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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
七章 精弓
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70話 圧巻






 腕を組み、どこからでもかかってこいと高笑いするサトゥンだが、戦況は彼の望み通りとは簡単にはいかないらしい。

 戦闘開始の合図が闘技場に響き渡るや否や、ランドレン帝国のランベルが迷わずグレンフォードへと駆け抜けたのだ。

 大剣を片手で振り抜いたが、彼の一撃をグレンフォードはヴェルデーダで呆気なく打ち払う。距離を軽くとり、グレンフォードは斧を構えたままランベルへと訊ねかけた。


「良い一撃だ。この十年で更に腕をあげたとみえるな、ランベル将軍」

「当然だ。十年前、どこぞの若造に土をつけられてから私は借りを返すために己を磨き続けたのだからな。

お前が追放されたと聞いたときは、ローナンの馬鹿共を怨んだものだが……よくぞ帰ってきてくれた、若獅子グレンフォード!」

「若獅子はよせ。俺はもう昔のように若くはない。欲しいのは大陸一の称号か」

「ランドレン帝国の戦士こそが最強の戦士であると証明しなければならぬ。そのためには、かつてその称号を手にしたお前を倒さねば意味がない。

どうやらそう考えているのは、私だけではないようだがな」


 ランベルの言葉を耳にしながら、グレンフォードは視線だけ周囲を一巡させた。

 彼を取り囲むように、各国の代表が彼へ向けて剣を抜いていたのだ。レーヴェレーラのクラリーネ、クシャリエのアレン、メルゼデードのヘリオ。四人に取り囲まれたグレンフォードをみて、応援席のロベルトはたまらず声をあげた。


「おいおいおいおい、サトゥンの旦那じゃなくてグレンフォードの旦那が狙い撃ちされちまってるじゃねえか」

「当然といえば当然かもしれませんね。グレンフォードさんは名実共にかつて大陸最強の称号を手にしていました。

彼を倒すことは最強の証明に他なりませんから、各国の代表も自分がグレンフォードさんを倒したいというのが本音でしょう」


 メイアの説明になるほどの納得する一同。だが、仲間たちとは正反対に微塵も納得できるわけがないお子様が一人。

 囲まれたグレンフォードを見て、サトゥンは心から憤慨して非難の声をあげた。それは子供が駄々をこねるようでもあった。


「ずるいぞグレンフォード! そいつらに狙われるのはお前ではなく、この私、サトゥンの役目である!

