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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(2)青年の本音

 考助とシルヴィアが、狐タイプの獣人族についての話をしている間、青年はそれにはまったく関心を寄せずに、ワンリを見ていた。

 彼の態度を見れば、九尾の狐がどれだけ大事な存在かということがよくわかる。

「それで、この塔の狐の扱いを見に来た君は、本当は何を確認したかったのかな?」

 考助がそう青年に話しかけたが、その青年は綺麗に考助を無視した。

 そして、代わりにとばかりにワンリに話しかけた。

「貴方様のような方が、なぜこのような場所にいらっしゃるのですか? いえ。勿論、住むところとしては良いのでしょうが、物足りなくはないですか?」

 その青年の態度に、考助の後ろに控えていた約二名の雰囲気が変わったことが分かった。

 そのため考助は、青年には気づかれないように、抑えるように指示をする。

 

 コウヒとミツキはその指示に不満そうな表情を浮かべたが、それ以上何かをすることはなかった。

 その理由は簡単で、直接青年に怒りをぶつけた者がいたからだ。

「謝りなさい」

「…………はい?」

 初対面の青年にとっても、ワンリのその言葉が怒りを示すものだということはよくわかった。

 だが、青年にとってはごく当たり前のことを言っただけのつもりだったので、なぜワンリが怒っているのかが分からなかった。

 

 その青年に、ワンリが怒りの表情を見せたまま続けた。

「なぜコウスケさんの言葉を無視したのですか。謝りなさい。そして、すぐに答えなさい」

「えっ、いや、しかし……」

 青年にとっては九尾であるワンリのほうが大事であり、そのそばにいる考助たちのことは、視界に入ってはいてもはっきり言えばどうでもいい存在だった。

 だからこそ、ワンリがここまで怒っている理由が分からなかった。

 

 ただし、青年にとってはワンリの言葉は絶対に近いものだったので、意味が分からなくてもまずは実行に移す。

 考助を見た青年は、頭を下げながら言った。

「……申し訳ございませんでした。どうやら私の態度が、彼の方を不快にさせてしまったようです」

 自分に対して謝っているのか、ワンリを不機嫌にさせてしまったことを後悔しているのか、よくわからない謝罪をされた考助は、苦笑しながら首を左右に振った。

「まあ、お互いによく知らないことはあるだろうから、それはもう別にいいよ。それよりも、君は本当になにをしにここに来たのかな?」

 考助がそう聞くと、青年は少しだけ言うのをためらうような顔になった。

 

 その青年の顔を見たワンリが、短く言葉を発した。

「きちんと答えて」

「は、はい。もし、噂にあるような、狐にとっての安住の地があるのであれば、我々にとっても住みよい土地があるのではないかと考えて来たのです」

 ワンリの言葉には素直に従う青年に、考助は内心で苦笑しつつ、首を傾げた。

「今まで隠れ住んでいたみたいだけれど、特に差別とかはないんだよね?」

 考助がそう聞くと、青年は顔をしかめた。

 その顔は、なぜこんなことが分からないのかと言っている。

「確かに、表立っての差別や迫害はないのでしょう。ですが、珍しい存在がいるとわかれば、それを使っていろいろなことを画策するのがヒューマンです」

 心底からヒューマンのことなど信用していないという体の青年の言葉に、考助は確かにヒューマンにはそういう面もあるかと納得していた。

 

 表向きは良いように扱いつつ実際は自分の為の金儲けの道具にしたり、良い所を紹介すると言いながら、物好きな貴族に話を持っていく者などは、いくらでもいるだろう。

 そして、巡り巡っての行きつく先は、奴隷落ちとなる場合が多い。

 それは別に対象が狐タイプの獣人族でなくとも、似たような話はいくらでも転がっている。

 青年が言っていることは、完全に間違っているとは言えないのである。

 

