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熟練度カンストの航海者2

 ディアマンテ半島を回り、越えていく。

 遠く左手には、ネフリティスから来たらしい商船団が見えた。


 ディアマンテの船は、全体的に質実剛健なデザインだ。飾りと言うものが少ない。それに対して、ネフリティスの船は船のヘッドに彫像をつけていたり、舷に飾りを入れていたりと、凝った作りをしている。

 一目でどこの船なのか分かるわけだ。


 詳しい人間なら、飾りの形で誰の所有する船なのか分かるらしい。

 そんな船団が、俺たちの機動船を見てギョッとしたようで、甲板に傭兵たちがわいわいと集まってくる。


「よう」


 俺は奴らに向かって、悠然と挨拶した。

 すぐ横には、アンブロシアが並ぶ。


「お、お、お前ら、まさかオケアノス海賊団か……!?」


「懐かしいな。以前そういうのをやっていた」


「あー。あの頃はやったねえ」


 思い出すのはアンブロシアとの出会いだ。


 いやあ。

 最悪だった。

 それが気付くと、こういう関係になっているのだから、人との縁と言うものは分からん。


「おお、お前ら、出ろ! 海賊だぞ!!」


 傭兵は俺たちの返答を早とちりしたのか、慌てて仲間を呼ぶ。

 ネフリティスの甲板の上に、びっしりと傭兵たちが現われた。


「待て待て。戦う気は無いぞ。それに、エルド教には話を通してあるはずだが」


「そ、そんなもんは知らんぞ!! くそう、化け物みたいな船に乗りやがって! ち、ち、近づくとひどいぞ!」


 傭兵どもは足が震えている。

 まあ、船の姿が恐ろしいのだろう。幽霊船みたいにしか見えないしな。


 それに、剣気を抑えているとはいえ、俺と面と向かって話しているわけだ。

 奴らもそれなりの使い手らしく、俺の強さが分かるらしい。

 ちなみに船乗りたちは、すっかり怯えて俺たちに目を向けようともしない。


「船乗りってのは、信心深いものだからねえ……。機動船の見た目はそのまま不吉なものだし、近づきたくも無いのは仕方ないさね」


「どうしようねえ」


 リュカの思案する声が聞こえた。

 すると、リュカの横にいるらしい亜由美ちゃんが何やらウキウキした声である。


「リュカ姐さん、一つ、あっしが空をぴゅーっとですね? 飛んでですね? 船の上から爆発物をぽいぽいーっと」


「だめよ! もう、亜由美はそうしてすぐに力づくで解決したがるんだから」


「はっ、仰る通りです」


 リュカは完全に亜由美を御している!!

 俺は大変な驚きを得たが、とりあえず、うちの嫁の器の大きさに感謝しておくことにする。


「見逃すので通り過ぎるがいい」


「な、なんだとぉ!?」


 青筋を浮かべる傭兵たち。

 恐怖を覚えているだろうに、プライドっつうものがあるよな。

 ということで、俺は連中の目の前で、バルゴーンを抜いた。


「“ディメンジョン・ブラスト”」


 俺が舷側から振り下ろした大剣が、剣圧を海面目掛けて放った。


「げええーっ!?」


 傭兵どもがどよめく。

 アンブロシアも、目を見張ったようだ。

 そう、海を割ったのだ。

 ほんの一瞬ではあるが、海の流れそのものを断ち割った。

 海面から数キロ先まで、海底に至るまでがむき出しになる、海の刀傷。


「見逃してやる。通り過ぎるといいぞ」


「ひ、ひいいいっ!!」


 連中は必死に、だが船はゆるゆると、俺たちから離れるように航路を変えていく。


「平和的に片付いたな」


「昔は、一戦交えるか、どうやって誤魔化すか考えてたもんだけどね……。ユーマも腕を上げたもんだねえ」


「アンブロシアだって、その気になればあの船くらい沈められるだろ」


「そりゃそうだけど、酷使すると水の精霊たちもうるさいからね。そら、もう少し行けばネフリティスの海域をぬけるよ。ここから先が……外海さ!」


 ディアマンテとネフリティスを左右に望む海峡を抜けると、一気に視界が開けた。

 見渡すかぎり、どこまでも続くと思える大海原。

 それは、水平線だった。


 外海に出たことがある者が無いわけではなかろう。

 だが、そんな彼らも、この遥か彼方に新大陸があるなどとは想像したこともなかった。

 それほど、果てしなく遠くに新たなる大地は存在している。


「まさか、異世界に来てまで大航海時代みたいなことをするとは思わなかった……」


「あっし、世界史の成績は悪かったので……」


「亜由美ちゃんオタクっぽいのに歴史だめなのか」


「はっ、どっちかというとキョロ充系オタクだったので……」


「俺は引きこもっていたなあ……」


 現実世界にいた頃の話をしていると悲しくなって来たので、話題を切り替えることにした。


「亜由美ちゃん、君に役目を授けよう」


「えー、面倒っす」


「亜由美、マストに登って見張りしてくれる?」


「はっ! リュカ姐さん喜んで!!」


 リュカの一声で、亜由美がサカサカサカっと台所の隅にいる黒い昆虫の如き機敏さで動き出した。

 どうやって手懐けたんだ。


 彼女はマストの上までひょいひょいと駆け上がっていくと、懐から出した巻物を変化させ、見張り台を作り出す。

 大変便利な能力だ。


「女の子たちのことなら任せてね」


「……リュカもたくましくなったなあ……」


「みんな、ちゃんと色々出来るようになってるのよ? サマラだって、最初は結構男の人苦手だったの覚えてる? アリエルはそもそも人間が苦手だったし、ローザは……若返ったかな」


