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熟練度カンストの船上者

 船の上である。

 俺はハッとした。


「そう言えば竜胆、双子が生まれてから(わらわ)~なのじゃ、って口調を使ってない!」


「なんだ、今更。あれはな、母親になるものがいつまでも姫の気分ではいかんと言って、無理やりやっているのだぞ」


 ローザから聞かされる驚きの真実!!

 わらわっ娘好きなんだけどなあ。

 彼女とはめちゃくちゃ味覚も合うし、嫁たちの中では一番、一緒に飯を食ってて楽しいまである。


「後で戻って問いたださないとな……。妾という自称を辞めるのは世界を敵に回しても俺は許さん」


「なんでユーマさんそんな精霊王たちに立ち向かうときみたいな顔してるんですか」


「彼の沸点がイマイチ分かりませんわね」


「大体ユーマは変なところにこだわるからな。恐らく竜胆のわらわ、に関係したところを突くとこの男は本気になるだろう」


「ふーん」


「なるほどですわ」


 何だ諸君、俺を見てニヤニヤして!!



 全く緊張感も無いままに突き進む船である。

 ジャイアント・ユーマ号という名前さえどうにかしてくれたら、何も言うことはないのだが。


 だが、緊張感が無いのは実は俺だけであったらしい。


 ネフリティスから暗黒大陸へ向かう海路は、暖かな海である。

 エルフェンバインから、ディアマンテ帝国のある半島、そしてその中心に浮かぶネフリティス王国は……内海なのである。

 地中海みたいな感じだな。


 そして対面に広がる巨大な大陸こそが、暗黒大陸。

 地球と地形が違うのは、スエズ運河的なところがなく、暗黒大陸は俺たちが冒険していた中央大陸とは完全に切り離されている。


 そして、ちょっと前までここは安全な海だったそうなのだが……。


「何しろ、わたくしたちエルド教と暗黒大陸の者たちは戦力が違いますもの。勝負にはなりませんわ」


 混沌の精霊とやらの力を使う暗黒大陸の民。

 だが、その力は大したものではなかったと言う。


「混沌の精霊ですか。精霊界には存在していたものですが、あれは言わば模倣の精霊です」


 アリエルが解説してくれる。

 彼女は四年前まで、精霊界に住んでいたのだ。

 それが、リュカが生存したことでこの物質界……アリエルたち妖精に言わせるなら、混沌界と精霊界の壁が壊れてしまった。


 幻想世界の住人であった彼女たちエルフや、ドワーフ、リザードマン、オーガやドラゴンと言った妖精たちが、この世界へと溢れ出すようになったということだ。


「模倣?」


「はい。混沌ということは、全てを内包するということ。混沌の精霊は近くに存在する精霊の動きを真似して、似たような効果を現します。ですけれど、それは劣化した模倣に過ぎないんです。なんでもできるのですが、全て中途半端な効果しか現さない」


「なるほどな。それ自体が決定力にはならないタイプの精霊の力か。ヴァレーリアの魔法剣に近いかな?」


「ヴァレーリアのあれはとても攻撃的ですよね。精霊の力を応用しているようですが、あれは火ならば火、風ならば風の力しか発揮できません」


 アリエルが両手で、指を立てて説明してくれる。


「ですけど、混沌の精霊は違います。火のようで水のように動き、風のようで土のように振る舞う。そういうことができます。曖昧なんです」


「複雑怪奇だなあ」


「そういうのを扱う人間たちがいるということでしょうね。使い方によっては強そうですけれど、デヴォラが扱っているような武器があるでしょう? ああいうものを相手にするのは難しいです。分かりやすい力には、曖昧なものでは勝てませんから。分かりやすい強さの一番極端なものは、ユーマさんですけど」


