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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
七章 精弓
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65話 遺跡






 睨み合うリレーヌと名乗る女性とエセトレアの兵士達。

 一触即発と言えるまでに張り詰めた空気だが、この膠着状態は新たな人物の介入によって解放されることになる。


「下がれリレーヌ。後は僕が話をつける」

「……はっ」


 背後からかけられた声に、弓を構えていた女戦士は顔色一つ変えることなく弓を下げて後退する。

 そして彼女と入れ替わるように現れたのは歳若き少年だった。明るい茶色の髪を切り揃え、鋭い瞳が特徴的だが、それ以上に目立つのは彼の若さだ。

 身長はマリーヴェルよりも更に低く、年齢としては十二、三歳といったところだろうか。土埃で塗れた薄紫の衣を着、左目を覆うように取りつけられた透き通る水晶の魔道具。

 特徴的な容貌をしている少年がリレーヌの前に出て、兵士達の背後に集まっているサトゥン達を一瞥して口を開く。


「見たところ異国の人間か、衣服に国の文化が感じられるな。メーグアクラスに、ローナンに……レーヴェレーラの神官か?

まあいい、異国の者ならば僕が改めて説明してやろう。何故異国の者がここに足を踏み入れたのかは知らないが、早々に引き返すことだ。

リレーヌの言った通り、この遺跡はエセトレア魔法院の者以外足を踏み入れてはならないと定められている」

「……あんた、誰? そもそも魔法院って何よ」

「人の名を訊ねる前にまず自身の素姓を……などとは言わんぞ。僕はお前に興味がないからな。

僕の名はラージュ、ラージュ・ムラード。エセトレア魔法院副長という名前だけの役職を務めている。

魔法院というのは、エセトレア王国の持つ魔法研究機関のことだ。軍とは異なり、魔法院長による独立した命令によって動く特別組織。

その力は時と場合によっては軍よりも優先される……筈なんだがな。何故エセトレア兵達がここに足を踏み入れたのやら。異国の者が勝手に国境を越えられる筈も無し、兵士達は頭がなければ動けない。となれば、ここまで誘導し、立ち入りの許可を出した愚か者がいる筈だが……」


 呆れ果てるように吐き捨てたラージュと名乗る少年の言葉に、顔を真っ赤にして憤慨するのは使者のアンビエトだ。

 自分のポイント稼ぎの為にここまでサトゥン達を案内したというのに、矢を向けられるわラージュに論破されるわ面子がぶち壊しにも程がある。

 踏ん反り返るように胸を張ってラージュの前まで足を進め、アンビエトは畳みかけるような口調で怒りの言葉をぶつける。


「黙って聞いていれば偉そうに! 名ばかりの肩書きしか持たぬ平民風情が私を愚弄するか!

魔法院の取り決めなど何の効力もないわ! 金の無駄遣いばかりする王国のドブネズミどもが!」

「一体何処の愚か者が手引きしたかと思えば……アンビエト公、誉れ高き貴族である君ならば形だけの副長である僕に抗議したところで何の意味も持たないことくらい理解出来ないか?

君の言う通り、僕は魔法院を利用して自分の好きな研究に没頭しているだけにすぎない。だが、それを許可しているのは他ならぬ魔法院だ。

この取り決めに不満があるならば、魔法院のトップに話をつけてもらいたいな。まあ……君にあの男をどうこう出来るとは思わんがね」

「ぐぐっ……」

「ほら、分かったらさっさと引き返せ。僕は君と違って忙しいんだ。抗議なら魔法院に遠慮なく叩きつけておいてくれ。

異国から来た客人達もお引き取り願おう。鎖国中のこの国に何をしに来たかは知らないが、少なくともこんな辺鄙な場所に用がある訳でもないだろう」


 話は終わりだとばかりにこの場の全員を追い払おうとするラージュ。兵士達もラージュとリレーヌの身分を明かされては刃を向け続けることもできない。

 困ったのはサトゥン一行だ。この先にある『何か』。それを目にしてみたい気持ちはあるが、ラージュの言う通りならばこれ以上先に進むことは不可能だ。

 ラージュとアンビエトの会話からして、正しいのはラージュであり、アンビエトは国の決まりを破ろうとする側だ。ここで強行などすればエセトレアの国の法を犯すことになる。

 この場の全員がメーグアクラスとローナンの代表であり、一員なのだ。その立場が与えられているのに、他国でそのようなことをしてしまっては非常に拙い。ましてや王や王子とも一緒なのだから。

