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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
六章 勇者
65/138

58話 充足






 日常と化しているハードトレーニングを午前中で切り上げ、ロベルトはライティを背負ってグレンフォードと共に村外れの草原へと向かう。

 今日はこの場所でリアンとメイアが全力でぶつかりあうため、仲間全員が見学もとい応援のために集まることになったのだ。

 既に準備を終え、向かいあって談笑するリアンとメイアの方を眺めながら、ロベルトはグレンフォードに訊ねかける。


「リアンとメイアさんが本気でねえ……どっちが勝つのかなんて予想もつかねえな。

リアンの強さもメイアさんの強さも知ってるだけになんとも。旦那はどっちが勝つと思います?」

「以前のままならばメイアだろう。リアンとは戦闘技術と経験が比べ物にならない。

だが、ここ最近の上積み次第では面白くなるとは読んでいる。俺の見ていない間にどれだけ腕をあげたのか……楽しみだな」

「ですね。よし、ライティ、俺達はしっかり二人を応援することにしようぜ」

「ん、頑張る」


 草原に辿り着くと、既に他の仲間は勢揃いして二人への観戦モードへと入っている。

 少し離れた木陰にマリーヴェル、そしてリーヴェを抱いたミレイアの姿があり、三人は彼女達の傍へと歩み寄る。

 サトゥンはメイアとリアンの間に立ち、腕を組んで高笑い。今日の彼は二人の戦いの見届け役を買って出ており、勝敗の判断を任せられている。どちらかが戦闘不能だと判断したときに間に割って入る役目だ。

 リアンもメイアも手に持つ武器がサトゥンに生み出されたものであり、それらは己が意志を持ち主の意向に従う武器。

 殺傷力の調整も行えるため、全力の模擬戦でも余程ではないかぎり重傷は負わないだろうが、それでも万が一を考えサトゥンが見届け役として立っているのである。

 なにせ、お互い手加減無し遊び無しの全力で英雄同士がぶつかりあうのだ。どんなことが起ころうと不思議はないのだから。

 また、マリーヴェルとは異なる木に背を預けて腕を組んで観戦を行っているのはノウァ。彼は誰とも会話を交わさぬまま、真剣に二人の姿を見つめている。

 草原に腰を下ろし、ライティを自分の膝の上に乗せ直しながらロベルトは隣に座るマリーヴェルへ笑いながら話しかける。


「隣に座らせてもらってもいいか? リアンとメイアさん、二人に誰より詳しいマリーヴェル様の解説を聞かせてもらいたいからな」

「嫌だって言う前に腰下ろしてるじゃない。好きにすれば」


 顎に手を当てて息を吐くマリーヴェルに笑いながら、ロベルトは視線をリアン達の方へと向ける。

 槍を握り一振り二振りと薙ぐ姿。どうやら完全に緊張や気負いはなく、表情も柔らかい。ロベルトの目からみても、リアンはベストの状態だと分かる。

 対してメイアの方は言うまでもない。百戦錬磨の彼女は戦闘において常に百の力を発揮できるよう心がけている。ましてやリアンという望み続けた相手との全力勝負なのだ、ベストの状態でないはずがない。

