表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
五章 刀覇
49/138

43話 翼



 翌朝を迎え、旅立つ準備を終えた面々はサトゥン城の前へと集合する。

 それぞれが己の得物と荷物にならない程度の応急手当薬を持ち、いつでも旅立つ準備は万全といった状況だ。

 ただ、ミレイアが少し大きめの道具袋を背負っているのが気になったらしく、ロベルトが中身を訊ねると、ミレイアは力なく微笑んで『諦めました』と呟くのだ。

 『道具袋を背負わずに教会を出ようとすると、何故か頭の上に乗ってくるんです』『どれだけ離しても、一歩外に出ると頭の上で寝てるんです』といった供述をぶつぶつと始めたので、ロベルトはあまり触れないことにした。

 大きな道具袋の中からカリッカリッと内側からひっかくような音が聞えたり、ぶるぶるぶると小動物が身体を震わせるような音が聞えたりしたのだが、その全てをロベルトは聞こえない振りをしてやり過ごした。

 全員が集合する中で、マリーヴェルはふと視線をサトゥンの方へと向ける。正確にはサトゥンの背中だ。

 そこにはリアンが何故かサトゥンの背の中ですやすやと眠りこけており、その光景に眉を寄せながら、マリーヴェルはサトゥンへと訊ねかける。


「もう出発するのに、どうしてリアンは眠ったままなのよ」

「ふははは!こやつは昨夜、私と秘密の授業を二人っきりで行って疲れ果てておるのだ!

私に教えを乞うリアンに対し、手取り足取りじっくりみっちりと優しく激しく導いてあげた私を賞賛するがいい!ぬはははは!」

「……アンタ、まさか模擬戦したんじゃないでしょうね。メイアに絶対するなって言われてた筈だけど」

「なんだ、仲間外れにされて寂しいのか!くはは、たまには可愛いところもあるではないか!普段は微塵も可愛くないくせに!がはは!」

「斬られたい?貫かれたい?私は優しいから選ばせてあげるけれど」


 リアンを抱えたまま、マリーヴェルの振り回す剣を気持ち悪い動きで回避し続けるサトゥン。その光景もロベルトは極力見ないことにした。

 マリーヴェルの剣を二十八回連続で回避し続けたサトゥンに、グレンフォードはまるで何事もないかのように、普段と何も変わらない様子で訊ねかける。


「それで、移動手段はどうする。目的地は海を越えた先の孤島、断崖絶壁で船すら使えない。サトゥンは何やら策があると言っていたが」

「むはは、任せておけ。断崖絶壁で船が接岸できぬのならば、空を飛んでゆけばいいのだ。

奴等もそうやってトントの街まで来たのだろう?奴等が手本を示してくれたのだ、我らも同様に空飛ぶ巨大な獣に乗ってゆけばよいのだ!」

「ま、まさか私達もド、ドラゴンの背中に乗りますの!?」


 サトゥンの発言に少しばかり目を輝かせたのはミレイア。

 巨大竜の背に乗って移動など、御伽噺の世界だ。しかし所詮現実の竜は魔物、そんなものに乗れる筈が無い。

 それが現実になるのだ、ミレイアでなくとも興奮は隠せない。興味なさそうに振るまうマリーヴェルも、やはり胸を躍らせずにはいられないようだ。

 ロベルトとライティに至っては完全に楽しみにしているようで、今か今かとサトゥンが竜を呼び出すのを待っている。

 そんな周囲の期待に応えるように、サトゥンは高笑いをしながら、とある方向を指差して叫ぶのだった。


「ぬはははは!見るがいい、英雄達よ!こ奴が我らを目的の地へと誘う誇り高き獣である!」


 サトゥンの指差す方向を期待の眼差しで見つめる面々。サトゥンの人差し指の先、そこには――小さな雛鳥が木の実を啄んでいた。

 大きさにして、ライティの拳程度の大きさの、黄色い羽毛が特徴的な可愛らしい雛鳥。短い足を一生懸命動かして、ぽぴぽぴと不思議な鳴き声を奏でる姿は愛らしい。

 言葉を失う面々。一番最初に意識を取り戻したライティが、とことことその雛鳥の傍まで歩み寄り、掌で包むように、雛鳥を抱え上げて、一言紡ぎ、そこから時間は再び動き出した。


「温かい。もふもふする」

「というかその雛鳥、リアンさんの隣家で生まれたケイリアの雛ではありませんの……?