「剣なー。これはぶった切ればいいだけのものだからな。実に分かりやすい」


 ローザ謹製のケラミスの剣を、陽の光にかざしてみる。

 刃が薄くなっている部分は、なんとなく光が透けて見える気がした。

 セラミック刀だからな。軽いし熱で刃の熱さも変わらないし、悪くない。


「ああ、そうそう。ユーマさん、これを渡して置かなければでしたわ」


 デヴォラが船員に指示をして、何かを持ってこさせる。

 大きな木箱であり、開封されると、中には大量のおがくずが詰まっていた。


「なんだなんだ」


「あなたは何種類かの得物を駆使して戦うスタイルでしょう? その都度、ローザが作れば問題はないのでしょうけれど、彼女は前線に出るには身体能力がね……」


「ああ。私は最前線だとかなり死にやすいぞ」


 ローザが胸を張って答える。


「ですので、これを。簡単な変形ですけれど、三種類の形態に変わる機械仕掛け……いえ、エルド教の神剣ですのよ」


 おがくずが取り除かれ、姿を現したそれは、赤と青と緑のパーツが組み合わさって作られた、柄部分の大きい剣だった。


「おほー! なんだこりゃ! 見るからにギミックが仕込まれた剣じゃないか!」


「エルド教の武器か? 今まで見たことも、聞いたこともない色形をしているが」


「精霊力は全く感じません。これ、間違いなくエルド教が作った……その、宇宙? から来た武器ですね」


「ほうほう」


 俺は剣を手にとってみる。

 ふむ、ずっしりと重い。

 この大きさの剣としては、本来なら使い物にならないくらいの重さだ。


「ふん……。こう、こうか」


 二度、三度振って、剣の重心を把握した。


「重心が可動式だな。三形態に変形するということは、ここから重心の箇所が変わるな?」


「流石ですわね。マリア様が特別に作り上げた一本ですわ。あなたの戦い方を研究して、理論だけで組み立てられた代物。ネフリティス王国が誇る豪腕の戦士ですら、まともに振り回すことが叶わなかったじゃじゃ馬ですわよ」


「そりゃあな。こんなでたらめな重心の剣があるか。振る人間の事を何も考えてない。こいつを振れる人間専用に作られた化け物じゃないか。……で」


「で?」


「この剣の名前は?」


 デヴォラがにんまりと笑った。


「“旋風剣テュポーン”。マリア様が故郷としていた星の、ある地方で、神話の終わりに現れる最強の怪物の名ですわ」


「テュポーンか! よろしくな、テュポーン!」


 俺は剣を振る。

 少しずつこいつのことが分かってきた。

 三色形態とでも言うべき、今の形が最もバランスが悪い直剣スタイル。


 ここから、三つの形態に変わるわけだな。

 実戦で試していこうじゃないか。


「図らずも、敵が混沌の精霊と科学の力を併せ持つ事に対して、ユーマさんは神域の剣技と科学の力で応じることになりましたわね」


「いいな、そういうの。熱い。じゃあ、早速実戦ができそうだし、試してみるよ」


 俺はぶらぶらと舳先に向かって歩いた。


「ふむ? 実戦?」


 ローザが訝しげな顔をする。

 気付かれないように、そっと接近して来ていたものな。


 だが、俺はアリエルの話を聞きながら、混沌の精霊というやつへの理解を深めていた。

 水のような姿をしながら、奴らはきっと風のように振る舞うこともできるのだろう。


 船の両脇にあった海面が、突如渦巻いた。

 水だと言うのに、まるで風のようにつむじを巻く。


「な、なんだー!?」


 ローザが悲鳴を上げながらゴロゴロ転がっていって、アリエルが慌てて彼女をキャッチした。


「来ましたわねえ! まさか、今まで走っていた海面がまるごと、混沌の精霊だったなんて!」


 デヴォラは不敵な笑みを浮かべた。

 彼女の靴の踵から、甲板にスパイクみたいなものが打ち込まれており、体を固定している。

 全身をエルド教の装備で固めているらしい。


「後ろは任せた。なるほど、水を装って無風の如く俺たちを待ち受け、入り込んだ瞬間に渦潮か旋風のように襲いかかる! 混沌の精霊は使いようだな! 水夫たち! 頭を下げろ! 戦おうと思うな! 死ぬぞ!」


