4話 検証
フローリアの許可もすぐにもらえた。
三人そろったところで改めてやってもらいたいことを説明した。
やることは単純で、召喚陣を大量に設置することだ。
最初は、眷属用の召喚陣を設置する。
それこそ、自然発生しているモンスターを駆逐できるくらい眷属の召喚を行う。
自然発生しているモンスターを駆逐した後は、召喚モンスターを養うための召喚陣を設置する。
召喚モンスターが多くなりすぎた場合は、別の階層に移してもいい。
要するに、階層一つ分を召喚陣だけで賄うように出来るのかどうかを知りたいのだ。
ついでに、自然発生しているモンスターと比較して神力回収の効率も調べることが出来る。
といっても下級モンスターの召喚陣だと、一番最初に考察したように設置コスト自体が赤字になる可能性がある。
できれば中級モンスターが召喚できるようになってから実験したほうがいいのだが、塔レベルが上がらないと設置はできない。
これが初めての塔なら出来ない検証なのだが、幸いにも神力自体を他から融通することが出来るので、多少の赤字は問題ないと考えている。
ついでに、検証する塔は全て小型なので、広さから言ってもコストはさほどかからないだろうと予想していた。
そもそも初級モンスターの召喚陣は、今の収入から考えれば、大したコストではない。
それこそ百個単位で設置しても問題ない。
自然発生するモンスターを駆逐した後に、餌とレベルアップ用に設置する召喚陣から発生するモンスターからも神力は回収できるので、大きな赤字になることもないだろう。
それよりも大変なのは、それらを管理していくことだ。
そもそも自然発生するモンスターを、完全に駆逐することが出来るかどうかもよくわからない。
こればかりはやってみないと分からないので、だからこそ階層の広さが狭い三つの塔で検証することを選んだのだ。
広すぎると階層をチェックするのにも時間がかかる。
管理メニューでは、各モンスターの数まで細かく出てくるわけではないので、自分の足で確認する必要がある。
当然モンスターがいれば、戦わなければならないので、チェックするのも一苦労なのだ。
だからこそ三人同時に任せたというのもある。
考助の場合は、コウヒやミツキと言うチートがいるので、ふらふらと各階層を見回れるが、他のメンバーはそうはいかない。
巫女であるシルヴィアを除けば、初級程度のモンスターで倒されることは無いが、それでも手間にはなるだろう。
そのために階層を見回るときは、今でも何人かで組んで見回っている、
シュレインやコレットに関しては、お互いに塔の中に同じ種族がいるのでその者達を同行してチェックが可能だが、他の三人はそうはいかない。
ピーチはデフレイヤ一族がいるが、彼らはアマミヤの塔の為に日々忙しく諜報活動に勤しんでいるので、出来れば他の仕事は与えたくないのだ。
「・・・と言うわけで、こんなものを作ってみました」
考助がそう言って、腕輪を差し出した。
「これは、何でしょう?」
代表してピーチが聞いてきた。
「簡易結界を作ることが出来る神具」
軽く言い放った考助に対して、フローリアが頭を抑えた。
そんなものを、気軽に創るなと言いたいのだ。
「効果としてはどうなんでしょうか~?」
そう聞いてきたのは、ピーチだった。
「半径四メートルくらいの範囲で魔物を寄せ付けない」
「侵入を防げるモンスターのレベルは?」
「検証はしてないけど、中級は確実に防げるだろうね」
考助の答えに、ピーチが首を傾げた。
「検証していない割に、具体的ですね~?」
「ああ、そっか。・・・この塔の結界を参考にして創ったからね」
召喚獣たちの拠点やセーフティエリアに設置されている結界を参考にしている。
結界自体は、低LV~高LVまであるが、腕輪に込めた力は高LVのものになっている。
「事故は起こらないように創ったつもりだけど、何があるかわからないから集団行動はしてほしいけど。特にシルヴィアは」
三人は同時に頷いた。
