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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(6)結界の中

 先に入ったコウヒが一瞬足をとめたのを見て、考助は内心で首を傾げた。

 ただし、なにか危険があるような様子ではなかったので、そのまま続けて考助が続いて入る。

 そして、怪しいと感じた場所を通り抜けた考助は、先ほどのコウヒと同じように足を止めてしまった。

「――――これは、スゴイな」

 いま、考助の目の前には、太古から続いていると思われる森の光景が広がっていた。

 コウヒも考助も周りの光景に目を奪われて、思わず足を止めてしまったのだ。

 

 考助とコウヒに続いて入って来たシルヴィア、フローリア、ミツキの三人も、同じように足を止めていた。

 その森は、先ほどまで見ることが出来ていたものと違って、明らかに本当の姿を見せていた。

 木々には詳しくない考助にも、周りに立っているそれらが、遥か昔から存在してることだけはわかる。

「森に入った者を、視覚的に惑わす結界、だね」

 美しい森を見ながら言葉を失っている皆を代弁するように、考助がそう言葉を発した。

 

 自分の言葉を聞いても辺りを見回しているシルヴィアとフローリアに、考助は苦笑することしかできなかった。

 その気持ちも良くわかるだけに、考助も咎めることはしなかった。

 これほどの森を見たのは、世界樹が中心にある古い森だけだった。

 そのエルフの森と違って、こちらはエルフの手が入っていないだろうと思われるだけに、より自然な感じを受けることが出来ていた。

 勿論、それが真実であるかどうかは、想像することしかできないのであるが。

 

 とにかく、いつまでも同じ場所に居続けても仕方ない。

 何よりも、これほどの結界を敷ける存在が、ずっと侵入者を放置しておくとは思えない。

 今後どういう対応をしてくるのかは分からないが、少なくとも入り口で立ち止まっていても良いわけではないだろう。

 そう考えた考助は、シルヴィアとフローリアを促して、先に進み始めた。

 

 

 森の中を進むこと数十分。

 考助たちは相変わらず美しい森に魅了されていた。

「なんというか・・・・・・ここまでくると現実離れしているというか、どこか作り物の世界に迷い込んだみたいだね」

 考助がそう感想を漏らすと、フローリアも同意するように頷く。

「そうだな。というよりも、そう思わせることが目的なのだろうが」

「だよね」

 この森を見た者を魅了――とまでは行かないまでも、目を奪わせることで、本来の目的を忘れさせるという副次的な効果を狙っているのでは、というのがフローリアの言いたいことだった。

 

 勿論、考助とシルヴィアもそれに反対するわけもなく、むしろ全力で同意したい所だ。

 現に今、考助たちは、森を見て回っているだけで、気分が落ち着いて十分に満足できている。

 余談だが、この程度で済んでいるのは考助たちだからであって、偶然ここに入った者は本当に(・・・)魅了されたようになって、元の場所に戻されるという仕組みなのだ。

 森で精霊に惑わされたなどの昔話は、こうした森での経験を話した者たちから広まっていたりする。

 

 考助たちが魅了されずに済んでいるのは、それぞれが進化(および神化)しているので、魅了的なものに抵抗できているおかげである。

「こういうときは、進化していて良かったと思うな」

 そんな感想を漏らしたフローリアに、シルヴィアが注意するように付け加えてきた。

「別にそれだけが理由ではありませんよ?」

「そうなのか?」

「ええ。コウスケさんやコウヒさん、ミツキさんはともかく、私たちは神々からの加護をもらえていることが大きいと思います」

 神からの加護があるお陰で、森全体からくる魅了(?)の力に対抗することが出来ているというのが、シルヴィアの考えだった。

 実際、巫女としての力が上がっているシルヴィアは、先ほどから考助の加護の力が高まっているのを感じていた。

 

 そのシルヴィアに、考助も頷いていた。

「確かにそうかもね。僕自身も皆が加護の力を使っているのを感じているから」

 これほどまでにはっきりと加護の力が使われていることを感じ取れているのは、シルヴィアやフローリアがすぐ傍にいるためだ。

 ちなみに、コウヒやミツキは考助の加護の力は持っていないが、眷属なので同じような力が作用している。

 

 

 そんなことを話しながらも、考助たちはしっかりと森(結界)の中心と思われる場所へと向かっていた。

 迷わずに済んでいるのは、魅了されていないということもあるが、きっちりと方向を掴めている者たち(コウヒ&ミツキ)が揃っているからである。

 ――そして、森の中を歩くこと数時間で、ようやくその場所へとたどり着いた。

 ・・・・・・のだが、

「うーん。やっぱりそんなにうまい話はなかったか」

 多少がっかりしながら、考助はそう言って肩を落とした。

 中心に着けば神樹ではなくても、この森を作っている(管理している?)存在がいると考えていたのだが、あるのは今までと同じような木々だけだった。

 

 考助は、そのままぐるりと辺りを見回したが、特に変わったようなものは見つからなかった。

「結界のようなものがある以上、何かがあるとは思うのですが・・・・・・」

 シルヴィアがそう言ってきたが、考助も同意見だった。

 一定の範囲内が結界のようになっているのだから、その中心に何か仕掛けになるようなものがあると考えるのは、当然の考え方なのだ。

 とはいえ、特別な道具などが設置されている様子もない。

 

 

 簡単に結界の仕掛けを見つけることが出来ないと判断した考助は、改めてじっくりと森を見回すことにした。

 それが意図して行われているかは別としても、結界がある以上は、何かがあるのは間違いない。

 このときの考助は、当初の目的を忘れて結界がどうやってできているのかを調べることに夢中になっていた。

 一緒に着いて来ていた女性たちは、そのことに気付いていたが、敢えて指摘することはなかった。

 こういうときの考助は、止めても止まらないということもあるし、何よりも遠回りに見えて意外にそれが唯一の正解への道だったりすることもある。

 なんだかんだで、その辺は現人神としての勘なのか、能力なのか、とにかく(考助にとって)都合のいい展開になることが多いのだ。

 

 勿論、考助が夢中になっているからといって、シルヴィアやフローリアがそれをただ黙って見ていたわけではない。

 考助の後をついて行きながら、それぞれが出来ることをしていた。

 そんな中で、考助よりもシルヴィアがとあることに気付いたのは、森の中心に着いてから一時間ほどの時間が経ってからのことであった。

答えは次話で!

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