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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第10章 塔に神様を召喚してみよう
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3話 神殿の存在意義

 考助とシルヴィアの話を聞いたアレクは、今まで疑問に思っていた件の答えを見つけて、内心で納得していた。

 それが何かというと、神殿の件である。

 娘であるフローリアのことも重要だが、今後の塔のことを考えると、その件も捨て置けない。

 先ほどまでの話を聞く限り、フローリアの件もいますぐ何かが起こるというわけでもなさそうだ。

 そのためせっかく考助も来ているのだからと、その話を切り出すことにした。

「・・・なるほど。以前にそういう事があったのなら、今の神殿の対応も納得できるな」

「そうですわね。神殿側がミツキさんのことまで把握しているかはわかりませんが、迂闊には手を出しては来ないですわね」

 シルヴィアの言葉に、アレクは苦笑した。

「そう言う見方もできるのだがね・・・」

 アレクのその様子に、アレク以外の四人が首を傾げた。

 代表して、考助がアレクに問いかけた。

「違うということ?」

「まあ、違うだろうね。神殿は、コウスケ殿が頭を下げに来るのを待っているんだと思うよ」

 それを聞いたコウヒが、すぐに納得したように頷いた。

 そして、珍しいことに、不思議そうな顔をしている考助に向かって意見を口にした。

「主様、このまま第五層に神殿を作らなければどうなると思いますか?」

 コウヒのその言葉で、考助とフローリアがはっとしたような表情になった。

 シルヴィアだけが一人、周りに付いていけていない感じだった。

「・・・どういうことですか?」

「つまり、こういう事だよ。人が増えれば増えるほど、神殿という存在が必要になってくる」

「実際、今はさほど多くはないが、神殿を作ってほしいという嘆願は、行政府にも来ているな」

 人が集まれば、それだけ信仰と言う拠り所が必要になってくる。

 この世界では、その象徴が神殿と言うことになるのだ。

 モンスターの少ない他の大陸では、小さな村にも神殿の一つくらいは必ず存在している。

 人々が増えれば、神殿と言う存在を求めるのはある意味当然の流れであった。

「神殿は、人々の拠り所になる場所ですわ。求めてくるのは当然のことでは?」

「まあ、そうだな。だが、あって当然の存在であるその神殿が、この塔には無いのだよ」

 当初の考助の予定では、塔を攻略する冒険者を呼び込めさえできれば、それでよかったのだが、現在はそのような段階は既に通り越していた。

 人や物が多く流れていき、急速に発展している。

 アレクを中心として、行政府まで形になりつつある現在の第五層は、人の数だけではなく、既に町として機能し始めていた。

 これほどの規模の町に、神殿が一つもないというのは、きわめて異例と言える。

 考助が、シルヴィアの方を見て聞いた。

「一応聞くけど、この世界でここほどの規模の町に神殿が無いことってある?」

「まあ、まずありませんわね。たとえ小さな村でも、新しくできれば、神官か巫女を派遣して・・・・・・そういう事ですか」

 シルヴィアもようやく納得したように頷いた。

「ああ。いずれはここの町にも神殿は作らなければならない」

「だが、その神殿を管理する神官や巫女は、必ず必要になってくるな」

「しかもこれほどの規模の町になってしまえば、神殿もそれなりの規模になるだろう。当然それに見合うだけの神官や巫女も必要になる」

 考助たちが口々に言い立てる言葉に、シルヴィアは苦虫を噛み潰したような表情になっている。

「その神官や巫女を派遣してもらえるように、コウスケさんが頭を下げに来るのを、神殿側は待っている、と」

 シルヴィアは、巫女であるのだが、神殿の事となると時々この様な表情をするときがある。

 以前神殿を訪れた時も思ったのだが、過去に何かがあったのだろうと考助は考えている。

 だからと言って、詳しく聞き出そうとは思わないのだが。

 話す必要があるのであれば、いずれ話してくれるだろうと考えている。

「いや、神殿にしてみれば、別に頭を下げに来ても来なくてもどちらでもいいのだろう」

 アレクのその言葉に、考助も頷いた。

「だろうね。来ないなら来ないで、この層の住人が神殿を求めて、何か行動を起こすことも見越してるんだろうね」

「まず間違いないだろう」

 神殿にとっては、どう転んでも神殿の必要性を知らしめるいい機会になる。

 