確か五羽ほど、雛鳥が最近生まれたとその家の一人娘のレミーちゃんが昨日私に自慢してくれたのを覚えているんですけれど……」

「ケイリアの雛鳥かよ……ケイリアってそもそも、飛べねえ鳥じゃねえかよ……卵、すげえ美味いんだよな」


 ライティが連れてきた雛鳥を、ミレイアとロベルトが覗き込みながら口々に感想を述べる。

 ケイリアと呼ばれる鳥は、主に人間に飼育されている鳥で、成鳥の大きさは大体大人の膝下程度まで大きくなる。

 雌鳥の産む卵は美味で、よく食用に飼育されているが、肉はまずい。よって専ら愛玩用か、卵を食用とするために飼育されている鳥である。

 ロベルトが呟いている通り、空は飛べない。お腹がでっぷりと膨れ上がるデブ鳥で、羽も小さく退化し、微塵も空は飛べない。それがケイリアであった。

 最早呆れを通り越して、絶対零度の視線をこれでもかとサトゥンにぶつけるマリーヴェル。恐らく背中にリアンをサトゥンが背負っていなければ、星剣をまっすぐに突き刺していたかもしれない。

 そんなマリーヴェルのじと目を気にすることは当然微塵も在る筈もなく、サトゥンは楽しげに笑いながら説明を始める。


「そう、こやつはお前達のよく知るケイリアというものの雛鳥よ!今朝、レミーに頼み込んで数日だけ借りることに成功したのだ!

こやつの名はポフィール!ぽふぽふ鳴くところからレミーが名付けた素晴らしき名前である!」

「あんた、子供相手に泣きついたり頼み込んだりしてばかりの自分の人生に、そろそろ少しでもいいから疑問を持った方がいいと私は思うの」

「確かに今のままでは、こやつは一人で空も飛べぬ脆弱な雛鳥に過ぎぬ!

だが、こやつに私が力を貸してやれば、たちまち立派な成鳥となり、雄々しく華やかに大空を羽ばたく巨鳥となるのだ!」

「いや、成鳥になっても飛べねえから。大人になってもこいつ空飛べない鳥だから」

「我が深遠なる魔力の胎動に応えよポフィール!ぬうううううん!」


 マリーヴェルやロベルトから送られる総突っ込みを右に左に聞き流し、サトゥンは両手を雛鳥へと翳して呪文の詠唱を始める。

 サトゥンの掌から放たれるは黒き靄のようなもの。それらがライティの掌の上の雛鳥を包み込み、何かを感じ取ったライティは慌てて雛鳥を地面へと優しく置いた。

 サトゥンの放つ靄に包まれた雛鳥は、やがて真綿が水を吸うかのように、むくむくと、むくむくと、どんどん巨大化してゆき――その大きさはサトゥン城を超える程になってしまった。見た目はそのままで。

 超巨大雛と化したポフィールをあんぐりと眺める一同に、サトゥンは胸を張って黄色い羽毛をぽふんぽふんと叩きながら語るのだ。


「我が力が一つ、眷属強化である!何も出来ぬ幼い雛鳥だったポフィールも、我が魔力によって空を翔ける巨鳥と化した!

