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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
七章 精弓
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72話 巫女





「お前たち! 大陸最強にして大陸最高を証明した勇者の帰還であるぞ!」


 闘技場での戦闘を終え、仲間たちが待つ客室の扉を力強く開いたサトゥンを仲間たちが出迎えた。

 仲間のなかでもリアンは未だ興奮が収まらない様子で、目を輝かせてサトゥンへ一番に駆けよっていた。


「お疲れ様です、サトゥン様!」

「おお、リアン! ふははは! 勇者の戦い、しかとその目に焼き付けたか!」

「はいっ! 担い手の皆さんを相手に一歩も引かないサトゥン様の戦い、心から感動しました!」

「そうであろうそうであろう! くはは、実に気分が良い! 数多の人間に賞賛され、仲間たちの応援の声を浴び、最高の気分である!

うむ、決めた! 今日は勇者サトゥンが世界に名を轟かせた記念日とする! 名付けてサトゥン記念日である! これは是非とも後世に語り継ぐべき出来事であろう!」

「調子に乗り過ぎ」


 リアンを脇から抱え、ぐるぐると回りながら高笑いを響かせる勇者の脇腹にマリーヴェルの肘打ちが突き刺さる。

 だが、鍛え抜かれた強靭な腹筋はその程度ではびくともしない。調子に乗りに乗って部屋中を駆け回るほどに浮かれた今のサトゥンはマリーヴェルにも止められないらしい。

 大きく溜息をつくマリーヴェルだが、彼女以上に大きな溜息をついている人物の姿に気付き、そちらへと視線を向けた。

 サトゥンが力強く開いた扉から遅れて現れたのは疲れ果てた表情を浮かべるリュンヒルドだ。そして、楽しげに笑うベルゼレッドと穏やかに笑うグレンフォード。

 色々と言いたいことはあったが、マリーヴェルはとりあえず心に浮かんだ率直な想いを兄へと送ることにした。


「なんていうか、お疲れ様」

「……本当に、疲れた」

「はははっ! 若いくせに何を情けないことを言っているんだ! それでは次代のメーグアクラス王は務まらんぞ! もっと豪快にいけ、豪快に!」


 遠くを見つめているリュンヒルドの背中をばしばしと力強く叩くベルゼレッド。どうやら各国の代表席でサトゥンに関して色々あったらしい。

 他国の英雄ともいえる担い手たちをあれだけ一方的に一蹴してしまったのだから、他国の王たちが興味を示さない方がおかしい。

 可哀想かなとも思ったが、担い手をメイアではなくサトゥンに選んだのはリュンヒルドなので、自業自得かとマリーヴェルは同情しないことにしたようだ。

 そして、背後のグレンフォードにメイアが微笑んで言葉をかけていた。


「お疲れ様です。その様子ですと、心を満たすことができたようですね」

「ああ、サトゥンとラージュには感謝している。こんなに充足した気分は久々だ。

気分もそうだが、サトゥンと本気でぶつかることで改めて確信することができた。俺はまだまだ強くなれると」


 満足そうに笑うグレンフォードに、メイアは同じ戦士として感じ入るものがあったのか、それ以上言葉を続けることはなかった。

 サトゥンにとっては人々に注目を浴び、大陸一の勇者として名を響かせるための舞台であったのだが、グレンフォードにはそれ以上の意味が込められていたようだ。

 そんな二人に微笑みを浮かべながら、メイアはしみじみと言葉を紡ぐのだ。


「これでサトゥン様は大陸一の使い手と各国からもみなされたことでしょうね」

「それは間違いない。特にクシャリエの女王とランドレン王の反応が凄まじく……終始サトゥン殿のことを訊ねられた。

一応、この後に予定されている夕食会にて彼のことを改めて紹介するという形で落ち着いたが……」


 メイアに対してリュンヒルドが疲れ切ったような言葉を返した。

