5話 巫女姫
昨日の後書きで、「集められた聖職者たち」が終わりと書いていましたが、幻です。
・・・・・・済みません。冗談です。
4話を上げた後にこの話を思いついて書いたので、後書きを直すのを忘れていました。
気付いた時点で4話の後書き直しています。
ご迷惑をおかけしました。
やるべきことを終えたシルヴィアとピーチは、ミクセンの街で用事を済ませていた。
用事と言っても大したことではなく、個人的な品物を揃えるための買い物をしているのだ。
普段管理層で生活するのに必要になる物は、クラウンを通して手に入れている。
だが、今回のような個人で使うような物は、こうして町に繰り出して手に入れている。
とはいえ、管理メンバーは物欲が高い者達はそろっていないため、外に出て物を仕入れたりすることはほとんどないのだが。
今回二人は、教会との話し合いがあったので、そのついでにちょっとした物を買おうとしていた。
シルヴィアは、聖職者として必要になる小物で、ピーチは占いに必要になる道具が欲しいのだ。
ミクセンの町は、流石に聖職者の街なだけあって、そう言った物の品ぞろえは大陸の中では群を抜いている。
どうしても必要な物でもないので、後回しにしていた物を、今回の機会に二人とも買い揃えるつもりだった。
女性二人の買い物が、一軒の店だけで終わるわけもなく、数軒の店を回った時に事件は起こった。
代表者として出席していたカリンとシュリの女性二人と、同じ店で鉢合わせしたのである。
鉢合わせした四人は、思わずと言った感じで顔を見合わせた。
流石にシルヴィアやピーチもこの場で、先ほどの続きをするつもりはない。
向こうがどう出てくるのか対応を待っていると、カリンがシルヴィアの方へと進み出て来た。
「・・・先ほどの場では確認できなかったことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
なぜか今のカリンの態度は先程の会議と違い、シルヴィアとどう接するべきか戸惑っているような様子があった。
「塔の神殿に関しては、話は変わりませんわ?」
「いえ・・・そちらの話もしたいのですが、今は別の話です」
シルヴィアは首を傾げた。
「・・・別の話?」
「はい。シルヴィア様は、シルヴィア・ルーフェウスと仰るのですね?」
「確かに私は、シルヴィア・ルーフェウスですが・・・」
なんとなく嫌な予感がしたシルヴィアは、思わず身構えた。
「では、やはり『巫女姫』のシルヴィア様なのですね?」
カリンの問いかけに、カリンの隣にいたシュリは驚いた表情を浮かべた。
巫女姫と言うのは、若い巫女たちの中で、一番高い地位についている者を指して言う。
ついでに言うと、神託がないと埋まらない地位なので、空席であることも珍しくない。
世界の中で探せば、一人もいないこともあるが、複数指名されることもある。
当然ながら、巫女姫の地位についている、あるいはついていたというのは、聖職者としてはエリート中のエリートになる。
カリンに問いかけられた、シルヴィアはニコリと笑って答えた。
「そうだとしたら、どうするのですか?」
「・・・いえ。申し訳ありません。どうこうしようというわけではないのです。ですが、私のような者にとっては、お会いできただけでもうれしいのです」
そう言うカリンの目は、完全に乙女の物になっていた。
「カリン、と言いましたか。・・・私はもう神殿を離れた身ですわ。神殿の立場としては、私の巫女姫に関しても解任しているはずですわ」
「・・・・・・ですが! 私達にとって、貴方は・・・!」
言いつのろうとするカリンを、シルヴィアは手で制した。
「私にとっては、もう過去の事ですわ。私は、私の判断で神殿を離れることを決めました。今でもあの判断は、間違っていなかったと思っていますわ」
きっぱりと言い切るシルヴィアに、カリンは黙り込んでしまう。
「おかげで今では、神の巫女として認められるまでになりましたわ。・・・まだまだ未熟者ですが」
黙りこくってしまったカリンに代わって、今度はシュリが発言してきた。
「・・・『巫女姫』という立場を捨てても、ですか?」