 互いにベストコンディションで臨むことができている、そのことを感じることができたロベルトは苦笑交じりに口を開く。


「お互い万全って感じだな。二人の身体が恐ろしく軽く見えちまうくらいには」

「へえ、そんな風に感じられるようになったんだ。どうやらグレンフォードに散々鍛えられてる成果が少しずつ出てるみたいじゃない、よかったわね」

「そりゃ毎日朝から晩まで鍛えられればな。グレンフォードの旦那やライティには感謝してるよ。

ただ、俺が感じられるのは二人が絶好調ってくらいだ。そこから先はなにも分からねえよ。リアンとメイアさん、お前はどっちが勝つと思う?」

「予想はメイア。勝ってほしいと思ってるのはリアン。応援してるのは二人とも。

ただ、どっちが勝つにしても自分の全てを出し切って満足してくれたらそれでいいと思ってる。二人が望み続けた瞬間なんだから」

「……そうだな。どっちが勝つにしても、二人が満足できればそれが最高だな」


 二人の視線の先、リアンとメイアは互いの健闘を誓い合うように槍と刀を一度合わせた後、距離を取る。

 草原で向かい合い、互いに得物を構えて模擬選開始の合図を待つ。リアンは既に腰を深く落とし、槍を上体に構えて前傾姿勢だ。

 対するメイアは刀を鞘に仕舞い悠然と立った状態だ。ただ、膝に柔らかさを保たせているため、いつでも全方向へ動くための準備は終えている。

 対称的な二人の構えを見て、ロベルトは言葉を紡ぐ。


「リアンの奴、気合入ってるじゃねえか。メイアさんは余裕すら感じられる雰囲気だな、流石ってところか。

こりゃ試合が始まると、一気にリアンが飛びかかるぞ。それをメイアさんが受けるって形か」

「馬鹿ね、あのメイアがそんな大人な戦い方をする訳ないじゃない。大人のようでいて、その実中身は子供っぽいところあるんだから。

リアンが全力で前に出ようとしてるのよ。本来、リアンは攻めではなく守りの戦いが本分、それなのに自分から前に出ようとしている。

そんなリアンの姿を見て、メイアが受け流すですって? 有り得ない、絶対に有り得ない」

「それじゃ、マリーヴェルの読みでは戦闘が始まれば」

「間違いなく飛び出すわよ、二人とも」

「ふははは! それでは始めぃ!」


 マリーヴェルの推測は見事なまでに現実にて再現されることとなる。

 サトゥンの合図と共に全速力で飛び出したリアン、そんな彼と鏡映しのように前方へ駆けだしたのはメイア。

 加速の乗ったリアンの槍を、腰の鞘から抜き放った刀にて合わせる。草原に響き渡る金属音と、視線を交わし合って口元を緩める二人。

 だが、地力はリアンがメイアを上回る。大きく薙いだ槍に耐えられず、メイアは後方へと弾き飛ばされるが慌てることは無い。

 宙で一回転して草原に着地し、再び距離が開いたなかで、メイアは冷静に呪文を紡ぐのだ。それをみて、マリーヴェルが口を開く。


「始まるわ、メイアの風魔法が」

「――『風よ、我と共に荒れ狂え』。いきますよ、リアン!」

「はいっ、メイア様!」


 風を身に纏い、再びリアンの方へ跳躍したメイア。その速度にロベルトは驚き言葉を失う。

 まるで先ほどまでとは別物の速度で駆け、リアンへ向けて刀を二度三度と切りつけるメイア。その刃をリアンは槍を巧みに操り受けていく。

 荒れ狂う嵐のごとき止まらないメイアの剣舞。急に跳ね上がったメイアの攻撃速度に、リアンは槍を防御に回すことに集中する。

 甲羅にこもる亀のように守りを固め、メイアの乱撃を凌ぎ続けるリアン。剣撃と蹴り技の全てを受け続けるリアンの姿にロベルトはただただ圧倒されるしかない。

 あのリアンが、巨大竜すらも一撃で倒すほどのリアンが、メイアの前では防戦一方となるしかないのか。メイアの圧倒的なまでの強さに息を呑むロベルトだが、隣の少女の言葉は彼の感想とは異なっていた。


「戦況はリアンが手堅く有利に進めているわね。やるじゃない、リアンのやつ」

「いやいや、どこをどうみればリアン有利に見えるんだよ。メイアさんの攻撃を前にして、完全に防御一辺倒になっちまってるじゃないか。

確かにまだ一撃こそ入っていないようだけど、時間の問題だ。あんな守りがいつまでも続くわけがない。耐えられなくなっちまって限界がきて、隙ができたそのときが」

「限界? 誰の?」

「誰って、そりゃ……」

「一つ教えてあげるわ、ロベルト。戦いっていうのはね、ただ単純に攻め続ける側が優勢という訳ではないのよ。

確かに今のリアンは防御だけに集中して攻撃まで手を回せずにいるわ。対してメイアはリアンに一撃を入れるために絶え間なく剣を出し続けている。

見事に防御側と攻撃側に別れていて、一見すればリアンは防御に必死かもしれない。けれど――疲労っていうものは攻めも守りも平等に積み重なるものなのよね」


 マリーヴェルの言葉の意味を理解出来ず、ロベルトは視線を二人の戦いへと集中させる。

 一か所に留まらないように脚を華麗に捌きながらも手を止めないメイアの斬撃は見事。リアンはただ大地に根を張るようにずっしりと位置取り、必死に槍で攻撃を受け続けるしかない。

 いつ拮抗が崩れてメイアの嵐にリアンが巻き込まれるのか、そう考えていたロベルトだが、受けに回っているリアンの目の輝きに気付く。

 ひたすらにメイアの刀を捌き続けているリアンの瞳、その目にロベルトは息を呑む。あの荒れ狂うような攻撃を前にして、リアンは少しも動じていないのだ。

 ただ真っ直ぐにメイアの動きを視線で追い続け、どこまでも冷静に観察を続けている。どっしりと構え、逃げず下がらず立ち向かい続けながらも強き意志を持って。

 やがて、リアンの狙い、マリーヴェルの言葉の意味を初めてロベルトは理解する。メイアの押し寄せる刀の雨、その中で見せたメイアの隙。

 攻撃と攻撃の間、最小限度に抑えていた呼吸の瞬間。メイア程の達人ともなれば、相手に気付かせぬほどスムーズに行う筈の動作。その間が僅かほど乱れたのだ。

 彼女が呼吸を乱した理由、それは疲労。休みなく繰り出し続けた刃は確かに受けるリアンへ攻撃に移らせぬ程に凄まじい。流石のリアンも攻めに転じられるような、そんな甘い太刀など一つもない。