こやつは私の言うことならば、何でもこなしてくれるこの世界最強の鳥となったのだ。さあ、ポフィールよ!我らを邪竜王の聖地とやらに運ぶぺらっ」


 ポフィールに命令を下そうとしたサトゥンだが、突如寝転がったポフィールが見事サトゥンを下敷きに押し潰してしまう。

 どうやら横腹が痒かったらしく、ポフィールはぐりぐりと地面に横腹を擦りつけているが、その下にはサトゥンがいる。

 まるで小麦を石臼で挽くようにぐりんぐりんと丹念に擦るポフィールから必死に顔だけを出して、サトゥンはくははと笑うのだった。


「ぬふん、このように私の言うことならば何でも従順に従う可愛い奴なのだ」

「従ってねえよ!微塵も従ってねえし、潰されてるよ旦那!めっちゃ牙剥かれてるじゃねえか!」

「気が済んだら、さっさとその鳥を元に戻して飼い主に返してきなさいよ。私達遊んでる場合じゃないの、分かってる?」

「そもそもケイリアを巨大化したところで、空は飛べないと思うのですけれど……」

「心配無用!ささ、お前達、早くこ奴の背中に乗るがいい。全員乗ったら出発である!」


 いそいそとポフィールと大地の隙間から抜け出し、サトゥンは全員に鳥の背中に乗るように指示を出す。

 半信半疑の一同だが、サトゥンが絶対大丈夫だと何度も繰り返し言い聞かせてくるので、渋々ポフィールの背中に乗り込んでいく。

 全員が乗りこんだことを満足気にサトゥンは確認し、背中で眠るリアンをグレンフォードへと預け、自身はポフィールの頭へと飛び乗る。

 頭上で腕を組み、胸を逸らして高笑いしながら、ポフィールへ高らかに命令を下すのだ。


「旅立ちの時、来たれり!くはははははは!さあ、行くぞポフィール!

攫われたメイアを救い出す為に、目的の地へお前のその力強き翼で羽ばたき飛び立つのだ!飛びたてい!聖鳥ポフィールよ!」


 サトゥンの声に呼応するように、ポフィールは村中に響くような可愛らしい鳴き声をぽひぽひとわななかせる。

 一鳴きした後、その短い翼を必死に開き、子犬が尻尾を振るように、ぱたぱたぱたと羽ばたかせ、微塵も空を飛ぶことは無い。

 でっぷりと、ずんぐりむっくりとした雛鳥の巨体を、小さな羽の羽ばたきだけで当然浮かび上がる筈が無い。そもそも空を飛べる鳥ではないのだ。

 ばたばたと羽だけを動かし続けるポフィールが段々と可哀想になってきたのか、マリーヴェルが文句を言おうとサトゥンへ口を開こうとした時である。

 ずっと羽を動かし続けていたポフィールが、ぐっと身体を沈みこませたかと思うと、その刹那――全力で大空に跳躍したのだ。

 それはもう恐ろしい程の速度で大空へと跳ね上がった。それもかなりの高度だ。一気に大空へ連れ去られた一同だが、その身体には衝撃もなければ風圧で吹き飛ばされるということもない。

 事前にこれを予測していたのか、サトゥンがポフィールの周囲を包むように大きな防壁を張っており、背中に乗る面々に危険は少しも及ばなかったのだ。

 遥か大空へと跳躍したポフィールは、ある程度の高さまで辿り着くと、その高さをキープするかのように羽を再び羽ばたかせる。

 すると、高さは楔を打ち付けられたかのように固定され、ポフィールが羽ばたく度に前へ前へと飛行するのだ。それもかなりの速度を保った状態で、だ。

 空を翔けている、などと格好良くは形容しがたいポフィールの飛行だが、それでも目的である全員を背に乗せての移動を実現させている。

 それ故に、誰もサトゥンに文句など言える筈もない。色々と突っ込みたくとも、それをぐっと堪えるのだ。

 ポフィールの頭上で高笑いし続けていたが、あまりにその声がうるさかったのか、ポフィールは頭をぶるぶると振り払い、サトゥンを頭から滑り落とさせ、眼前まで転がってきたサトゥンをポフィールはパクリと一飲みにする。

