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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(9)神の試練中

 狐の獣人族が浮遊島で生活するようになってから一週間が過ぎた。

 元の集落から新しい場所への移住を希望したのは三百人ほどで、そのほとんどが比較的若い部類に入る者たちだった。

 年を行った者は、新しい場所への不安と不満、何よりも昔からいる土地を捨てたくないという思いで、隠れ里に残っている。

 それもまた一つの選択ということで、長老を含めた上層部も移住の強制はしていない。

 そもそも、上層部の中にも移住を希望しない者はいたので、今後はそうした者たちが先頭に立って里を率いていくことになるはずだ。

 それに、移住を希望した者たちも、本当に新天地に行けることになるかは、まだわからない。

 長老の言う「神の試練」をクリアしたものだけが行けることになっていて、どれだけの人数がその試練を乗り越えられるかもわかっていない。

 里に残る者も、新天地に希望を見出した者たちも、現時点ではまだ先行きがどうなるか分からずに、不安を抱いている者がほとんどであった。

 

 移住希望組には、予想外というべきか、予想通りというべきか、長老の姿があった。

 そもそも、このままでは一族に未来はないと判断したからこそ、ごく限られた情報の神託を頼ってアカツキを送り出したのだ。

 その長老が移住組の先頭に立つのは、当然といえるかもしれない。

 そして、これは当然というべきか、若者代表としてアカツキがその傍に立っていた。

 アカツキは、一族に未来をもたらしたということで、移住希望組の間では名が知られるようになっていた。

 もとから一族の代表になるだろうと目されてはいたのだが、今回無事に戻ってきたことで、それが加速したというわけである。

 

 その長老とアカツキは、浮遊島の畑で働く一族の者たちを見守っていた。

「我らがこの島に来て一週間。貴方様の目から見て、いかがでしょうかな?」

 長老がそう話しかけたのは、二人の傍で同じように一族を見守っていた天翼族のエイルだ。

「さて。少なくともこの一週間で、半数は改善が見られましたが、残りはどうか・・・・・・。それに、一割はどう見ても見込みがなさそうですね」

「そうですか。やはりそう見ますか」

 その容赦のない評価に、長老はため息をついて見せた。


 彼らが塔に移住する条件として、浮遊島での生活が判断基準になることは、全員が知っている。

 その上で、生活態度が悪すぎれば、容赦なく振り落とすと言っているにもかかわらず、態度が悪いものは出ていた。

 中には、何を勘違いしているのか、自分は移住に賛成してやっているんだという態度に出る者までいるのだからたちが悪い。

 勿論、そんな者は、容赦なく里に戻すつもりでいるのだが。

 

 とにかく、彼らの生活態度を見て、塔に移住させるかどうかは、天翼族の判断にゆだねられていた。

 最終的には考助が決定を下すのだが、その判断材料に天翼族からの情報が大きく左右されることは間違いない。

 そもそも、移住までの間、身近で生活をするのは天翼族になるので、そうなるのも当たり前だ。

 そのことは一族の者たちにも包み隠さず話をしている。

 それにもかかわらず、馬鹿な態度を続けるのだから、長老がため息をつきたくなるのも当然だろう。

 

 そんな長老に、けれどもエイルは容赦はしなかった。

「申し訳ないですが、事実は事実として我らが主に伝えます」

「いや、謝る必要はないでしょう。私が同じ立場であってもそうします」

「長老」

 場合によっては一族の者を見捨てるような長老の言葉に、思わずアカツキが口を挟んだ。


 だが、そのアカツキに、長老は首を左右に振って見せた。

「アカツキ、勘違いをしてはいかん。最後の最後まで一族の者を助けるように願うのが儂の役目だが、最後に決断を下すのも役目のひとつだ」

 一族の為には、一部の者たちを切り捨てる決断をしなければならない。

 そういう覚悟を見せた長老に、アカツキは口を閉じて黙り込んだ。

 そして、そのアカツキに、今度はエイルが皮肉気な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「貴方は、あの場に行って、あの方とお会いして、一体何を学んできたのでしょうね? それとも、結局すべて零れ落ちてしまったのでしょうか?」

 少なくとも、考助たちと一緒にこの島に最初に来たときには、ある程度の見どころがあるとエイルは考えていた。

 いまでもその考えは変わっていないが、時折こうして厳しいことを言ったりしている。

 

 長老は、エイルがなぜそんな厳しいことをアカツキに言っているのか理由を察している。

 だからこそ、アカツキに向かって敢えて厳しいことを続けた。

「多くの者を率いるときに、優しさは時に無残な結果を引き起こすこともあり得る。最後まであがくのは当然だが、最後の最後の決断はどうしても必要なことだよ」

「・・・・・・はい」

 長老とエイル、両方から諭されたアカツキは、複雑な表情になって頷いた。

 その顔を見れば、理屈では理解できるが、感情では受け入れたくはないといったところだ。

 そのことがわかった上で、エイルも長老もそれ以上はなにも言わなかった。

 この先、どう考えて判断していくのかは、アカツキ次第だと二人ともわかっているのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 移住を決めた者たちは、比較的若いものが多いが、それは逆にいえば血気盛んな者たちが多いともいえる。

 そうした者たちの一部には、大人しく天翼族に従って生活をしていることに不満を覚えている者たちがいるのも事実だった。

 実際、狐に限らず獣人族の戦闘力は、一般のヒューマンのそれを遥かに越えている。

 彼らが隠れ住むようになったのは、ヒューマンが圧倒的な数で攻めて来たからだと、未だに信じている者も少なくなかった。

 早い話が、彼らは自分たちの実力はどの種族にも負けるはずがないと思い込んでいる田舎者なのだ。

 

 ただし、たとえ思い込みであっても、自分たちの力を妄信している若者ほど厄介な存在はない。

 彼らは、自分たちに与えられた住処のひとつに集まって、話をしていた。

「――なんだって俺たちがこんなことを――」

「もう一週間だぜ、一週間!」

「ちまちま畑の手伝いなんかやってられっか!」

 彼らは、実力があると勘違いしているだけあって、里では周辺のモンスターを狩る実戦部隊に所属していた。

 それゆえに、ただただひたすらに農作業を手伝わされているだけの浮遊島での生活に、不満がたまっているのだ。

 

 とはいえ、ここに集まっているものは、ほんの十名ほど。

 自分たちの力だけで、今のこの状況が打開できると考えるほど、彼らも馬鹿ではなかった。

 過去、数でヒューマンに追いやられたことは、きっちりと戦闘部隊である彼らにも染みついているのだ。

「不満は分かるが、今はまだ抑えておけ。どうせここは仮の生活の場。新天地に行けば、俺たちのありがたみも皆が分かるさ」

 集まった者の中で中心にいた者が、他の者たちを押えるようにしてそう言った。

 そこで、他の者たちの不満の声は上がらなくなった。

 

 彼らはここ数日、夜に集まってはこうして不満を漏らしていた。

 そうすることで、昼に爆発することを押えているのだ。

 彼らも表立って自分たちが反発する姿を見せることは良くないということは、わかっているのである。

 だらこそこうして、他の視線から隠れるようにして、不満を口にしているのだ。

 ・・・・・・自分たちに、天翼族の監視が付いているとも気付かないまま。

何となく最後、フラグっぽいですが・・・・・・文字数の隙間を埋めただけだったりしますw

なお、彼らがどうにかなるかは、次の話で決着するはずなので、そんなに引っ張るつもりはありません。

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