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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 塔の外で色々やろう
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(4) <真偽眼>

「待ってください・・・!!」


 ミツキの剣を止めたのは、女性の声であった。

 観衆の注目がそちらの方へ集まった。

 やじ馬をかき分けるように、ローブを着た女性、シルヴィアが出てきた。

 公的ギルドの食堂にいた二人組の女性の内の一人だ。

「なぜ止めるの? あなたも関係者なのかしら?」

 プレッシャーに充てられて震える男に剣を突き付けながら、ミツキは剣呑な表情をしてシルヴィアを見つめた。

「違いますわ。ですが、これ以上の制裁はやりすぎではありませんか?」

「・・・やりすぎねえ・・・そうね、ちょうどいいわ。貴方、<真偽眼>使える?」

 突然の質問にシルヴィアは戸惑う。

「突然、なんですの?」

 シルヴィアが着ているローブは、この世界の宗教であるエリサミール教のローブだった。

 ある程度の力があるシスターであれば、<真偽眼>は修めていても不思議ではない。

 <真偽眼>とは、主に犯罪を犯した者に対して聖職者が真偽を見極めるために使うものだ。

「この男に使ってもらえる? 私が使ってもいいけれど、それだけではあなたは納得しないでしょう?」

「そんなことはありませんわ! ですが、私にかけろというのであれば、掛けさせていただきますわ」

「はあ、もうわかったわ。こんなことで時間を使ってもしょうがないから、私の後に重ね掛けしなさい」

 ミツキはそう言って、さっさと男に向かって<真偽眼>を使った。

 慌ててシルヴィアは、男に<真偽眼>を重ね掛けした。

 

 <真偽眼>は所謂、嘘発見器のようなものだ。

 このスキルを掛けられた者が、嘘をつけば赤く光り、嘘をついていなければ青く光るのだ。

 聖句(呪文)もなしに<真偽眼>を使ったミツキに、シルヴィアは一瞬目を丸くしたが、すぐに自身も<真偽眼>を使った。

 ちなみにこの<真偽眼>であるが、使う側が不正をするのは、実に簡単にできたりする。

 <真偽眼>で出た結果を覆い隠して、別の光で覆えばいいだけだ。

 光の魔法を使える者であれば、初歩の魔法だったりする。

 ミツキがシルヴィアを誘ったのは、当事者が使っても信用にかけると思われると、考えたためだった。

「さて・・・私の質問に答えてもらえるかしら?」

 ミツキは、剣を突き付けながら男に向き合った。

「な・・・なにが聞きたい?」

「まずは・・・そうね。あなた方、今まで同じようなこと繰り返してるでしょう?」

「な、何のことだ・・・?」

 男の周囲が赤くなった。

「あのね。とぼけても無駄だから、きちんと答えたほうがいいわよ?」

「ば・・・馬鹿な・・・」

「はいはい。そういうのはいいから」

 ミツキがそう言って否定しようとする男の言葉を遮り、少しだけプレッシャーをあげると、男は再び震え上がった。

「わ、わかった。ちゃんと答える・・・答えるから、それは止めてくれ・・・!」

 だが悲しいかな、ミツキがプレッシャーを与えているのは、男だけなので周囲にはそれは伝わっていない。

 そのため男がそこまで怯えている理由は、先ほどの戦闘のせいだと思っている。

「じゃあ、続きね。今まで同じようなことをして、二ケタ以上の女性を犯してるでしょう?」

「なっ・・・!?」

 ミツキの唐突な質問に、シルヴィアは目を見開いて男の方を見た。

 男は無言のままだ。だが、その周囲は青い光で包まれている。

「一応言っておくけど、無言でも無駄だからね。まあ、巫女様に分かってもらえればいいから、別に貴方はどうだっていいんだけどね」

 男は、先ほどから冷や汗をかきっぱなしだ。

 どうあってもミツキには、筒抜けになってしまうことを恐れている。

「はい、次。その女性のパーティメンバーを何人殺してきたの?」

「・・・・・・知るか! ま、待て! ほんとに覚えていないんだ。・・・一々数えてなんかいない!」

「はい。予想通りの下衆な回答ありがとうね」

 二人のやり取りに、シルヴィアも周囲の人々も絶句するしかない。

 この男は、粗野で乱暴だと冒険者たちの間では、有名な人物だったがこれほどだとは思われていなかったのだ。

 こんな人物が堂々と町中を歩いていたのだから、周囲の人々も戦慄している。

 だが、続くミツキの追及にさらに息をのむことになる。

 

