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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(18)ヒントの結果

 シュレインの話を聞いて、考助はいくつかの方法を思いついたが、まずは一番うまくいきそうな方法から試してみることにした。

「――で、その方法とはなんじゃ?」

 誰もいないのをいいことにいちゃついていたシュレインは、そのままくっついて研究室にいた。

 勿論、考助に邪魔にならないと確認したうえで、ここまでついてきている。

「うん。簡単に言うと、どうせ紙そのものを使っても駄目なんだから、媒体にしてしまおうってことかな?」

「媒体・・・・・・なるほどの」

 考助の言葉に、シュレインは納得顔で頷いた。

 魔法陣を作る際に、いろいろな材料を使って触媒などにすることは多いので、すぐに考助の言いたいことは理解できたのだ。

 

 ただ、イメージすることはできても、紙をどんな風に使うのかは、ピンとこない。

「言いたいことは分かるが、結局拡張性に問題があるのではないかの?」

「まあね。だからちょっとだけひと工夫を加える」

 シュレインの言葉に頷きながら考助はそう言って、今まで研究に使っていた紙の一枚を手に取った。

 それはただの紙ではなく、事前に処理をして魔力(と神力)が含まれているものだ。

 そのため、普通の紙よりも魔法的な処理がしやすくなっている。

 

 考助は、処理を済ませた大き目なその紙をまず六枚に切り分けた。

 大きさはきちんと均等になるように揃えてある。

 さらに考助は、自分が作った魔力を含むインクで書けるペンを手に取り、さらさらと何かを書き始めた。

 ある程度魔法陣に関する知識があるシュレインなので、それが印や術に関するものだということは分かった。

 だが、それが何を意味するかは全く分からなかった。

 

 シュレインにじっと見られていることに気付かないまま、考助は六枚の紙に様々な形の文様を加えていき、三十分ほどでペンを置いた。

「よし。これで終わり。――あとは上手くいくかどうかを確認するだけなんだけれど・・・・・・」

「なんじゃ。何か問題があるのかの?」

「ああ、いや。問題というよりも、シルヴィアにちょっとお願いしたいことがあってね」

 考助はそう言いながら護衛のために傍にいたミツキを見た。

「シルヴィアだったら、確かそろそろ管理から戻ってくるはずよ?」

「ああ、そうだったっけ」

 ミツキの答えに、考助は安心した表情を浮かべた。

 シルヴィアが現在塔の管理に向かっていることは覚えていた考助だったが、細かい時間までは把握していなかったのだ。

 

 

 ミツキからシルヴィアの予定を聞いた考助は、シュレインを連れて塔の管理区域へと向かった。

 そこには、アマミヤの塔の管理部屋を含めて、ほかの六つの塔の管理部屋に向かうための部屋がある。

 その途中で、考助とシュレインは、運よくシルヴィアと会うことができた。

「ああ、シルヴィア丁度良かった。そっちに向かうつもりだったんだ」

 考助がそう言うと、シルヴィアは不思議そうな顔になって、首を少しだけ傾けた。

「何かありましたか?」

「ちょっとお願いしたいことがあってね。詳しい話は訓練場でするよ」

 考助がそう答えると、シルヴィアは少しだけ考える様子を見せてから頷いた。

 

 そして、シルヴィアを加えた考助たちは、そのまま真っ直ぐに訓練場へと入った。

 そこでは、フローリアが体力づくりのためなのか、剣を振り回している姿があった。

「なんだ? 揃いも揃って何かするのか?」

「いや、ちょっと実験の続きをね」

 フローリアも考助が最近魔道具作りをしていることは知っている。

 そのため、その言葉だけでなんのことかを察することができた。

 