 椅子に座り、ミレイアが用意してくれた果実水で一度喉を潤し、再び言葉を続ける。


「そういう訳で申し訳ないが、サトゥン殿には夕食会にも参加してもらうことになる」

「夕食会って……大丈夫なの? サトゥンに作法なんてものを期待したら、それこそ痛い目にあうどころじゃないわよ?」

「それは問題ない。夕食会といっても、立食形式で作法を問われはしない。この国の貴族たちや各国の代表が気楽に楽しめる場を用意するようだ。

だから何も問題はない……と、思うのだが……マリーヴェル、できればお前たちも参加して欲しい」


 言葉尻がどんどん弱くなるリュンヒルド。どうやらサトゥンが夕食会で想像外の大暴走をしないか不安になってきたようだ。

 サトゥンに対する制止役として、何とか彼の仲間たちを夕食会につれていけないかと考えたらしい。

 そんな彼の想いが透けて見えた言葉に溜息をつきつつ、マリーヴェルは肩をすくめて仲間たちを振り返って訊ねかける。


「どうする? サトゥンと一緒に夕食会に参加する?」

「社交界用の服など用意していませんが、構わないのでしょうか?」

「それは問題ない。エセトレア国が服の手配をしてくれる」

「そうですか。それならば」


 参加の意を最初に示したのはメイアだ。彼女は貴族ということもあり、この手の場には慣れているようだ。

 次に反応を示したのは、同じく社交の場の経験がある王族のミレイアだった。少しばかり考える仕草を見せた後、口を開いた。


「私も構わないのですが……その、社交界にはシスハ様もいらっしゃいますわよね」

「シスハ? 誰、それ」

「巫女シスハですね。神聖国レーヴェレーラの代表でリリーシャ教の頂点にたつ女性です」

「そうです。私、メーグアクラスから呼び戻されたとき、シスハ様に何も言わずに国を出て行ってしまったので……その、少し顔を合わせにくくて」

「そういうところはきっちりするミレイアにしては珍しいわね。何、シスハって人が苦手なの?」


 マリーヴェルの茶化すような問いかけに、ミレイアは少しばかり困ったような表情をしながら悩む。

 少し考える間をおいて、ミレイアは苦手を感じる理由を説明した。


「あの方にはリリーシャの巫女となる前から面識があって、とてもお世話になったのです。

右も左も分からぬ私に、あの方はレーヴェレーラでの生活の方法や作法、神魔法のことを優しく私に教えて下さいました」

「話を聞けば聞くほど良い人じゃない。そんな人に対して何も言わずに出て行ったなんて拙いんじゃないの?」

「……人が変わってしまったんです。巫女になる前のシスハ様は明朗快活で、とても気持ちのいい人でした。

ですが、あの方が先代から次の巫女へと指名され、巫女としての任命式を終えた次の日から……別人になってしまいました。

口調も、在り方も、性格も、何もかもが私の知るシスハ様とは変わってしまって……まるでシスハ様の中に、別の人間が入っているかのように」


 それ以来、ミレイアはシスハと会話することができなくなり、結局何も言わずに国へと戻っていったという。

 ミレイアがシスハと顔を合わせ難い事情を聞き、マリーヴェルは納得する。なぜシスハがそれほどまで変わってしまったのかは分からないが、ミレイアが嫌がっているものをわざわざ無理強いすることはない。夜食会は自由参加なのだから。

 そう告げようとしたマリーヴェルだが、いつのまに現れたのか、能天気な笑い声をあげる勇者が輪の中に入ってきて、ミレイアに胸を張って口を開いていた。


「ふはは! お前の事情は理解したぞ、ミレイア! だが、夕食会とて勇者である私の活躍の場、それをお前が見届けない訳にはいかぬ!

なぜならお前は村の子供たちに私の活躍を全て伝えるという崇高な使命があるのだからな!」

「え、えええ……」

「ゆえに強制参加である! がははは! 案ずるな、お前を嫌な目にあわせようとする輩など私の敵ではないわ!

