第十六話 愛が重いよ、愛が。
投稿時点(6.14 朝5時)でジャンル別日間一位に!! 皆様のおかげです、ありがとうございます。本当に嬉しいです!! きっと、クソゲーと呼ばれた『わく学』も草葉の陰で喜んでいるでしょう……
「……おはようございます、ジーク様」
「……目の下のクマ、凄いぞ? どうしたんだ、お前? 眠れなかったのか?」
「ええっと……まあ」
翌日。我が家に来たジークは挨拶もそこそこに私の顔を見るなり驚いた表情を浮かべた後、心配そうにそう問いかけて来た。私の目の下のクマ、そんなにやべーですか、そうですか。
「……なんだ? まさか楽しみ過ぎて眠れなかったという訳では無いだろうな?」
「そんな遠足前の子供じゃないんですから」
「いや、お前は充分子供だと思うが……では、どうした? なにかあったのか?」
「……ちょっと貞操の危機と戦っていました」
「て、貞操の危機!? な、なんだと! ど、どういう事だ!! 誰にだ!!」
私の言葉に狼狽するジーク。ああ、そっか。私、ジークの婚約者だし、そんな事言われたら思う所もあるか。
「……主に、あの子に」
そう言って親指でくいっと――なんだか昨日より『つやつや』した顔を浮かべながら、スカートの裾を摘まんで頭を下げるリリーを指差す。
「……リリアーナ嬢に?」
「後はメアリですかね? とんだ辱めを受けました」
……本当に。そもそも、『たとえクソガキと言えども男は男です。身だしなみを整えていないとアリス様が軽く見られてしまうでしょう』とかなんとか言われ、メアリとリリーに手足をがっつりとホールドされてお風呂場に連れ込まれたのだ。私も抵抗はしたのだが……アレだ。熊と猪を素手で仕留める野生児に、七歳児の一般的な貴族令嬢が勝てるわけもなく、裸にひん剥かれて体の隅々まで洗われた次第である。
「……もう、お嫁に行けない……」
顔を手で覆ってしくしく。本当に。その上、夜寝るときはリリーとメアリに両サイドから挟まれてたし。二人とも、なんだか鼻息荒いし!! マジでヤバいって、アイツら。『わく学』って年齢制限ないゲームなんですけど!!
「お、お嫁にって……し、心配するな、アリス。お前は俺の妻になる女だ」
「……もう無理かも知れません。あんな辱めを受けて」
「だ、大丈夫だ! 相手は女性だろう? 傷は浅い! 犬に噛まれたとでも思ってだな!?」
「……如何に殿下と言えども、『犬』は失礼ではありませんか?」
必死に私を慰めるジークに一歩歩みを進めるリリー。ひ、ひぃ! なんかリリーを見てると昨日の悪夢がよみがえってくるんですけど!!
「そ、それは失礼した、リリアーナ嬢。だ、だがな? どうなんだ、コレは? アリス、明らかに怯えてるじゃないか! 何をしたんだ昨日!?」
「文字通り、『隅々』までアリス様をお洗いして差し上げたのですわ。生まれたままのアリス様のお姿……本当にお美しかった。しかも、照れてしまわれたのか恥ずかしそうにお姿を隠そうとする姿は……はふぅ」
とても七歳児とは思えぬほど、頬を上気させてうっとりする様な表情を浮かべて見せるリリアーナ。ぞっとするほど妖艶なその姿に、なんだか思わず私も赤面してしまう。
「あらあら? アリス様も満更では無かったのですか? そのように顔を真っ赤にされて」
「ち、違わい! 恥ずかしいだけだい! じ、ジーク様!? 違うからね!!」
「嫌よ嫌よも好きの内」
「な、なんだと……あ、アリス。まさか……」
「だから違うって言ってんでしょ、リリー!! じ、ジーク様ぁ……信じてください……」
嫌だ。流石にイヤだ。BLもGLも、理解は示さない訳では無いし差別をするつもりも毛頭ないが、私自身はノーマルだ! 流石にこんな誤解のされ方はイヤすぎる!!
「……」
「……じ、ジーク様?」
「……お前は俺を殺すつもりか」
顔を真っ赤に染めながら口に手を当ててそっぽを向くジーク。え? え? な、なに?
