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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(9)適性検査の結果

 狼たちへ挨拶を済ませた考助たちは、屋敷へと戻った。

 今回は、どちらかといえば、スコットへのスライムの譲渡が出来るかどうかを調べるために来ているので、それをおろそかにするわけにはいかない。

 もっとも、スコットの娘であるところのレンカは、多少の不満を見せていたが。

 

 それはともかくとして、戻ってきた考助たちを、スコットは歓待するように両手を広げて出迎えた。

 そのスコットに、考助は念のため釘を刺しておいた。

「あの・・・・・・一応言っておきますが、絶対にスライムが得られるとは限りませんよ? あくまでもその資格があるかどうかを調べるだけです」

「ああ、勿論わかっていますよ。さあ! 早速始めましょう!」

 まったくわかっていないような顔になっているスコットを見て、レンネが首を左右に振っていたが、考助は気付かなかったふりをした。

 そのときのレンネの顔が、会心の失敗作の魔道具を作って見せたときの女性陣の反応とまったく同じに見えたなどとは、なお言えなかった。

 

 

 幸いそんな考助の微妙な反応は誰にも気づかれずにすんだ。

 そして考助たちは、前回の訪問時と同じ部屋へと案内された。

 その部屋は、中央にテーブルもあって、様々な打ち合わせをするのに向いているのだ。

 

 全員が席に着いたのを確認したスコットは、ワクワクとした表情で切り出した。

「それで? どうやって調べるのですか?」

 スコットは、スライムを従魔にできる適性があるかどうかを調べる方法など、まったく聞いたことがない。

 そのため、それだけでもスコットにとっては十分に心を刺激されることなのである。

 この時、スコットの話し方が丁寧になっていることにレンカは気付いていたが、敢えてその場では何も言わなかった。

 レンカは、周囲の空気が読める賢い子供なのだ。

 

 考助は、どう見ても興奮しているスコットを見て、先ほどの忠告は無駄になったのではないかと心配になったが、話を進めないことにはどうしようもないので、諦めて答えることにした。

「特に珍しい方法を使うわけではありません。レンカであれば、既に経験しているので分かるのではありませんか?」

「何? 私が?」

 いきなり話を振られたレンカが、驚いた表情で考助を見た。

「ええ。レジャたちを得る前に、何をしましたか?」

「何をって、それは・・・・・・」

 考助と初めて会ったときのことを思い出したレンカは、ハッとした表情になった。

「――そうか。あの狼が私の適性を見抜いたように、スライムで見抜くというわけじゃな?」

「はい。その通りです」

 レンカの答えに笑みを浮かべた考助は、スッと懐に手を入れた。

 

 考助が懐に入れた手を外に出すと、そこには一体のスライムが乗っていた。

 勿論、そのスライムはスーラだ。

 それを見たスコットとレンネは、納得の表情で頷いた。

 流石にそこまでされれば、考助が何をしようとしているのかは、察することが出来る。

「じゃあ、スーラ。お願いね」

 考助がそう呼びかけると、スーラはそれに答えるように、ぴょいと考助の手からテーブルの上に飛び降りて、スススと動き始めた。

 

 まずスーラが向かった先は、考助が前もって予想していた通りに、レンカだった。

 彼女の前でピタリと止まったスーラは、確認するように考助を見た。

「ああ、うん。レンカは何となくわかっていたからいいよ。他には、いるかな?」

 考助がそう指示を出すと、スーラは迷うようにテーブルをウロウロとしだした。

 

 ―――――そうしてスーラが向かった先は、

「あらあら。もしかしなくても私ですか」

 そう言ったのは、スコットではなく戸惑ったように言ったレンネだった。

 ただ、確かに戸惑ってはいるようだったが、その声にはどこか嬉しそうなものが含まれていた。

「そのようですね」

 そう答えた考助は、レンネ夫人の声にスライムに対する嫌悪感が無いことが分かり、すぐに続けた。

「折角ですからスーラを触ってみてはどうでしょうか?」

「え? いいのですか?」

「ええ、構いませんよ。スーラもそうして欲しがっているようですから」

 考助もずっと一緒にいるスーラの仕草で、何を言いたいのか分かるようになってきているのだ。

 