夕食会では常にお前のことを私が守ると誓おうではないか! 勇者を信じろ! 全てを私に委ねるがいいわ!」


 自信満々に言い放って有無を言わせず参加決定を言い渡すサトゥン。どうやら彼女に逃げ場はないらしい。

 ただ、全力で嫌がって逃げるでもなく、ため息交じりに分かりましたと言うあたり、彼女も本気で不参加になるつもりはなかったようだ。

 これでミレイアの参加も決まり、次に口を開いたのはロベルトだった。彼は頭を掻きながら辞退を告げる。


「悪いけど、俺たちは遠慮しとくよ。夜食会なんて柄じゃないしな」

「自由参加だから構わないけど……夕食どうするの? 部屋に運んでもらう?」

「いや、俺とライティは街で食ってくるつもりだ。なんていうか、城の中だけじゃ『空気』が伝わらないんだよな。

街の中に出て、飯を食ったり遊んだりして初めてその国の『空気』ってもんが分かるもんだと俺は思うんだよ」


 ロベルトの言葉に、成程と仲間たちは納得する。今回の目的の一つにエセトレアの内情を知るというものがある。

 鎖国を行い、閉ざされた国の空気を感じるためには城の中だけでは分からない。これでは作られた空気を感じさせられている可能性がある。

 だからこそ、ロベルトは街へ出ようと考えたのだ。それをライティに告げて一緒にいかないかと訊ね、ライティは即座に了承する。

 だが、そんな理由を述べたロベルトだが、ライティは彼の本当の理由について気付いていた。それは、ライティの頭から生える兎耳。

 夜食会という正式な場において、流石にフードを被った者が参加する訳にはいかない。魔法で隠すこともできるだろうが、ロベルトはそんな彼女自身を否定させるような選択をライティにさせなかった。

 彼はただ気楽に笑って、何気ないように一緒に飯を外で食おうぜとライティに言った。彼のそんな気遣いが、ライティは何より嬉しかった。

 そんな彼の気配りに気付いたマリーヴェルは軽く息を吐き、ロベルトに聞こえないようにライティに呟くのだ。


「ちょっとだけ格好良いじゃない、ロベルトの奴」

「うん、世界で一番格好良い」


 真っ直ぐな瞳で迷いなく言い切られると、言われた方が気恥ずかしくなる。マリーヴェルは少し顔を赤らめて『そう』とだけ言葉を返した。

 ただ、ライティの気持ちも分かるのだ。惚れた相手が世界で誰よりも素晴らしく見える恋の魔法とは実に厄介なもので、自身もその魔法がかかってしまっている。

 そんなことを想いながら、マリーヴェルは瞳を自身に魔法をかけた少年の方へと向けるのだが。


「あ、ロベルトさん、僕も街に行っていいですか? 貴族様の食事会に混ざるのは心苦しくて」

「お、おう……俺たちは構わねえけど、その、いや」


 無邪気に訊ねかけている想い人に対し、ロベルトはちらちらと視線をマリーヴェルとメイアに向けながら困ったような表情をしている。

 どうやら彼女の想い人はそのあたりの教育が不十分のようだった。軽く息を吐き、マリーヴェルはメイアと顔を見合わせて頷き合い、リアンに二人がかりで参加するように強く説得もとい強制するのだった。

 女性二人が怒気をはらんでいる理由が分からず、リアンは困ったようにこくこくと頷くのだった。リアン・ネスティ、十六歳。女性の機微にはまだまだ疎いようである。


















 夕食会において、リアンの存在はマリーヴェルとメイアにとって非常に意味のある存在となった。

 パーティドレスに身を包んだ二人に、多くの貴族たちが目を奪われ、次々と声をかけようと近づいて来たのだ。

 マリーヴェルもメイアも恐ろしいほどの美少女であり、冒険者風の服装ではなくドレス姿ともなればこうなるのは当然のことなのかもしれない。

 だが、貴族たちは彼女に近づくものの声をかけることすらできない。誰かが近づこうものなら、彼女たちはすぐに行動を起こすからだ。

 その行動とは、隣に立つリアンの腕と自身の腕を絡ませ、にっこりと微笑む。その仕草はつまり、彼女たちが先約済みであるという意志の表れだった。

 目の前でそんなことをされては『自分はこの男がいるので、お前たちは要らない』と突き付けられたようなものだ。すごすごと退散していく貴族を見つめながら、マリーヴェルは息を吐いて呆れるように言葉を紡ぐのだ。


