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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(7)アレクの屋敷にて

 アレクの屋敷に戻った考助たちは、きちんと結界を張ったうえで話し合いをしていた。

 勿論、中にはアレクも混じっている。

 今回の件についてアレクに話をすることは、きちんとレオナルドから許可をもらっている。

「それで? コウスケの見立てでは実際どうなんだ?」

 いきなりそう聞いて来たフローリアに、考助は苦笑を返した。

 その考助の代わりに、シルヴィアが落ち着くような仕草をしてから言った。

「フローリア。気持ちは理解できますが、まずはアレクさんに話をしてからですよね?」

 アレクは、家に戻ってきたフローリアに引きずられるようにしてこの部屋に入って来た。

 さらに、いきなりコウヒが厳重な結界を張ったとなれば、何かが起こったのだとわかって、表情を硬くしていたのだ。

 アレクもマクシム国王を見舞っているので、厳しい状況なのはわかっている。

 フローリアの様子に、もしやという思いが掠めたのは、当然のことだろう。

 

 そのアレクに短く謝罪したフローリアは、簡単に城内であったことを話した。

 そして、王の私室にある力について話を聞いたときには、小さく唸りながら首を傾げた。

「病を軽減する力だと……? ううむ。聞いたことがないな」

 アレクならもしかしてと多少は期待していたフローリアは、がっかりしたような顔になった。

 そのフローリアに向かって、アレクはさらに続けた。

「そもそもそんな力が元からあるのであれば、父上のときに話が出ていると思わないか?」

 そのアレクの言葉に、考助たちは確かにと同意するように頷いていた。

 

 アレクが言った「父上」というのは、前国王であるフィリップのことだ。

 勿論、フィリップがマクシムだけに語ったということは考えられなくはないが、それなりにあった闘病生活の間に誰にも気づかれなかったというのは考えにくい。

 ――と、ここまで考えたアレクは、ふと考助を見た。

「まさか、他の人には気づかれにくいとかは……?」

「どうでしょうか? シルヴィアはすぐに気付けましたけれど……」

 考助はそう言いながらシルヴィアを見た。

 こういったことに関しての自分の感覚は、神としてのものか、一般的にある感覚なのか、考助には分からなくなっているところがあるのだ。

 

 考助から視線を向けられたシルヴィアは、首を小さく左右に振ってから答えた。

「どうでしょうか。あの場にあった力は、聖職者の中でも特別な訓練を受けた者だけが気付けるようなものの気がします。あくまでも受けた感じですが」

 更にシルヴィアは、対象者が一国の王であるだけに、その『特殊な訓練」を受けた聖職者が見ている可能性はありますが、と付け加えた。

 そのシルヴィアの言葉のあとに、一同の視線がアレクへと向かった。

「・・・・・・ううむ。確かに、神殿の高位者が出入りしている可能性はあるだろうが・・・・・・情報を抑えるためにあえて呼んでいない可能性もある。微妙なところだな」

「いや、待ってください。それでしたら、そもそもあの場で王妃や王子が首を傾げることはないのでは?」

 考助のもっともな言葉に、他の面々はようやくそのことに気付いたという顔になった。

 

 ただし、アレクがそう考えたのも無理はない。

 何しろ、考助たちの出入りは簡単に認められたのだ。

 高位の聖職者を招いていたとしても、何ら不思議はないだろう。

「・・・・・・ここでこれ以上考えても分からんな。それに、今重要なことはそのことではないだろう?」

 アレクのその言葉に、フローリアが頷いた。

「そうだな。そもそもあの場にあったという力は、一体なんだ? あの場では話せなかったこともあるのだろう?」

 ここでようやく、フローリアが屋敷に戻ってからいきなり言った言葉に戻ることが出来た。

 

