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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
1342/1358

(18)甘菓子

 クサツの観光地には、十件を超える温泉宿やホテルが存在している。

 それ以外にも、当然のようにお土産などを売っている店舗もあり、まさしく観光地といっていい場所になっている。

 付け加えると、アマミヤの塔の第五層にある転移門を通って簡単に来られるので、日常から離れてちょっとした休息を取れる場所として人気のスポットとなっている。

 一般家庭の者でも頻繁に休みを取れるというわけではないが、たまに取れた連休を利用してクサツに向かう。

 それが、第五層に住んでいる住人たちにとっての最高の贅沢とさえいわれるようになっているのだ。

 

 勿論、クサツを訪ねて来るのは、そうした一般の者だけではない。

 金や権力を持った者も、安心して余暇を楽しむことができる場所として利用されている。

 さらにいえば、そうした者たちは、クサツの温泉のいろんな場所を訪ねることを一種のステータスとさえしている。

 とにかく、クサツで温泉に入ってゆっくり過ごすということは、身分に関係なく楽しめる場所として知られるようになっているのである。

 

 

 そんなクサツに来ている考助たちは、昨日旅館内であった騒ぎのことを忘れて、クサツの散策を楽しんでいた。

 多くの人が温泉に浸かりにやって来る場所を、商人ギルドの者たちが見逃すはずもなく、お土産屋以外にも様々な趣向を凝らした店が軒を連ねている。

 そのため、そうした店を見て回るだけでも、十分に一日を潰すことができる。

 久しぶりに全員で休みが取れている考助たちは、折角だからとそうした店の冷やかしをしているのだ。

 

 町に出れば旅館の中だけではなく、ほかの宿やホテルに泊まっている宿泊客でにぎわっている。

 そのため考助たちは、以前作った変装用(?)の仮面をしながら歩いていた。

 そのおかげで、女性陣の美しさに惹かれてナンパされるような事態にはなっていない。

 もっとも、顔で目立たなくなっていたとしても、体型まで隠せているわけではないので、人目を引いていることは間違いないのだが。

 

 そんなことは気にせずに、考助たちはどんな店があるのかと周囲を見回していた。

「――うーん。しばらく来ていなかったけれど、やっぱりいろいろと変わっているなあ」

「そうですね」

 感慨深げに言った考助に、シルヴィアがそう相槌を打ってきた。

 

 以前考助がクサツに来たときは、ここまで趣向を凝らした店はなかった。

 中には手軽にゲームのようなものを楽しめる場所まであるのだから、考助にとっては凄く様変わりしていると言える。

 ちなみに、それらのゲームは別に考助が考えたものではなく、余暇を楽しむという余裕ができたからこそ生まれてきているものだ。

 中には、輪投げのようなものまであるので、考助にとっては懐かしく感じられている。

 クサツに来たお客を、どのようにして楽しませる(お金を落とさせる)のかということを第一に考えているので、中には考助には想像もできなかったような店までできている。

 

 それらの店を見回っているだけでも、考助たちは十分に楽しんでいた。

 そんな中で、フローリアが注目したのは、一軒のお土産屋だった。

「あれは・・・・・・なんだ?」

「なにって、土産物屋? 菓子類が多く置いているみたいだけれど?」

 考助が不思議そうな顔で聞き返すと、フローリアは少し傷付いたような顔になった。

「菓子類だということはわかる。だが、それだけで一つの店が成り立つのか?」

 フローリアが改めてそう聞くと、考助は納得した顔で頷いた。

 

 考助にしてみれば菓子専門店は珍しい形態ではないのだが、それだけで店としてやっていけるのか、フローリアにとっては不思議だったのだ。

「それこそ需要と供給のバランスだと思うよ。ここに来る客は、思い出を求めてきているからね。お菓子だけを売っていても、十分にやっていけるんだよ」

 クサツに来るお客は、そもそもが贅沢を求めてやってきている。

 そのため、普段は買わないような菓子類に関しても、財布のひもが緩むというわけだ。

 ついでに、お土産屋以外に多くの店舗があるのも、そうしたお客を狙っているからこそできることである。

 

 考助の説明に、フローリアは一瞬納得しかけたが、すぐにはたと思い直した。

「それにしても、あそこにある菓子は、甘くないものばかりなのか? 砂糖を使っていたらとてもではないが、高くなりすぎると思うが?」

「ああ、そうか。フローリアはまだ知らなかったんだ」

 どこで引っかかっていたのか分からなかった考助だったが、フローリアのその台詞でようやく疑問の元がわかった。

 

 そう言った考助の言葉を引き継ぐように、少し後ろを歩いていたシュレインがフローリアに向かって言った。

「ここ数年のことだが、イグリッドたちが砂糖の生産に成功しての。土産物用にも回せるようになっているのじゃ」

「なんとまあ」

 まさか、砂糖の生産まで始めていたとまでは知らなかったフローリアは、少し驚いた顔になっていた。

「それもこれも、イグリッドが変わらずに人を増やしてきているおかげじゃがの」

 実はイグリッドは、これまでの間にも地下からの増員で数が増えている。

 そうして生まれた余剰人員で、様々な生産物を増やしてきているのである。

 砂糖もそのうちのひとつというわけだ。

 

 勿論、砂糖の生産ができているからといって、余所に回せるほどの大量生産ができているというわけではない。

 そのため、クサツの店にあるお菓子屋の土産物は、人気商品のひとつとなっている。

「砂糖が使われていることは、食べればわかることだろう? であれば、商人どもにルートを狙われるのではないか?」

 当然すぎるフローリアの疑問に、シュレインが苦笑しながら頷いた。

「確かに狙われているの。じゃが、今のところ砂糖を卸しているのは、ヴァンパイアかイグリッドの店だけじゃ。それに、その店から買ったとしても大した量は扱えないからの」

「なるほど」

 シュレインの説明に、フローリアは納得顔で頷いた。

 

 別に砂糖の流通を押さえているわけではなく、単純にクサツで使う分を回すだけで、それ以外への生産が追い付いていないのだ。

 甘いお菓子はクサツの名品となりつつあるので、いくら高額な料金を積まれたとしても、シュレインは他に回す気にはなっていない。

 それにはフローリアも同意できるので、納得したというわけだった。

 ちなみに、売れると分かっているのだから、砂糖の生産量を増やしてほかを減らすという考えにもなっていない。

 もし、ほかの大陸やセントラル大陸の別の場所で砂糖の量産に成功すれば、それだけで里の経済に影響を与えることは、少し考えればわかることだ。

 シュレインが砂糖だけに頼らないと判断するのは、当たり前のことなのである。

砂糖づくり開始!(裏で)

ちなみに、考助はあまり関わっていません。

イグリッドの努力の賜物です。

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