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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(8)スライム狩り

 ナナたちがある程度満足するまで狩ったスピードモールは、全部で十五体となった。

 ナナにしては少ないと思わなくもなかったが、途中で昼休憩を挟んだり、一体だけで狩れないかと遊んでいたので、こんなものである。

 ちなみに、途中から遊びが入ったのは、別に考助が指示を出したわけではなく、ナナたちが勝手に始めたのだ。

 既に依頼に必要な分は狩ってあるので、ナナたちがなにを始めようと考助は止めるでもなく、のんびりとその様子を見ていた。

 さらに付け加えると、シルヴィアもなにやら新しい探査魔法を思いついたと言って、その効果を試していた。

 特定の魔物を探し出すその探査魔法は、一度捕まえたり狩ったことがあるモンスター相手にしか使えないが、地中空中に限らず使えるので、非常に便利な魔法になりそうだった。

 あくまでも探し出すことしかできないので、スピードモールの場合は、そこからどうやって地上に出すかが課題になるとは、シルヴィアの弁である。

 今回はナナたちがいたので、その辺はまったく問題なく、魔法を使ったときに見つけたスピードモールは処理できた。

 

 そんな調子で町へと戻――ろうとした考助たちだったが、その途中でイベントに遭遇することになった。

 初めに気付いたのはフローリアだった。

「・・・・・・む? あれはゼロではないか?」

 そう言ってフローリアが指したのは、町を囲う城壁に沿って歩く小柄な人影だった。

「うん? あれ、本当だね? 何をしているのかな?」

 なにやらその人物――ゼロは、壁に沿って歩きながら、地面を見ながら歩いている。

 見ようによっては、落ち込んでいるようにも見えなくはないが、仮にも城壁の外側でそんなことはしないだろう。

 

 一度顔を見合わせた考助たちは、示し合わせたようにして、ゼロがいる方向に向かって歩き始めた。

 この城壁は、北と南に門があるが、いま考助たちが歩いていたのは東側だった。

 何の意味もなくゼロがこんな所を歩いているとは思えないが、何をやっているのかは確認しないといけないだろうと考えたのである。

 大人の責任として。

 

 ある程度の距離まで近づけば、流石のゼロも気が付いたようで、考助たちが寄ってくるまで待っていた。

「お兄さんたち、こんなところで何しているの?」

 どうやらゼロは、考助たちが昨日テイマーギルドで会ったことがあると気付いているようだった。

 おじさんではなくお兄さんだったことにホッとした考助だったが、問題はそこではない。

「いやいや。それはこっちの台詞だからね。君こそこんなところで何をしていたんだい? ちなみに僕らは狩りの帰りだ」

 考助はそう言いながら、スピードモールの討伐部位である尻尾を出して見せた。

 

 それを見たゼロは、なぜか目を輝かせるように、考助を見て来た。

「うわっ!? それって、スピードモールの尻尾か? 初めて見た。すげえ!」

 一目でスピードモールの尻尾だと見抜いたゼロに内心で目を丸くした考助だが、勢いに負けてはいけないと言い聞かせてから首を振った。

「コラコラ。それで話を誤魔化せると思ったら駄目だからね」

 考助がそう言うと、ゼロはしまったと言わんばかりに肩をすくめていた。

 それ見て、意識的に話を逸らそうとしたのだと、考助はわざとらしく厳しい表情を作ってみた。

 

 その甲斐があったのかなかったのか、ゼロは渋々と口を開いて話を始めた。

「別に変なことはしてないよ。きちんと門番の騎士様にも話はしてあるし・・・・・・」

「うん、それで?」

 ちゃんとした答えを聞くまでは誤魔化されないという態度を取る考助に、ゼロはわざとらしくため息をついた。

「・・・・・・こういう門の傍って、隠れやすい所が多いせいか、スライムがたくさんいるんだ。だから、それを狩って、小遣い稼ぎ」

 そのゼロの説明を聞いて、考助は少しだけキョトンとした顔になってから、すぐに納得した顔になった。

「あ~、なるほど」

 今の説明で、ゼロが何で言い渋っていたのかを把握できたゆえの納得だった。

 