お前たち、グレンフォードを相手にする前にやるべきことがあるだろう! 私を見てくれ! 私に構ってくれ! 私をのけものにしないでくれ!」


 闘技場に響き渡るほどの声量で懇願するサトゥンの叫びに、客席からは笑いの声が絶えることはない。

 全員にかかってこいと言った直後の構ってくれ発言で、どうやら客席の心を変に掴んでしまったらしい。

 一部の客席からもっとやれと声援が飛び、まさしく道化と化した勇者の姿に仲間たちは顔を真っ赤にして恥ずかしさに耐えていた。

 それ以上に耐えているのは、特別席にいるメーグアクラス代表のリュンヒルドである。


「ふふふ、本当に面白いわね、あなたの国の英雄さんは。戦闘で構ってくれなんて叫ぶ戦士を私は初めてみたわ」

「すぐに化けの皮が剥がれるでしょうな。ふんっ、メーグアクラスの戦士は実に品がない」


 クシャリエの女王から笑われ、メルゼデードの代表からは罵られ、穴があったら入りたいとはまさにこのことだろう。

 へこむリュンヒルドの横でベルゼレッドは酒を飲みながら豪快に笑うだけ。リュンヒルドの胃痛は始まったばかりである。

 あまりに騒ぎ立てて抗議するサトゥンに流石に苛立ちを隠せなかったのか、金色の鎧に身を固めた戦士ヘリオが彼の前まで歩み寄り、剣をつきつけて言葉を放った。


「ふん……そこまで望むなら私が君の相手をしてあげよう。ただし、その間にグレンフォード殿を他の誰かに倒されては本末転倒だ。

私がこの愚か者を捻じ伏せてから、改めて戦闘再開をお願いしたいのだが、他国の代表方はそれで構わないだろうか」


 ヘリオの問いかけに、各国の戦士たちは武器を下げることで応じた。他国の代表もサトゥンがあまりに喧しいので、先に排除することには同意らしい。

 それを確認し、ヘリオは改めてサトゥンへ向き直り嘲笑するように表情を崩して言葉を紡ぐ。


「七国会議のときから君の傍若無人ぶりは目に余った。教養のない人間とは実に不愉快極まりないと改めて確認させてもらったよ。

君がどうして歴史あるメーグアクラスの担い手なのかは分からないが、実に不相応だ。各国のためにも、私の手で排除してあげよう」

「お前一人でやるのか? ふはは! 冗談であろう! お前ごときでは準備運動にもならんぞ! 悪いことは言わんから全員でかかってこい! そして私と遊んでくれ!」


 サトゥンの返答がヘリオを更に苛立たせる。悪気があるわけではなく、思ったままを口にしているだけなのが余計に性質が悪い。

 そんな『らしい』サトゥンを見て口元を緩めながら、グレンフォードは足をラージュの傍へと運ぶ。並ぶように立ち、彼へ言葉をかける。


「まさかお前も担い手だったとはな。驚かされた」

「別に隠していた訳ではないがね。なにせ僕は優秀だから、他の連中の強さを簡単に超えてしまっただけさ」

「お前は俺を狙わないのか?」

「大陸最強の称号なんて興味はないね。そんなものに固執する連中の気がしれないよ。

ただ、僕は人三十倍負けず嫌いでもある。やるからには勝つ、そのために今必要なのは情報なのさ。せいぜい連中を利用させてもらうとするよ」

「何の情報だ」

「説明なんてする必要があるかい? この場で誰を最も警戒しないといけないかなんて、分かり切ったことじゃないか」

「……そうだな、実に分かり切ったことだ」


 互いに笑いあい、二人は視線を一触即発の状態に陥った勇者たちへと向ける。

 怒りが頂点に達してしまったヘリオは声を荒げてサトゥンに命じていた。


「誇り高き担い手である私を侮辱した罪、その身で償って貰う! 剣を抜け! メーグアクラスの代表!」

「何を言っておるのだお前は。剣など使ったら、お前など一瞬で死んでしまうではないか! 勇者である私が人殺しなどできるか!」


 それが怒りの限界だった。抜き放った剣を、ヘリオはサトゥン目がけて真っ直ぐにはしらせた。

 首元に吸い込まれそうになった剣を、サトゥンは腕を組んだままその場で身を逸らして呆気なく回避した。振り抜いた刃を返し、更なる一撃をサトゥンの胴へと切り込むが、その場で跳躍した彼には当たらない。

 攻撃を簡単に避けられたことに憤慨したヘリオは、休む間もなく幾度とサトゥンへ斬りつけるが、彼は腕を組んだまま避け続けた。

 その光景に、やがて他の担い手たちの表情も驚愕へと変わっていく。サトゥンがその場から一歩たりとも動いていないことに気付いたのだ。

 そして誰よりも驚いているのはヘリオ当人だった。何度剣を振るっても当たらない、どんな攻撃を繰り出しても当たる気配が無い。自慢の剣が避けられ続けるのは屈辱であり、それが続けば絶望へと変わってしまう。見事過ぎる回避に観客から歓声が湧きあがり、サトゥンはヘリオを視界に入れぬまま高笑いをして歓声に応えていた。それが更にヘリオの心を折ってしまう。サトゥンが本気を出していないことなど、誰が見ても一目瞭然なのだから。