 その光景を一同は誰も見なかったことにして、ポフィールの背の上に腰を下ろして会話を始めるのだった。


「この速さなら、あっという間に着きそうね。邪竜王の聖地とやらに乗り込む訳だけど……敵はメイアを倒した奴だけなのかしら」

「それはないんじゃねえかな。ケルゼックって野郎も、邪竜王って奴を復活させようとしてたんだし。

それに、ケルゼックの野郎は自分のことを邪竜王四天王とか言ってたぜ。つまり、似たような奴があと最低三人はいるってことじゃねえかな」

「敵が何人いようが問題ない。メイアを救出する為ならば、誰が相手であろうと斧を振るうだけだ」

「違いないわ。どれだけの敵が相手でも、私達がすべきことは変わらない。自分達がしでかした罪の大きさをきっちり認識させてあげないとね」


 好戦的な笑みを零すマリーヴェルだが、ふと視線をミレイアの方へと向けると、そちらで予期せぬ光景が広がっていた。

 ポフィールの羽毛の上で眠るリアンの頭部を支えるように、ミレイアが彼に膝を枕代わりに貸していたのだ。

 微塵も想像していなかった光景に、マリーヴェルは自分でも気付かぬ程に無意識で目力をを強めて『何しているの』とミレイアを睨みつける。

 そんなマリーヴェルの視線に気付いたミレイアは、何故自分が睨まれているのか分からず、少しばかりうろたえたながら説明をする。


「いえ、リアンさんが眠り続けていますし、枕がないのは可哀想かな、と」

「だ、だったら何で貴女の膝なんか貸してるのよっ。鞄の中のリーヴェでも枕代わりにすればいいじゃないっ」

「む、無茶苦茶言わないでくださいまし!」

「とにかく、それは駄目!よく分かんないけど、何か、嫌」

「だったらマリーヴェル、貴女がリアンさんに膝を貸してあげなさいな。リアンさん、本当に疲れ果ててるみたいですし、それくらい構わないでしょう?」

「わ、私!?」


 返す刃で提案を突き付けられ、あうあうと困り果てるマリーヴェル。

 眠るリアンに膝を貸す、すなわち膝枕をしてあげること。この衆前で、リアンに。それを考えると、耳まで熱を持ってしまう。

 ミレイアにされるのは胸がもやもやするが、では自分がやれるかとなると、それはそれでかなり難しい。恥ずかしさでとんでもないことになってしまう。

 マリーヴェルとて十六を迎えた年頃の少女。歳下の男の子程度にしかみていないミレイアと違い、マリーヴェルはリアンを異性として意識している。

 故に、膝枕などとんでもない大冒険なのだ。はっきりと断ってしまいたいが、そうなるとミレイアの膝枕が続行されてしまう。それは一番マリーヴェルが嫌なことだった。

 悩みに悩み抜いた果てに、顔を真っ赤にしながら、マリーヴェルは決意を固めたのだ。『やるわ』、そう一言決意表明をしてミレイアと場所を交代する。

 ちなみに、その間、ロベルトはマリーヴェルをからかいたくてからかいたくて仕方なかったのだが、自分の膝の中でライティがしっかり鎮座している為、口を必死に噤んでいた。

 今の彼が、マリーヴェルをからかう資格などないのだ。からかえば『黙れ幼女趣味』と逆に致命傷を負う未来しか見えないのだから。

 がちがちに緊張する中で、リアンに膝を貸すマリーヴェル。それは戦闘でどこまでも強く在る少女が普段はみせない珍しい年相応の女の子の顔で。

 そんな妹を優しく見守りながら、ミレイアもまた、道具袋の中からリーヴェを抱き抱え、ブラッシングを始めるのだった。

 あまりにいつも通り過ぎる面々を、グレンフォードは安心するように小さく笑みを零すのだ。変に気負う必要もない、これくらいが自分達には丁度いいのかもしれないと。

 彼らに張り詰めた空気を微塵も生みださせない要因は、ポフィールの嘴から必死に抜け出そうともがいている勇者のおかげなのかもしれない。

 一時間かけて、なんとかポフィールの体内から脱出したサトゥンは、マイペースに過ごす面々を満足そうに眺めていく。


「むふん、どうやら不安も迷いも何もかも吹っ切れたようだな。良きことである!

くはは、お前達の成長を私は心より嬉しく思うぞ!私に子供等おらぬが、我が子の成長を見つめる心境とはこのようなことを言うのであろうか!