 だが、それだけ隙の無い太刀を繰り出し続ければ身体に溜まる疲労は通常のそれとは比較にならない。本来ならば短時間にて一気に制圧するための剣技だが、リアンはその技を全て受けとめたのだ。

 やがて身体には僅かばかりの疲労がたまり、身体に残る疲労は彼女の呼吸と洗練された動きをごく僅かに乱すこととなる。普通の人間なら気付くことすらできないほどの僅かばかりの隙、それをリアンは決して見逃さない。

 何故なら彼は観察する事を只管に叩き込まれ続けたのだから。他の誰でもない目の前の女性に、最高の師匠であるメイアに。

 メイアの動き、その僅かばかりの歪なつなぎを察知したリアンは守りの槍を己が身体に引き戻し、不動と化していた右足を全力で一歩踏み出す。

 そしてメイアが刀を引き戻す動作に合わせて真っ直ぐに槍を彼女目がけて突き出す。それは何処までも単純で、しかし何よりも基本的な動作。力強く足を踏み出し、大地を踏みしめ、最小限の動作で敵を貫く。

 この一年、何度も何度も繰り返し洗練させたリアンの一撃はまさしく研鑽の結晶。リアンの一撃は下がるメイアへ奔り――彼女の右脇腹を掠めた。

 ギリギリのところで回避に成功したメイアはそのまま背後へ跳躍し、リアンへ刀を構えたまま笑みを零す。それはまるで我が子の頑張りを心から喜ぶ母親のように。

 リアンもまた、メイアに対して槍を構えたまま笑みを零す。それは控えめな彼には珍しく、胸を張っているようにも見えて。

 二人の戦闘の駆け引きを理解したロベルトは確認するようにマリーヴェルへと訊ねかける。


「……マジかよ。リアンの奴、メイアさんの隙を作るためにわざと劣勢の状況を作ってひたすら耐えてたってことか」

「そう。守りを固めて敵の攻撃を防ぎ、その中で相手の隙を狙って強力な一撃を叩き込む。

メイアがこの一年、リアンに叩き込んだ基礎戦闘を見事にメイア相手にやってのけたってわけ。

私達と比べてリアンが何より優れているのは体力と心の強さよ。我慢比べや意地の張り合いならリアンは誰にも負けないわ、ましてやリアンは誰かを『守るため』に強くなろうとしているんだから」

「この戦い方を教えたのがメイアさんなら、リアンの戦法、狙いを読んでいたんじゃないのか?

ならリアンの誘いに乗らずに戦うことだってできただろうに、どうしてまたメイアさんは」

「本当に馬鹿ね、ロベルトって。逃げる訳ないじゃない、メイアが。たとえ私がメイアと同じ立場であってもそうするわ。

大切な人が自分の教えをしっかり守ってその戦いをここまで昇華させたのよ。たとえ罠だと分かっていても飛び込むに決まってるじゃない。

メイアは感じたいのよ、刀を通じてリアンの全てを、積み重ねてきたものを……妬けるわね、ちょっとだけ」

「ん、何か言ったか?」

「何でもないわ。けれど、リアンが本当に試されるのはここからよ。メイアの強さは先生としてのお行儀の良い強さなんかじゃない――必ず勝利を掴み取る純粋な戦士としての強さなのだから」


 リアンが槍をメイアに掠めさせたところで、メイアはこれまでとは戦闘スタイルを大きく変容させる。

 技術に裏打ちされた騎士メイアとしての力ではなく、魔法と己が直感、そして数多の戦場で積み重ねた経験に拠って戦うメーグアクラス王国最強の戦士メイアとして。

 刀を構えたメイアは、リアンに向かって再び真っ直ぐ駆けだす。風魔法を身に纏っているため、通常よりも遥かに速い彼女の攻撃を迎撃するため、リアンは槍を薙いで迎撃しようとする。

 だが、その槍がメイアの攻撃を止めることはない。宙で薙ごうとした槍が、まるで頑強な石でも叩いたかのような衝撃を伴って中空で弾かれてしまったのだ。

 何が起こったのか分からず、驚愕に目を見開くリアンだが、その隙をメイアは逃さない。刀をフェイクとして用い、加速をつけたまま浴びせるような蹴りをリアンの右腹部へと叩き込む、

 その蹴りを後ろへ下がることで最小限度の痛みで抑えたが、後ろへ下がってしまった彼をメイアが逃す筈が無い。

 再び刀を切り上げるように払い、リアンは槍を引き戻して強引に受け止める。一度攻撃を止めたメイアにすぐさま返しの刃で反撃を試みようとするが、再び不可思議な現象は起こる。

 前に出ようとしたリアンの頭部に壁にでもぶつかったような衝撃が襲ってきたのだ。痛みに歯を食いしばって耐え、槍を無理矢理薙ぐリアンの一撃をメイアは空へと舞い上がり回避する。

