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熟練度カンストの北方者2

 食事を取りながら、ヴァレーリアと兵士たちと会話をすることにした。

 この国の食事は、寒さに強い豆と、ひき肉をベースとしている。

 動物の肉を、どんな部位でも無駄にすること無く食べるためだ。


 これをパイ生地で包んで焼き上げたパンと、トマトみたいな野菜で豆を煮込んだスープ。

 それから煮た魚。

 ヴァレーリアのお手製だという、プディングまである。


「固く作るプディングは日持ちがする。祝い事などに作って食べるのだが、このまま常温で保存して、削って食べていくのだ。これは私が保存食にするために作ったものだが、今日は特別な日だ。皆で食べるとしよう」


「グラナートは寒いから、果物とかが少ないの。だから、甘いプディングはごちそうなんだって」


 リュカが説明してくれる。

 彼女はヴァレーリアと共に、この土地をそれなりに長い期間巡ったらしい。

 すっかり、詳しくなっている。


「でも、切り分けるのはヴァレーリアよりユーマの方が上手いと思うよ?」


「ああ、やってやろう」


 俺はバルゴーンを呼び出して、手をかける。

 いきなり剣を握ったものだから、場にいる兵士たちに緊張が走った。

 だが、奴らは全員、俺を見て顔を真っ青にし、身動きができないでいる。


 最近、俺は剣気とやらで、ある程度よりも実力が低い連中の動きを止めることができるようになっている。

 今回はその気はなかったが、我知らず剣気が漏れ出していたようだ。

 食事中だと言うのに、緊張させては悪いな。


 俺はさっさと片付けることにした。

 鞘走る。

 そして、収める。

 剣を消す。


「これで人数分だ」


 俺が告げると同時に、プディングの塊が、俺、リュカ、ヴァレーリア、そして兵士七名分の合計十切れに分かたれた。

 ヴァレーリアは愉快そうに笑いながら、拍手をした。


 その顔に緊張がない。つまり、そういうことだ。

 彼女の強さは、今まで俺が会ってきた人間の中で、上から数えたほうが遥かに早いだろう。


 食事が始まった。

 ひき肉を詰めたパイは実に美味い。


 齧ると、ひき肉と共に詰められた脂がとろけ出て来る。

 まだまだアツアツなのだが、リュカ曰く、ちょっと冷めて脂が固くなってもまた、これが美味しいのだという。


「美味いなあ……しみじみ美味い。蓬莱国のご飯はなんつーか、郷愁を感じる味だったが、ここのは寒い気候に合ってて実にンマイね」


「ははは、グラナートの味を気に入ってもらえて嬉しいよ。さて、我が国では食事をしながら、この火酒をやるのが習わしだが……。リュカ同様、君も酒には弱いのだろう?」


「まあね。強い酒なら一発でぶっ倒れる自信がある」


「では無理には進めまい。茶にジャムを垂らしたものならいかが?」


「美味そう。ください」


 ということで、俺とリュカにはジャム入りの紅茶を淹れてもらった。

 飯に合うかと言われると微妙なのだが、まあどれも美味い。

 俺は食べ合わせは気にしないタイプだし、リュカは美味しいものならなんでも正義というタイプだ。


「何度食べても美味しいねえ。私、ご飯のためだけにグラナートに住んでもいいかもー」


「リュカはご飯が美味しい土地が好きだからなあ。今まで巡ったところで、どこのご飯が好きだった?」


「うーんとね。故郷のご飯は好きだったけど、もう食べられないし……。アルマースのご飯美味しかったよね。香りが一番凄かった。お肉の焼き方にこだわりがあったのはネフリティス? アウシュニヤのご飯は辛かった! だから、一番ホッとする味なのはやっぱりグラナートかなあ」


 リュカの感想を聞いて、ヴァレーリアが笑顔になる。

 故郷を褒められるととてもうれしいタイプの女性らしい。


 うちの陣営にはいないタイプだ。

 彼女もリュカのことを気に入っている事に気づき、俺もいい気分になる。


「な、リュカは可愛いだろ」


「異論は無い。私は同性愛者ではないが、それでもリュカを前にすると理性の(たが)が外れそうになるな」


「やらんぞ、俺のだ」


「残念なことだ。……さて、依頼の話をしてもいいか?」


「どうぞ」


 食事の終わり際、いよいよ本題が始まった。


「およそ一年ほど前、突如として奴は現れた。北の魔王ヴィエーディマ。グラナート帝国に古くから伝わる、お伽噺の悪魔の名前だ。ヴィエーディマは、帝国に対し、全権の譲渡を要求した。皇帝陛下と魔王は、直に会談を持ったということだ」