「それで、貴方みたいなのが、なぜ呑気に町中歩いていられるの?」

「・・・どういうことだ・・・?」

「だから、時間の無駄だからそういうのはいらないから。・・・それとも、はっきり聞いた方がいいのかしら?」

「・・・・・・」

 今度こそ無言を貫こうとした男は、ミツキが剣を喉に突き付けたところで観念した。

「ああ、そうだよ。俺たちには、刑吏に捕まっても外に出られる伝手があるんだよ・・・!」

「はい。どうもありがとう」

 ミツキは、ニッコリ笑った後、シルヴィアの方に向き直った。

 そのシルヴィアと周囲の人々は、男の告白に完全に言葉を失っている。

 男の犯行自体もそうであるが、それ以上にこんな犯罪者とこの街の刑吏が繋がって見逃されているというのだ。

 驚くなという方が無理だろう。

「わかったかしら? これが、私が制裁をしようとした理由よ」

「し、しかし・・・それは・・・!?」

 ミツキに言われたシルヴィアは、けれど私刑はダメだと言おうとしたが、続けられなかった。

 裁くべき刑吏自体が信用できないのだから。

 なぜミツキがそんなことを最初から分かっていたのかは、なぜか疑問に思うことすらしなかった。

 そうした周囲の反応を見て、なぜかミツキは剣をしまって続けた。

「まあ、それももうする意味が無くなったけれどね」

「・・・どういうことですの?」

「あら。こんな往来でペラペラしゃべったんだもの。もうこんな男、今まで利用してきたやつらにとっても、生かしておく必要性がないでしょう? むしろ余計なことしゃべる前に始末するでしょうね」

 ミツキのその言葉に、言われて初めて気づいたのか、男が目を見開いている。

 そして、破れかぶれになったのか、突然立ち上がり咆哮を上げて、ミツキに向かって行った。

 だが、ミツキはそれをあっさりとあしらい、拳で急所を打ち付けるだけで男を気絶させた。

「はい、お終い。あとは刑吏が片づけるでしょう。いろんな意味で」

 ミツキはそう言って、男たちを捨て置いて、考助の方へと歩いて行った。

 シルヴィアは、それをただ黙って、見送ることしかできなかった。


 その時、ミツキのやることをただ黙ってみていた考助は、近寄ってきた女性に話しかけられていた。

 ギルドの食堂で、シルヴィアと相席していたコレットだ。

「・・・やってくれたわね、あなたの相方」

「うーん・・・。むしろ彼女が止めなかったほうが、いろんな意味で後腐れなく終わってたと思うけど?」

「そうなんだけれど、ね」

 コレットはため息を吐いた。

 止められるなら止めていたが、あの時は止めることができなかった。

 ましてや、ミツキと男のやり取りを聞くうちにしまったと思ったが、時すでに遅し、であった。

「彼女、気づいてないみたいだから、あなたが気にするしかないかな?」

「・・・・・・そこは、自分が守るとか言う場面じゃないのかしら?」

「それ、本当に言っていいの・・・?」

 考助の切り返しに、コレットは言葉を詰まらせた。

 それを見た考助は、持っていたリュックの様な形をした袋からアイテムを取り出してコレットに差し出した。

「・・・・・・これは?」

「通信具と僕らの泊まってるホテルが書いてるメモ。通信具はこの街の中だったら届くと思うから」

「通信具って・・・・・・また珍しい物を。まあいいわ。一応、感謝するわ」

 コレットに渡した通信具は、非常にバカ高い物でしかも使い捨ての物になる。

 そんな物をわざわざ買って使うような冒険者はほとんどいない。

「どういたしまして。まあ、見捨てるのも忍びないしね」

 それに二人とも美人だし、と心の中で続けた考助だった。

 

 ミツキと合流した考助は、人々に注目されながらそのまま宿へと向かった。

 二人の名前を聞いていなかったのに気付いたのは、宿に入ってからのことであった。

シルヴィア&コレット話は、もう少し続きます。


2014/5/11 アイテムボックスから取り出すシーンを普通のリュックからに変更

2014/6/9 誤字修正

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