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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(12)ちょっとした問題

 『烈火の狼』は、模擬戦をするために、久しぶりに管理層へ来ていた。

 リクが統括になってからは、流石に時間に余裕がなくなったのと、他のメンバーもそれぞれクラウンの職に就いているために、全員がまとまって取れる時間が少なくなっているのだ。

 もっとも、冒険者としての活動を完全に止めたわけではない。

 もともと冒険者は、休みの日が多く取られている職業である。

 ランクが上がれば一度の収入が多いため、それだけ切羽詰まって依頼をこなす必要がないのだ。

 真面目な高ランク冒険者になると、その分を自分の訓練時間に当てたりするのだが、ほとんどの冒険者は稼いだ金を使うために、町の中をうろつくか拠点で過ごしている。

 そうした時間を、クラウンからの仕事をこなす時間として当てているのだ。

 他の冒険者でも、そうした副業的なことを行っている者は多いのである。

 

 そんな『烈火の狼』の面々は今、ピーチからの指導を受けていた。

 ピーチ以外に相手はなく、『烈火の狼』のメンバーはリクも含めた全員が揃っている。

 そのため、ピーチにも余裕があるわけではない・・・・・・と思われたのだが、今のピーチは完全に六人を圧倒していた。

 その様子を見て、考助が唸るような声を上げた。

「うーん。流石ピーチと言いたいところだけれど、リクたちの腕が落ちたのかな?」

「いや、それはないだろうな。どちらかといえば、リクたちの成長が落ちて、ピーチの成長が速いからその分離されたのだろう」

 冷静なフローリアの分析に、考助はなるほどと頷く。

 子育てに時間が割かれているはずのピーチが、いつ訓練をしているのかということを、聞くことはしない。

 表には見せないが、ピーチはいつでもどこでも訓練ができるように仕込まれているのだ。

 

 

 どう考えても勝てないところまで消耗させられたところで、リクが降参をピーチに伝えた。

 そこで訓練は終わりとなり、『烈火の狼』の面々はピーチに向かって頭を下げて指導に対する礼をした。

「それにしても、ピーチ母上は、いつどこで訓練をしているのか・・・・・・」

 考助と同じような感想を漏らしたのは、実の息子であるリクだ。

「むしろ場所にこだわっていること自体が間違っているのですよ~」

 ピーチはそうさらりと返して、一同を唸らせることになった。

 

 そんな『烈火の狼』の面々に苦笑を見せながら、ピーチはさらに続けた。

「勿論、実戦形式の訓練はとても大切ですが、個々での基礎訓練があって初めて生きてくるものです。まあ、こんなことは、ランクトップの方たちに言うようなことではないですね~」

 そのあまりにも基本的な教えに、リクたちは思い思いの表情になる。

 普段から口を酸っぱくして新人冒険者に言っていることだが、最近の自分たちは忙しさを理由に、その基礎訓練をおろそかにしがちになっていた。

 その思い当たりがあるからこそ、ピーチに向かって具体的な反論ができなかった。

 

 そんなピーチに違う方面から攻めた(?)のは、ダーリヤだった。

「それにしても、ピーチさんもそうですが、皆さん出産されているはずなのに、見事な体型を維持されていますよね。一体、どうやっているのか」

 見事に産後太りになってしまったダーリヤが、羨ましそうな顔でピーチやフローリア、そして今まで黙っていたシルヴィアを順番に見た。

 そのダーリヤの視線を受けて、三人はそれぞれに顔を見合わせてから苦笑をした。

 そして、代表してフローリアが、ダーリアの言葉に応えた。

「いや、私たちも産後太りをしなかったわけではないぞ?」

「え、そうなのですか?」

「ああ、こればかりは仕方ないことだからな」

 不思議そうな顔になって聞いて来たダーリアに、フローリアは当然だとばかりに頷いた。

 

 そもそも医療技術が発達しているわけではないこの世界では、子や親の為にできるだけ栄養を取るように勧められる。

 勿論、程度というものはあるのだが、やはり二人分の栄養をしっかり取らないと、問題が多くなることは間違いない。

 ましてや、考助の嫁たちは、求めればいくらでも栄養を取れる環境にあったので、つい多めの食事になってしまうのは仕方のないことだ。

 むしろ、それで子供が安全に生まれてくるのであれば、産後太りくらいは大したことではないという考え方さえある。

 それはそれで、場合によっては危険でもあるのだが。

 

 それはともかく、しっかりと産後太りを経験したフローリアたちは、出産後にきちんと元のベストの体型に戻るように努力したのだ。

 考助はそんなことくらいは気にしないとわかっていても、乙女心はそれを許さなかったというだけの事である。

「ということは、やはり運動で減らしたのですか?」

 子育てをしながらどうやって運動するための時間を作ったのかと、不思議そうな顔になるダーリヤに、今度はシルヴィアが答えた。

「女性の冒険者が陥りがちな思考なのですが、産後太りを解消するためには、そこまで激しい運動は必要ないのですよ」

 そのシルヴィアのアドバイスに、ダーリヤはキョトンとした顔になっていた。

 

 やはりダーリヤも他の女性冒険者と同じような思考になっていたか分かったシルヴィアは、さらに続けた。

「そもそも冒険者は、定住している方たちと比べて、普段からの運動量がまったく違います。そのときと同じような食生活を続けていれば、いくら動いていても体型が変わらないのは当然ですよ」

 つまりは、ダーリヤを含めた出産を経験した女性冒険者は、バリバリの冒険者のときと同じような食生活をそのまま子育て中も続けてしまうことが多い。

 いくら子育てで忙しく動き回るとはいっても、あちこちを移動しまくっている冒険者の活動と比べれば、運動量が落ちるのは当然である。

 それは、魔法職であっても同じである。

 

 シルヴィアの説明でそのことに気付いたダーリヤは、納得の顔で頷いていた。

「そういうことですか。つまりは、食事の量を減らすか、元の運動量に戻すか、ということですね」

「最低限はそうしないと駄目でしょうね」

 ただしこの場合、先ほどの話と絡めると、食事の量を減らすという選択肢はあまりとれない。

 出産を機に冒険者を引退する女性は多いが、ダーリヤにはそのつもりはない。

 そのため、いつでも冒険者に戻れるように運動量を落とすわけにはいかないのだ。

 

 ようやくそのことに気付いたダーリヤは、大きくため息をついた。

「漠然とした不安があったのですが、ようやく知識として理解する事ができました」

 そう言ったダーリヤは、シルヴィアとフローリアに向かって頭を下げた。

 出産太りをしたこと自体は、皆が経験することなので、特に不安を感じることはなかった。

 だが、その後の自分の行動に何か問題があるのではと、何となく不安を覚えていたのである。

 それが、シルヴィアとフローリアの説明で解消できたのだから、ダーリヤにとっては先ほどの戦闘訓練よりも得たものとしては大きかった。

 

 満足気な顔で頷いているダーリヤを見て、リクもホッとしたような顔をしていた。

 彼女がそのことで悩んでいることは分かっていたのだが、自分ではどうアドバイスをすればいいのか分からなかったのだ。

 これはやはり経験者に聞くべきだと、少しだけ無理を言って連れて来たのは間違いではなかった。

 その分子供と乳母には不便を掛けさせてしまうことになったが、後でゆっくりと償おうと決意をするリクであった。

ピーチの話にするつもりが、いつの間にかダーリヤの問題に。

まあ、これはこれでありだと思いますw


ちなみに、考助とフローリアが話している内容は、産後とかそうした諸々を含めたうえでの評価になっています。

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