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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(11)ゼロの決意

 孤児院長は、考助たちがいなくなってもすぐにはゼロに話をしなかった。

 まず自分の中で整理をしておきたかったし、何よりもゼロは小遣い稼ぎに出ている。

 この孤児院にいる子供たちは、それぞれ町の中で繋ぎを作って小遣い稼ぎに勤しんでいるのだ。

 町の中で関係を作っておけば、それが子供たちにとっての将来になることはわかっているので、孤児院長も他の世話役の巫女もそれを止めることはしない。

 正直に言えば子供たちの食事を賄う分くらいの寄付はあるのだが、孤児院も子供たちも先のことを考えればそういう活動をしていたほうがいいのだ。

 勿論、子供たちの中には内向的で、自ら稼ぎの場を見つけられないような子もいるが、そうした子たちを引き受けてくれるようなところもある。

 この孤児院を卒業した者たちの中には、立派な冒険者になった者や、店を構えるようになった者、お屋敷で高い地位に就いた者など、探せば小遣い程度の仕事をくれる者は多くいるのだ。

 それもこれも、これまで潰れずに続けてくることができたからこその人脈だ。

 

 そんなわけで、必ず戻って来る夕食の時間を終えた後で、孤児院長はゼロを呼び出した。

 孤児院長室に呼ばれたゼロは、初めは自分が何かをやらかしたのかと、緊張した面持ちで入って来た。

「えーと、孤児院長、呼びましたか?」

「こら。またお前は。いきなりドアを開けるのは失礼になると、何度も教えたでしょう。・・・・・・最初からやり直しなさい」

 孤児院長がそう釘を刺すと、ゼロは「うへっ!」と肩をすくめながらドアを閉めた。

 

 一度ドアを閉じてから、十五秒ほどだってノックの音が聞こえて来た。

「院長、ゼロです。呼ばれたので来ました」

 ゼロが、きちんとドアを開ける前にそう言ってきたので、孤児院長も執務椅子に座ったまま返事をした。

「入りなさい」

 今度は、しっかりとその指示に従ってドアを開けたゼロが、緊張した面持ちで近寄って来た。

 そのゼロの顔を見て、孤児院長は内心で満足げに頷いていた。

 孤児院長という立場にある自分は、子供たちからは厳しいと思われていたほうがいいと考えている。

 優しさや愛おしさを教えるのは、自分ではなく、ほかの巫女でいいのだ。

 そうしたことを、孤児院長は先代の孤児院長から学んでおり、それを実践しているのである。

 

 執務机の前まで歩いて来たゼロに、孤児院長は脇にある来客用の席を指した。

「少し長くなるので、あちらに座って話をしよう」

「えっ? あ、はい」

 いつもはどんなに長くなっても立たせているだけに、いきなりそんなことを言われたゼロは、驚いたような顔になっていた。

 それを見ていた孤児院長は内心で苦笑していた。

 別に、いじめて立たせているわけではなく、大抵子供たちが孤児院長室に来るときは説教するときがほとんどなので、けじめの為に立たせているだけだ。

 子供たちの間で、自分がどんな対象とみられているのか、ゼロの態度を見るだけでもよくわかる。

 

 実際には、別に常に説教の為だけに呼び出しているわけでははく、今回のように子供にとっては重要な話をするときにも孤児院長室を使っている。

 ただし、子供たちの間では「孤児院長室=説教」というイメージが染みついているのだ。

 そのため孤児院長は、そのことには触れず、すぐに本題に入ることにした。

「今回、あなたに身受けに近い話がきたので呼んだのだ。・・・・・・ああ、そんなに難しく考える必要はない。まずは話を聞いてもらえるかな?」

「・・・・・・はい」

 身受けについて、子供たちの間ではどんな話になっているのか、敢えて孤児院長は詳しくは聞いていない。

 だが、今のゼロの反応も含めて、あまり良い印象は持っていないということはわかっている。

 実際、子供たちの身を守るためには、変にお花畑的イメージを持たれるよりは、構えていてもらったほうが良いので、敢えて放置している。

 