 ゼロの言う通り、基本的に弱いスライムは、どこかの隅っことかに好んで生息している。

 城壁の傍となれば、モンスターが近寄ればすぐに討伐されるので、意外にスライムにとっては最適な環境だったりする。

 とはいえ、スライムも城壁に対して変な穴をあけたりするので、害獣であることには違いない。

 そのため、定期的に駆除されたりするのだが、ゼロはその隙間を狙ってスライムを狩っているのだ。

 

 いくら最弱とはいえモンスターはモンスター。

 討伐証明である核を多く持っていけば、それなりの額にはなる。

 まさしく塵も積もれば山となるだ。

 まだ保護者なしに城壁から外へと出ることが許されない子供であるゼロにとっては、格好の稼ぎ場になっているのだろう。

 一応、城壁の傍とはいえここは外側になるが、そこは門番たちからもどうやってか、きちんと許可を得ているようだった。


 そこまでしっかりと考えての行動であれば、考助がとやかく言うつもりはない。

「きちんと許可を得ているんだったら問題ないよ。それよりも、そろそろ良い時間だから引き揚げた方がいいんじゃないかな?」

「えっ? うわ、やべっ! もうこんな時間!? 騎士のおっちゃんに怒られる!」

 ずっと地面を見ていて気付いていなかったのか、太陽の位置を確認したゼロが、驚いたようにそう声を上げた。

 そして、慌てたように、「お兄さん、有難う!」と言ってから北側に向かって駆けだし始めた。

 考助が声を掛ける暇もないほどの早業だった。



 多少呆然とした様子でゼロを見送った考助に向かって、シルヴィアがくすくすと笑い出した。

「随分な早業でしたね」

「うむ。ああも見事に不意を打たれると、ピーチ辺りも逃がしてしまうのではないか?」

 シルヴィアに便乗するように、フローリアもそう言ってきた。

「まったく止める間もないというのは、ああいうことを言うんだと実感してしまったよ」

 考助たちが一緒にいれば、多少のお目こぼしもあっただろうが、そんなことを言う暇もなかった。

 

「まあ、それはともかく・・・・・・」

 考助が、ゼロが走り去っていった方角を見ながらそう言うと、シルヴィアとフローリアが同時に頷いた。

「また、会いましたね」

「うむ。見事にいずれかの女神がいたずらをしたな」

「いずれかのって・・・・・・こんなことを意図的にするとすれば、あの神くらいしか思いつかないんだけれど?」

 フローリアの感想に、考助は思わずそう茶々を入れた。

 この場で直接対面したことがあるのは考助しかいないが、それでも顔を見ればどの神を思い浮かべているのかは、想像することができる。

 その主な原因が考助からの情報のせいであるのは、お互いに敢えて知らないふりをした。

 

 そんな冗談はともかくとして、考助はゼロが狩りをしていた辺りを見て呟いた。

「目の付け所は悪くない・・・・・・というよりも、この分だと町の中でもいろいろとやっていそうだなあ」

「うん? そうなのか?」

「わざわざ門番と交渉してまで外に出ている子供が、安全に狩れる町の中で手を出していないと思う?」

 考助のその問いかけに、フローリアはシルヴィアと顔を見合わせてから首を振った。

「いいや。そんなことはないだろうな」

「だよね? ・・・・・・というわけで、少なくともゼロのスライムに関する知識は、そこらの大人顔負けってことかな?」

「そうなるか」

 それに関しては、フローリアも異存なかった。

 スライムが城壁を荒らすという事は、軍に所属するか関係した部署にいない限りは、思いつきもしない知識なのだ。

 むしろ、いるのが当たり前すぎて、そんな問題になるとは考えてもいないのである。

 

 思いがけず狩りの帰りにゼロと邂逅することになった考助は、ここでようやくとあることを思いつくのであった。

何となく最後にフラグっぽいのを立ててみました。

きちんと次話で回収するのでご安心くださいw

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