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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
七章 精弓
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89話 神域






 時間は少しばかり遡る。サトゥンの生み出した異空間、その内部にて溜息を零して落ち込む少女が一人。

 勿論その少女が誰かは言うまでもない、ミレイアである。シスハによる不意打ちをサトゥンが機転をきかせてミレイアを守った結果、彼女は異空間にて保護されたのだ。

 だが、そのことにミレイアは溜息をつくばかりだ。少しでもサトゥンの力になれればと思った。彼の勝利を信じて、最後まで彼の戦いを傍で見守ると決心していた。それがシスハと向き合って戦闘開始と同時にこの状態では落ち込みもする。

 サトゥンに一人安全な場所で守ってもらい、彼の戦いを見届けることもできない。これでは完全に足を引っ張っているだけで、邪竜王との戦いのときと何も変わっていないではないか。

 自責から溢れ出る感情、情けないと思ってしまう心が、ミレイアの視界をじんわりと滲ませる。瞳をごしごしと拭いながら、ミレイアは思う。昔の自分なら、こんな感情は持たなかっただろうな、と。

 守って貰うのが当たり前だと思っていた。戦えないのが当然だと思っていた。だけど、今はそれが悔しくて悔しくてたまらない。

 大切な仲間たちが命をかけ、必死で戦っているのに、自分は何一つ力になれない。それを嫌だと思える自分が今、確かにここにいる。

 それはミレイアの成長の証でもある。彼女はサトゥンたちと旅を重ねることで、確実に変わっていった。何もできない怯えるだけのお姫様から、誰かのために立ち上がれる人に。

 そんな風に自分を責め、無力さを痛感するミレイアだが、彼女の頬に腕の中からリーヴェが手を伸ばして軽く押し当てる。

 リーヴェの視線に気づいたミレイアは、腕の中の猫に対して首を傾げる。


「リーヴェ?」

「あの喧しい小僧を信じると決めたのじゃろう? その小僧を信じたお前がここで落ち込んでも仕方なかろう」

「でも……私だけ、みんなの力になれなくて」


 しゅんとするミレイアに、腕の中のリーヴェは仕方ないとばかりに彼女から離れ着地する。

 そしてミレイアに向かいあうように腰を下ろし、軽く伸びを一つして、小さな口を開く。


「あの女の狙いがお前であることは理解しておるな?」

「……シスハ様ね。もちろん、理解しているけれど」

「あれは実に厄介な女でな。あの小僧に対する妄執は常軌を逸しておる、下手をすれば利用するはずのミレイアすらも壊しかねないほどじゃ。それを小僧は感じ取ったんじゃろう。だからこそ、お前をここに避難させることで狙いを小僧一人に絞らせたのじゃろう。あ奴を倒さねば、ミレイアは手に入らぬと最初に示したのじゃ」