 緊張で身を固くしているゼロに、孤児院長は先ほど考助たちから聞いた話をそのまま伝えた。

 すると、その話を聞いたゼロは、初めはキョトンとした顔になっていた。

「ええと・・・・・・? どういうこと?」

 思わずといった様子でそう聞き返してきたゼロに、孤児院長はもう一度丁寧に、出来るだけ分かり易く伝えた。

 

 その二度目の説明で、ゼロはどうにか理解できたのか、戸惑うような顔になって聞いて来た。

「要するに、この孤児院に居ながら、いろいろなことを教えてくれるということ?」

 そう聞いて来たゼロに、孤児院長は何とも微妙な顔になって言った。

「それはまあ、確かに間違った見方ではないかな」

 孤児院長はそう言って頷きながら少し厳しい顔になって続いた。

「だが、逆に言えば、見込みがなければ容赦なく切られるということでもある。その覚悟を背負うつもりはあるかい?」

「ええと・・・・・・。覚悟とかはわからないけれど、チャンスをもらえるということですか?」

「それだけではないね。下手をすれば、ゼロの思い通りの仕事に付けなくなる可能性がある」

 ゼロがテイマーを目指していることは、既に孤児院長の耳にも入っている。

 考助はテイマーギルドにそこまでの影響力があるわけではないが、もしかしたらテイマーとしての才能はないと烙印を押される可能性だってないわけではないのだ。

 

 その答えを聞いたゼロは、首を傾げながら孤児院長を見て来た。

「その、レポートとかを書く仕事・・・・・・?」

「だけではないね。もしかしたら、テイマーも無理になるかもしれない」

「レポートが書けないというだけで?」

「おや、知らないのかい? テイマーには、従魔の研究成果を出すという仕事もあるのだよ?」

 孤児院長がそう助言をすると、ゼロは「え?」という顔になっていた。

 どうやら初めて聞いたようだった。

 

 それを聞いたゼロは、しばらく悩む様子だったが、すぐに真剣な顔になって言った。

「俺、テイマーになりたい。だから、もしチャンスがあるなら、その人のいう事を聞いてみたい。・・・・・・それに、もし駄目だったとしても、テイマーになることは諦めない」

 後半の言葉を言ったときのゼロの顔を見た孤児院長は、内心で「これなら大丈夫か」と考えていた。

 例え周囲からお前には無理だと言われ続けても、ずっと諦めずに頑張ればなんとなかなる、なんてことは孤児院長は考えていない。

 世界はそこまで人に優しくないということは、十分にわかっている。

 それでも、まずは前向きに考えられなければ、進むこともできないということも知っている。

 

 多くの孤児を見て来た孤児院長は、お前には無理だと言われ続けて、それでも人がうらやむような地位に就いた者もいる。

 そうした子供たちと、いまのゼロは、同じような顔になっていた。

 だからこそゼロも大成するなんてことはまったく思っていないが、それでも孤児院長にとっては十分すぎるほどの答えだった。

「そうか。それだったらあとはこっちに任せてもらえばいい。・・・・・・まずはこっちでも色々やることがあるから、少し時間がかかるからね」

 いくら当人同士がいいといっても、今回考助が提案して来た内容は初めてのことすぎて、いろいろと根回しをしておく必要がある。

 余計な揚げ足取りをされないためにも、時間を掛けて王家に対して説明をする必要はあるのだ。

 もっとも、貴族たちは、普段はまったく孤児院のことなど気にも留めていないので、杞憂ともいえるのだが。

 とはいえ、施設の維持に関する大金を出してもらっている以上、ある程度の説明は必要になって来るのだ。

 

 まだ時間がかかると言われたゼロは、少し気が抜けたような顔になっていた。

 それを指摘してやる気を維持するように発破をかけた孤児院長は、ゼロが部屋から出ていくのを見て、王家に対する手紙を書き始めたのである。

ゼロに話が行きました。

あとは孤児院長が各方面に根回しをするだけです。

といっても、王家と大口の寄付をしてくれている貴族に報告をするくらいですが。

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