 考助がそう声を掛けると、レンネはおずおずとスーラに向かって手を伸ばした。

 スーラもそれに応えるように、そっと体を伸ばしてその手に触れた。

 そして、レンネが手をひっこめないと分かると、そのまま素早い動きでスッとレンネの手の上に乗ってしまった。

 時と場合によっては、スーラもこういう動きが出来るのだ。

 

 いきなり飛び乗って来たスーラに若干の驚きを示したものの、レンネは特に嫌悪感などを示すことなく、スーラを受け入れていた。

「あらあら。こうしてみると、可愛いものですね」

 そんなことを言いながら笑みを浮かべているレンネを、スコットが羨ましそうに見ていた。

 思わずといった様子で手を伸ばしたスコットだったが、スーラは特になにをするでもなく受けいれた。

「おや? 反撃でもされるかと思ったのだが・・・・・・?」

「ええ。スコット様も適性はあるようですね。ただ、レンカ様、レンネ様よりは弱いだけで」

 そう言いながら不思議そうな顔で見て来たスコットに、考助は小さく頷きながらそう答えた。

 実のところ、スライムに関しては、嫌悪感などの負の感情を持っていなければ、受け入れてくれる可能性は高いのだ。

 ただし、考助も管理層に出入りしている者たち以外で、こうして実際に目の当たりにするのは初めてのことなので、そこまではわかっていない。


 とにかく、レンネもスコットも大丈夫ということが分かったので、考助はスーラを呼び戻してからまずはレンカを見た。

「まずレンカ様ですがどうしますか? スライムにも適性があるようですが?」

 考助がそう問いかけると、レンカは少しだけ考えて首を左右に振った。

「いいや、やめておくのじゃ。いまはあの子たちの世話で手一杯じゃからな」

 レンカが言ったあの子たちというのが何を指しているのかは、この場にいる誰もがよくわかっている。

 そして、きちんと自分の限界を理解してから断ったのを見て、全員が笑顔になっていた。

 

 そして、考助はレンネとスコットに視線を向けた。

「お二人はどうされますか?」

「そうですねえ。私は遠慮しようかしら?」

「私は勿論、飼いたい!」

 見事に意見が分かれたふたりに、考助は少しだけ考えてから返答した。

「うーん。それならば、最初から飼わない方がいいでしょうね」

「「えっ?」」

 予想外の考助の返答に、スコットとレンネは声を揃えて首を傾げた。

 

 不思議そうな顔になっているふたりに、考助はさらに説明を加えた。

「今見ていただいた通り、スライムへの適性はレンネ様のほうが上のようです。その状態でスライムを飼うと・・・・・・」

「そうか。母上のほうにスライムが懐いてしまう可能性があるのじゃな?」

 考助の言葉を奪うように、レンカが納得の声を上げた。

 そのレンカの言葉に、スコットとレンネが同時に顔を見合わせた。

 

 考助はレンカに向かって頷きながら、更に続ける。

「そういうことです。複数のスライムを同時に飼うのであれば、スコット様に懐くスライムが出るかもしれません。ただ、その場合もレンネ様が飼うことが前提になります。いまお二人が言った通りにはならないので、きちんと話し合ったほうが良いのではないでしょうか?」

 きちんとスコットとレンネの希望を聞いたうえで、スライムを飼うべきかどうかを話す考助に、二人は納得の表情になった。

 レンカに狼を与えたときは、一人に対して複数を用意したので大丈夫だったのだが、夫婦の場合はこうした事情が発生する。

 今後の生活を考えたうえでしっかりと話をするようにと言った考助に、スコットとレンネはどうするべきかを話し合い始めるのであった。

ちなみに、適性というのはあくまでも初対面時の相性なので、ずっと同じ場所で過ごしていればいずれは仲良くなることもあります。

・・・・・・が、仲のよくないモンスターとずっと一緒にいるということがまずありえないので、結局適性が重要ということになります。


※明日の更新はお休みいたします。m(__)m

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