シュリはカリンほどシルヴィアの事を知っているわけではない。
ただ、『巫女姫』という立場に関しては、神職にある者として知識はある。
シュリがいた大陸では、少なくともここ数十年は『巫女姫』の地位にいた者はいない。
ついでに言えば、カリンの大陸では『巫女姫』がいたことがあるという話は、噂で聞いたことがあった。
シルヴィアは、少し首を傾げて言った。
「そもそも『巫女姫』と言うのは、神の指名で決められるものですわ。別に神殿を離れたからと言って、その立場がなくなるわけではありませんわ」
一つ息をついたあと、シルヴィアは言葉を続けた。
「まあ私が、神殿を離れた後で、私の『巫女姫』の地位を勝手に解任したのですが。神託があったわけでもないのに、なぜそんなことが通用するのかと当時は悩みましたわ」
別に難しい話ではなく、ただ単に教会が神殿から籍を離れた者が『巫女姫』の地位にいるのは、相応しくないと勝手に宣言したのだ。
当時はステータスなんてものは確認できなかったが、恐らくその時確認できていれば『巫女姫』という称号がついてただろうと想像している。
考助が会った時に称号が無かったのは、すでに神託で『巫女姫』ではないと伝えられていた。
例によって、神具などの補助がない状態での<神託>なので、断片的だったりして不確かな情報だったのだが。
その時のシルヴィアは既に各地を旅していたので、『巫女姫』という立場は、さほど役に立ったりはしていなかった。
因みに『巫女姫』でなくなったのは、年齢のせいであった。
『巫女姫』になれるのは、成人するまでなのだ。
この世界で成人は、十五歳になる。その年を過ぎたので、『巫女姫』ではなくなったという事だ。
「・・・このことは、現人神様はご存知でいらっしゃるのですか?」
「当然ですわ。私が話しましたもの」
シルヴィアが巫女姫だったことは、考助が現人神になる前に既に話していた。
その時の考助の感想は「ふーん」だけだったのを思い出して、シルヴィアは思わず笑いそうになった。
シルヴィアとしても、すでに過去の事と割り切っているので、別に教会に対してどうこうしようと思っていなかった。
その辺のことを考助も感じていたのだと、今にして思う。
「・・・もう戻って来てはくださらないのですね?」
カリンの言葉に、シルヴィアは苦笑した。
「戻るも何も、私は既にあの方の巫女ですわ。私の戻るべき場所は、あの方の元であって、ここの神殿ではありませんわ」
シルヴィアのきっぱりとした返答に、カリンは顔を歪ませた。
「昔のよしみで忠告しますが、私が先ほど神殿で言ったことは、あの場の全員に対する忠告ですわ。きちんと所属する教会に伝えないと、本格的に神々に見放されますわよ?」
「あの場での忠告をまともに受け取れない場合は、そうなっても仕方ないでしょうね~」
これまで黙ってみていたピーチが、口を挟んできた。
そろそろ話を切り上げるいい頃合いだと思ったのだ。
「私の事をどう伝えるかは好きにすればいいですわ。ですが、きちんと伝えるべきことは伝えないと、どうなるかは保証しかねますわ」
「・・・・・・脅されるのですか?」
シュリの言葉に、シルヴィアはため息を吐いた。
「既にそうとっている時点で、駄目ですわ。神殿で話したことは、私の個人的な意見ではなく、神託で伝えるように聞いていた事柄ですわ」
正確には、神託ではなく交神で聞いたのだが、そこまで教えるつもりはない。
「私がどうこうではなく、しっかりと神託として伝えないと、どうなっても知りませんわよ?」
これ以上伝えても意味がないと思ったシルヴィアは、ピーチの方を見てこの場を去るように促した。
ピーチも頷いてシルヴィアと同じように歩き始めた。
残された二人は、シルヴィアを止めるでもなく、その場でしばらくの間ただ呆然と立っているのであった。
・・・なんだかんだで5話まで続いてしまいました。
これで神殿と教会に関わる話はとりあえず終了です。
今度こそ本当に「閑話 集められた聖職者たち」は終了です。
今後もこう言った話を挟んだ方がいいんでしょうか?
それとも塔が売りの話なので、塔をメインに書いた方がいいんでしょうか?
バランスが難しいところです・・・。