「リーヴェ、シスハ様を知っているの?」

「知っておる。シスハという人間の小娘は知らぬが、『あの女』は嫌というほどにな」


 一度言葉を切り、リーヴェは視線をミレイアから切り、一度瞳を閉じて集中する。

 そして、魔力を昂らせ、その瞳を強く見開いた。刹那、リーヴェの視線の先に生まれるは巨大な光球。

 水晶のように透き通る光球、その中に映し出される光景にミレイアは思わず声をあげてしまう。そこに映し出されていたのは、グランドラと対峙するサトゥンの姿だ。


「サトゥン様っ!」

「見届けると決めたのならば、その手助けくらいはせねばな」

「ありがとうございます、リーヴェ!」


 リーヴェに礼を言い、光球の中で戦うサトゥンを必死に応援するミレイア。

 その姿を眺めながら、リーヴェはそっと言葉を紡ぐのだ。


「ミレイアよ、お前の癒しの力が不要というのは、ちと早計かもしれぬぞ。あの女は……私が知るあの女は、そんな『生温い』ものではないからの」

















 リーヴェの不安を置き去りにして、戦場は加速する。

 サトゥンとグランドラの戦い、それはまさしく一方的なものとなっていた。サトゥンが恐ろしい程にグランドラを圧倒していたのだ。

 黒き魔力の焔を体に纏わりつかせ、己が肉体のみで戦うサトゥンに対し、グランドは一太刀すら入れることができずにいた。

 剣と剣での戦いのときとは、まさしく立場が完全に入れ替わっている。それほどまでに、サトゥンはグランドラを封殺していたのだ。

 大地を蹴り、剣を振りかざしてサトゥンに斬りかかるグランドラ。その刃を、サトゥンは口元を吊り上げながら繰り出した蹴りで受け止める。

 激しい衝撃を発生させてもなお、サトゥンの体は揺るがない。一本足で力強く大地を支え、足で剣を受けとめたまま言葉を紡ぐ。


「なるほど、理由は分からぬが、お前の戦い方は恐ろしいほどに私の剣と酷似している。私の剣が先読みされて当然だ、同じ剣の使い手ならば自分がやろうとすることを先読みして剣を振るえば良いだけなのだからな。だが――裏返せばそれは私も同じことなのだぞ?」


 足で剣を受けとめたまま、サトゥンは両の掌に黒き魔弾を生みだし、容赦なくグランドラへと叩きつける。

 魔弾に触れ、激しい爆発に巻き込まれてなおサトゥンへと突き進もうとする重鎧に、サトゥンは容赦なく踏み込み左拳を強引なまでに叩きつけた。剣で受け止めてもなお衝撃を押し殺せず、グランドラは再び大地へ幾度と叩きつけられてしまう。

 それを悠然と見下ろしながら、サトゥンは黒き炎を纏わりつかせた拳を握りしめながら、笑って告げるのだ。


「お前が私の剣を読めるように、私もお前の剣が手に取るように理解出来る。お前の姿はまさしく私が『勇者』として『理想』と思い描いていた剣技なのだからな。そのようになりたいと願い、私は何度も剣を振り続けたのだ。ならばこそ、この私に読めない道理があるまい? そして、どうやらお前は私の剣以外の戦い方は読めないようだな」


 立ち上がろうとするグランドラに対し、サトゥンは容赦なく追撃を放つ。彼の突き出した右腕、その五本の指から放たれるは黒き光槍。

 それは正確にグランドラの体を貫いていく。左腕を吹き飛ばし、両足を潰し、心臓を抉り、腹部を貫通し。

 対人間ではなく、対魔獣、対魔人として磨き抜かれたサトゥン本来の強さ。それは無慈悲に、そして容赦のない蹂躙制圧するための魔神の力。

 決して人間界では振るわれなかった真の力の前に、グランドラは攻めに転じることすらできない。自己修復能力もサトゥンの攻撃に追いつかないのだ。

 右手の光撃でグランドラを貫いたまま、それをサトゥンは宙へと向けて、串刺しのまま彼の体を空へと運んでいく。

 足掻こうとするグランドラだが、光の槍は彼の体を捕えて放さない。その姿を見上げながら、サトゥンは笑って告げる。


「喜ぶがいい。このサトゥン相手にここまで力を解放させたのは実に久しぶりのことなのだからな。だが、私にはお前と遊び続けるつもりなど微塵もない。お前を倒し、そこの小娘をお仕置きして事件解決だ。人々を救い、仲間たちの想いに応え、ラージュの笑顔を見届け、そしてキロンの村に帰る。クハハッ! さあ、終幕としようではないか!」


 光の槍を己が元へと引き戻し、体を固定されたまま引き寄せられるグランドラ。その先に待つのは、己が魔力を解放し、左拳に圧縮された黒き魔力を集めるサトゥン。

 何とか逃れようと必死の抵抗を行うが、サトゥンがグランドラを逃すことは無い。彼が魔人界において、捕えた獲物を逃したことなどただの一度とてないのだから。

 その身は冷酷冷静な狩猟者。そしてグランドラは逃げ道を奪われた哀れな獲物。そう、もはやこの戦場において戦いなどというものは成立していない。以前のサトゥンとグランドラの戦い、それをそっくりそのままサトゥンがやり返してみせたのだから。

