力だけじゃない。空から降りてきた奴ら……侵略者の力も得ている。混沌の精霊の力しかないお前らが、しかも非戦闘員みたいなのが多い状態でまともに戦えると思うか?」
「むう、それは……」
難しい顔をするバララ。
気持ちは分かるが、気持ちだけでは勝てないのだ。
勝負を決するのは純粋な戦闘力である。
俺は自分が強いからこそ、戦闘力に関する評価はシビアだぞ。
甘いこと言ってたら死ぬんだから当たり前だ。
「で、ではそれで頼む。確かに、私は勝つことばかり考えていた。勝ったとしても誰も部族の民が生き残っていなかったら本末転倒だな……!」
「そう、それ! ということで、生き残るための訓練を請け負います」
そういうことになった。
腹が減っては戦もできないし、戦の支度もできぬ……ということで、レジスタンス飯をごちそうになるのである。
俺の前に供されたのは、なんか芋をすり潰したものを固めて蒸し焼きにしたパンみたいなもの。
そして狩られてホヤホヤな獣の肉を焼いたやつ。
素早く血抜きされているので臭みがない。
「蒸し焼きにすることで煙を出さないようにしているのかあ」
「ああ。混沌の大地ではずっと戦が続けられてきた。不用意に煙が上がれば、敵に見つけられて襲われる。だから煙をあげずに熱を使うやり方が編み出されたのだ」
「血なまぐさい場所だなあ」
ちなみに火種は混沌の精霊がやってくれるそうなので、どんなところでも困らないそうだ。
これは水も一緒ね。
混沌の精霊を利用することで火と水を常に得られるのだ。
それでも食料となるものは限られているそうなので、これを巡って争いが起きる。
畑作なども行われていたが、やった傍から略奪した方が話が早い!というヒャッハー理論が横行しているため、盛んにならないのだそうだ。
うーむ!!
なんという末世思想!
混沌の大地は辛いのう。
「鹿の部族は比較的平和な部族だったのだ。略奪などはしない」
「偉い」
ということで、蒸し芋と肉をガツガツ食った。
この芋は余すこと無く利用しているので、ビタミン類も含まれているのだろう。
シンプルな食事だが、ここにいる連中がみんな比較的血色がいいので、栄養バランスがいいらしい。
「うん、まあ……美味いっちゃあ美味い。不味くはない……。だけど塩気が足りないよなあ~」
「ユーマ、これはここにアリを乗せて食べるのだ」
「アリ!? 昆虫をトッピングするのか! 混沌の大地ってのは分からんなあ……」
だが、食のチャレンジには怖気づかぬ俺だ。
バララに教えられた通り、芋パンにアリを乗せて食ってみた。
すると……。
噛み潰したアリが弾けて、中から柑橘類の香りがいっぱいに広がる。
「な、なんじゃこりゃあああ!? 想像もしてたのと全然違う味になった!! あ、イケる。こうして味変するとイケるわこれ!」
レモン味の芋餅とでも言おうか。
やはり味の刺激というのは大切だ。
俺はガツガツと出された飯を食い切り、肉も味変して食べ。
「よーし、それじゃあ訓練をやっていこうか!」
そういう話になったのである。
まあ、彼らが戦場に立つ前に俺が向こうの勢力を平らげるつもりでいるがな。
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