「うわー! ダメです、アリス様!! 男はケダモノなんです! そんな、『潤んだ瞳で上目遣い』なんて最高に愛らしい必殺技使ったら、アリス様なんて簡単にぱっくんちょされちゃいますよ!! 殿下から離れて下さい!!」
そう言いながら殿下から私を無理矢理引っぺがすリリー。どうでも良いが、男がケダモノならお前は野獣だぞ、マジで。昨日の一件もだけど、能力的にも。つうか、『ぱっくんちょ』ってなんだ、『ぱっくんちょ』って。
「だ、誰がケダモノだ! お、俺は立派な紳士だぞ!」
「どうでしょうかね? じゃあ聞きますが殿下? 昨日、私はアリス様と一緒にお風呂に入りました。一糸纏わぬ、生まれたままのアリス様とです」
「? それがどうした? 風呂なら服を着ないのが普通だろう?」
「そうですね。『一糸纏わぬ』アリス様です」
そう言ってリリーは不敵に笑い。
「想像してみて下さい、殿下。綺麗でしたよ、アリス様」
「……」
「――見たくないですか、殿下? 一糸纏わぬ、生まれたままのアリス様を」
……おい、ジーク。ごくりと生唾、飲むな。
「……えっち」
「っ!! ち、違う!! こ、これは想像した訳ではないから! そ、その……あ、アレだ!!」
「ほーら! アリス様? やっぱり男はケダモノなんです。幾ら殿下と言えども中身はただのオスです! 七歳児とか関係ないんですから!!」
「だ、誰がケダモノだ! リリアーナ嬢、流石に不敬だぞ!!」
「不敬で結構!! アリス様をお守りするためなら、我が身を差し出す事など造作もありません!! 殿下の魔の手からアリス様をお救いしたとあれば、我が父、スワロフ子爵も歓こびましょう!!」
「魔の手って!! いや、俺とアリスは陛下も認めた婚約者だぞ!? 別に魔の手ってワケじゃないだろう!?」
「魔の手です! その婚約だってイヤイヤなんでしょう? メアリ様からお聞きしました!! そんな殿下に、アリス様はお渡ししません!!」
「うぐぅ!?」
あ、ジーク、クリティカルヒットっぽい。そっか。なんかイヤにジークを煽るなって思ったら、そう云う背景があったのね。
「しかも、言うに事欠いてアリス様より私の方が良い? 見る目無さすぎです、殿下。アリス様と私など、月とスッポン、提灯と釣り鐘、天と地ほどの差です!」
「今、まさにそう思っている!! っていうか、リリアーナ嬢、流石に猫を被り過ぎじゃないか!? 今までの態度はなんだったんだ!?」
「それはそうでしょう。殿下と私に利害関係がない以上、殿下の前では淑やかに振舞います。子爵令嬢ですし。ですが、私の敬愛するアリス様を傷つけたならば、コレは話が別です。全力で殿下を排除しますよ? ねえ、メアリ様?」
「当然です。無論、その際はメロウェーズ男爵家も公爵家の、アリス様の為に戦うでしょう。殿下、私は殿下だろうがなんだろうが一切の躊躇はしません。首を取るなど物騒な事は申しませんが……そうですね、殿下の『大事な所』を踏みつぶしてご覧にいれましょう」
「お前の所の寄子、怖すぎだろう!?」
……確かに。私だって怖いし。
「その……殿下? ああは言っていますが、別に本心では無いです」
「そうか? あれは確実に本心だろう」
「あ、それはそうかもですが……じゃなくて、別に謀反の意があるとか、そういう意味合いでは……」
流石に不敬が過ぎるからな、これは。そんな私に、ジークは呆れた様にため息を吐いた。
「……分かっている。アリスを大事にしないと許さないとか……そういう意味だろう、リリアーナ嬢、メアリ嬢?」
「……有体に言えば、そうです」
「本来であればアリス様を傷つけた罪、許されるものではありませんが……王子ですので。権力の力でアリス様のお側に居られている事を弁えて頂ければ」
「は、ははは……手厳しいな、メアリ嬢は。だが……そうだな。アリスは傷つけないさ。全力で俺が守る」
「別に良いですよ? 殿下が守れなければ、私がずーっとアリス様をお守り致しますし」
「……そうはならない様にするさ、リリアーナ嬢」
そう言って、殿下はなんだか吹っ切れた様に笑って――
「――それで? 茶番は終わったのか?」
――殿下の笑顔がピシッと音を立てて固まる。顔には『あ、やべ』と言わんばかりの焦った表情が浮かんで。
「わざわざ来てやったというのに……いい度胸だな?」
額に青筋を立ててこちらを睨む少年――ラインハルト・バッテルの姿がそこにあった。っていうか、少年。お前も充分不敬だぞ、おい。まあ、このゆるさが『わく学』か。
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