「容赦ねえな、サトゥンの旦那……あれは心が折れるわ」

「しかも本人に何の悪気もないからたまりませんわね……」

「私にしてみれば、あの担い手が悪いわよ。あの程度の実力でよくも代表になれたもんだわ」


 彼らの戦いを観客席から眺めていた仲間たちはヘリオへの同情半分の感想を胸に抱きながら会話をかわしていた。

 だが、マリーヴェルの言うことも一理あった。ヘリオも決して弱い戦士ではないのだが、彼の担い手の地位はメルゼデード代表の父が金で買ったものだった。

 したがって、その実力は他の担い手より数段落ちるものとなる。そんな彼がサトゥンを相手にしろなど悪夢以外の何物でもないのだ。

 やがて体力の限界を迎え、肩で息をして攻撃を止めるヘリオに、サトゥンは首を傾げながら悪意のない言葉を放つ。


「ふむ? どうしたどうした、まだ剣を三百六十九回しか振っておらぬではないか! まさかこれで終わりなどとはいうまい!

リアンやマリーヴェルやメイアは千回振っても大丈夫であったぞ! ロベルトはそのあとに牛に追われて走っていたのだぞ!

高みを目指す人間の強さというものを私は身を以って知っている! まだこんな程度で疲れ果てるほど、人間は弱くはあるまい!」

「ま、待ってくれ……な、なんだんだ君は……なんで私の攻撃が、当たらないんだ……」

「ぬはは! あのような止まった剣撃に当たる方が難しいわ! 

ふむ、分かったぞ。さてはお前、剣を誰かに習ったことがないのだな! ふはは! 素人ならばしかたあるまい! どれ、剣を貸せ! 私が正しい剣の使い方というものを教えてやろうではないか!」


 仮にも一国の担い手を相手に素人扱いし、サトゥンは疲れ果てたヘリオから剣を奪い取り、高笑いと共に両手で持って構える。

 そして、視線をヘリオへ向け、無邪気な笑顔を浮かべて楽しげに説明を始めるのだった。


「剣の正しい振り方を知らぬから、無駄に疲れがたまるのだ! 私が手本をみせるから、よく見ておくように!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……いったい何を……」

「よいか! 剣とはこのように使うものなのだ! 打倒したい相手に向けて、魂を込めた一撃を解き放つ! このようにいいいいい!」


 両手で持った剣を振り上げ、サトゥンは迷うことなく剣を大地へと叩きつけた。

 その刹那、激しい衝撃が発生し、彼の剣が叩きつけらた箇所を中心に巨大な穴が爆風と共に抉れてしまった。

 それまでサトゥンに歓声をあげていた観客たちもあまりの光景に言葉を失ってしまう。剣を一振りしただけであれだけの破壊を生みだすなど初めて見る光景だったからだ。

 特別席の者たちも、担い手たちも言葉が出ない。ただ、爆風の中心から現れたサトゥンの声が闘技場に木霊した。


「ふははは! これが剣を使うということだ! 実に簡単であろう!

さあ、次はお前の番だぞ。私と同じように剣を振るうがいい! ……ぬ、どこにいった?」


 ヘリオの姿がどこにもなく、サトゥンはきょろきょろと周囲を探すが、彼を最後まで見つけることはできなかった。

 誰よりもサトゥンの近くにいたこと、それがヘリオの悲劇だった。衝撃を至近距離から受けてしまい、彼は観客席まで吹き飛んでしまい、客席で目を回してしまっていたのだ。

 そもそも、闘技場に残っていたところでヘリオが剣を振るうことはできなかっただろう。サトゥンが右手に持つヘリオの剣は、彼の力に耐えられず根元から完全に折れてしまっていたのだから。

 遊び相手が消えてしまい、落胆するように肩をおとして折れた剣を投げ捨て、サトゥンは気を取り直して視線を他の担い手たちに向ける。

 サトゥンからしてみれば構ってほしい一心でうきうきとしているだけなのだが、彼のその表情が他の担い手には獰猛かつ好戦的なものに見えてしまったらしい。

 サトゥンの圧倒的な力量を把握した担い手たちは、狙いをグレンフォードからサトゥンへと完全に切り替えていた。

 その気配を察知したのか、サトゥンは高笑いをしながら嬉しそうに声をあげる。


「ふはははは! 視線を感じる! これぞまさしく勇者へ向けられる敬意と羨望の眼差しに違いないわ!

