1話 神の定義
周囲の塔を攻略することを決めたわけだが、宣言した通り出発までに数日かかった。
主な理由は、フローリアの飛龍の騎乗訓練だ。
他の塔がどういう構造になっているのかはよく分かっていない。
各塔の階層が、アマミヤの塔のような広さだった場合は、飛龍に乗れるようになっていた方が、確実に攻略が楽になる。
そのための訓練だ。
ちなみに、数日かかったとはいえ、簡単に飛龍に乗れるようになったメンバーたちだが、そんなことは普通はあり得ない。
それもこれも飛龍と<意思疎通>が、出来るおかげだ。
神力を使った念話の要領で<意思疎通>が出来るようになれば、飛龍たちに乗るのはさほど難しいことではない。
ないのだが、最初の念話の段階でつまずいたのだ。
フローリアも一応管理層で生活し始めていたので、神力に関しては何とか使えるようになっていた。
神力念話は、残念ながら使えるようにはなっていなかったのだが、考助が補助することで何とか飛龍と繋がることが出来た。
後は空を飛ぶ訓練をするだけなので、その間考助達は塔を攻略するときの装備品を集めることになった。
そんなこんなで、フローリアも何とか飛龍に乗れるようになり、出発日が決まった。
出発日の前日は、しばらくの間全員が揃うことが無いということで、ささやかなパーティが開かれた。
パーティと言ってもいつもより食事の内容が、少し豪勢になっていると言った程度だったのだが。
その翌日、考助とコウヒ&ミツキ、そしてフローリアの四人は、塔攻略へと向かった。
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「・・・行きましたか」
考助達が塔へ向かうと、シルヴィアがそう呟いた。
「・・・なんだ? 寂しいのか?」
少しからかうように、シュレインがそう言って来た。
「そんなことは・・・いえ、そうですわね。恐らくそうなんでしょう」
塔攻略に何日かかるか分からないが、一日二日で攻略できるようなはずはない。
何気に塔に来てからは、長期間離れる事が無かったので、そう思うのも無理はないと開き直ったシルヴィアである。
「ですが、シュレインも寂しそうな顔をしていますわ?」
一瞬虚を突かれたような顔をしたシュレインだったが、思わず右手で頬をさすった。
「・・・そうかの? そうかもしれんの」
「まあまあ。ここに残っているメンバーはみんなそう思っているでしょ?」
「そうですね~」
シルヴィアとシュレインの会話に、残り二人も交ざってきた。
「何だかんだで、ここに来てからは出来る限り一緒に居ったからの」
「べたべた度では、シュレインはコレットに次いで多いですから~」
「そ、そんなことはない、ぞ・・・? タブン」
最後の方は、自信なさげに呟いていたシュレイン。
何気にコウヒとミツキを除くと、考助の傍にいるのが多い順にすると、コレット>シュレイン>シルヴィア>ピーチとなる。
以前シュレインがピーチに、サキュバスなのにそう言う欲求は無いのかと聞いた事があるのだが、しばらく首を傾げたあとで、
「無いわけでは無いですが、その分、夜頑張ってもらっていますから~」
という回答が返ってきたのを聞いて、後悔したことがあった。
結局のところ、そっち方面では、サキュバスには敵わないという結論に達しそうになったので、ピーチにはその手の話題は振らないと言うのが、いつの間にかメンバー同士の暗黙の了解になっていた。
少々(?)天然な所があるピーチは、そのことには全く気づいていないのだが。
「まあ寂しいのはともかくとして、少しシルヴィアに聞きたいことがあったのだがいいか?」
「はい? なんでしょう?」
「コウスケ殿は、本当に現人神とやらになったのか?」
そもそもそんな存在は知られていない。
シルヴィアが疑問に思うのも当然だ。
「はい。エリサミール神から直接聞いたので、間違いありませんわ」
「ふむ・・・そうか」
シュレインがそう言うと、考え込むような表情になった。
「何か疑問でもあった?」
コレットが、考えているシュレインに聞いてきた。
「いや、何。大したことではないのだがの。コウスケ自身は、さほど戦闘能力に優れているというわけではない。そういった者が、神に属することなどあり得るのかと思っての」
「ああ、なるほど」
シュレインの言葉に、コレットが頷いた。
だが、それに対してこの中で誰よりも神々について詳しいシルヴィアが反論してきた。
「神々という存在において、強さはあまり重要ではありませんわ。勿論、三大神のような高位の神の場合は別ですが」
「そうなの?」
コレットが不思議そうな顔をして、シルヴィアを見た。
「恐らくですが、ヴァンパイア一族にしろエルフ一族にしろ、信仰自体が強さを前提にしている所がありますわ。ですから当然神々も強さが基準になっているのですわ」
ヴァンパイアに関しては、種族自体が強さを求める所がある。
エルフは何より森の中で自然を相手にする種族なのだ。
当然そう言った種族の場合は、信仰対象に強さを求めることになる。
対して、ピーチのサキュバス一族はどちらかと言えば、別の基準の信仰になっている。
「恐らくですが、サキュバス一族は愛の神の系統の信仰が多くありませんか?」
「言われてみれば、そうですね~」
愛の神は、勿論高位の神になると別になるが、下級神になると戦闘能力はさほど目立ったものは無い。
そもそも愛の神に戦闘を求める者はいないのだから、当然と言えば当然なのだ。
そう言ったことは、別に愛の神に限ったことではない。
雑多な神が多くいるこの世界の信仰においては、強さが重要視されない神が信仰されていること自体は、珍しい話ではない。
「・・・なるほどのう」
「・・・言われてみれば、納得だわ」
「・・・ほへ~」
シルヴィアの説明に、三人が納得していた。
「と言うことは、コウスケは何が原因で神になれたのかのう」
「さすがにそれはわかりませんわね」
「それこそ、神様に聞いてみるってできないの?」
コレットが言いたいのは、交神で聞けないのか、と言う意味だ。
「・・・聞いてみますわ」
シルヴィアが、交神具を取り出して交神を始めた。
その交神自体はすぐに終わった。
エリサミール神が忙しかったのか、二言三言言葉を交わしただけで終わったのだ。
「一応、答えは聞けましたわ」
「ほう? どうだったのだ?」
神になるための話なので、その神からは聞けないと思っていたので、シルヴィアは多少驚いた。
「どれが、という明確な答えはないそうですわ。強いて言うなら、クラウンカードの開発と、神威召喚と、神域への送還、全て当てはまるそうですわ」
どれもが偉業と言える内容である。
本来であれば、一つだけでも歴史に名を残すのに十分なのである。
「まあ、同じことをやれと言われても出来ませんからね~」
話を聞いていたピーチが、そう言って来た。
「一体、どこからあんな発想できるのかと思うときがあるからね」
コレットも同意するように頷いている。
まさか、別世界のゲームの発想とは思ってもいない。
「何というか・・・コウスケの普段の行動そのものが、神への道へと繋がっていた、という事かの?」
シュレインの言葉に、全員が納得したように頷いた。
この場に本人がいれば、絶対そんなことはない、と断言しそうだが、残念ながらこの場には居なかったので、否定するものは誰もいないのであった。
閑話にしようかと思いましたが、なんとなく本編のままで入れました。




