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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第15章 塔と女神様
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9話 食事会

 食事会に参加した考助は、ここでも女神達に囲まれることになった。

 傍にいたスピカに聞いたのだが、恐ろしいことに、握手会の時とは違うメンバーが来ているという事だった。

 ちなみに、握手会の時はジャルが、食事会はスピカが取り仕切っているという話も聞いた。

 エリスは全体のとりまとめをやっているとのことだった。

 それを聞いた考助は、実は暇なのか、と思ったのだが口に出すようなことはしなかった。

 考助とて、わざわざ虎の尾を踏むようなことはしたくはないのだ。

 食事会では、流石に握手会の時とは違って人数は限られているようで、五十柱ほどの女神たちが来ていた。

 その女神たちがひっきりなしに考助のところに来るので、考助自身はまともに食事が出来ない、という事はなかった。

 スピカが上手く取り仕切っているので、しっかり飲食は出来ていたのだ。

 ちなみに、女神たちの間では食事会の方が人気が高かったらしい。

 食事会の選考に漏れた者が、握手会に流れたようで、更に握手会にも来れなかった者達もいたとのことだった。

「・・・なんでそこまでして会いたいのかな?」

 不思議に思った考助が、ふと疑問を口にした。

 たまたまその時相手をしていた女神たちが、困ったような表情になった。

 こういう時にきちんとフォローしてくれるのが、スピカである。

「前の時も話をしたと思うが、アースガルドの世界と繋がりを途切れさせないためだな」

「途切れさせないって、ほんの数分顔を合わせているだけだよ?」

「それでも何もしないよりましなんだよ。名前の知られている神はまだいいが、ひっそりと信仰されている女神は、ふとした時にあの世界と関係が途切れてしまうことがある」

 多神教の世界の弊害である。

 信仰が多い神は心配する必要はないのだが、忘れ去られてしまった神は、世界そのものから離されてしまうことがある。

「そうなってしまっては、ここでただ存在しているだけになってしまうからな」

 アースガルドから切り離されてしまった神は、仕事がなくなってしまう。

 残念ながらニート万歳というわけにもいかない。

 神々は、神としての仕事をしているからこそ存在を許されているのだ。

「まあ、そういう事は滅多にないのだがな。そもそも必要とされるからこそ、我々は生まれているのだから」

「はー。なるほど。神と言えど大変なんだねえ」

 考助の感想に、周囲にいた女神たちが苦笑していた。

 そんなことをいう考助とて、同じ神の一員なのだ。

「・・・何を言っている。そなたも似たような存在なんだぞ?」

「え!? ・・・いや、そうか。あれ? そうなの?」

 考助としてはそう言った実感が全くない。

「まだあちらの世界との繋がりが強いから実感がしにくいかもしれないな。長い時を生きれば、その内分かってくるかもしれないな」

「・・・長い時って・・・あれ? そう言えば、僕の寿命ってどうなってるの?」

「さてな? 何せ現人神など初めての存在だから、はっきりとは分からないのではないか? ハイエルフより長生きできるのは確かだろうが」

 ハイエルフは、亜人たちの中でも群を抜いて長寿であることが知られている。

「うーん・・・そうなのか・・・」

「む? どうかしたのか?」

「いや、そんな長寿の存在が、というか神という存在が、あそこまで具体的に関与していいのかな、と一瞬考えた」

 考助は現在、塔の管理という形で世界に関わっている。

 最近になって塔の外への影響力も増えたので、今後はますます影響力が強くなるだろう。

「いいんじゃないか? そもそも考助は、あの世界で好きに生きるように、アスラ様から言われているのだろう?」

「ああ、まあそうだけど」

「だったら気にする必要はない。好きにすればいい」

 一瞬突き放されたと思った考助だったが、すぐに考え直した。

 スピカがこういう物言いをするのは、性格的なものだと理解していた。

 その彼女が好きにすればいいということは、本当に好きにしていいということだ。

「・・・なんか、それはそれで怖い気がするけど」