 渋々ながら引き返そうとするリアン達だが、踵を返す彼らとは反してサトゥンがその場から動こうとはしない。ただ真っ直ぐにラージュを見つめ続けている。

 否、見つめているのはラージュの背後、森を抜けた先の何かだろう。そんな彼に気付いた仲間達は、サトゥンに戻ろうと促すが彼からの返事はない。

 足を止め続けるサトゥンに気付いたラージュは、軽く息をついてサトゥンに訊ねかける。


「まだ何か用なのか客人。異国の者である君が楽しめるものなど、この先には何もないぞ」

「……在る。この先に感じる空気を私は知っている。知らない筈なのに、知っているんだ。懐かしく、そして苦しい……何だ。何が在るというのだ」

「ちょ、ちょっとサトゥン、貴方本当に大丈夫なの!?」


 ふらふらと足を進め始めるサトゥンをマリーヴェルが慌てて服を掴んで制止する。

 まるで熱に浮かされたように足を進めるサトゥンをマリーヴェルに続きリアンやロベルトも彼を止めようとするが、サトゥンの足は止まらない。

 仲間達の制止をものともせず、ラージュの方へ足を進めていくサトゥン。そんな彼を危険と認識したのかラージュの背後に控えていたリレーヌは無表情のまま弓を構える。これ以上近づけば撃つという警告なのだが、それすらもサトゥンの足を止める理由にはならない。

 足を止めぬと判断したリレーヌが迷わず弓を引くが、そんな彼女を制止するようにラージュは『止めろ』と言い放つ。

 そして、足を進め続けるサトゥンに興味深そうな視線を向け、彼へ訊ねかける。


「ふむ、どうやら君はこの先の何かに熱をあげているようだな。何が君をそこまで駆り立てるのか、実に興味深い。

そうだな……理由を訊かせてもらいたい。理由次第ではこの先に向かうことへ魔法院の許可を僕が出さないでもない」

「ラージュ様、魔法院の許可は手続きを必要としており、長のフリック様の許可がなければ……」

「責任は僕が取る。それでは理由を訊かせてもらおう、異国の客人よ。君はどうしてこの先にそれほどまでに向かいたがる」

「分からぬ。ただ、私の中の何かがこの先に向かえと酷く訴えかけるのだ。このような感覚はこれまで覚えたことがない……理由など私にも説明が出来ない。ただ、この先に大切な何かが……何かが在る筈なのだ」


 楽しげに問いかけるラージュに対し、サトゥンの説明は酷く抽象的で。

 最早説明にもなっていない彼の言葉に呆れるように溜息をつくのはアンビエト。それではラージュを説き伏せまいと。

 だが、彼の説明に対し、ラージュは少し考えるような仕草をみせて、やがて顔をあげて口を開く。


「……いいだろう。魔法院として君達にこの先へ向かう許可を出す。ついてくるがいい」

「よいのですかラージュ様。魔法院以外の者、ましてや異国の者に」

「構わないさ。アンビエト公も言うように、魔法院の取り決めなど最早あってないようなものだ」

「ですが……」

「何度も言わせるな。責任は全て僕が取ると言っている」

「はっ……」


 興味ある者だけついてこい。そう言いきってラージュはリレーヌをつれて森の奥へと歩いていく。

 彼の背を追うように足を進めるサトゥン。その足はふらつきながらも迷いが無い。そんな彼を心配して支えるように共に歩くリアン。

 普段の様子とは大きく異なるサトゥンの様子に誰よりもリアンは心配でたまらない。仲間達もサトゥンを心から心配しているが、本人が問題ないという言う以上は口出しできないのだから。

