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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(2)信仰心

 考助にとっては自覚が薄い自分自身への信仰だが、現在では着実にセントラル大陸中へと広まっている。

 特に、というか当然と言うべきか、第五層の街では、ほぼ全員が信仰するに至っていた。

 この世界では、一人が複数の神を信仰することが当たり前なので、一神教の神のように考助が信仰されているわけではない。

 それでも、生まれたてほやほやの神が、これほどの勢いで信仰されるというのは、三大神を除けばほぼ初めてのことであった。

 これまでは、長い年月をかけて広まっていくのが、普通だったのだ。

 それにはきちんとした理由があって、一つの種族や部族で信仰されている神が、人数の増加と共に信仰も増えていくというのが、これまでの形だったためである。

 考助の場合は、塔に作った町に広まるのと同時に、ラゼクアマミヤという国ができたお陰で、あっという間に信仰の範囲が増えて行った。

 結果として、これまでにないほどの広まりを見せているのである。

 

 その結果を聞いた考助は、何とも言い難い表情をしていた。

「なんというか・・・・・・はしかの感染源みたい?」

 選りにも選って自分の信仰をはしかに例えるのはどうかと、フローリアが呆れたような視線を向けてきた。

「何を言っているか。以前にシルヴィアから聞いたが、コウスケの場合は、クラウンカードが広まるたびにその信仰が増えているのと同じという事ではないか。それをはしかと例えるとはどういうことだ」

 さすがに神への信仰を病気と同等にするのはなかったかと考助が反省している所に、フローリアがさらに付け加えて言った。

「どちらかといえば、はしかというよりも、ネズミの子のように増えていると言ったほうが良いのではないか?」

 そのフローリアの言葉を聞いた考助は、そっちかと思った。

 信者の数の増え方をなんて例え方をするのかと言われるのかと考えていたのだが、そうではなかったことに納得したのだ。

 

 そんな考助とフローリアのやり取りを聞いていたシルヴィアが、流石にここで口を挟んできた。

「コウスケさん、それからフローリアも。いくら管理層にいるからといっても、さすがに言い過ぎです。セシルやアリサが戸惑っていますよ?」

 シルヴィアがそう言うと、考助とフローリアはセシルやアリサへと視線を向けた。

 そして、考助とフローリアから見られたセシルとアリサは、ほぼ同時に視線を逸らした。

 

 その態度を見て、さすがに悪乗りしすぎたと反省したのか、フローリアがふたりに向かって頭を下げた。

「すまない。言い過ぎたな。少なくとも元女王が言うべきことではなかったか」

 そもそも考助の信仰がこれほどまでに増えた原因の一端には、フローリアが女王時代に考助を主神に据えたという事もある。

 その張本人が言うべきことではなかったと、素直にフローリアは反省した。

 

 そんなフローリアに、セシルが慌てて手を振った。

「そ、そんな! フローリアさんが謝るようなことではないです。ただ、少しだけ戸惑っただけです」

「そうですよ。なんとなく自分たちが感染源のひとつだと思われているようで、微妙な気分になっただけです」

 アリサのフォローになっているのかいないのか分からない、微妙な言い分に、考助は神妙な顔つきになった。

 ついいつものノリで話をしてしまったが、これからはきちんと考えて発言しないと駄目かと思ったのだ。

 さすがに、はしかやネズミは言い過ぎだという自覚もある。

 

 

 なんとも微妙な空気になってしまったところで、フローリアが気を取り直すように考助を見て聞いた。

「ところで、なぜいきなりそんなことを言い出したんだ?」

 そもそも考助が自分の信仰の勢いについて話をしたからこそ、そんな話になっていた。

 考助が脈絡のない話を突然するのはいつものことだが、今回はさすがに唐突過ぎだった。

「いや、神域に行ってきたときにちょっとそんな話になったもんだから」

 考助の答えを聞いたシルヴィアとフローリアは、同時になるほどと頷いた。

 考助はつい先ほど神域の定期訪問から帰ってきたばかりだったのだ。

 

 神域で女神たちと話をしていたときに、考助への信仰の広がりの話題になって、今までではありえない速度だと言われたのだ。

 考助にしてみれば、自覚が薄い話題だったので、そんなものかと思っただけでその時は終わってしまっていた。

 だが、アースガルドに戻って来て、何となくその話題を思い出したので、つい口に出してしまったというわけだ。

 それに悪のりをしたフローリアもフローリアだが、あまりに自覚がなさすぎる考助も問題ではある。

 

 考助は、あまり自分に対して堅苦しい態度を見せられることを好んでいない。

 現人神という立場にいるにしては、ゴブリンや天翼族を除けば、固い態度を取って来る者が少ないのだ。

 それは考助の性格を考えてのうえでそうなっているのだが、それが逆に現在のように自覚が薄いまま来てしまったという原因にも繋がっている。

 どっちが悪いということはなく、考助の性格を考えれば、結局無自覚のままになってしまうのだろうというのが、シルヴィアの考えだった。

 

 考助の話を聞いたシルヴィアは、少し考えてから聞いた。

「コウスケさんは、今の自分を変えたいと思っているのでしょうか?」

「ええと・・・・・・? どういうこと?」

 唐突過ぎるその問いに、考助は戸惑ったような顔になった。

「あ、ごめんなさい。コウスケさんは、現人神としてこちらにいらっしゃる以上、さほど人々の信仰心というものには影響を受けることはありません。それでも、神としては必要なことであるのは間違いないです。コウスケさんは、人々の信仰心を自覚できるように、自分を変えたいと思っていらっしゃるのですか?」

 改めてそう聞いて来たシルヴィアに、考助は腕を組んで考え始めた。

 そもそも最初の問いも、そこまで深く考えてしたことではなかったのだ。

 シルヴィアの顔を見れば、真剣な問いだという事はわかる。

 それには、自分もしっかりと考えてから答えるべきだと理解しているのだ。

 

 ただ、しばらく考えていた考助だったが、やがて首を左右に振った。

「駄目だね。よくわからないや。別に無理に今の状態を変えたいと思っているわけじゃないし、人から崇められたいと思っているわけじゃないからね。まあ、いつまでもこのままじゃダメなのかもしれないけれど、その時が来るまでは、今のままでもいいんじゃないかと思うよ」

 考助がそう答えると、シルヴィアはなぜか安堵のため息をついていた。

 シルヴィアには、考助が神として強く信仰心を求めるのであれば、それに応えるだけの覚悟はある。

 ただ、それでも今のままの考助でいてほしいと思っているのも、シルヴィアの中にある本心なのだ。

 そのため、考助の答えを聞いて安心したというわけだ。

 

 鈍い考助はそんなシルヴィアの想いには気付いていなかったが、フローリアにはしっかりと伝わっていた。

 そして、同時にフローリアも安心していたのだが、それを表に出すことはなかったのである。

結局、考助に神としてブイブイ言わさせるのは、無理なようです。

(´・ω・`)

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