 空中に逃げたメイアにリアンは好機と体制を整え直し、メイアの落下を待つ。空中という足場の無い場所で人は方向を転換する事など出来はしない。

 動きの取れないメイアに力を込めた一撃を穿つ。次の一手を決めて実行に移そうとしたリアンだが、視界に飛び込んできた予想外の光景に槍を止めることしか出来なかった。

 空から落下してくる筈のメイア、その彼女が宙に浮いた状態で静止しているのだ。何もない筈の場所に立っているかのように。

 呆然とするリアンに、メイアは悪戯が成功した子供のようにくすりと微笑んで言葉を紡ぐ。


「そういえば、あなたにこの風魔法を見せるのは初めてでしたね。

私の風魔法は補助の魔法。身体強化や妨害、効果こそ微々たるものですが、その中にはこんな面白いモノも存在します。

風魔法によって目に見えぬ足場を生みだして戦う、この方法で私は過去に幾匹もの飛竜を大地に叩き落としてきたのですよ」

「透明の足場……まさか、先ほどの槍や頭部に感じた壁のようなものは」

「ええ、私が生み出したこの足場です。あなたが槍を振るう前に、あらかじめ視えない足場を仕掛けさせてもらいました。

魔法とは破壊するだけが能ではありませんよ、リアン。使いようによっては恐ろしく厄介なモノとなります」


 その魔法は彼女が遥かの上空に対峙する魔物を相手にする際、足場として利用するものだ。グレイドスを相手にする際も使用した、本来ならばただの足場を生みだすに過ぎない魔法。

 だが、それがリアンにとっては非常に厄介なものとなる。視えない壁が罠のように周囲に設置され、己の攻撃を妨害するのだ。

 これが非常に厄介な疑心を生んでしまう。もしメイアが刃を振るった際に、槍を引き戻す過程で壁に当たってしまったら。そのような疑念が槍を迷わせる。

 また、メイアを攻めるときに身体の一部が足場に邪魔されてしまえばと迷わせることもできる。単純な魔法であるが、実に厄介。槍を握り直すリアンの姿を眺めながら、これまで黙っていたグレンフォードがぽつりと言葉を紡ぐ。


「ロベルトよ、覚えておけ。あれもまた戦場の駆け引きだ」

「駆け引き? それはどういう」

「メイアの生み出す風魔法の足場に強度などない。あれは自身の体重を支える程度の耐久しかなく、リアンが『まとも』に槍を振るえば何の抵抗もなく破壊できる代物だ。

そして、生み出せるのは一個だけ。一つの足場を生みだした後に次の足場を作れば過去の足場は消えてしまう」

「そ、そりゃおかしくないか、旦那。だってリアンの奴、さっき槍を振るおうとしたら見事に弾かれてたぜ?」

「視えぬ足場にあたかも強度があるように見せるためのメイアの技術だ。

リアンが槍を引き戻す姿を見て、リアンの槍に加速が乗る前の場所に足場を精製し、振り始めの槍を抑えただけに過ぎん。

困惑するリアンに蹴りを叩き込み、冷静さを失わせたところに頭部へ衝突するように再び足場をセットし、リアンが強く頭を打ち付けた。

人は痛みによって錯覚を引き起こす。リアンはこの二つのメイアの罠にまんまとかかり、そしてメイアの言葉を耳にしてしまった。

間違いなく今、リアンはあの足場をこう思っている筈だ。『視えない足場は幾つも展開することができ、槍で破壊出来ぬほどの硬さを持っている』とな」

「自分の強さを相手に何倍にも錯覚させることもまた強さ。それを如何に見抜くか、これが『観察』の大切さ。

良い勉強になるでしょ? 戦場で少しでも相手に騙されたら即座に食われるわよ、しっかり覚えておきなさい」

「た、ためになる……」


 二人の解説を聞き、ロベルトの興味はリアンへと注がれる。この状況をいったいどのように打破するというのだろうか、と。

 メイアの風魔法により生み出される透明の足場、それ自体に殺傷能力がないとはいえ、戦場で戦う者にとってこれほど厄介なものはない。

 身体の動き、武器の加速そのどちらも抑制する楔となって働く可能性を持ち、なにより疑心を相手に植え付けることで大きなアドバンテージを手に入れる。

 武器を振るう者にとって、視えない障害を設置されるのは戦う空間を削がれるに等しいことだ。リアンが槍を存分に振り回せるのは、周囲に障害物がないという前提の上に成り立っている。

 彼が全力で戦える空間に爆弾をしかけられ、いったいどのように戦うというのか。それを興味深く見つめる面々の視線に応えるように、リアンは一度指先で槍の刃をなぞった後、槍を両手で握り直して己が身体の前に突き出す。