 そして、サトゥンが突き動かされるように、仲間の誰もが胸に感じている不思議な感覚が胸から消えない。故に彼らもまたラージュを追って森の奥へと入っていくのだ。

 アンビエトもまたラージュの勝手を許すものかと憤慨し、兵士達に馬車の見張りを命じて彼もラージュを追って森の奥へと足を進める。



 先導したラージュに追いついたサトゥン一行。

 そんな彼らに対し、ラージュは後ろを振り向かぬまま言葉を紡ぐ。どうやら目的地に辿り着くまで雑談に興じようとしたようだ。


「先に言っておこうか。この先にあるのは、『遺跡』だよ。岩盤をくり抜いたような穴を更に深く潜った地下にそれはある」

「遺跡? いつの時代のものか気になるな。千年程度ならばイシュベル王時代のものか」

「ふふ、歴史に詳しい者もいるようだ。君はメーグアクラスの人間か、よく勉強している」

「ただの本好きに過ぎんさ。それで、その遺跡とやらはそれくらい前のものなのか」


 ラージュに褒められてリュンヒルドはそっけない返事を返す。自分より一回りも小さい子供に勉強を褒められても嬉しくはないらしい。

 そんな彼に応えるように、ラージュは愉しげに笑って否定する。


「千年や二千年程度ならば国の歴史書を紐解けば幾らでも伝記が残っているだろう。そんな浅いものじゃない」

「二千年以上前となると、それこそ神話の世界だ。女神リリーシャが世界を作り、命を生み育てた頃ではないか」

「ふふっ、そうだろう、君達ならばそう言うだろう。世界は女神リリーシャが創り、人間を初めとした命を育てた――これが女神リリーシャ教の最初にして絶対唯一の教えだ。

少しでも学のある人間ならば、女神リリーシャの教えを学び、これを何一つ疑うことなく信じることを美としている。そこに何故を挟む余地もない。

敬虔な信者であればあるほど、それに外れることは許さない……失礼、リリーシャの司祭である者を前にして言う台詞ではないな」

「あ、いえ……最近は女神リリーシャではなく別の宗教に鞍替えさせられまして、女神リリーシャはそこまでは……」

「それは助かるな。ここから先の話は何処までも女神リリーシャの教えを信じる者にとってあまり面白くない話だろうから」


 ミレイアの返事に満足し、ラージュは説明を再開する。


「今より遥か昔のこと。女神リリーシャが世界を創り、命を生み育てた。これが僕達の生きる世界の原初と信じられている。

だが、疑問に思ったことはないか? 女神リリーシャが世界を創ったと、命を生み育てたと、いったい何を証拠として断言しているのかと。

この世界の成り立ちは歴史ではなく宗教だ。女神リリーシャ教の教えが広まり、それが世界の真実だと決めつけられている。

彼らの話では、この世界は『人間界』、女神リリーシャが見守ってくれている世界を『神界』と定めているらしいが、誰がそれを教えてくれた?

別に僕は女神リリーシャの教えを否定するつもりはない。彼らの信じる話が真実ならばそれで構わない。

僕は真実が知りたいのさ。僕が求めるのは、三千年以上も前の歴史書すら残らぬ時代の真実。その時代のものに触れれば、きっとこの世界の謎が解明される。

もし本当に神がこの世界を生みだしたのならば、僕達に命を与えたならば、そこには必ず理由がある筈だ。この世界の存在理由を解き明かす、実に胸躍るとは思わないか?」


 初めて振り向き、面々に向かって子供らしく無邪気に笑顔を見せるラージュ。

 だが、その反応はあまり良いものではなく。ラージュの話している内容に興味がない面々は困ったような表情を浮かべるしかない。

 ラージュが話した神の存在、異世界の存在を解き明かすことにリアン達は残念ながら興味がない。何故なら彼らにとってそれは既に解明されたも同然とも言える謎であり、ラージュが求めている疑問、その全ての答えを知る人物とリアン達は行動を共にし続けていたのだから。