 自分の言葉に納得してなるほどと頷いているフローリアに、考助はさらに続けて聞いた。

「まだ続けるんだったら終わるまで待っているけれど?」

 実験しに来た考助だったが、別にフローリアの邪魔をするつもりはない。

 自分の行動が予定にはなかったことなので、そのままフローリアの訓練は見ているつもりだった。

「いや、もうそろそろ引き上げようと思っていたんだ。考助が何かをするんだったら見ていく」

「そう? 汗かいているんだったら風邪ひかない?」

 そんな言葉をかけてきた考助に、フローリアは嬉しそうな表情をしつつも首を左右に振った。

「心配するな。大丈夫だ」

 その答えを聞いた考助は、もう一度「そう」と言って頷いた。

 

 そして、今度はシルヴィアに向かって、考助はこう続けた。

「悪いんだけれど、中級程度の結界を張ってくれないかな?」

「中級程度でいいのですか?」

 シルヴィアが確認するようにそう聞くと、考助は頷きながら「お願い」と言った。

 

 考助からの返答を聞いたシルヴィアは、短く「やります」と言ってから簡単に呪文を唱えつつ結界を張った。

 シルヴィアほどの実力があれば呪文は唱えなくてもいいのだが、考助が実験をするといったので、あえて唱えていたのである。

 そのシルヴィアに向かって、考助は先ほど作った六枚の紙を何やら差し出していた。

 それを見ていたシュレインとフローリアは首を傾げていたが、言葉にすることはなかった。

 考助の顔が真剣だったので、途中で話しかけると邪魔になると考えたのだ。

 

 考助が紙を突き出していたのは、ほんの五秒ほどの時間だった。

 そして、紙を持っていた腕を下した考助は、シルヴィアに向かって言った。

「ありがとう。もう大丈夫だから解いても大丈夫だよ」

 考助のその言葉で、シルヴィアはすぐに張っていた結界を解いた。

 

 結界を解いたシルヴィアが、考助のところに近付いて行き、興味深げに紙を見た。

「それで、できたのですか?」

「――ちょっと待ってね」

 シルヴィアの言葉にそう答えた考助は、六枚の紙を地面に並べて、持ってきていたペンでさらさらとまた新たに何かを書き加えはじめた。

 といっても、そこまで複雑なものは書いておらず、すぐにその作業は終わった。

 

「よし。これでできた・・・・・・はず」

 考助はそう言いながら、地面にあった六枚の紙を持ち上げて、半分だけを懐に仕舞った。

 残りの半分は手に持ったまま、いきなり空に向かってその紙を放り投げる。

「展開!」

 考助がそう言うと同時に、三枚の紙は重力に従って地面に落ちるのをやめて、空中で止まった。

 その形がちょうど正三角形になっているのは、その場にいた全員がすぐに気付いた。

 

 三枚の紙で展開されているその魔法を確認したシルヴィアは、すぐに感心した表情で頷いた。

「これは、先ほどの結界ですか」

「そういうことだね。ちなみに、紙そのものにある魔力を使っているんじゃなく、さっきのシルヴィアの魔力を使ってみた」

 シルヴィアを筆頭に、考助が言ったことをすぐに理解できた者はいなかった。

 

 それでも、さすがに考助との付き合いが長いせいか、誰かが説明するのを聞くでもなく、ほぼ全員が少したってからその言葉の意味を理解して頷いていた。

「さしずめ、魔法を前もって予約しておくといったところか」

 フローリアが代表してそう言うと、考助も頷いて答えた。

「まあ、厳密にはシルヴィアが実際に使っていたのを転写しただけだから、予約とは違うけれどね」

「余裕があるときに準備をしておいて、いざという時に使えれば、随分と余裕が出そうだの」

 考助が作った魔道具の利便性にすぐに気付いたシュレインがそんなことを言ってきた。

 それを聞いてすぐにシルヴィアも頷いていた。

 実践で結界を使うことが一番多いシルヴィアが、今作った道具の利便性を一番よくわかっているのだ。

 

 そして、女性陣の言葉を聞いていた考助は、きちんと発動したままの結界を見て、満足げに頷くのであった。

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