 これまでとは異なり、両手の距離をゼロにして、拳同士を接触させ。両拳を槍の中心へと寄せたリアンは、メイアから視線を逸らすことなく彼女の攻撃を待つ。

 リアンの待ちの空気を読み取ったか、メイアは足場を蹴り、再びリアンへ向けて斬りかかる。当然、リアンの周囲に新たな足場を生みだして、だ。

 彼女が攻めのために駆けだしたのを見るや否や、リアンは手に持つ槍を風車の如く回転させながら自身の周囲に壁を張るように旋回させていく。

 そして、前方右に槍と足場の接触する感覚を感じ取り、リアンは槍から右手を離して空いた手をその足場へと接触させる。

 だが、それは駆けてくるメイアにとっては見逃せない程に大き過ぎる隙だ。空いた右脇腹目がけてメイアは刀を疾走させる。

 襲い来る刃に、リアンは回避する術を持たない。出来ることは、左手にある槍を大地につきたて、刃の壁として体との間に緩衝させるくらいか。

 メイアの加速の付いた刃はその程度では止められない。間に挟んだリアンの槍ごと彼の腹部に叩きつけ、まともに喰らったリアンは草原へ叩きつけるように転がされてしまう。

 激痛と咽返るほどの肺から吐き出される空気に、リアンは表情を歪めるものの倒れ込むことは無い。すぐにその場に立ちあがり、メイアの追撃を警戒して槍を構える。

 当然メイアとてリアンを休ませる理由はない。再び彼の傍に視えない障害を仕掛け、風を纏って彼へと追撃する。

 完全に打つ手なしといった状況に、もう駄目かとロベルトが瞳を閉じそうになったそのときだった。

 リアンはメイアの攻撃を迷うことなく『全力で』槍を薙いで受け止めたのだ。視えない足場を避けるように下からすくいあげられたリアンの槍撃を流しながら、メイアは驚きを隠すように手を休めず攻め立てる。

 メイアの剣撃をリアンは次々に受けとめていく。それも寸分違わず視えない足場を回避するように立ちまわっていくのだ。まるでそれがリアンに見えているかのように。

 再び戦場をイーブンへと引き戻したリアン。メイアと対等に打ち合う彼の姿を見つめながらも、ロベルトの疑問は解消されない。

 何故、リアンは再びメイアと打ち合える状況にすることができているのか。視えない足場が彼の戦闘を阻害しているのではないのか。

 その答えは、彼の腕の中でちょこんと座るライティから告げられる。


「仕組みがばれちゃってるね、メイアの足場の魔法。リアン、足場に印をつけてる」

「仕組みに印? ライティ、それはどういうことだ?」

「メイアの使ってる足場を生みだす風魔法、あれは己の魔力を透明な結晶化にすることで足場として使ってるもの。

でも、メイアの魔力の絶対量はそれほど多くはないから、何度も生み出して消滅させてまた生み出してを繰り返す訳にはいかないの。

そんなことをしちゃうと、あっというまに身体の魔力が枯渇しちゃうから」

「そりゃおかしいだろ? だってメイアさんは、あの視えない足場を何度も使ってリアンを邪魔してたぜ? 一個しか作れないにしても、あれは何度も出し入れを繰り返しているんじゃないのか?」

「マリーヴェルがさっき言ってた。自分の強さを何倍にもみせるのが強さだって。

メイアがこの戦いで作った足場は一つだけ。メイアは足場を何個も作ってるんじゃない、最初に作った一つを移動させて使っているの。

視えないから、戦ってる人や観戦してる人には突然別の場所に足場が転移した、もしくは新しく生成されたようにしか見えないだけ」

「ここからは遠くて見えぬが、恐らくリアンはその視えない足場に一度接触し、己が目にも見えるように何かしらの印をつけたのだろうな。

ぶつかりあう前に槍を旋回させたのは、恐らく視えない足場の位置を探るためだろう。そして足場に触れ、大凡の大きさを掴みとり、印をつけた」


 ライティとグレンフォードの読み通り、リアンは視えない足場に対処するために一手を打った。

 視えない足場の設置、それをメイアが攻めの瞬間だと推測したリアンはメイアが攻めてくる瞬間、自身の周囲に槍を大車輪のごとき旋回をさせてわざと槍と視えない足場を接触させた。

 そして足場の位置と個数を掴み、即座に足場へ触れて視えない足場の大凡の大きさを触感にて読み取る。その過程で足場に対し、リアンは己の血液を付着させたのだ。

 ただし、メイアと戦いながら余裕を持って行えるような作業ではない。ゆえに、リアンはメイアからの痛烈な一撃と引き換えにその時間を生みだしたのだ。

 案の定、隙をみせたリアンにメイアは強烈な一撃を叩き込み、リアンは手痛いダメージを負ってしまったが、その報酬はきっちりと手にしている。

 メイアの視えない足場に付着させた血液が宙を動く様子を目で追い、リアンは風魔法のからくりを見抜いたのだ。

 目に見える障壁など、彼にとっては妨害にならない。メイアと視えない足場の動き、その両方を目で追いながら戦うだけのこと。

 完全に足場の存在を見抜いているリアンにメイアは満面の笑みを浮かべて心から賞賛する。たった一度の攻防で対処してみせたことは見事、だがそれ以上にリアンの思い切った判断力に心動かされずにはいられない。