 相手の手札全てを読み封殺するサトゥン。逆にサトゥンの『真』の戦い方を読めず、圧倒的な力の前にねじ伏せられるグランドラ。

 目前まで迫ったグランドラに対し、サトゥンは白い歯を見せながら笑い、己が力の全てを込めた左拳を全力で振り抜いた。

 剣を挟めず、衝撃を押し殺せず。正面からサトゥンの全力の一撃をくらったグランドラは闘技場の壁へ叩きつけられ、その場を完全に崩壊させてしまった。

 瓦礫に埋まるグランドラを見届けながら、サトゥンは楽しげに胸を張って宣言するのだ。


「勝敗は決したであろう。何度立ち上がろうとお前は最早私には決して届かぬ。二人がかりならば状況は変わるかもしれぬが、どうやらお前の主にその気はないようだからな」


 語りながらサトゥンは視線をシスハの方へと向ける。彼女はボロボロになったグランドラに興味を微塵も示そうともせず、不愉快そうな表情でサトゥンを睨みつけたままだ。

 サトゥンが力を解放し、グランドラ相手に圧倒していても、シスハは一瞬驚きをみせたものの、それだけだ。劣勢のグランドラに対し助力を行うこともサトゥンを妨害する事もない。

 ただただサトゥンの攻勢をつまらなさげに睨むだけだ。ゆえにサトゥンはグランドラとの戦いにのみ集中する事ができた。

 己の真の力を解放し、グランドラの剣を読むサトゥンに最早敗北はない。仲間たちの想いを背負い、必ず勝つと決めたサトゥンに敗北などありえない。

 軽く息をはき、サトゥンは空を見上げる。いつのまにか紅結界に染まっていたはずの空は崩れ始め、隙間からは青空が顔を出し始めている。

 それはすなわち、仲間たちがフリックを打倒したことの証明でもある。それに気付いたサトゥンは笑いながらシスハへ訊ねかける。


「クハハッ、どうやらお前の計画は完全に崩壊したようではないか、小娘よ。ラージュたちがフリックを打ち倒したことでエセトレアの人間たちは解放されただろう。何を企んでいたのかは知らぬが、お前の企みは我ら勇者と英雄によって打ち砕かれたという訳だ!」


 嬉々として語るサトゥンだが、シスハは彼の言葉に微塵も反応しない。それこそ不気味なまでに口を閉ざし、冷酷な視線でサトゥンを睨むだけ。

 その無反応さに若干の違和感を覚えるものの、調子に乗ったサトゥンは止まらない。これまで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、サトゥンはシスハへ向けて言葉をぶつけていくのだった。


「フリックとグランドラは倒れ、残る仕事はお前をお仕置きするだけである! さて、どうしてくれようか! これだけの人間を巻き込みやりたい放題してくれたのだ、ただで済むとは思っておるまいな! グランドラとは違い、お前は人間であるようだからな。私が傷つけたり命を奪ったりすることはできぬし、やるつもりはないが、何もお咎めなしに許してやれる筈も無し! 私はキロンの村で学んでいるぞ! 悪いことをやった子どもには、愛を込めて尻を叩くことで二度と過ちを繰り返さぬよう教えるのだと!」


 右手に魔力の焔を集め、サトゥンはその場で一度二度と空を切るように鋭い素振りを行う。

 サトゥンの振るう掌、その衝撃によって周囲の大地が衝撃波によって抉られていく。魔神の力を込めた掌、そんなもので尻を叩かれてしまえば、人間の下半身はあとかたもなく吹っ飛んでしまうだろう。

 脅しの意味も兼ねているのかもしれないが、シスハは当然のように動じることもない。そんな彼女にサトゥンは指を突き付け高笑いと共に宣言するのだ。


「全ての元凶である小娘よ! お前への罰は勇者による愛の尻叩き百回とする! 勇者が愛を込めて尻を叩けば、どんな凶悪な魔物であろうと心洗われて正義の使徒となる! まさしく我が右手は浄化の右手、今この瞬間こそが後の歴史書に残すべきワンシーンである! これはミレイアに是非とも語り継いで貰わねばなるまいよ! 村の子どもたちの心もぐっと鷲掴みできるに違いないわ!」