「そう思うという事は、自身でブレーキが利いているということだろう。心配はいらないさ」

「そうなのかな? ・・・まあいいか。・・・ああ、ゴメン。話し込んじゃった」

 ついついスピカと話し込んでしまったが、今は目の前の女神達との時間だ。

 彼女たちの目的も聞いた今となっては、出来る限りの事はしたいと思っていた。

「あの・・・気にしないでください。私達は話が出来なくても、近くにいるだけでいいんです」

 傍にいた女神たちの一人がそう言って来た。

 その言葉だけ聞くと健気な乙女、といった感じだが、全員がコクコクと頷いていた。

「ああ、彼女が言う通りだよ。実際、前の握手会だって手を触れて、せいぜい一言声を掛けられたくらいだろう? それだけで十分意味があるんだよ」

 考助がスピカの方を見ると、スピカがそうフォローしてきた。

 普段はアースガルドの世界にいる考助が、すぐ傍にいるだけで彼女たちにとっては効果があるのだ。

「ふーん。そんなものなんだ」

 そう相槌を打った考助だったが、だからといって黙って置物になるつもりもなかった。

 出来るだけ女神様達との会話を楽しもうと思うことにしたのであった。

 

 何とか食事会も無事に終えた考助は、落ち着いた時間を過ごしていた。

 なぜこんなにのんびりしているかというと、今日はもう塔には戻らないからだ。

 女神達の事情を知った考助が、折角なので明日の早いうちにもう一度同じような席を設けることを申し出たのだ。

 握手会と食事会に洩れた女神達がまだいるという事を知った考助が、食事会が終わった後でエリスに相談をしたのだ。

 考助にしてみれば、自分に出来ることがあるのなら、出来る限りの協力をしたいと思っている。

 相変わらず女子高のような雰囲気には慣れないが、それでも最初の腰が引けた感じよりはましになってきている。

 突然の考助の申し出に、エリスは笑顔を浮かべて了承した。

「言っておきますが、来ている全ての者達が、そう言った事情を持っているわけではありませんよ?」

「そうなの?」

「はい。単純に一目見てみたいという者達もいます」

「ふーん。まあ物好きな人もいたもんだね。それならそれで別にいいよ」

 何しろ相手は女神なので、見ているだけでも得した気になる。

 今となっては、そう言った余裕も出て来ていた。

「そうですか。それなら手配をしておきます」

 エリスにしてみても嬉しい申し出なのだ。

 今回の選抜から漏れた者達から早くも次はいつになるんだ、という要求が来ているのだ。

「ああ、そうだ。今日は帰れないことを、シルヴィアに伝えておいて」

 エリスは、シルヴィアに交神することが出来る。

 それを使って伝えてもらおうと思ったのだ。

「それはもちろんいいですが・・・ご自分でやられてはどうですか?」

 不思議そうな顔をしたエリスに、考助は驚いた表情を見せた。

「え・・・!? ・・・できるの!?」

「貴方の巫女となっているのですから、出来ると思いますが?」

 考助にしてみれば、ただの形式的なものと思っていたので、そんな実用的なことが出来るとは思っていなかったのだ。

「ええと・・・。どうすれば出来るのかな?」

「私のときは、相手の気配を探して話しかけているだけですが・・・」

 それぞれのやり方があるようで、エリスにも説明は出来ないらしい。

 仕方ないので、手探りで試してみることにした。

 

 やろうとしているのは、ミクセンの神殿からこの[常春の庭]へとつないだ時の逆バージョンだ。

 シルヴィアの事を思い出して、その気配を辿ってみる。

 彼女が巫女になっているおかげか、その気配はすぐにたどることが出来た。

 やってみればあっさりと出来て、少し拍子抜けに感じた。

『シルヴィア、聞こえる』

『はっ、ふえっ!? こ、コウスケ様!?』

 突然のことに慌ててる様子が感じられた。

『あ、驚かせてごめん。ちょっと今日は帰れなくなったから連絡してみた』

『そういうことですか。わかりました』

 たったこれだけの会話で、プツリと接続が切れてしまった。

 時間が短いのは、慣れていないせいなのか、それとも別の要因があるのかはわからない。

 その辺のことは要検証という事だろう。

 ついでに、[常春の庭]以外の場所でもできるかどうかもわからない。

 またやることが増えたなと思う考助であった。

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