「なかなか終わりが見えないわね。これだけくっついているんだから私たちの答えなんて分かり切っているでしょうに」

「もうしばらくすれば波も引くでしょう。折角の立食パーティーですから、早く楽しみたいものです」

「あ、あの……二人とも、その」

「何よ」

「……何でもないです」


 おずおずと何か言おうとしたリアンだが、見上げてくるマリーヴェルに対して何も言えず口を閉ざしてしまう。

 彼の今の状態は両手に花を見事に形容した形だった。左腕をマリーヴェルに、右腕をメイアに抱きしめられて完全に身動きがとれない状態だ。

 その状態でもたまらないのに、今の二人はドレス姿。より明確に女性らしさを感じさせ、少女たちの美を意識させる姿がリアンの冷静な思考を奪ってしまう。

 女性に耐性のない、ましてや意識している二人をこれほど近くに感じてリアンがまいらない訳がない。完全に顔は真っ赤になって俯いてしまっている。

 純朴なリアンが明確に二人に対し『女』を意識してしまっていた。その姿が二人にとってなかなか新鮮で心地よさを感じているらしい。

 この夕食会において、リアンの立ち位置はマリーヴェルとメイアを男たちから守る盾と共に二人の玩具となっているようだ。むろん、その気持ちの根源は甘酸っぱい感情によるものなのだが。

 だが、これほど目立ちそうな三人であっても、この夕食会で一番目立っているのは彼らではなかった。

 この夕食会で一番目立っている人物は、高笑いをしながら会場を胸を張って歩いていた。その姿を見て、マリーヴェルは心からの同情の言葉を呟き、メイアは感心したような言葉を紡いでいた。


「頑張れ、ミレイア。私は助けないけど」

「凄いですね。会場の視線をまさに一人占めです」


 彼女たちの視線の先、そこにいたのはサトゥンと薄青色のドレスに身を包んだミレイアの姿がある。

 ただ、リアンたちのように並んで立っている訳ではない。サトゥンがミレイアを軽々と横抱きにしていたのだ。いわゆるお姫様抱っこというものである。

 楽しげに笑うサトゥンとは対称的に、ミレイアの思考は混乱の極地のようだ。完全に目を回し、顔を真っ赤にしてきゃあきゃあと悲鳴をあげている。

 夕食会においてミレイアを守ると宣言していたサトゥンだが、まさかこのような行動に出るとはミレイアも予想外だった。彼女を抱き抱えながらサトゥンは楽しげに周囲に言い放つのであった。


「ふははは! ミレイアは私が守ると誓っておるのでな! この者に用があるものは、まずは私に話を通してもらおうか!」


 サトゥンとミレイアを中心に完成された野次馬の輪。その視線がサトゥンを喜ばせ、注目をあびていると更に上機嫌へとさせる。いわゆる悪循環である。

 そんなサトゥンが夕食会に参加している面々が男女ペアとなっていることが多いことに気付き、とあることに気付いたらしく、集まる男たちに向かって笑って更に言葉を続けた。


「ミレイアと共に夕食会を過ごしたいという男どもがいるようだな! ふはは、笑止! そのような軟弱な体の男に私のミレイアはやれんな!

どうしても共に過ごしたいというのならば、まずは最低限度の体を鍛えて貰おうか! そう、この私のように!」


 何も言っていない男たちに対し、サトゥンは己が肉体をなぜかアピールし始める。

 その姿にマリーヴェルは『父親か』と思わなくもないが、突っ込みを入れて関係者に思われたくもない。

 目を回しているミレイアには悪いが、ここは他人のふりをしようとリアンとメイアを引いて食事を楽しむことにした。

 一人で盛り上がっては注目を浴びているサトゥンだが、野次馬たちが海を割るように引き、そこから現れた人物に視線を向けた。

 そこにはレーヴェレーラの担い手であるクラリーネと巫女シスハの姿があった。彼女の姿を目にして、目を回して意識が朦朧としていたミレイアは、慌ててサトゥンの腕から降り、頭を下げて挨拶をする。