 嬉しそうに語っているサトゥンだが、やろうとしていることはうら若き女性の尻を叩くことにウキウキとしている大男というえげつないものだ。

 村の子どもたちはおろか、仲間の女性陣からドン引きされそうな内容であるが、村で学んだ正しいこととして信じ切っているサトゥンが決行を止めるつもりはないようだ。

 罰を与えるため、フハハと高笑いしながらシスハへ一歩、また一歩と足を進めるサトゥン。彼女との距離を詰めようとしたとき、積み上げられた瓦礫が吹き飛ばされ、その中から剣を杖に立ちあがるグランドラの姿が現れた。

 左手は失われ、足は砕かれ、なお右手で聖剣グレンシアを握り立ち上がろうとするグランドラ。その姿に頭痛を覚えつつ、目を細めながら、サトゥンは笑みを消して言葉を紡ぐ。


「死体となっても『勇者リエンティ』か。その戦う意思、挑み続ける強さは見事、流石は我が憧れ続けた勇者と賞賛したいが……もう止めておけ。いくら奴がリエンティであろうと、聖剣グレンシアが本物であろうとも、『中身』の伴わぬ死体に私の背負った『想い』は斬れんぞ」


 サトゥンが忠告する相手、それはグランドラではなくシスハだった。

 グランドラが己の意思を持たぬただの傀儡であることはとうの昔に理解している。だからこそ、グランドラが自らの意思で歩みを止められるはずもない。彼はただ、己の体が消滅するまで命じられるままに剣を振るい続けるだけしかできないのだから。

 ゆえにサトゥンはシスハにその言葉を口にしたのだ。グランドラに命令を下した、シスハ本人に。

 サトゥンの言葉にこれまで黙して睨み続けていたシスハがようやく反応を見せる。軽く息をつき、つまらなさげにシスハは手のひらをグランドラへと向けた。

 命令を解除すると考え、口元を緩めかけたサトゥンだが、次の瞬間、信じられない光景が視界へと入ることとなる。

 剣を杖に必死に立ち上がろうとするグランドラ。彼の周囲に光が溢れたかと思うや否や、彼を取り囲むように現れる十二の光の剣。

 驚愕に目を見開くサトゥンだが、彼が声を発するより先に、シスハはその光の刃をグランドラへ向けて容赦なく解き放ったのだった。

 雨のように降り注ぐ光の剣、その全てがグランドラへと突き刺さり、激しくその身体を切り刻んでいく。溢れ出る黒き鮮血が大地を染めていく。

 重厚の鎧を何の抵抗もなく切り裂く光の剣、その斬れ味はサトゥンが生み出し英雄に与えた武器にも比肩する。グランドラを切り刻み終え、自ら自立することすら叶わぬほどに『分割』を行い、光の剣は空へと霧散する。

 そして、グランドラだったものの付近に空間の断裂を生み、そこから伸びた青白き手によって『リエンティの遺骨』と『聖剣グレンシア』を回収しながら、シスハはやっと口を開くのだった。


「……つまらないわね。『魂』を探しだして封じなければ、所詮はこの程度。死してなお、リエンティには不快にさせられるわ。この程度の男にすら手も足も出ないなんて話にならない。やはり活用するなら、魂の所在も明確にして無理矢理封じなければ駄目ね」

「貴様……いったい何をしている。意思なきとはいえ、グランドラはお前の命じるままにお前の為に戦い抜いた。それを貴様……」

「道具を再利用するために回収しただけよ。『リエンティ』の手によって殺されることが一番の意趣返しになるかと思ったのに、本当につまらない結果になってしまった。空を見る限り、あの男も失敗したようだし……本当、この国に来て不快な気分ばかり。やはり人間は使えない塵ばかりだわ」