 視えない足場とメイアの言葉に、頭の中はさぞや混乱しただろう。だが、それでもリアンは即座に落ち着きを取り戻し、冷静に対処を行い、ダメージと引き換えにこの厄介な魔法を攻略してみせた。

 戦いにおいて自分への痛みを差し出して糸口を掴むなど、並みの戦士では出来ないことだ。それをやってのけたリアンの成長、たくましくなった姿、そのどれもがメイアの心を感動で打ち震わせる。

 既に認めていたが、メイアは改めて認識を深める。もはやリアンは自身と同等、あの日から自分の教えを忠実に守り、武を磨き続けてくれた少年がここまで高みに昇って来てくれたのだと。


 幾度とリアンと打ち合いを繰り返し、終わらない舞踏の時間を楽しむように互いの武をみせあうメイア。

 二人が打ち合いを始めてから三十分が過ぎようとしている。それほどまでの時間を戦い続けても、なお二人は笑いあう。

 お互い身体はボロボロで、いったい何度草原へ叩きつけられただろう。だが、それでも二人は止まらない。じゃれあう子猫のように、何度も何度も立ちあがり攻め立てる。まるでこの時間が終わることを拒否するかのように。

 そう、これは一年間もの間、二人が夢見続けた約束の時。どこまでも熱望し続けた溶ける程に燃える瞬間。

 溶けあうほどに熱を感じ、互いの呼吸を、鼓動を感じられるほどに触れて。その二人の姿を見つめながらノウァがぽつりと言葉を紡ぐ。


「確かに強くなっている。俺様と打ち合ったときよりも動きも強さも遥かに洗練されている。並みの魔族では太刀打ち出来ぬほどに。

だが、それでは俺様は倒せんぞ、リアン。言った筈だ、お前の攻撃には絶対的な一撃が存在しないと。

自分の全てを賭すことが出来る一手を紡げなければ俺様はおろか、その女にも勝機はない。失望させてくれるな、リアン。

見せてくれ、貴様の本当の輝きはこのようなものではないだろう。真に貴様が女神リリーシャに選定された『リエンティの勇者』であるならば――」


 そんなノウァの想いが届いたのかは分からない。だが、戦場が最後の終局へシフトしたことは間違いなかった。

 打ち合いを続けていたメイアがリアンから距離を取り、最後の一手を紡いだのだ。それは彼女の切り札にして最強最後の奥義。

 風魔法と闘気の解放により生み出されるはメイアの幻影。全てが闘気によって実体を持つ幻影で、その技は邪竜王をも翻弄し貫いたほど。

 一太刀にて幾重にも刃を繰り出すことのできる、ガシュラと風魔法を使いこなす彼女だけが可能とする奇跡。その姿をみつめながら、マリーヴェルは言葉を紡ぐ。


「最後の勝負に出たわね、メイア。いつかくるだろうと思っていたけど、ここで闘気を解放してくるとは、嫌になるくらい勝負所を分かってる」

「邪竜王との戦いにて使用した幻影の闘気か。俺とは違い、メイアは闘気を武器ではなく幻影に込めて戦う。全てが実体ゆえに攻撃の全てを受けなければならない。

さて、どう戦うリアン。邪竜王との戦いの時点での実力のままでは、あれは防げんぞ。俺が見ていない間にどれほど成長したのか……楽しみだ」

「まさかメイアさんがリアンさん相手にあれを使うなんて……あ、あの、リアンさんの治療の準備とか」

「いいからあんたは黙って観戦してなさい。それにリアンの大怪我する未来を考えるのはまだ早いわよ。

邪竜王との戦いを終えてから、リアンだって成長してるんだから。少なくともあれに対抗できるくらいには、ね」

「マリーヴェル、それはつまり……」

「ふふん、私達だって日々鍛錬を重ねているのよ。足を止めてる暇なんてないんだから。

――リアン! メイアが本気をみせているんだから、もう温存する必要なんてないわ! あれをメイアに見せてあげなさい!」


 マリーヴェルの指示に、リアンは力強く頷いて槍を構える。どうやらリアンもここが最後だと感じたらしい。

 幻影を生みだしたメイアに対し、リアンは真っ直ぐに槍を構えて受けの姿勢を取る。それはメイアのあの恐ろしい五月雨のような幻影の攻撃を受けてみせるという意志表明。

 彼のどこまでも挑み続ける姿に、メイアは溢れ出る喜びを噛み殺しつつ、リアンに向けて刀を構える。容赦も手を抜くこともない、全身全霊の一撃をもって彼に勝つ、それがメイアの想いだった。

