(7)カーディガン家
いろいろと候補地を上げた結果、考助は魔道具屋を作る場所をひとつに絞ってみた。
その場所に造るためには、後で必ず騒ぎや噂が出ることを考えれば、きちんと挨拶をしなければならない相手がいる。
その相手に手紙を送ると、すぐさま返答が来た。
その返答と自分の都合を考えた結果、考助は三日後に現地に向かうことになった。
その話をシルヴィアとフローリアにすると、彼女たちも付いてくることになり、前日にはその準備に追われることになった。
別に長期間の滞在を予定しているわけではないが、店の設置の許可が得られれば、どういう店にするかを決めなければならない。
そのためにも現地調査は必要になる。
どんな結果になるかは未だにわかっていないが、折角のチャンスなので良いアイデアが浮かべばいいと思いながら、考助たちはとある街へと向かった。
考助たちが向かった街というのは、カーディガン家の本家がある街になる。
その街を考助が選んだのは、カーディガン家と現人神である考助の繋がりが、ごく限られた者たちにしか知られていないためだ。
そのお陰で、多少の不思議が発生したとしても、すぐに考助の仕業だとは思われないと考えたのだ。
そういう意味では、まったく繋がりのないところのほうが良いのではないかとも考えたのだが、それだと何かあったときに領主を含めた行政側が本格調査に乗り出すこともあり得る。
そうなったらそうなったで、また面倒が起こる可能性がある。
そのため、街を収めている領主であるスコットやその夫人であるレンネが、考助のことを知ったうえで対処してもらえれば、ある程度の騒ぎは抑えられるのではないかと考えた。
そんなわけで、今回は当主であるスコットにきちんと連絡をとって訪問をしたわけだ。
そんな考助をスコットは快く迎え入れた。
その前に、考助が来たということで、以前と同じようにレンカが突撃して来たのだが、既に恒例行事とされているのか、それを止める者は誰もいなかった。
考助としても、狼たちが元気にしていることが確認できるのは嬉しいので、素直にレンカに引っ張られるままになっていた。
そうしてしっかりと狼たちと触れ合った考助は、ようやく屋敷の中に入って、スコットとの対面を果たしたのである。
今回の訪問はテイマーとしての話ではなく、ある意味で商売の話になるので、レンカは話し合いの場にはいなかった。
同じ理由でレンネもいない。
そのうえで、スコットが領主の顔になって聞いて来た。
「さて、コウスケ様。今回は求めに応じてお招きいたしましたが、詳しい話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「勿論です。そのために来たのですから」
スコットの言葉に頷いた考助は、魔道具の店についての話を始めた。
手紙で話があることは伝えていたが、細かいことまでは伝えていなかったのだ。
そんな状態で公爵家の当主と会えること自体普通ではないのだが、考助もスコットもそれを気にしている様子はない。
考助は一般的な貴族の常識に疎いし、スコットは考助のことを上位者だと考えているので、成立しているのである。
そして、考助から店についての話を聞いたスコットは、納得の表情で頷いた。
「――――なるほど。つまりは、領地内の街に、コウスケ様が作られる店の許可をもらいたい、というわけですか」
「正確には、店の許可と言うよりも、騒ぎが起こっても黙認してもらいたいということなんですがね」
「・・・・・・というと?」
意味が分からずに首を傾げるスコットに、考助は一度頷いてから話はじめた。
「今回作ろうとしてしている店は、土地を借りてその上に建物を建てて経営するわけではないのですよ」
そう前置きをした考助は、今回作ろうとしている店の詳細を説明した。
最初に説明したとおり、街の中に店を置くようなことはしない。
その代わりに、狐のお宿のような店に通じるための『道』の出入り口を、街の各所に出現するようにする。
その出入り口を見つけられた者だけが、考助の店にたどり着けることが出来るということになる。
これは、狐のお宿と以前に塔の階層に作った建物の周辺に張った結界の応用だ。
考助もただ単に思い付きで作っているわけではなく、きちんと発展させたりを繰り返しているのだ。
考助から話を聞いたスコットは、顔をしかめた。
「コウスケ様が領内に店を作られるのは大歓迎・・・・・・と言いたいところですが、あまり騒ぎになるのは・・・・・・」
話を聞いただけでも大騒ぎになりそうなことに、スコットは領主として躊躇している。
話題になりそうな店が領内にできるのは歓迎したいが、その騒ぎの大きさを考えれば、もろ手を挙げて歓迎できるわけではないと言いたいのだ。
「そちらも懸念もわかっているつもりではあります」
そのスコットの言い分も理解している考助は、当然だろうとばかりに頷いた。
ところが、考助がそう答えたところで、これまで黙って二人の話を聞いていたフローリアが口を挟んできた。
「コウスケ。この場合は、そうではなく、騒ぎにならないように出来るだけ留意します、とだけ答えておけばいいのだ」
「はい?」
意味が分からずに首を傾げる考助に、スコットが口元に手を当てて小さく笑った。
「そうか。コウスケ様は、貴族的なやり取りに慣れていらっしゃらないのでしたか」
「うむ。だからこそ、行き違いにならないように私が付いているのだ」
スコットの言葉に頷いたフローリアは、考助を見て説明を始めた。
先ほどのスコットの返答は、領主として公的に許可するわけではないが、黙認するという意味が含まれているのだ。
それもそのはずで、スコットはきちんと考助がそんな特殊な店を作る意味をしっかりと見抜いていた。
となれば、この会談は公式のものではなく、その中で会話されたことも公に認められるわけではない。
そのため、はっきりと答えるわけにはいかず、あのような曖昧な返しになってしまうのである。
ついでにいえば、スコットは考助のことを対話相手として好ましいと感じている。
考助の立場は公に考えれば現人神ということになり、そもそもスコットの許可などとる必要はないのである。
その上で、わざわざこうしてスコットに話をしに来ているのだから、断る必要などないのだ。
というよりも、現人神が作る店が出来るなど、もろ手を挙げて歓迎したいところだ。
本来ならば、大々的に宣伝さえしたいところだが、それをすると考助の作る店の趣旨から外れるので、そんなことはしない。
たとえ考助が許したとしても、その周囲、特にフローリア辺りからとんでもないしっぺ返しが来そうだということまで考えている。
それは、いまの考助とフローリアのやり取りを見ただけでも十分に理解できることであった。
そんなことを考えていたスコットに向かって、考助が何とも言えない顔になった。
「すみません。どうにも常識足らずでして・・・・・・」
「いえ。この場合、貴族の常識を押し付けた私のほうが悪いのですよ。申し訳ありませんでした」
「いいえ! そんなことは・・・・・・!」
そう言って頭を下げていたスコットに、考助は慌てて右手を振った。
自分の対応がまずかったのに、そんなことまでされてしまっては、考助としては非常に居心地が悪くなる。
考助は、これ以上の謝罪は必要ないと示す必要があった。
その考助の必死さからか、単に能力が高かったからか、すぐにその意図を察したスコットは、それ以上の謝罪をすることはなかったのである。
再び登場、カーディガン家でした。
折角、店のことを話に来たのに、本題からずれて考助の問題を気付かされるとは、これいかに。
珍しく(?)フローリアのフォローがきちんと生かされた事例でしたw