 言い逃れは許さないという視線になっているフローリアに、考助は苦笑をしながら答えた。

「いや、あの部屋で力を感じたときに一瞬思ったんだけれど、人が使う聖法よりも、例えばスーラが使うものに近いかなと思っただけだよ」

 考助がそう言うと、シルヴィアとフローリアは、納得した表情になりながら唸った。

 それは確かにあの場では言えるはずもない。

 さらに、スーラがなにかは分からなかったアレクは、シルヴィアとフローリアの反応を見て、まさかという顔になった。

「・・・・・・陛下が、マクシム兄上が、魔物を使っている可能性があると?」

「魔物か、聖獣か、どこに属しているかはわかりませんけれどね。それに、フッと思っただけで、合っているかどうかはわかりませんよ?」

 考助はアレクにそう言ったが、他の者たちはその言葉を真剣にとらえていた。

 こういったときの考助の勘は、大方外れたことはない。

 まさしく、現人神としての『神託』として、シルヴィアたちには捉えられているのだ。

 もっとも、考助にしてみれば、外れることもあるので恥ずかしいばかりなのだが。

 

 シルヴィアとフローリアの反応に、アレクもまじめな顔になって首をひねった。

「王家に伝わる従魔の類か? ・・・・・・そんな話は聞いたことがないな」

「私もだ。それ以外にも、もしかしたら眷属、あるいはその血族を譲られたとかはないか?」

 塔の眷属であれば、たとえ直接の主ではなくても従った相手には従順になる。

 それは、考助が与えた眷属たちを見ていればよくわかることだ。

 そうした存在であれば、一代限りではなく、血族たちを見守っていてもおかしくはないだろう。

 とはいえ、どうやって代々の主を判別しているかは不明な点として上げられるが。

 

 そこはアレクも気になったのか、首を左右に振った。

「さすがにそれはないだろう。そんなものが存在していれば、流石に王族には伝えているはずだぞ」

「それもそうだな」

 代々密かに眷属や従魔が仕えていたとしても、王族の誰かにまったく気付かれずにいるというのは、流石に不可能に近い。

 アレクやフローリアがそうした話を一度も聞いたことが無いというのは、絶対とはいえないが、まずありえないことなのだ。

 

 ここで、フローリアとアレクの視線が、考助へと向いた。

 言葉はなかったが、ふたりが何を言いたいのかはすぐに察することが出来た。

「いくらなんでも、眷属以外のモンスターがいるかどうかまでは分からないよ。近くにいるならともかく」

 眷属であれば、たとえ距離が離れていたとしても、意思を伝えてくるものはいる。

 だが、眷属以外となると、それこそ近い距離じゃない限りは、考助にも見つけることは出来ない。

 

 そもそもそんなモンスターが近くにいるのだとすれば、コウヒが気付かないはずがない。

「確認するけれど、そんな気配は感じなかったよね?」

 一応考助がそう確認したが、コウヒはすぐに頷いていた。

 あの場にモンスターが紛れ込んでいれば、間違いなくコウヒが動いただろう。

 だが、その気配はまったくなかったため、考助もその可能性は最初から捨てていた。

 

 考助とコウヒのやり取りに、フローリアはため息をついた。

「では、まったく見当がつかないな。まさか、通りすがりのモンスターがいて、偶然にも魔法をかけて行ったわけではあるまい」

「そんな偶然があるなら、私も是非授かってみたいな」

 愛娘フローリアの言葉に、アレクは苦笑しながら話に乗った。

 そんなことがマクシム国王の身に起こっていたとすれば、それこそ美談として語られてもおかしくはない。

 早い話が、いまフローリアが言ったことは、あり得ないことというわけだ。

 

 だが、そんなフローリアとアレクに、シルヴィアがとある質問を投げかけることになるのであった。

まさかのモンスターの疑い(予感 by考助)でした。

さてはて、実際のところはどうなのでしょうか?w


※更新連絡

六巻原稿の作業が来たので、今回も土日の更新をお休みさせていただきます。

……週一の休みにするのとどっちがいいのでしょうね?

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