 魔人界という異界から現れ、神も魔人も捻じ伏せる魔神。それが彼らが共に歩んできた勇者サトゥンなのだ。

 もし、彼がいつもの調子だったならば、ラージュの言葉に高笑いと共に楽しげに説明の一つでも初めていたかもしれない。だが、今のサトゥンの状態は異常とも言えるほどだ。

 否、サトゥンだけではない。彼が仲間の中で誰より反応を示しているというだけで、仲間の誰もが胸にもやもやとした何かを感じずにはいられないのだ。

 ラージュの案内する遺跡とやらに、この違和感を呼び覚ます何かが存在していると仲間の誰もが感じている。リュンヒルドやベルゼレッドには感じ取れなかった、サトゥンと共に冒険をしてきた仲間達だけが感じ取れる何かが。


 楽しげに世界の不思議を語るラージュと共に森を抜け、サトゥン達の目に飛び込んできたのは巨大な岩壁をくり抜いたようにぽっかりと開いた洞穴だった。

 入口に立ち、ラージュは少し自慢げに腕を組んで説明をする。


「今から三年前になるか。初めは入口などない、ただの岩壁でしかなかった場所に魔法院の魔法兵を総動員して入口を作ったんだ。

長のフリックは金の無駄だと最後まで反対したからな。おかげで私財を全て投入することになってしまったが、僕は何も後悔していない。

五年程度の稼ぎで歴史に残るであろう発見が出来たんだ。金くらい安いものだ」

「ご、五年の稼ぎって……あんた、魔法院副長とか肩書きついてるんだから、かなり貰ってたんじゃないの?

いや、でもどうみたって十歳程度の子供だから、逆算しても五歳から……エセトレアって五歳でも兵士になれるのね」

「副長となったのは三年前だ。それまでは魔法院のただの一員としての賃金だ、言うほどではないさ。

それと、僕は十三になる。五歳から働いているのは事実だが、子供扱いは止めて貰おうか。僕が秀でていることくらい理解出来るだろう」


 マリーヴェルの子供扱いが癇に障ったのか、ラージュは少しばかり不機嫌そうに顔を顰める。

 可愛くないわねえと文句を漏らすマリーヴェルにまあまあと宥めるミレイア。そんな二人を余所に、ラージュはリレーヌを連れて洞窟の中へと入っていく。

 洞穴内は暗く、ミレイアの神魔法によって明るく照らされた内部を慎重に進む。岩を魔法で削り取った道は狭く、人一人がようやく潜れるかどうかというものだ。

 歩き始めて一分は経つだろうか。削られた岩で作られていた道が終わり、リアン達は雰囲気ががらりと変わった通路へ足を踏み入れる。

 それはまさしく人工的に作られた整然とした通路。まるで神殿を思わせるような荘厳とした道に誰もが驚きを隠せない。岩壁をくり抜き地下へ地下へもぐった土の中に、まさかこのような人工物があるとは思わなかったからだ。

 彼らの反応に気をよくしたラージュはこの通路について説明を始める。


「僕も初めてみたときは驚き興奮したものさ。まさか大地の下にこんな建物があるだなんて思いもしなかった。

よく観察するといい、この壁に使われている石材、装飾様式を。これは地上の何処の国にも存在しない文化に拠って創られた文明だ。

では千年前、二千年前の文明のモノではないか? それこそまさかだ。今の世界にある技術魔法を使ってもなお再現出来るかどうかという作りであることは明白なんだ」

「……確かに。我らが王城のものよりも高度な技術で作られているとはっきり分かる装飾もある。劣化度合いも低い、魔法による保護がかけられているのか、しかしこれは……」

「ああ、これはちょっと考えにくいが……」

「術者が死してなお続く保護魔法などありえない。少なくとも僕達の生きる時代ではね。

どうだ、ワクワクするだろう。もしかしたら、この遺跡は僕達の世界の謎を解き明かす鍵になるかもしれないんだ。

私達が知っている過去より遥か昔、神が世界を創生した時代……これはその時代の建物かもしれない。否、もしかしたら私達が神と信じている全ての原初の存在に関する建物かもしれないんだ」


