(10)ミクの演奏(学園祭)
学園祭でのミクのストリープ演奏は、考助たちから認められて弾くことになった。
ただし、ミクが講堂で弾くのは、一般公開している日ではなく、学生のみが参加できる日という条件が付いた。
もし、一般参加できる日に演奏となると、とんでもない騒ぎになり、学園にとってもミクにとっても良くない結果になりそうだったためだ。
学園側――というよりも、運営側はその条件を喜んで呑み、スケジュールの調整を行った。
そしてミクは、学園祭の初日の最後の時間帯にストリープ演奏を行うということで、決定したのである。
学園祭当日(初日)。
この日は学生だけで行われるとあって、生徒たちものびのびと祭りの雰囲気を楽しんでいた。
勿論、屋台なども出ているが、相手が同じ生徒で、しかも同じように何かの出し物を持っているということで、気安い調子で接客などを行っている。
本来の店などであれば怒鳴られるような対応もあるが、そこは生徒同士ということでお互いに割り切っている。
逆に、ここぞとばかりに、「お客に対して~」とか「お客は神だ」などと言ってくる輩には、白い眼を向けられるのが関の山である。
運営側でもあり参加者でもある生徒たちは、その日の祭りを大いに楽しんでいた。
そんな中で、一部の学生たちは、祭りを楽しみながらも早く一日が過ぎるのを待っていた。
その学生たちは、親からの話であったり、周囲の話でミクのことを知っていたり聞いていたりする者たちで、自分の耳でその演奏を聞けることを楽しみに待っているのだ。
中には、どれほどのものかと揶揄するような者もいるが、ほとんどは好意的に受け止められている。
さらには、そうした学生から話を聞いて、講堂に集まってくる学生たちもいた。
その結果、ミクの演奏時間となる直前の講堂は、人でごった返す状況にあり、運営側の者たちはてんてこ舞いで人員整理をすることとなる。
いくら広い講堂とはいえ、全生徒を受け入れるだけの広さがあるわけではなく、最終的には立ち見どころか外にあふれる結果となってしまっていた。
一般公開も含めて、これほどまでに人が集まるイベントはないので、むしろ運営側はよくやったといえるだろう。
そんな外の様子はまったく気にした様子もなく、ミクは用意された控室で、ニコニコ顔になりながらストリープを抱えていた。
「――随分と嬉しそうですね」
そんなミクの様子を見て、ミアが笑いながら声を掛けた。
既にミクのマネージャーと化しているミアは、控室の入室も認められているのだ。
というよりも、ミア以外にはこの控室には誰もいない。
ミアの言葉に、ミクはコクリと頷いた。
「ハイ! だって、初めてみんなの前で演奏できるから・・・・・・」
「そう。だったら、思いっきり弾いてくると良いわ」
ミアがあっさりとそう言うと、ミクが驚いた顔になった。
「えっ!?」
「今日はいいのですよ。きちんと父上たちの許可ももらっているから。あ、勿論、魅了の力は駄目ですからね!」
人差し指を立てながら注意をしてきたミアに、ミクは驚いた顔のまま頷いた。
そして、思いっきり弾ける機会を与えてくれた考助たちに、ミクは心の中で感謝の言葉を述べるのであった。
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演奏時間が来て、ステージ上にミクが姿を現すと、講堂に集まっている者たちは、それまでしていた雑談を止めて静まり返った。
講堂の中には、生徒たちだけではなく、一部の教師たちも集まっている。
彼らは、生徒たちが知らない例の事件のことを知っているので、わざわざ授業で弾かなくてもいいというミクの演奏を確認しに来たのだ。
中には、どうせ王族に贔屓されているだけで、大したことはないのだろうと揶揄するような者もいる。
もっとも、ミクには自分のことを誰がどう思っているかなんてわからないので、同じ観客のひとりでしかない。
そんな周囲からの視線をものともせずに、ミクはステージに用意された椅子に腰かけた。
これまでも何度も人前で演奏してきているので、人数が多いからといって緊張することはない。
それに、今日は思いっきり弾いていいという許可も得ているので、変に制限を掛けなくていいという安心感もある。
落ち着いた様子でストリープの弦の調子を確かめたミクは、一度音を出すのを止めてから、演奏を開始した。
ミクが演奏を開始すると、会場の音はストリープの物しかないのではないかというくらいに静まり返っていた。
咳どころか、呼吸の音さえも控えながら、観客たちはミクの演奏を聞き入っていた。
ミクがストリープの音を鳴らすたびに、観客たちは胸を躍らせたり、また逆に締め付けられたりと、様々な影響を受ける。
すでにその場にいる誰一人として、ミクの演奏を批判的にとらえる者はいなかった。
それどころか、ひとつの音も聞き逃すまいと、ミクの演奏に集中している。
ミクが演奏するために与えられた時間は、全部で三十分。
その間に、ミクは五つの曲を演奏した。
短い曲もあれば、長い曲もある。
既に何度も人前で弾いて来た曲なので、特に不安もなく、のびのびと演奏することができた、というのが全ての曲を弾き終えたミクの感想だった。
ただ、全ての曲を弾き終えて、椅子から立ち上がったときに、司会者からの反応がまったく無かった時には、流石に困った表情になってしまった。
司会者は、ミクから視線を向けられて、慌てた様子でミクの退場を促してきた。
そして、そのときになって、ようやく会場から割れんばかりの拍手が送られたのである。
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後日、講堂でミクの演奏を聞いた学生や教師たちは、演奏の余韻や幸福感に浸りながら、ミクの演奏について話を広めることになる。
その結果、また余計な騒動を呼び込むことになるのだが、それはまた別の話だ。
とりあえず、そんなことになるとは思ってもいないミクは、控室に戻るなり満足気な顔になっていた。
その顔を見たミアは、ニコリと笑って言った。
「随分と気持ちよく弾けたみたいですね」
「はい! いままで一度もなかったくらいに、不思議と自然に弾けました」
大きく頷きながらミクがそう言ってきたのに合わせて、ミアも満足気に頷いた。
ただし、ミアは内心では首を傾げていた。
これまで何度もミクの演奏を聞いて来たミアとしては、特に今までと違った様子は見受けられなかったのだ。
とはいえ、演奏者には演奏者としてのその場の雰囲気や掴んだ感覚というものがあるので、それを口にすることはしない。
音楽の演奏というのは、演奏者の感覚的な部分が非常に左右されることがあるので、余計な口は出さないほうが良いと理解している。
そのため、ミクがそう納得しているのであれば、ミアはただ肯定すればいいだけだ。
勿論、演奏がおかしくなったりすれば、口に出したりすることはあるだろうが、今のところはそんな様子はないので、必要ないのである。
とにかく、無事にこの日の演奏を終えたミクは、非常に満足して自宅へと戻ることとなった。
そして、学園祭の残り二日は、クラスの出し物の担当部分をこなして、無事に学園祭を乗り越えるのであった。
また余計な口出しをしてこさせないためにも、周囲にミクの演奏技術を披露しました。
余計な騒動は、まあテンプレなので、敢えて書く必要はないかと思っています。
要望があれば書きますが、短くなりそう^^;
次は章が変わって、新しいテイマー仲間探し、でしょうか。(タブン)