 何をしてくるのかは分からない。リアンがどんな切り札を用意してきたのかは分からない。だが、それでもメイアは攻めることを選んだ。

 自分のスタイルで、この国最強へと昇りつめた実力をもって、リアンに勝つ。逃げることはしない、正面からぶつかって勝つ。それこそが彼女の譲れぬ想いだった。

 静まり返る草原、張り詰めた空気。互いに瞳を逸らすことなく向きあい、そして――メイアが爆ぜた。

 風魔法と幻影を引き連れ、構えるリアンへ向けてあたかも肉食獣が駆けるように。光り輝くガシュラと共に、リアンへ向けて斬りかかる。

 その光景にロベルトは息を呑む。彼は知っている、あの一撃は邪竜王をも退ける強力無比な一撃なのだと。

 一太刀にして幾重にも斬りつけ、その破壊力は何倍にも膨れ上がる。何よりその攻撃を続けたままで、次の太刀を繰り出すこともできる厄介過ぎる代物。

 あれを弟分であるリアンが受けようというのだ、彼でなくても心配せずにはいられない。どうやってあんな攻撃を止めるのかと。

 だが、ロベルトとは正反対にマリーヴェルは何一つ心配はしていないというように、表情を変えずにリアンの背中を見つめていた。

 そう、彼女は知っている。リアンの本当の輝きを、身につけてみせた力を。だからこそ、彼女が送るのは心配ではなく期待。自分達の師の強さを乗り越える、その瞬間を。

 草原に集う全ての人々の視線を集め、迫りくる風神を前にして、リアンは自身の最後の力を解き放つ。

 彼の身体を包むように眩く輝くは黄金の闘気。それは、邪竜王の聖地でグレイドスを打ち破った奇跡の力。全身を輝きに包み、リアンは咆哮と共にメイアの斬撃へ対して槍を薙ぎ――吼えた。


「ぁああああああああああああっ!」


 一閃。リアンが槍を薙いだだけで、草原の人々は驚愕に表情を染める。邪竜王を屠ったメイアの幾重にも連なる刃を全て弾き返したのだ。

 一度に数十回は斬りつけられただろう。受けた槍にそれほどの破壊力が集中して襲いかかっただろう。だが、メイアの攻撃を何の重さも感じないとばかりにリアンは強引に槍で打ち払ったのだ。

 誰より驚いたのはメイアだ。まるで大人が子供を相手にするかのように、力勝負すらすることなく必殺の一撃を払いあげられてしまった。

 打ち上げられた攻撃に、メイアはよくぞ刀を手放さなかったと賞賛されるべきなのかもしれない。それほどまでにリアンの一撃は重く、メイアの右手は軽い痺れを残している。

 だが、驚きはそこで終わらない。身体を黄金の闘気に包まれたリアンは、メイアへ向けて追撃を行う。攻撃へ転じた彼は、これまでとは比べ物にならないほどに速く鋭く。

 まるで身体につけていた重りを脱ぎ捨てたかのように、別人のような動きをするリアンにメイアは幻影全てを防御へと回すしかできない。

 攻めと受け、それが見事にひっくり返ってしまった戦場にて、呆然とするロベルト。そんな彼に、マリーヴェルはまるで我がことを自慢するかのように口を開く。


「邪竜王との戦いが終わって、私とリアンはひたすらある鍛錬を重ねてきたの。その内容は見ての通り、闘気を使いこなすこと」

「あれが、リアンの闘気か。全身を包むように輝く闘気が、リアンの身体の全ての力を向上させているようだ」

「グレンフォードとメイアの闘気の使い方を見て、私達は考えたわ。

グレンフォードが武器に闘気を集めるように、メイアが風魔法に溶け込ませるように、もしかしたら闘気の使い方は人それぞれで特徴があるんじゃないかって。

そして、サトゥンに話を訊けばリアンはグレイドスとの戦いの中であれを使っていたというじゃない。無意識の内に使うことができていたならば、あとは意識的に力を使えるかどうかよ。

必死に鍛錬を重ねて、ついにリアンはあれを身につけることができた。リアンの闘気は全身を包み、身体能力を底上げする力。あれならば、メイアの幻影にも対抗できる」

「すげえ……リアンの奴、あんなすげえものを身につけてたのか!」

「状況は五分。あとは時間との勝負……リアン、押し切りなさいよ、ここまできたんだから」


 感動するロベルトだが、今この場において誰よりも感動に打ち震えている者は彼ではない。

 その者はリアンとメイアが刃を繰り返し交換する姿を眺めながら、力強く拳を握りしめている。リアンの身を包む輝き、絶対的な一撃を繰り出す姿、そのどれもが彼が求めて続けていた勇者の姿そのものなのだから。