 感嘆するリュンヒルドとベルゼレッドに、説明を続けながら歩いていくラージュ。

 彼についていきながら周囲を見渡している彼ら、そしてアンビエト。夢中になるあまり、他の仲間達の変化を彼らは見落とした。

 ここにきて、サトゥン以外の面々の反応も顕著なモノとなる。リアン達の誰もが言葉を失わずにいられなかった。

 まるで身体の全身が警告するかのように圧迫される、触れることを忌憚しようする見えない力。


「な、何だってんだよ……俺の身体は、どうしちまったんだよ……何でこんなに急に、いったい何が……」

「こんなこと、邪竜王が相手でもありませんでした……まるで見えない何かに抑え込まれるような」


 ロベルトが、メイアが。彼らの言葉通り、仲間の誰もが圧迫されるように足を止めて。

 説明出来ぬ、まるで魂が悲鳴をあげているような錯覚に襲われ言葉を失うが、それでもリアンは振り切るように足を進める。

 彼らの視線の先にはサトゥンが、彼がいるから。彼の背中を見失わないために、置いていかれないように、前へ。

 やがて、ラージュは一つの扉の前に足を止める。その扉には読めない言語の文字が書かれており、ラージュは肩を竦めながら後ろを振り返る。


「遺跡巡りは残念ながらここまでだ。僕達はこの扉に道を遮られ、先に進めずにいる」

「扉は開きませんの?」

「固く閉ざされているよ。破壊する事も考え、国一番の魔法使いの力も借りたが……恐ろしい強度だよ、この扉は。

恐らく扉に書かれた文字が扉を開く鍵なのだろうが、見ての通りこのような言語はどの大陸にも歴史にも存在しない。

なんとか読み解かなければならないのだが――ん、どうした異国の戦士」


 説明を続けていたラージュを無視して扉の前まで足を進めたのはサトゥンだった。

 扉に書かれている文字をじっと見つめていたサトゥンは、やがてゆっくりと口を開く。ぽつりと言葉を紡いでいく。


「――悠久の、時を超え、再び友と、巡り会う奇跡を夢見て――」

「なっ……君はこの文字が読めるのか!? っ――」


 サトゥンが言葉を紡ぎ終えた刹那、巨大な扉から溢れるほどに眩い光が解き放たれて。

 青白き光を放ちながら、扉はゆっくりと開かれていく。扉が完全に開かれると共に光は収束していった。

 扉の向こうに広がる光景を誰もが凝視する。そこにあったのは、大きく広がる何もない伽藍堂の神殿。ただ石畳だけが広がる世界。

 否、石畳が広がる室内の最奥にそれは在った。一段高く作られた場所に突き立てられた錆びついた剣と、それを背に眠る朽ちた白骨。

 終わった命と終わった剣。それらを前にしてリアン達は絶句する。言葉に出来ない悲鳴が彼らの心を揺さぶりたてる。足が一歩も動かせない、指すら満足に動かせない。

 状況を、自分の状態を全く理解出来ない仲間達をおいて、サトゥンはゆっくりと足を進めていく。そして白骨と剣に向きあい、壁に描かれた文字へ瞳を向ける。

 壁に書かれていた走り書きは歪で。剣先で壁を傷つけて書いたのだろうか。それはきっと剣の持ち主であろう白骨の最期のメッセージ。

 その文字を、サトゥンが震えるような弱弱しい、これまでのサトゥンからは考えられないほどにらしくない声で読み上げて――


「……友、よ……愚かな私達を、許してほしい……仲間ではなく、世界を選んだ、愚かな私達を……

もし、次が許されるならば、『リエンティ』としてではなく、ただの友として……君と――」


 それが仲間達が耳にした最後の言葉だった。

 まるで意識が闇に包まれるように、強制的に目と耳を塞がれたかのように、仲間達は意識を奪われ倒れていった。

 次々に倒れるリアン、マリーヴェル、ミレイア、グレンフォード、ロベルト、ライティ、メイア。声を荒げるリュンヒルドやベルゼレッドの声は遠く。

 ただ、意識が落ちる最中で想いを感じたような気がした。誰のものでもない、自身の奥底から生まれる悲痛な懺悔の声を、聞いたような気がして――








強制全滅イベントほど勝ちたくなるもの。次も頑張ります。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。

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