さあ、私はここだ! ここにいるぞ! 遠慮はいらぬ、準備ができたものから私にかかってくるがいい! 傷つけぬ程度に相手してやろう!」


 彼がそう叫んだ刹那であった。彼の背後から音もなく迫ってきた蛇剣が彼の身体に巻きつくように締め付けた。

 調子に乗り、完全に隙丸出しだったサトゥンを捕えたのはレーヴェレーラの女騎士クラリーネだった。

 拘束から逃れようと腕を動かすサトゥンだが、絡みついた蛇剣は微塵も動かない。そんな彼に、クラリーネは忠告するように言葉を紡ぐ。


「無駄だ。蛇剣マリーテには魔法が込められてある。人間の力で引き千切れるものではない」

「ふむ、ぐいぐいと引き締めて窮屈ではないか」

「敗北を認めろ、メーグアクラス。このまま身動きのとれぬお前に取れる手はない」

「ふはは! この程度の状況で負けを認めろとは無茶を言うではないか!

もっとだ! もっと私を追い詰めるがいい! それでこそ戦いは盛り上がるというものだ! がははは!」

「……愚かな。この戦いで命を奪っても罪には問われないと説明されている。どうなっても知らんぞ」


 クラリーネの言葉にあわせるように、彼女の背後からアレンとランベルがサトゥンへ向けて駆け抜ける。

 身動きのとれないサトゥン相手に三人がかりだが、彼自身が望んだことなので誰も文句など言えない。

 サトゥンに向けて、アレンが彼の首元へ、ランベルが胴へ剣をはしらせ、観客席から悲鳴があがったそのときだった。

 一際楽しげに笑みを零し、サトゥンは襲いくる剣撃に対処をした。その光景に、担い手三人が言葉を失う。


「……馬鹿、な」


 クラリーネから漏れた言葉、それは三人の心を何より的確に表す言葉だっただろう。

 彼らの眼前には、二つの剣を受け止めるサトゥンの姿があった。彼の身体は蛇剣に拘束されておらず、二つの剣を両拳の甲で受け止めていたのだ。

 彼を拘束していた筈の蛇剣はいったいどこにいったのか。その答えは彼の足元にある。引き千切られ、蛇剣であったものの残骸が無残に散らばっていた。

 つまりサトゥンは、脱出不可能だと言われていた蛇剣を強引に力のみで引き千切ってしまったのだ。あまりに常識の外の光景に、クラリーネは思ったままの言葉を紡ぐしかない。


「蛇剣マリーテを力のみで引き裂くなど……本当に人間か、お前は」

「がはは! 勇者に不可能など存在しない! 武器を失ったということは、貴様は敗北ということだぞ小娘!

そして、私に飛びかかってきたお前たちもついでに失格だ! これで残る二人を倒せば、私が最強で最高の勇者であるというわけだ!」


 サトゥンの言葉に、彼から距離をとったアレンとランベルの表情が更なる驚愕に染まった。

 彼らの持つ剣は大陸随一の業物だった。だが、その刀身には完全に亀裂がはしってしまっている。

 たった一撃。サトゥンが拳をあわせただけで、剣を完全に破壊されてしまったのだ。

 あっという間に四人の担い手を一人でねじ伏せてしまったサトゥン。そのことに気付いた観客たちの熱狂は止まるところを知らない。

 全身に浴びせられる歓声に、サトゥンの興奮はもはや頂点を通り越していた。調子に乗りに乗ったサトゥンは恍惚の表情を浮かべて残る二人、グレンフォードとラージュへと歩み寄る。

 そんな彼に息をつき、グレンフォードはサトゥンへ話しかけたのだが。


「先にも言っていたとおりだ。俺はお前と戦うつもりはない、負けを宣言しようと……」

「駄目だ! 戦わずしてこの闘技場を去ることは許さんぞ、グレンフォード! 私と戦うのだ!」

「戦いなら一度やっただろう。俺は敗北し、お前は俺よりも強かった。それだけだ」

「駄目だ駄目だ! お前はここで私と戦わなければならないのだ!

