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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(2)魔道具の弱点

 トビが考えて、ルカが実用可能なレベルにまで落とし込んだはずの魔道具には、致命的な欠陥があった。

 それが何かといえば、魔道具を動かすための魔力を多量に必要とするというものだった。

 具体的にいえば、魔法を使える魔法職が、毎日百人程度集まってその魔道具に魔力を注げば使える量だ。

 ここで落とし穴なのが、都市といえるほどの人数を抱えている街であれば、その程度の魔力持ちは容易に集めることができるということだ。

 そこに、トビとルカが気付かずに構想を進めて、トワが考助とフローリアに突っ込まれるまで気付けなかった欠陥がある。

 そもそも、それだけの魔法職がいる街では、モンスターからの襲撃を守るための結界など必要としないというところだ。

 なぜなら、街を守るための冒険者なりの戦闘職が十分にいるからだ。

 戦闘職の数でモンスターを押し切ることが出来るため、構想中の魔道具を必要としないというわけである。

 

 トワが喜び勇んで考助とフローリアにこの魔道具のことを聞いていたのは、ラゼクアマミヤが建国する前からセントラル大陸の住人たちが挑戦して来た野望があるためである。

 その野望というのは、大陸の内陸部に村なり町なりを作りたいというものである。

 ところが、それはセントラル大陸に人が移り住んでから一度も成功していない。

 勿論、何度も何度も開拓者を送り込んでは、なんとか定住させようと目論んできたのだが、全てモンスターの襲撃につぶされてきた。

 そのお陰で、セントラル大陸の人の版図は、海沿いの陸地しか存在ない。

 

 そのため、モンスターから一定範囲を守ることができる魔道具は、セントラル大陸の住人たちがなによりも望んでいた物になる。

 トワが珍しく興奮した様子で考助とフローリアの元に来るのは当然といえる。

「・・・・・・その結果が、やってはいけないような大きな見落としでしたか」

 トワは肩を落としながらそう呟いた。

 

 なにしろ、内陸部に開拓民を送って村や町を作るといっても、初期の人数はどうしたって限られている。

 たとえトビが考案した魔道具を持って行っても、維持ができずに、結局いままで通りの結果になるのは目に見えていた。

 同じような理由で、魔力供給施設を作ることはできない。

 少人数しか定住者がいない場所に、いまだ小型化の成功をしていないそんな施設を作っても、維持ができないのだ。

 ラゼクアマミヤの国王として、内陸部への拡張が期待されているトワとしては、期待の分落ち込みが大きくなるのも当然といえた。


 そのトワに対して、トビとルカがなんとも言えない顔になっている。

 それを見て、これは駄目だと思った考助が、トワに話しかけた。

「トワ。そこまで落ち込む必要はないと思うよ?」

「いや、しかし・・・・・・」

「問題点がわかっているんだから、それを改良すればいい。魔道具の開発なんて、そんなもんだよ」

 敢えて軽く言った考助に、トワが僅かに元気を取り戻した。

 そんな基本的なことを忘れるくらい、トワは落ち込んでいたのだ。

 

 ただ、それでもトワの落ち込みようが気になったフローリアが、不思議そうな視線を向けた。

「なんとなくだが、トワらしくないな。なにをそんなに焦って・・・・・・って、ああ、なるほど」

 フローリアは視線をトワからトビに向けて、納得したように頷いた。

 内陸部への進出ができるというだけではない、トワが喜んでいた別の理由がわかったのだ。

「トビが魔道具開発のきっかけになったと喧伝するつもりだったんだな」

 トワの思惑が理解できたフローリアは、今度は同情するような表情になった。

 

 トビは既にラゼクアマミヤの王太子として発表されている。

 そのため、弟のジュンを使って無駄に権力争いをしようとする者は、いまのところ出ていない。

 そもそも、ラゼクアマミヤは現人神が作った国という認識が強い上に、王族に意見できるような貴族が少ないために、余計なことをする(できる)者がいないのだ。

 だからといって、トビの立場が永遠に安泰というわけではない。

 勿論、王としての資格が問われるほどにトビの能力が極端に低かったりすれば、トワもトビの王太子としての権限を取り上げることもあるだろう。

 

