(5)アンドニの行き先
リクからの報告を受けてから数日後、考助は管理層で再びアンドニと対面していた。
「この度はご迷惑をおかけして・・・・・・」
「ああ、もういいからそういうの」
いきなりそう言って頭を下げてきたアンドニに、考助は苦笑しながら右手を振り返しつつ、さらに続けて言った。
「あの報告があったからクラウンでの引き締めもできたみたいだしね。結果的にはよかったと思うよ?」
考助がそう言うと、アンドニは微妙な表情になって頷いた。
話の内容的にはよかったというべきところなのだろうが、当事者としては素直には喜べないといったところなのだ。
しかも、頼んでいたこととはいえ首にもなっているので、現在進行形で主である考助に迷惑をかけているのは間違いない。
なんとなくその雰囲気を感じ取った考助は、強引に話題を変えることにした。
「それで、アンドニの今後のことなんだけれど・・・・・・」
考助がそう切り出すと、アンドニはその身を固くした。
それを見つけた考助は、苦笑しながら手を振った。
「いや、そんなに緊張しなくても。とりあえず、新しい場所を作るとして、どれくらいのメンバーが集まるかな?」
今回首になった者も含めて、以前のマドサクのメンバーでもう一度集まりたいという話は聞いている。
ただ、人数までは把握していないので、改めて確認したかったのだ。
考助に聞かれたアンドニは、少し考えるような顔になってから言った。
「集まっても両手で足りる程だと思います。中には普通に生活を持っている者もいますので・・・・・・」
アンドニは奴隷身分のままだが、中にはすでに開放してもらって家庭を持っている者もいる。
そうした者は、クラウンでの安定した生活を捨ててまで、新しく作るところに来たいという者は少ないはずだ。
そう考えて申し訳なさそうな顔をしているアンドニに、考助は当然だという顔をして頷いた。
「それはそうだよね。あくまでも本人の希望に沿う形のほうが望ましいよ。強引に連れてきても、また変なことになりかねないから」
考助がそう答えると、アンドニはほっとした顔になった。
アンドニのその顔を見て、考助は内心で自分はそんなに強引だと思われているのかと首を傾げていたが、それは口に出すことなくさらに続けた。
「とりあえず、その人数に見合う分だけの魔道具を作ってもらうとして・・・・・・実はもう一つ新しくやってもらいたいことがあるんだけれど?」
「新しいこと、ですか? なんでしょう?」
考助の言いたいことの見当がつかずに、アンドニは首を傾げながらそう聞いてきた。
「ちょっと前から孤児施設の運営も始めていてね。その孤児たちにも技術の基礎を教えてほしいんだよ」
「なるほど。そういうことですか。そういうことなら問題ありません」
考助が言いたいことが分かって、アンドニは納得した顔で頷いた。
このことは、最初にアンドニから話を貰ったときから考えていたことだった。
ただ、アンドニの顔を見て、一つだけ釘を刺しておかなければならないことがあると、考助は真面目な顔になって言った。
「言っておくけれど、育てた孤児を無理に新しく作る場所に引き込む必要はないからね? あくまでもそこは、個人の自由で」
「・・・・・・わかりました」
考助が念を押すと、アンドニは少しだけ驚いた顔をしてからそう答えた。
その顔を見て、考助はやっぱりかと内心でため息をついていた。
アンドニの考助に対する忠誠心(?)も、時として暴走するとこういうことを考えるのだ。
どこからこんな性格になったのかと考えれば、隣に立っているコウヒがいるのに気付いて、突っ込むのをやめた。
どこ(誰?)が原因かは、考えなくてもわかるような気がしたのだ。
驚き顔からすぐに真面目な顔になったアンドニを見ながら、考助はさらに続けて言った。
「そもそもあの孤児施設は、孤児たちの将来の道を見つけるために作った場所だからね。変に先を縛るつもりはないよ」
あの孤児施設は、強い冒険者を作るという目的はあったが、子供たちの可能性を潰してまで先を決めるつもりはなかった。
その思いは、今でも全く変わっていない。
そんな考助を見ながらアンドニは内心で、相変わらずお優しい方だと考えていたりするが、考助はそのことには気付かなかった。
その考助を見ながらアンドニは頭を下げながら答えた。
「かしこまりました」
「それじゃあ、そういうことで。とりあえず、新しく作る工房は、その孤児施設の隣にしておくから」
塔の機能を使えば、工房として利用できる建物などは一瞬で建てることができる。
その程度の神力であれば、現在の収入を考えれば痛くもかゆくもないのである。
そこまで話した考助は、ふと大事なことを思い出した。
「あ~、あとは道具を揃えないといけないか・・・・・・うーん。いっそのこと、自分たちで作っちゃうか」
基本的に魔道具職人が使う道具は、特殊なものが多いので専用の職人が作ることになる。
それらの道具は基本的に高価で、すべてを揃えるとなるとそれなりの金額がかかる。
考助の持っている資産であれば、その程度の金額ということにはなるのだが、変な無駄遣いはしないという考え方は、相変わらず考助の中には染みついたままだ。
それに、魔道具職人は、自分たちが使う道具を自分で作ってしまうことも珍しくはない。
その場合は、素材さえ揃っていれば作ってしまうのである。
それらの素材は、クラウンを通して買うことができるし、場合によっては自分たちで狩りに行っても構わない。
普通は、新しい工房を作る際に壁が立ちふさがるのだが、考助は簡単にそろえることができるのである。
また、だからこそ、以前にはマドサクなんていう部署を用意することができたのだ。
独り言のように呟いていた考助は、アンドニを見ながら聞いた。
「問題ないよね?」
「あの・・・・・・道具を作ること自体は出来るでしょうが、そのための素材が・・・・・・」
考助は、そう言ってきたアンドニを見て、自分が脳内で考えていたことを言わずにそのまま聞いてしまったことに気付いて頭を下げた。
「ああ、ごめん。素材の心配はしなくていいから。一応こっちでも一通りは用意するけれど、足りない物があったら言ってね」
考助が改めてそう言い直すと、アンドニは畏まりましたと頭を下げた。
新しい工房についての一度目の話し合いが終わって、アンドニが管理層から出て行った。
まずは、以前の仲間に話をするために、第五層へと戻ったのだ。
それを見送った考助に、シルヴィアが話しかけてきた。
「これで、ひとまずは安心といったところでしょうか?」
「そう、かな? まあ、落ち着くべきところに落ち着いたという感じかな?」
「そうですね」
軽くそんな会話をした考助とシルヴィアは、その後は適当な話をして、いつも通りの日常に戻るった。
この話し合いの数日後、きっちりと場所を用意した考助の元に、アンドニが仲間を引き連れて戻ってきた。
そして、新しくできた工房は、考助が表に出してもいいと判断した魔道具を作る場所として、その後も活躍していくことになるのであった。