以前と違ってお前にはヴェルデーダがあるではないか! きっと私ともいい勝負ができるに違いない! 観客たちに真の戦いというものを教えてやろうではないか!」

「……それで、本当の理由はなんだ」

「……このままもっと注目され続けたいのだ。お前が棄権してしまえば、この時間が短くなるではないか。

こんなにも多くの人間からちやほやされる時間を終わらせるなんて嫌なのだ! 頼む! 一生のお願いだ、グレンフォード!

この幸せな時間をもう少しだけ、もう少しだけ楽しませてくれ!」


 頭を下げて全力で頼み込むサトゥン。

 グレンフォードも人生の中で様々な場面で頭を下げられたが、こんなアホな理由で頭を下げられた経験はかつてなかった。

 四人の担い手を倒したサトゥン、かつての最強グレンフォード、そしてこの国の担い手ラージュ。この三人が残ったことで闘技場の空気は最高潮に達していた。

 生まれて数千年、恋い焦がれた人間からこれほどまでの声援をあびることなど生まれて初めての経験だったサトゥンに最早冷静な思考などできはしない。

 完全に舞い上がった彼に、この時間を短くする選択など存在しないのだ。どうしたものかと困り果てるグレンフォードに、これまで口を閉ざしていたラージュが軽く息をついて口を開く。


「戦おうじゃないか、グレンフォード。君もサトゥンと戦うことに興味が無いわけじゃないんだろう?

それにサトゥンのいうことも一理ある。せっかくこれだけの観客が集まってくれたのに、君が棄権して終わりでは興ざめというものだろう」

「む……」

「それに、早々に負けを認めるのは早計だね。確かにサトゥンはとんでもない力の持ち主みたいだけれど、勝てないわけじゃない。

僕とグレンフォードの力ならば、それ以上の結果だって引き出せると確信しているよ。きっと僕たちなら、サトゥンを『本気』にさせられる。本気の彼と戦いたくはないのかい?」


 くすりと年相応の笑みを零し、ラージュはサトゥンに向き直った。

 そして、両の手の平に魔力を高め、戦闘態勢を取る。グレンフォードもまた、ラージュの説得に負けて、斧をサトゥンに向けて構えた。

 グレンフォードが斧を構えたことで、闘技場には張り詰めた空気が流れる。それは観客席のリアンたちも同様だった。

 棄権するとばかり思っていたグレンフォードが斧を構えたことに、誰もが驚きを隠せなかったのだ。


「ど、どうしてグレンフォードさんは斧を構えていますの!? 棄権されるのでは!?」

「知らないわよ! まさか本当にサトゥンと戦うつもりなの?」

「……算段がついたのかもしれませんね」

「算段、ですか?」


 リアンの問いかけに、メイアは頷いて答えるだけ。

 遠目からではあるが、彼女は気付いていた。グレンフォードの瞳に、戦士の色が宿っていることを。メイアのいう算段とは、サトゥンの『本気』に触れる算段に他ならない。

 グレンフォードの意を組み取ったのか、サトゥンは初めて自身の得物を握る。空間の亀裂より取り出したのは彼の愛用する聖剣グレンシア。

 巨大な剣を何度と振り回し、準備が整ったサトゥンは口元を楽しげに歪めて二人へと叫ぶのだ。


「ふははは! 遠慮はいらん、全力でかかってこい、グレンフォード、ラージュ! 勇者である私が相手である!

リアン! マリーヴェル! ミレイア! メイア! ロベルト! ライティ! 私の活躍を見守ってくれているか! 勇者の! 勇者としての私の輝きを見守ってくれているか! 私は今、最高に幸せだぞ! がはははは!」


 観客席のリアンたちに向かって全力で手を振ってはしゃぎまわるサトゥン。まるで観光地に来た子供のようである。

 満面の笑みを零し回る彼に対し、ラージュが容赦なく両手の魔弾を彼へと叩きつけた。それが戦闘開始の合図となるのだった。

 







サトゥン「どんな手を使おうが……最終的に目立てばよかろうなのだァッ!」 次も頑張ります。

更新が遅れていて申し訳ありません。今週さえ乗り切ればいつもどおりに戻れると思います。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。

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