 この姿が見たかった。どんな敵をも退けるほどの輝き、力。リアンの身体から溢れ出る生命の輝き、それは人間のみに許されたこの地に生きる人々の結晶。

 胸が燃え上がるように熱く感じる自分を抑えきれず、ノウァはリアンへと視線を送り続けるのだ。あの刃がいつの日か自分と対峙するときがくる、それを考えると興奮が抑えられないとばかりに。

 リアンが最後の力を解放し、戦況をひっくり返され防戦一方となるメイアだが、驚きこそあるものの彼女に後退の二文字はない。

 自分が最後の力を解き放ったように、リアンもまた最後の力を解き放って向かってきてくれたのだ。これから逃げるなど有り得ない、これほどまでの力の輝きを自分のために使ってくれたのだ、真正面から打ち合う以外に道は無い。

 荒れ狂うリアンの槍をメイアは全ての幻影を駆使して攻撃を凌ぐ。もはや幻影ではリアンの槍は抑えきれない。受け止めれば幻影ごと力負けして吹き飛ばされてしまう。

 ゆえにメイアは受けではなく刃を振るい打ち合うことでリアンの槍を相殺する。手数によってリアンの槍を抑え込もうとする。

 もはや後の体力など考えない。全力をもって戦わなければリアンの槍は止められない、抑えられない。それほどまでに彼の力の全てが向上してしまっている。

 ただでさえ身体能力は仲間の中でも抜きんでていたリアン、その彼が更に身体の能力を引き上げられているのだ。もはや何も考えずに振るわれる槍ですら一撃必殺の威力を持つようになってしまった。

 一撃一撃が必殺と化したリアンの進撃を、メイアはひたすらに刃を振るって止め続ける。そして表情に見せるは戦士の笑み。

 状況は絶体絶命、リアンの槍は止められない。だが、それがなんだというのだとメイアは笑う。これこそが、この状況こそが自分が何より望んだ景色ではないか。

 ここまで成長してくれたリアンに心から感謝したい。これほどまでに心躍る戦いなど先にも後にもないかもしれない。だからこそ、諦めることなど有り得ない。勝つこと以外考えない。

 故にメイアは、己の全てを賭して前へと踏み出す。守りはもう要らない、避けることも考えない。ただ己の全てを攻撃に注ぎ込み、リアンに打ち勝つ。それだけでいい。

 リアンの槍に対抗するには、こちらも力の全てを賭けた必殺の刃を放ち続けるしかない。そのメイアの姿勢は実り、二人の打ち合いは五分へ引き戻される。

 もはや二人に細かな戦闘の駆け引きを行う余力などない。ただ本能のままに、身体にしみついた経験のままに、全力で槍と刀を交わすだけ。

 己の全てを叩きつけるように、この一年間の時間に積み重ねたものを共有し合うように、全てを尽くすことだけを考え。


 永遠に続くかと思われた二人の戦い、その結末の時は訪れる。リアンとメイアが咆哮と共に放った最後の一撃は今日最高の力を乗せて。

 上から斬りおろすように放たれたメイアのガシュラと振り上げるように繰り出されたリアンのレーディバル。伝説の武器が互いの主の強さを主張し合うかのように唸りを上げてぶつかり合い――そして、メイアの手からガシュラは放たれ空高く舞った。リアンの全力を受け続け、メイアの体力は限界を迎えていたのだ。

 自身の刀が空へ舞い上がるのを見届け、メイアはゆっくりと息を吐く。その彼女に向けてリアンは槍を引き戻し、そして――ゆっくりとその場に倒れ落ちていった。

 メイアの生み出した幻影が消え、リアンの身体を包む闘気が霧散したのを見届け、二人に対してサトゥンが高らかに宣言を行う。


「勝負あり! ふはは! この勝負、両者戦闘続行不能とみなし引き分けとする!」


 サトゥンの宣言通り、リアンもメイアも闘う力などもはや一欠けらも残って無かったのだ。

 全てを賭した一撃を繰り出した時点で、二人は限界を越えていた。二人を突き動かしたのは互いを想いあい、決して先に根を吐かないという意地のぶつかり合い。

 闘気を使うことは恐ろしく体力を消耗する。ましてや二人は全ての攻撃を全力で打ち合ったのだ、その削られていく体力は想像を絶するものがあっただろう。

 リアンは自身で立ちあがることすらままならぬほどに力を使い果たし草原に倒れ、メイアもまた刀を握る力など存在せずその場に腰を落としている。

 だが、二人の顔には充足に満ち足りた笑みしかない。文字通り、己の全てを出し尽した故の結果だった。悔いはなく、彼らの心には最高の時間を共に過ごした余韻しか残されていない。

 リアンとメイアは互いに視線を交わしあい、微笑みあう。武器を通じて己の全てを語りあったのだ、今さら二人に言葉など必要ない。

 歓声をあげて集まってくる仲間達が辿り着くまでの間、二人だけが共有し合える胸の中の温かな想いを今はただ、感じ合っていたいから。








ここまでお読み下さり本当にありがとうございました。次も頑張ります。

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