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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(6)ピーチの考察

 ピーチが里に監視の依頼を出した結果、第五層の家から学園までの通学路は、様々な諜報員や闇の者たちが集まることになった。

 簡単に上げても、普段から諜報活動をしている諜報員。

 闇に属する者は、ミクやピーチが気付いた者やデフレイヤ一族の者。

 諜報員に関しては、国ごとや組織ごとに分ければさらに細かくなる。

 それだけの関係者(?)が集まれば、流石に騒がしくなる・・・・・・と思いきや、表向きは普段とは変わらない様子を見せていた。

 それもそのはずで、普段から諜報に関わっている者たちは、状況に変化があったとしても、いつもの生活を変えるようなことはしない。

 そんなことをすれば、逆に諜報員失格となる。

 さらにいえば、情報を集めるだけの諜報員程度の実力では、闇の者たちが活動していることはほとんど気付くことはない。

 勿論、諜報員の中にも実力者はいるが、そもそもの活動の基準が違っているので、大抵は闇の者たちに軍配が上がるのだ。

 そもそも闇の者は、諜報だけではなく、戦闘などの体術に長けた者がなる(あるいは、なれる)ものなので、それも当然である。

 

 そんな状態が数日続くと、管理層を経由して、ピーチのもとに報告書が届き始めた。

「――相手がサキュバスの可能性あり、ですか~」

 報告書に書かれた最後の一文に、ピーチは眉をひそめた。

 別にサキュバス同士の争いになるという懸念からではない。

 そもそも闇の者として活躍しているのは、サキュバスが多いので、仕事上でぶつかることも多い。

 それよりも問題なのは、なぜ今更になって、闇のサキュバスが介入してきたかということだ。

 

 勿論、以前にも考察した通り、ミクたちが学園に入学をして表に出て来たからという可能性はあるだろう。

 ただし、それだけならセイヤやシアが入学したときに、介入が始まっていてもおかしくはないはずだ。

 それがなぜ今になって出て来たのかという疑問が出てくる。

「・・・・・・というか、答えはひとつしかないのでしょうねえ~」

 ピーチはそう呟いて大きくため息をついた。

 

 ところで、ピーチが報告書に目を通していた場には、コレットがいた。

「あらあら。珍しく大きいため息をついたわね。そんなに面倒な相手なのかしら?」

 ピーチはコレットがいることを理解していて、そんな態度を見せていた。

 自分ひとりで抱え込むことをしたくなかったというのもあるが、他の視点から客観的に見れる存在がほしかったのだ。

 もっとも、セイヤやシアが関わっている以上、コレットが第三者であるといえるかは微妙なところなのだが。

 

 コレットの問いかけに、ピーチは首を左右に振った。

「面倒というよりも、少し不可解というか~・・・・・・やっぱり、面倒な相手なんでしょうねえ」

「あらら。本当にそうだったの」

 ピーチの様子から適当に推測して言ってみたコレットだったが、彼女の答えを聞いて中らずとも遠からずだったことがわかった。

 その上で、ピーチが面倒だという相手がいるのかと、少し驚いていた。

 ピーチの実力が突き抜けていることはコレットもよく知っているので、そんなに面倒な相手がいるのかと考えたのだ。

 

 そのコレットに、ピーチはなぜか首を左右に振った。

「いえ、今回はどちらかといえば、相手の実力とかの話ではなく、一族的に面倒な話になりそうなんです。今のところは推測ですが~」

 ピーチがそう答えると、コレットは意味がわからずに首を傾げた。

「一族的に面倒ってどういうこと?」

「すっかり忘れているかもしれませんが、そもそも私たちが塔に移って来た理由を思い出してください~」

 ピーチの言葉を聞いたコレットは、すぐに納得した顔になった。

 