「あくまでも階層の調査をしやすくするための補助的な道具だと考えて使ってもらった方がいいかな?」
「戦闘は起こりうると考えて行動した方がいいということか」
「そうだね。まあ初級程度で何かが起こるとは思わないけどね」
検証する階層は、初級モンスターしか出てこない階層のためそうそう大きな事故は起こらないと思っている。
といっても相手はモンスターなので、何が起こってもおかしくないのだ。
いくら警戒してもしすぎるという事は無いだろう。
「そうですね~」
腕輪を受け取った三人は、思い思いにその神具を自分の腕に取り付けた。
腕の太さに合わないのではないかという疑問は、腕に付けた時点で自動で大きさが調整されたことで解消された。
装着者に合わせて大きさが調整されるようになっているのだ。
「・・・世の中の魔法具職人たちが、発狂しそうですわ・・・」
装着者に合わせて大きさが変わる魔法具など、過去の遺物として取り扱われている。
現在では、完全に失われた技術になっているのだ。
「へー、そうなんだ。・・・ダンジョン階層の宝箱に入れたら人気商品になるかな?」
「「「やめた方がいい(わ)」」」
三人同時の突込みに、考助は苦笑した。
「いや、いくらなんでも同じものは宝箱には入れないよ。手間もかかるし。」
その答えに、三人はホッとした様子を見せた。
「では、どういった物を?」
「うーん・・・・・・例えば火炎の魔法を込めた物とか?」
意外とまともな答えが返ってきて、フローリアは考えるように腕をくんだ。
「回数はどれくらいだ?」
「一般に流通しているものより少し多くなるくらい?」
魔法や聖法を使えない者が、物理的な攻撃が効かない相手に攻撃するための魔法具は、普通に売られている。
それを基準にして作ればいいと考えている。
「それなら確かに人気の品となり得るが・・・一般に出回っている魔法具もピンからキリまであるぞ?」
「そうなの?」
「ああ。魔法具は完全に作成者の腕によるからな。腕のいい職人の物は、普通は一般には出回らないが時折出てくることもある」
「ですね~。そういった物は、かなりの値で売られますね」
ピーチとフローリアの言葉に、シルヴィアも頷いている。
「なるほどね。前に店でチェックしたりもしたけど、やっぱりあれだけじゃわからないか」
何度か魔法具を扱っている店をチェックしたりしているのだが、それだけでは足りなかったらしい。
「取りあえず本格的に出す前に、皆に相談するよ。そもそも作ったものを宝箱に入れたらどうなるかもわかってないし」
宝箱に入れる物を登録することが出来ることは知っていたが、今まで実行したことがないのだ。
量産できる物でもあればよかったのだが、そうそう都合のいいものが思いつかなかったのだが、今回の件でいいものが出来そうだった。
サイズ自動調整の出来る腕輪は、話を聞く限りではかなりいいアイテム扱いになりそうだ。
「・・・話が盛大にずれたけど、取りあえず検証はお願いするね」
「ああ。早速眷属モンスターを召喚するところから始めるよ」
「私も~」
そう言って早速管理室へと向かおうとする三人に、考助は慌てて言った。
「神力は足りてる? 足りなかったらちゃんと教えてね?」
「私は問題ありませんわ」
「私も~」
「同じく問題ないな」
三人とも今まで手探りで召喚したりしていたので、さほど神力は使っていないのだ。
今回の話で、かなりの神力を使うことになるだろうが、それでも足りなくなるということは無い。
「わかった。それじゃあ頼むね」
考助の言葉を最後に、三人はそれぞれの管理層へと向かった。
それを見送った考助は、宝箱用の魔法具の作成に取り掛かったのであった。
アマミヤの塔が行き詰っているので、他の塔で検証開始です。
ちなみに同じことをアマミヤの塔でやらないのは、コストの他に広さのせいで召喚陣の設置に時間がかかりすぎるからです。
2014/8/1 簡易結界の効果範囲を半径一メートルから半径四メートルへ変更(短すぎでした)




