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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(19)符の原理

 展開した魔法をキャンセルして片づける考助を見ながら、フローリアが聞いた。

「――何度も使えるのか?」

「いや、さすがに無理だよ。使い捨てだね」

「元の材料が紙であることを考えれば、安く済むということでしょうか」

 シルヴィアが感心したように頷きながらそう言った。

「どうだろうな? 今のを見る限りでは、そもそも魔法を使える者が傍にいなければ駄目だということだろう?」

「そうだね。まあ、別に仲間とかにいなくても、余裕のある人にお金を払って唱えてもらうとかもできるだろうけれど」

 考助がそう答えると、ほかの面々がなるほどと頷いた。

 

 結界に限らず他の魔法が前もって用意できるのであれば、金を払ってでも欲しいという者はいるはずだ。

 そして、そうした魔法を使って小遣い稼ぎをしようと考える者も多くいるだろう。

 ただし、そうなるためには、大きな問題が一つある。

 それにすぐさま気付いたフローリアが、考助を見ながら聞いた。

「それで? それはどれくらい量産できるのだ?」

 そもそも考助の作った紙―符自体が量産できなければ何の意味もない。

 考助自身が使えればいいという考え方もあるが、そもそも妖精たちに守られている考助が、一々符の力に頼る必要性もあまりない。

 

 根本的なフローリアの問いに、考助は少し考えてから言った。

「やろうと思えば今すぐにでも……と言いたいところだけれど、実用できるまでコストを下げるには、もう少しだけ改良が必要かな?」

「コウスケがそういうってことは、すぐにやってしまいそうだな」

 フローリアはそう言いながらフムと腕を組んだ。

 その顔を見れば、今後の展開などを考えていることは、この場にいる全員にわかった。

 

 そのフローリアに向かって、シュレインが意味ありげな視線を向けた。

「考えていることは分かるが、あまり先走るなよ?」

「わかっている。でも、私たちが先に考えておかないと、とんでもない方向に突っ走ってしまいそうだからな」

 フローリアのその答えを聞いたシュレインは、なるほどと納得して頷いた。

 ただ、そのやり取りを見て納得できなかったのは、当然ながら考助である。

「え、いや。何、それ」

「事実じゃ」

 たった一言で切って捨てたシュレインを見て、考助は反論することなく、ついと視線をずらした。

 自覚があるだけに、反論するだけ無駄だと分かっているのだ。

 

 それを見ていたシルヴィアがくすくすと笑いながら言った。

「先のことはともかく、今はコウスケさんの好きにさせたほうがいいでしょう。どうせ止めろといっても止まらないでしょうから」

「いや、そこまで大げさに考える必要はないと思うけれど?」

 考助はシルヴィアの言い方に顔をひきつらせながらそう言ったが、フローリアがため息をつきながらそれに応じた。

「これだからな。その、フ・・・・・・だったか? それが一般に出回れば、どれだけの衝撃を与えると思っているんだ」

「えー? そんな大したことにはならないと思うけれど?」

 考助がそう言うと、ほかの面々がフローリアと同じようにため息をついた。

 

 それを見た考助が、慌てて付け加えた。

「いやだって、確かに紙でできている符は安価だけれど、ほかに似たような魔道具がないわけじゃないんだよ?」

 例えば、水晶に魔法を込めて発動させるものなど、紙の符と違って使い捨てではない魔道具は、ちょっと考えるだけでも数多くある。

 考助は、今作った符が、それらの魔道具を駆逐するほどの影響を与えるとは考えていないのだ。

 符には符の良さがあり、また弱点もあると分かっているからこその冷静な分析だ。

 

 考助の説明を聞いた他の面々は、考えるような表情になった。

 最初に受けた衝撃が大きすぎて舞い上がっていたが、考助の分析に、その気持ちが落ち着いてきた。

「確かに、魔法の補充の必要があることを考えると、そこまで大流行することはない、か?」

「そうじゃの。流行ったとしても一過性で終わりそうじゃな。あとは、どこまで定着するかの問題かの」

 フローリアに続いてシュレインがそう言うと、シルヴィアも頷きながら付け加えた。

「使い捨てになるというのも、あまり流行りが続かない原因になりそうですね」

「そういうこと。あとは、最初の時にあまり大量に出さなければ、すぐにその熱も収まるんじゃないかな?」

 最後に考助が付け加えると、ほかの面々はなるほどと頷いた。

 

 紙を使ってそれなりの強さの魔法が使えるということで驚きがあったが、落ち着いて考えてみれば、今まである魔道具の延長線上にあるが、もしくは劣化した道具と考えられる。

 それに、もともと考助が問題として挙げていた嵩張る問題は、解決したとは言えない。

 旅のために多くの道具を持ち歩かなければならない冒険者が持てる数は、限られたものになるはずだ。

 複数回使える道具と符のどちらを選ぶかは、それこそ冒険者の選択次第ということになるだろう。

 

 

 考助が手に持っている符の名残(?)を見ていたシルヴィアが、ふと思い出したように聞いた。

「拡張性は上げられないと聞いていたのですが、上手くいったのですか?」

「いんや。ほとんど変わってないよ」

「なんだ。てっきり上手く行く方法を見つけたのかと思っていたのだが?」

 フローリアが不思議そうな顔になったのを見た考助は首を左右に振った。

「残念ながら。この符は、どちらかといえば、門の役目をしているだけだね」

「門?」

 考助の説明に、シルヴィアが首を傾げた。

 自身が使った魔法を複写されているので、どういう原理なのか気になっているのだ。

 

 そのシルヴィアに、考助がさらに続けて説明をした。

「簡単に言えば、唱えられた魔法を別の空間に張り付けておいて、その空間と繋ぐための門と鍵の役目を符に持たせたんだよ」

 考助の説明を聞いた一同の表情は、なるほどわからんと言いたげだった。

 勿論、考助が言った内容はイメージすることができているが、どうしてそんなことができているのかが全く分からなかったのだ。

「詳しい原理は・・・・・・説明してもいいけれど、時間がかかるよ、聞く?」

 改めて考助がそう問いかけると、一同は揃って首を左右に振るのであった。

ダムの水に代わるかわるものがシルヴィアの唱えた魔法で、用意した空間に符を使ってせき止めておく。

――みたいなイメージですw

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