否、お前達は最早私の子供と言ってもなんら差し支えが無い!さあ、私のことを遠慮なく父と呼ぶがよい!くはははははは!」

「気持ち悪っ」

「そりゃきっついわ、旦那」

「いや」

「ごめんなさい、無理ですわ……」


 サトゥンに対し、次々に容赦ない拒否を突き付けていくパーティの面々。本当に容赦のない全力お断りである。

 ここでリアンが起きていたのなら、頑張って父と呼んでくれたかもしれないが、サトゥンの味方であるリアンは夢の中だ。

 誰一人父と呼んでくれぬ状況でも決して屈さず、サトゥンは残る一人であるグレンフォードをじっと見つめる。

 そんなサトゥンの視線に気付いたグレンフォードは、斧を磨く手を止めて、視線をサトゥンへ返して言葉を紡ぐのだ。


「父と、呼んでほしいのか」

「父と、呼んでほしいのだ」

「俺に、呼んで欲しいのか」

「お前に、呼んで欲しいのだ」

「そうか」

「そうだ」

「それほどまでにか」

「それほどまでにだ」

「どうしてもか」

「どうしてもだ」

「…………父よ」

「…………息子よっ!」

「笑えないくらい気持ち悪いわっ!」


 我慢の限界を突破したらしく、マリーヴェルは腰の薬草袋を全力でサトゥンの顔面へと投げつける。

 彼女が止めなければ、サトゥンは全力でグレンフォードを抱擁していただろう。その絵面は想像するだに恐ろしい、鳥肌ものである。

 だが、グレンフォードに父と呼んで貰えたので、サトゥン的には満足したらしい。うきうきとした様子で、再びポフィールの頭上へと戻っていく。

 人を振り回すだけ振り回して満足するサトゥンに呆れるように息をつき、グレンフォードに投げ渡される薬草袋を受け取りながらマリーヴェルは愚痴る。


「本当にあのお馬鹿は何考えてるか微塵も予測がつかないわ……」

「お前達の気を少しでも楽にさせようとサトゥンなりに気をまわしているのだろう。素直に受け取ってやれ」

「ただ自分の好きなように楽しく遊んでるだけじゃないの?」

「それもあるだろうな。否定は出来ん」


 笑うグレンフォードに、でしょうねとマリーヴェル達も笑って肯定する。

 当人であるサトゥンは、背後から聞こえてくる面々の笑い声を背に受け、満足そうに微笑みながら、再びポフィールに呑まれそうになっていた。勇者サトゥン、学習しない男である。

 必死にポフィールの嘴から脱出しようともがくサトゥンだが、眼前にある光景を捉え、歓喜の声をあげる。


「くはははは!見えたぞ、孤島!あそこが邪竜王の聖地に違いないわ!」


 サトゥンの叫びに、座り込んで談笑していたマリーヴェル達は、視線を慌てて前方へと向ける。

 どのような敵が待っているのか、胸躍らせていた一同であったが、視界の先に広がる光景に言葉を無くす。

 彼らの遥か視線の先、孤島上空に見えるは夥しい数の飛竜の群れだ。遠目からでもその数はゆうに百を超えるほどの大群だ。

 しかも、竜の種類があまりに豊富だ。小さな翼竜から、巨大な竜蜥蜴まで、様々な竜が島上空を飛びまわっていた。

 百戦錬磨のグレンフォードであっても、あれほどの竜の群れはみたことがない。竜とは魔物の中でも上位種、それがあれほどまでに群れるなど悪夢以外の何物でもない。

 そんな皆の驚きを余所に、一人楽しそうに燃える勇者がここに。サトゥンはポフィールの嘴から脱出し、竜の群れを一瞥しながら笑うのだ。


「ぬははははは!勇者の出迎え、ご苦労である!やはり勇者と英雄の物語は、数多の魔物に道を遮られねば始まらぬわ!

ゆけい、ポフィールよ!この大空の支配者が一体誰であるか、身分を弁えぬトカゲどもに叩きこんでやれい!」


 身体中を雛鳥の唾液でベトベトにさせたままで、勇者はポフィールに号令を下すのだった。

 絶海の孤島、邪竜王の聖地上空にて、新たな戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。ぽひぽひと可愛らしい鳴き声と共に。








サトゥンとの濡れ場を演じるヒロイン登場〈ぽひぽひ〉 次も頑張ります。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