 何の感情もなく、冷酷に言い放つシスハ。その言葉全てにサトゥンの心に抑えきれない怒りの炎が灯る。

 確かにグランドラは遺体のつぎはぎ、命じられたままに動く人形であった。だが、それでもグランドラはシスハのために戦い続けたことも事実。

 人間界を訪れ、サトゥンは仲間との絆を何より強く学んだ。魔人界から訪れる前は、人間界に来て人間に勇者としてちやほやされることしか考えていなかった。だが、人間界で出会ったリアンや仲間たちに触れ、彼は本当に大切なことを知った。人にもてはやされることも心地よい、しかしそれ以上に譲れない宝物、誇れる存在があることを学んだ。

 今、目の前で行われたシスハの行動はそんなサトゥンの心に怒りを芽生えさせるには十分過ぎる行為だ。共に戦ってくれた仲間を仲間とも思わぬ、ひたすら冷酷に見下し使えない塵と罵る。これを怒らずして何を怒るだろう。

 普段はただ只管に楽しげに笑い、何をされても怒ることはないサトゥンがここまで怒りを発露する姿は有り得ない。瞳を吊り上げ、歯を食いしばり、射殺さんばかりの視線をシスハにぶつけながらサトゥンは言葉を吐きだすのだった。


「先ほどの言葉、その全てを取り消せ。貴様の言動の全てが癇に障る。人間相手にこれほどまでの怒りを覚えたのは初めてだ」

「取り消したところで何か変わるのかしら。それに、癇に障るのは私も同じこと。いつまでも『その程度』で調子に乗られるのも本当に不愉快だわ。そして私を『人間』などという下らぬ塵と見做していること。これが一番何よりも不快なのよね」

「……なんだと?」

「ふふ、哀れな男。生まれ変わった先がその程度の力しか与えられなかったなんて――それでは私の十分の一にも届かないと、最初に告げた筈よ」


 その刹那、シスハの身体が眩い黄金の輝きに包まれる。

 溢れんばかりの光の奔流がエセトレア中を照らすほどに眩く放たれる。その光の嵐が収まったとき、サトゥンの視界の先にシスハの変容した姿があった。

 小麦色だったはずの髪が薄金色へと代わり、その髪は腰を超える程に真っ直ぐ伸びて。そして、それ以上に目を奪われるのは、背に生えた六枚の白き翼。クラリーネ同様、けれど彼女の物とは比べ物にならないほどに神々しき純白の羽が広がっていた。

 だが、サトゥンが驚愕したのはそこではない。彼女の体に溢れる強大な力。シスハから感じられるその力はサトゥンの魔人として幾千年の経験の中でも見たことがないほどに大きな力だったのだから。


「この力……かつての私やカルヴィヌと同等以上だとでも言うのか。まさか『魔神級』の力を持つ者がこの世界に存在していたとはな。なるほど、全てに納得がいった。人間ではなく魔人ならば、弱者を塵と見下すのも不思議ではない」

「私を掃き溜めの連中と一緒にするなとも言った筈だけど。まあいいわ、もう不快な気分になるのはこれで終わり。計画が壊れた今、まずはお前を処分してしまいましょう。そしてミレイア以外の全てのこの国の人間を殺して間引きする。あとはそうね……お前をこの世界へ送る『裏切り』を犯したあの女の始末もしなければね」

「勝った気で物を語るには早いのではないか? それに、私たちがそのような蛮行を許すと本気で思っているのか」

「勝ち負けを語る段階は終えているのよ。これから始まるのは一方的な虐殺。お前が私に殺される、ただそれだけよ」

「私を殺すとは大きく出たな。クハハハッ――やってみろ、小娘が。人間に害を為す意思を捨てぬ以上、貴様はここで私が叩き潰す。それだけだ」

「この力を前にしてまだ大口を叩けるのは褒めてあげるけれど――いい加減不快だと、何度言えば分かるのかしら、この塵芥が」


 互いに言葉を吐きあい、胸に激しい怒りを灯して戦いは始まりを告げた。

 体に魔力の焔を身に纏わせ、雷鳴の如き疾さと烈火の如き苛烈さでサトゥンはシスハへと駆けていく。負けられぬ理由、仲間の想い、全てをその背に乗せながら。








七章も残り三話、最後まで頑張ります。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。

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