 ピーチの生まれ育ったデフレイヤ一族は、過去の失敗により元の土地を追われて、消滅するギリギリのところだった。

 それを塔に匿ってもらう代わりに、塔に関係する闇の者として働き始めていた。

 ピーチが言いたい面倒というのは、その過去に関わることなのだ。

 早い話が、以前にデフレイヤ一族を追っていた者たちは、塔に移住してきたことを嗅ぎ付けて、調査をしているのではないかと考えているのだ。

 それは別にピーチだけの推測ではなく、一族の上層部も考えている向きがある。

 報告書に直接推測が書かれているわけではないのだが、これまでに得た様々な情報からそう考えるのが一番納得できる感じに書かれている。

 

 ピーチからそう説明されたコレットは、頷きながら疑問を口にした。

「もし相手が本当に昔に敵対してきた勢力だとして、デフレイヤ一族はどうするのかしら?」

「そうですね~。基本的には放置だと思いますよ?」

「あら。随分とあっさりと答えるのね」

「それはそうですよ~。いまの私たちは、塔に恩義を感じているのであって、過去にかかわることなどどうでもいいのです。変に争いをしたところで、塔に迷惑を掛けるだけですから」

 過去に殺された一族の恨みとか、復讐とか、そんなことを考えている者は、一族の中にはほとんどいないとピーチは続けた。

 そもそもそんな感情を持っていると、闇の者として活動することが難しい。

 それに復讐とかを考えていたのであれば、さっさと考助に報告をして許可を得ているはずだ。

 いまのデフレイヤ一族の者たちは、過去の因縁などどうでもいいほどに、塔に匿ってくれた考助に恩義を感じているのである。

 

 なんともあっさりとしたピーチの回答に、コレットは肩をすくめた。

「まあ、気持ちはわからなくはないわね。エルフだって似たようなものだし」

 まったく状況は違っているが、エルフたちも考助に感じている感情は、言葉にできないほどのものがある。

 それは、塔に移ってくる前のことを考えれば、信じられないような変化だった。

「種族として安定した生活が望めるというのは、なにより必要なことですからね~」

 過去に厳しい生活をしてきた者たちほどその恩恵は強く感じている。

 ただし問題なのは、世代が進んで厳しかった過去を忘れてしまったときだ。

 そのときに、まだ考助に対しての感謝や恩義が残っているかは、それこそ世代が進んでみないとわからない。

 

 それぞれの種族(一族)の将来について話が及んだところで、コレットが苦笑しながら首を振った。

「ごめんなさいね。少し話がそれたわね。それで、これからはどう動くの?」

「とりあえずは、まだまだ情報が少なすぎますから現状維持でしょうね~。それから、いまと状況が変わらないようであれば、放置することになると思います」

「あら。てっきり自分たちの縄張りには入れないと主張するのかと思ったのだけれど?」

 コレットの疑問に、ピーチは否定するように首を振った。


 例えば盗賊などを抱えている闇ギルドであれば、ギルド員が活動する場所を巡って他の闇ギルドと争いをすることもある。

 だが、闇や影の場合は、仕事を完遂することが重要なのであって、闇ギルドほど縄張り意識は強くない。

 ただし、それぞれが活動している主によって、その方針も違いが出てくる。

 ある闇の組織が、国王の指示で動いているとすれば、当然のように国内での活動を重視する。

 とはいえ、闇ギルドと違って、ほかの組織の活動を完全に邪魔をするようなことをすることは、ほとんどないのだ。

 闇や影の組織にとって、あくまでも重要なのは依頼された仕事をこなすことであって、ほかの組織の邪魔をすることではない。

 

 デフレイヤ一族は、あくまでも考助の為に働いているのであって、塔の中で活動している闇や影を完全排除することは望んでいない。

 一応、以前にピーチが確認したことがあるが、わざわざ波風をたてることはないという考助らしい返事をもらっていた。

 それが今のデフレイヤ一族の活動指針になっているので、考助が指示を変えることが無い限りは、方針変更はあり得ないのである。

ちなみに、今章はデフレイヤ一族を中心に書いていますが、塔の里にはもうひとつの一族もいます。

そちらもお忘れなきようお願いしますw

まあ、もうほとんど混ざり合ってしまっていて、どっちがどっちという明確な区別はほとんどなくなっているのですが。

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