「ローザはなあ。吹っ切れたよな。まあ、あれはあれで今のローザが好きだな」


「ほら、それ」


 リュカが俺の胸を突いた。

 何事か。


「ユーマ、ちゃんと男の子として成長してる。そういう事言えるようになってきたでしょ。昔の頼りないユーマも好きだったけど、今のユーマも素敵だよ」


「あっ、それは光栄です」


 俺は照れた。

 そんな俺たち二人に、アンブロシアがガバッと飛びかかってくる。


「うおっ!?」


「きゃっ!」


「もう、二人とも真っ昼間からいちゃいちゃしてくれて! それよりも、外海で邪魔するものはいないさね! これから加速するよ! リュカ、クラーケンの噴射と同時に風を吹かせな!」


「わわっ! やるのね! わかった!」


 リュカがぴょんと飛び跳ねて、離れていった。

 ……リュカの向こうから、アリエルが羨ましそうにこっちを見ている。

 俺が手招きすると、彼女は周囲を目を細めてキョロキョロした後で、そそくさとやって来た。


「さあて、忙しくなるよ!」


 空気を読んで離れていくアンブロシア。

 プリムとクラーケンに指示を出しに行くのだろう。


「ま、まあいいんですけど。だけど、いきなりどうしたんですか? アンブロシアさんもリュカさんも張り切っちゃって」


「ああ、これな。多分な」


 俺はがっしりとアリエルを引き寄せた。


「ひゃっ」


 アリエルは驚き、赤面するが抵抗はしない。


「俺に掴まっててくれ。これな、多分飛ぶ」


「……飛ぶ……?」


「いっくよー!! よーそろー!!」


 アンブロシアの声が響いた。

 その瞬間、強烈な風が吹く。

 そして、機動船を挟み込んでいたクラーケンが、一斉に噴射口から水を吐き出した。


 轟音が轟く。

 一瞬の停滞。その直後、機動船が加速した。


「ひいいい!? こ、こんな大きなものが空を飛ぶなんて、まるで竜じゃないですか!? 非常識ですっ!!」


「ああ。とんでもない事だから、絶対振り落とされるなよ!」


 俺はアリエルをしっかりと捕まえたまま、舳先を見つめる。

 水平線の彼方までが、高度から見渡せるようになっている。

 風を切って進む速度はどれくらいであろうか。


 船に叩きつける空気抵抗は、リュカが風を吹かせると同時に打ち消している。

 つまり、空気抵抗一切無しでどんどん加速していくわけだ。


 クラーケンの息が続く限りだから、飛行が持つのは数分というところだろう。

 だが、俺の体感では、この船の飛行速度……音の速度に到達しているだろう。


「ひゃっはー!! 超速いっすー!! あっという間に後ろの島が見えなくなったっすよ!? なんじゃこれーっ!」


「亜由美ちゃん、はしゃいで落ちると音の壁に当たって粉々になるぞ! 落ち着けー」


「げげえーっ!? マジっすかーっ!!」


 亜由美が飛び上がりかけたが、俺の注意を受けて見張り台にしゃがみこんだ。


「アンブロシア、これを連続してやるのか!?」


「そうさね! 一日に三回! それで、一気に距離を詰めて新大陸とやらに行けるはずさ!」


『はははははは!! これは楽しいな! たまには人間と共に行くのも悪くはない! 永く存在していたが、このような速さで空を駆けたことはないぞ!』


「ストリボーグは音よりは遅いのね」


『そもそも、余は早く歩くことはできても、飛べはしないからな』


 正確には、氷の精霊王は風に乗るのだそうだ。

 存在を希薄にし、任意の方向へと向かう風に乗って移動する。

 その際、彼の下僕である氷魔たちがいれば、それらがストリボーグが移動する為の門になる。


『故、余はうぬに感謝してもいるぞ』


「魔王やら氷の精霊王ともあろう者が、世俗的な言い方をするんだな」


『うぬに影響されたのやも知れんな』


「ユーマさんが、普通に会話するようになってる……。ちょっとびっくりだわ……」


 俺とストリボーグの会話を聞いて、アリエルが失礼な事を言った。

 このようなやり取りをする間に、飛行時間は過ぎ去り、やがて船は水飛沫を立てながら着水した。

 そして再び、クラーケンの力を溜め、マンタたちを休ませながら次の飛翔に備えるのである。


「アンブロシア、大体何日で到着する計算になる?」


「そうさね。例えば新大陸までが、ネフリティスからアウシュニヤほどの距離だったとすれば……二日さね」


「速いなあ……!」


 アンブロシアの言葉は、大言壮語でもなんでもなかった。

 その後、数度の飛翔を行い、翌朝のことだ。


「なんかあるっす!! ありゃなんだーっ」


 マストの見張り台が定位置になった亜由美ちゃんの叫びで、俺たちは叩き起こされることになったのである。

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