 とは言え、考助達にも手が全くないわけではない。

 その方法とは、

「私が表に出ましょうか?」

 と進言したコウヒである。

 コウヒが実際の姿を晒して人前に現れれば、そのような思惑など吹き飛んでしまう。

 実際にコウヒが、第五層の神殿を管理する神官や巫女を募集すれば、すぐに集めることは出来るだろう。

 だが、それはそれで取りたくない手段だ。

「それをやると、コウヒが自由に動けなくなる可能性があるから却下」

 と言うわけだ。

 コウヒの威光で神官や巫女を呼び込むために、コウヒが実際にその者達の管理を行わなければならなくなる。

 少なくとも直接的に神殿を管理しなくても、間接的には関わらなければならなくなるだろう。

 それに、コウヒに頼らなくても、考助に一つ腹案がある。

「要は、神殿の力を借りなくても、建ててある建物が神に関わりがあると示せればいいんだよね?」

 そうすれば、建物を管理する者は、別に神職にある者でなくてもいい。

 いや、考助が実行しようとしていることを考えれば、勝手に神職にある者が集まってくるだろう。

「それは、そうですわ」

 この中で一番信仰に詳しいシルヴィアが、頷いた。

「ですが、神に関わりがあるとどうやって示すかが問題ですわ?」

「うん、そこはほら。今少し考えていることがあってね。前から試してみたいと思っていたんだけど・・・・・・」


 続けて語られた考助の腹案に、考助を除いた全員が思わず唸った。

「まさか、そのようなことが出来るのか?」

 一番先に立ち直ったのが、アレクだ。

 最も神とは縁遠い存在というより、直接かかわったことがないことが幸いしたのかもしれない。

 真面目に修行を積んだことのあるシルヴィアに至っては、半分放心状態になっていた。

「たぶん・・・だけどね。流石に前もって試すわけにもいかないから、多分ぶっつけ本番になってしまうけど」

「失敗する確率は?」

「さあ? でもまあ、当事者全員に確認して出来るだけ失敗しないように調整するけど」

「ふむ・・・では、落成式的なイベントを用意したほうがいいだろうな」

「いっそのこと、神殿自体も塔で用意しようか?」

「そのようなことが出来るのか?」

「勿論。しかも一瞬で出来上がるし」

「・・・何というか、それだけでも十分な気がするがな」

 着々とアレクと考助の間で、話が決まっていく。

 その様子をシルヴィアとフローリアが、半分呆れた様に見守っていた。

 相談する様子の二人は、どう見ても悪戯小僧の様な顔になっていたためである。

 

 本題から外れて、ずいぶんと脇道にそれてしまったが、今後の塔にとっても重要な話になった。

 勿論、今回の話は考助からワーヒドへと話すことにしている。

 そこからクラウンの重役たちへ話は伝わるだろう。

 重役たちも塔の微妙な立ち位置は分かっている、と言うより日々実感しているので、余計なことは言わないだろう。

 それはそれとして、本来の目的に戻ることにした。

 といっても後は、考助達がフローリアを管理層へと連れて行けば、本来の目的は達成である。

 予定外の話で滞在が伸びてしまったが、むしろ必要な話だったので、考助としても満足だ。

 というわけで、もう少しだけと今でも言いそうなアレクを尻目に、考助たちはフローリアを連れて管理層へと向かうのであった。

2014/5/31 誤字修正

2014/6/27 誤字訂正

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