 俺は叫びながら、舳先で跳躍した。

 一瞬前まで俺がいた場所を、水面から出現した刃が薙ぎ払っている。


 巨大な刃だ。

 これは、二人組の戦士だった。


 ハサミの片割れみたいな武器をそれぞれ持っており、水中からトビウオのように飛翔してきたのだ。


「ちぃっ!」


「もう一度だ!」


 奴らは再び水中に没した。


「テュポーンでいきなりあれを追撃するのは無理だったな。直剣はこう、扱いやすさにマイナス補正が掛かってる感じだ」


「ユーマさん、長剣モードに変形させてくださいまし!」


「オッケー! こうか!」


 舳先に着地しながら、俺はテュポーンを振った。

 その形が変わっていく。


 青と緑の装甲が内部に格納され、赤いパーツに入れ替わる。

 剣が中程から開き、刃先を中心として倍はある刃渡りへと変形した。


「面白え! というか、いきなり重心が扱いやすくなったな!」


 再び、俺を目掛けて水中から飛びかかってくる敵。

 今度はしっかりと確認できた。


 双子のような連中だ。

 手にしたハサミの片割れみたいな武器は、表面が激しく振動している。

 高速振動剣みたいな代物だな。


 あれによって、相手の装甲強度に関係なく刃を叩き込んで切断するわけだ。

 攻撃は科学に頼り、行動は混沌の精霊によって強化する。

 なるほど、これが今の暗黒大陸の戦い方というわけだ。


「うおおおお!!」


「死ぬがいい!!」


 両脇から迫る攻撃。

 だが、高速振動剣よりも、長剣……赤のテュポーンの方がリーチがある。


「それに、振動なんてのは受動的に食らってるから脅威なわけで、能動的に打ち込む時は止まってるのと同じなんだよな」


 俺はつぶやきながら、赤のテュポーンを振り切った。

 そのまま一歩後退する。


 俺目掛けて突っ込んできていた二人が、空中で二枚におろされ、それぞれの頭と胴体を乗り換えて水中に落ちていった。

 振動剣だって粉々だ。


「テュポーン専用ソニックだ。ちょいと動きが重いが、悪くないな」


 船の周囲が沸き立つ。

 仲間がやられたことで、暗黒大陸の連中が憤っているのだろう。


 そこから無数のチャクラムが放られた。

 機械じかけの、チェンソーチャクラムとでも言うべき武器だ。


 だが、こいつはこの間見た。

 俺は甲板で軽くステップを振りながら、飛来するこいつらを次々にテュポーンで叩き落とす。


 手数が若干足りなそうなら、ケラミスの剣を抜いてこいつで迎撃だ。

 ケラミスは軽いから、二刀流しても負担が少ないな!


 こいつはいい。


「デヴォラ! 俺が攻撃をまとめて捌く。こいつらを撃て!」


「了解ですわ!」


 甲板にスパイクを突き立てながら、船べりへと走ったデヴォラ。

 両手にした銃を、海面目掛けて連射した。


 ハンドガンサイズなのに、銃把からベルトのようなものが、彼女のスカートに伸びている。

 弾帯か、あれ!


「死になさいなッ!!」


 デヴォラが叫びながら、銃を連射した。

 引き金を引きっぱなしで、フルオート連射になるらしい。

 口径は小さくても、連続射撃でぶっ放されたら堪らない。


 海面のあちこちから、「ウグワー!?」という叫び声が聞こえ、真っ赤な血とともに死体が浮かび上がっていった。


「ユーマさん! 混沌の精霊の支配が弱まっています! 今ならいけます!」


「よし、アリエル! 風を吹かせろ!」


「はい! シルフよ!!」


 ジャイアント・ユーマ号が追い風を受けて加速した。

 蒸気船としての機構ばかりではなく、後部と側部に翼のような帆が展開した。

 いやあ、かっこいい船だな!


 俺たちは、青い海を朱の色に染めながら、暗黒大陸を目指して突き進んでいくのだ。

新たな厨二兵装、旋風剣テュポーン!


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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉ、妾〜のじゃっ娘の復活?! まぁ、ユーマは妾〜のじゃっ娘好きそうだったもんなぁ 竜胆ちゃん、もともと姫という地位に合わせての言葉遣いだったし、立場に合わせて変える娘なんでしょうねぇ […
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