 北の魔王ヴィエーディマ。

 その姿は、氷の鎧と闇の衣に身を包んだ長身の男だったという。


 かの男の吐息一つで、宮殿を守る不凍の堀はことごとく凍りつき、兵士たちはかの魔王の一睨みで心の臓を凍てつかされ息絶えた。

 誰も、魔王を止めることなどできなかったという。


 かくして、魔王は堂々と、正面から皇帝の前に現れた。

 皇帝は、伝説の悪魔の名を語る魔王を前に、一歩も引かなかった。

 帝都に詰めていた全ての魔導騎士が集い、かの魔王と相対した。


 およそ七名の魔導騎士を相手取りながら、魔王は皇帝と会談を続けたのだという。

 やがて、魔導騎士は五名を失いながらも魔王を退けた。

 魔王は決して帝国の権限を譲らなかった皇帝に敬意を表し、次よりは表立って戦いを仕掛けることを宣言したのだという。



「それで今はどうなっているんだ?」


「我らがグラナート帝国は、ヴィエーディマが率いる氷の軍勢と常に戦いを繰り広げている。今戦える魔導騎士は、十二人のうち六名。一名は傷を置い、戦線から退いている。私があの時帝都にいれば、魔王めの首を取ってやったものを……。だが、過ぎたことは口にするべきではないな」


「なるほど、了解した。明後日からでいいか? 明日くらいはゆっくりしたい」


「急いで欲しいものだが……帝国も、リュカには借りがある。彼女の力で、幾度かの戦闘に勝利している。少しのわがままなら聞いてやれるが?」


「じゃあ、明日はユーマと一緒にいたい!」


 リュカが俺の腕に抱きついてきた。

 ヴァレーリアが肩をすくめた。


「ご自由に。明後日からは戦争よ」


「任せてくれ」


 俺は安請け合いした。

 そして、話を聞いた限りにおいて、俺が感じた質問をぶつけてみることにする。


「幾つかいいか?」


「どうぞ」


「魔王は、相手を凍りつかせる魔法を使った。そういうことでいいか?」


「そのように聞いている。奴の呼気も、視線も、そして身の動き一つ一つが全て敵を凍てつかせる魔法なのだ」


「なるほどな。俺はそういう事が出来る存在に心当たりがある。恐らくは……精霊王、荒御魂、そういった連中と同一の存在だ」


「知っているのか?」


「よく知っている。というか、何度かこの手で倒してるからな。恐らくこの世界で、俺はそういう人知を超えた連中を相手取る一番のエキスパートだ」


 だが、それだけに、少々疑念がある。

 俺は、奴ら化物が理由もなく暴れはしないことを、これまでの戦い、冒険で知っている。


 精霊王たちは、世界を人間から自分たちの手に取り戻すため、俺をこの世界に召喚した。

 精霊女王は、俺が脅威になると判断して、それを排除するためにデスブリンガーの連中を召喚した。


 精霊王たちの動きに呼応して、蓬莱帝は荒御魂を危険視し、その力を受け継いだ者たちを狩り始めた。

 色々なものが繋がっているのだ。

 あっ、僧侶だけ繋がってないな。あいつはフリーダムだ。


『ひどい仰りようだ!』


 腕輪が抗議してきた。

 突然俺の懐から人の声がしたので、ヴァレーリアは驚いたようだ。

 椅子に立てかけられていた剣を手に取ろうとする。


「ああ、落ち着いてくれ。こいつは性格は悪いが、俺の協力者だ。遠くに声を届ける魔法で話している。アウシュニヤという南の国の権力者でな」


「なるほど、君は多くの国を股にかけているようだ。思った以上に頼りになりそうだ」


 食事は終わりになった。

 俺は部屋に戻りながら考える。


 北の魔王は、人間に敵対する存在か?

 いや、この世界に存在する超越的な連中は、どれも人間を敵視するようなことなどなかった。

 精霊たちは人間と共存していたし、荒御魂は人間に祀られて眠っていた。


 一年前。

 魔王ヴィエーディマが現れたのは、おおよそ、俺がこの世界に召喚され、西方を一巡りした後に精霊女王を仕留めた頃合いだ。


 奴の出現は俺の行動に呼応している。

 そう考えるのが自然だろう。


「一度会ってみなくちゃな」


「んー?」


 隣を行くリュカは首を傾げると、俺の背中に飛び乗った。


「うおー」


「ユーマ、なんだか難しい顔してる? だめだよー。難しい顔ばっかりしてたら、怖い顔になっちゃう」


 後ろから手を伸ばして、俺の顔をぐにぐに触ってくる。

 俺はすっかり毒気を抜かれてしまう。


「明日はね、一日のんびりしよう? この村はあんまり、遊ぶところとか無いけど……」


「オッケー! 俺はリュカがいればどこだって天国だぞー」


 リュカを背負ったまま、グルグルと回る。

 彼女は笑いながら、ぎゅっと抱きついてきた。

 ということで、一日休むのである。

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