「お、お久しぶりです、巫女シスハ」


 そんなミレイアの姿に、シスハは穏やかに微笑んだままゆっくりと口を開いた。


「久しぶりですね、ミレイア。あなたも変わりなく……いえ、そうではありませんね。

あなたがレーヴェレーラを飛び出したときとは比べ物にならないほどの力に満ち溢れています。驚きました」

「そ、そうでしょうか……ありがとうございます」

「今のあなたならば十分に『神の器』として耐えられるでしょう。ミレイア、私の用件は分かっていますね」


 シスハの言葉に、ミレイアは言葉を返せず黙ってしまう。ただ、彼女の体は意識することなく動いていた。

 サトゥンの背中に隠れることで、彼女の意志は自然と勇者へと伝わった。その想いを受け、勇者はクハハと笑いながらシスハへ向けて口を開くのだ。


「狼藉はそれまでにしてもらおうか! ミレイアが嫌がっているではないか!

ミレイアは私の大切な仲間であり、家族でもある! そもそも人の嫌がることをするなど笑止千万! 人の気持ちを考えぬか!」

「先ほどまで嫌がるこの娘を散々振り回していたお前に言える台詞なのかそれは」


 思わず突っ込んでしまったクラリーネだが、サトゥンは右から左に聞き流していた。都合の悪いことは頭に入らない便利な耳なのである。

 だが、ミレイアを身を挺して守ろうとしているのも事実。彼女と守るように立ち塞がった彼を見つめながら、シスハはゆっくり時間をおいてサトゥンへ言葉を紡ぐ。


「サトゥン、でしたね。その容貌、確かに面影がありますが……ここまで『変えられて』しまいましたか。あの女もつくづく余計なことをしてくれます」

「ぬ? お前は何を言っているのだ」

「今のあなたに用はありませんが……どうやらミレイアと落ち着いて話をさせてくれるつもりもないようですね」

「うはは! 当然だ! 今宵はミレイアを守ると決めた、お前たちが帰るまで道を譲るつもりなどないぞ!」


 サトゥンの言葉に、シスハは息をつき、身を翻して二人の下から去ろうとした。

 その刹那、彼女は二人に対して最後に言葉を残していった。


「ミレイア、逃げられると思わないことです。あなたが次の巫女として『神の器』となる運命からは決して逃れられないことを。

そしてサトゥン、どうもあなたは勘違いしているようなので言っておきましょう。あなたの居場所はこの世界には存在しません。その姿その魂全てがおぞましい。存在そのものが『あの方』への冒涜――消えるべき存在なのですよ、あなたは」


 穏やかな表情と言葉に込められた呪詛にサトゥンもミレイアも驚きを隠せない。

 去っていくシスハの背中を見つめながら、ミレイアは彼女の言葉の意味を考えていた。そんなミレイアにサトゥンもまた興味深げにシスハを眺めながら口を開く。


「ふんむ、出会ったばかりだというのに消えるべきとは穏やかではないな。

シスハとか言ったか、あの小娘の言葉は大いに間違っている。私は勇者でありこの世界の救世主となる男! その私がこの世界に居場所がないなどありえぬからな! がははは!」

「えと、すみません、少々驚きが……あのような強い言葉を発するシスハ様を初めてみたもので。サトゥン様、七国会議で何か気に障るようなことでも……」

「心当たりが微塵もないな! それよりもあの小娘はミレイアに執着していたようだが。『神の器』とはなんのことだ?」

「『神の器』というのは、リリーシャ教において巫女を示す言葉ですわ。

巫女となった者が女神リリーシャの言葉を唯一耳にできることから、そう呼ばれるようになったとのことですが……」

「ふむ、つまりあの小娘はお前を次の巫女とやらにしようとしているということか? ふははは! それは許せんな!

ミレイアは既に勇者を讃えるサトゥン教に身を置いているのでな! 残念ながら女神リリーシャなどにお前は渡さんぞ!」


 能天気に高笑いをするサトゥンに苦笑するしかないミレイア。だが、彼のどこまでも力の抜ける高笑いに元気を分けてもらったことも事実。

 結局サトゥンが再びミレイアを抱き抱えて夕食会を楽しみ始めたのだが、シスハの言葉は最後までミレイアの頭から消えることはなかった。







シスハ「お前を殺す」 サトゥン「早く私を殺しにいらっしゃい!」 次も頑張ります。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。


※6/9 19:35 最後の描写を一部変更、追加を加えました。

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