 考助にもそれがわかっているので、同意するように頷いた。

「まあ、それもそうか。それで? より良い土地があったとして、本当にここに住むつもりだったの?」

「どういう意味でしょうか?」

 考助が言っていることが分からずに、青年は首を傾げた。

「いや、この塔が、狐にとって住み心地が良いのは確かだろうけれど、どうして余所者である君や君たちが、素直にここに住めると考えたのかなと」

 考助にとってはごく当たり前のことに、青年は不意を突かれたような顔になった。

 

 当然だが、既に攻略されている塔には、支配者である管理者がいる。

 塔の階層が住み心地が良いからと言って、その場所に勝手に住み着けば、場合によっては追い出される可能性もある。

 そこは、たとえ塔であっても、国内の土地に勝手に街や村を作れば、税を収めるように言われるか、攻め滅ぼされるのか、選択を迫られるのと大した違いはないのだ。

 アマミヤの塔の管理者である考助が、自由に活用していいと考えている階層は、当然決めてある。

 それ以外の階層に住みたいというのであれば、自分の許可が必要だと考えるのは、当たり前のことだ。


 そのことをすっ飛ばして、いきなり住みたいと言い出してきた青年に、考助は不思議に思ったのだ。

 だが、青年の顔を見た考助は、何となく状況を理解した。

 この青年は、塔の階層を他の塔外の土地と同じように、国に気付かれないように住めばいいと考えていたフシがある。

 塔のシステムを知っている考助からすれば、そんなことは不可能なのだが、それを知らない青年がそう考えたとしても不思議ではない。

 まあ、誰がこの話を聞いたとしても、甘すぎるし、世間知らずすぎると、一笑に付されることになるだろうが。

 

 驚いている青年の顔を見た考助は、本当に世間知らずなんだなと結論付けた。

 別に塔の秩序を種族の勝手な理屈などで乱さない限りは、一種族を塔で匿うのは構わない。

 ましてや、それが絶滅寸前だと言われている種族だとなおさらだ。

 ただ、周りにいる者たちの反応を見る限りでは、それは難しいだろうな、とも考えていた。

 

 その考助の考えが正しいと証明するかのように、ワンリが口を開いた。

「貴方のような者が、一族の者たちすべてに共通しているのであれば、この塔で受け入れるのは、難しいでしょうね」

「ワンリ、少し落ち着きなさい。それを決めるのはコウスケ様です。それに、あなたとの関係を考えれば、この方がああいう態度に出てしまったのも理解は出来ます」

 一応、青年のことを庇うようなことを言ったシルヴィアだったが、更に付け加えられた言葉に、青年は顔を引きつらせることになる。

「ですが、自分たちは追い詰められているのだから、庇われるのが当然と考えているのは、いただけないですね。自然の中で生きる生物は、時に淘汰されることが当たり前だと思うのですが?」

 シルヴィアは、時としてこうした厳しい意見を言うことがある。

 それは、神の教えとしてシルヴィアに身に付いているものなのだろうと、考助は考えている。

 

 とはいえ、流石にシルヴィアとワンリから責められている青年は、考助から見ても少しばかり可哀そうだった。

「まあまあ、ワンリもシルヴィアも少しは抑えて。僕のことを考えて言ってくれているのは分かるけれど、今はちゃんと話を聞かないと」

 考助がそう言うと、シルヴィアが少しだけ呆れたような視線を向けて来た。

「コウスケさんがそういうときは、大抵受け入れることが前提になっているということに、気付いていますか?」

「うっ!? いや、まあ、そんなことはないよ、うん。大丈夫、大丈夫」

 鋭すぎるシルヴィアの突っ込みに、考助は誤魔化すように笑顔を向けるのであった。

いきなり人の家にやってきて、住みごごちがよさそうだから、住んでやってもいい。

しかも、家主ではなく、見目麗しい娘さんとだけ話をして、家主の言葉はまともに耳に入っていない。


・・・・・・ワンリやシルヴィアでなくとも、普通は怒りますねw

自分で書いておいてなんですが、絶滅しかかっているのも、ある意味当然のような気がしてきました。

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