 だが、トビにはそんな欠陥といえるような欠点は、まったくない。

 そのため、トワができるだけトビの立場作りの為に、いろいろと策を講じるのは当然といえる。

 もし、内陸部への進行が成功して、そのための魔道具の開発にトビが関わったとなれば、次代の王としての功績とするには十分すぎるほどの効果がある。

 そうした背景があったからこそ、トワは喜び、魔道具に対する評価に、目を曇らせてしまったのだ。

 トワも間違いなく(比喩的な意味で)人の子なのだ。

 

 フローリアの言葉を聞いて、考助も納得した顔になった。

「ああ、なるほど。トワがここまで迂闊になるのも珍しいと思っていたんだよね」

「仕方あるまい。私だって、似たような物をぶら下げられたら、同じ反応になっていたかもしれないからな」

「ふーん。内陸部の開発って、そんなに重要なんだ」

「うむ。もし成功すれば、間違いなく国として大きな功績になるからな」

 そう言って頷くフローリアに、考助がふーんと気のない返事をした。

 別にトビやトワの王族としての功績に興味が無いわけではなく、考助にとっては内陸部の開発はその程度の価値しかないのだ。

 

 考助がそこまで関心が低いのには理由がある。

「うーん。だったら、猶更なぜそんなに焦っているのか、わからないな」

 国としての功績が大きいのであれば、焦らずじっくり時間を掛けてやればいい。

 そう考えての言葉に、フローリアが眉をひそめた。

「いや、話を聞いていたか? この場合、トビにとっての功績にするのが大事で・・・・・・」

「ああ、いや、ゴメン。言い方――というか、話の持っていき方が悪かったね。どうせトビが学園を卒業するまで、まだ何年かあるんだからそれまでに改良を済ませればいいんじゃないの?」

「・・・・・・なに?」

 フローリアは不覚にも僅かに呆けてから問いかけた。

 それほどまでに、考助の言葉が意外だったのだ。

 現に、トワは目を大きく見開いたまま固まっている。

 

 フローリアから驚きの視線を向けられた考助は、魔法陣が書かれている資料を指しながらさらに続けた。

「ここまできちんとした理論が組み立てられているんだったら、魔力消費を抑えるような改良をすることもできると思うけれど? まあ、ある程度の時間さえかければ、という条件が付くけれど」

 最後に「ねえ?」と付け加えて考助が視線をルカに向けると、その当人は戸惑ったような顔になった。

「できなくはないと思うけれど、トビの卒業までというのは・・・・・・」

「いや、これだけの発想ができるんだったら、魔力消費のことも考えられるんじゃない? ・・・・・・簡単じゃないのは確かだけれど、無理と決めつけるのはどうかな?」

 そう正直な感想を言ったルカに、考助はトビに視線を向けながら答えた。


 考助の言葉に、トワが希望の光を見つけたような顔になった。

「本当に? そんなことができるのですか?」

「さてはて。魔道具の開発には、絶対はないからね。断言することはできないけれど、試してみる価値はあると僕は思うよ?」

 決して無責任な考えではなく、確信をもって考助はそう答えた。

 そしてそれを見ていたフローリアが笑いながらトワに言った。

「トビには好きなことをさせることを前提として、この魔道具の改良に関わらせることも選択のひとつとすればいいのではないか? せっかく考助がこういっているのだし」

 いまの考助の態度を見ていれば、フローリアには魔道具の改良が成功することを確信していることがわかっていた。

 考助がこの場でできると断言していないのは、子供(孫)たちの未来を自分の手で決定づけるのは駄目だと考えているためだ。

 それならば、自分はそっと後押しをするような言葉を言えばいいと判断して、フローリアはトワにそう言うのであった。

トワが狙っていたのは、トビの立場作りのための宣伝。

しかも、本当にトビの実力だけで掴めそうな功績だったので、なんのためらいもなく宣伝ができそうだっただけに、落胆も大きかったです。

もっとも、落胆するのはまだ早いと、考助に忠告されてしまいましたがw


これで、魔道具がきちんと実用に耐えられるようになれば、いよいよ内陸部に向けての開発が始まります。

・・・・・・ただし、まだ数年単位の計画になりそうですが。

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