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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
四章 影刃・聖魔
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30話 裏





 裏賭場で二十年。欲に囚われた金の亡者達を、ディーラーとして男はことごとく地獄に突き落としてきた。

 勝ち過ぎず、けれど決して負けない。イカサマの技術も磨いた。オーナーの匙加減一つで目の前の人間の人生を決定し続けた。

 時には巨大な金額を賭けた勝負を行ったことだってある。それでも、彼は負けない。大きな勝負であればあるほど、彼のイカサマは輝いた。

 カードのすり替え、通し。それは最早神技の領域とまで謳われ、彼が大負けをすることなど決してありえないのだ。

 故に彼は、この賭場においてオーナーより厳命されている。どんな大きな勝負であろうと、客の言い値で賭けを行え、と。

 熱くなれば熱くなる程、後で取り戻せると客は大きな金額を賭けてくる。その命とも言える金を根こそぎ奪うことが彼にとって最高の生きがいだった。

 僅かな希望を抱いて、地獄に落ちていく者達の表情が、彼は何より好きだった。今日もそんな悦楽の時間を送る筈だったのだ。


 だが、この世には常識の通用しない化物が存在する。

 その現実を、彼は生まれて四十年余りの人生で初めて直面する事になる。

 震える手でカードを握り、彼は目の前で悠然とカードを再び『全交換』する男を鬼の形相で睨みつける。

 あれはいけない。あれをされてしまえば、またきてしまう。悪夢が、再び。そんな彼の絶望予想図は、確定された未来となって襲いかかってくるのだ。


「ふんむ、これまた私の勝ちだな。10・10・10・10・10。ふははは!50倍の配当である!

賭け金が金貨250枚だったから……うははは!なんと12500枚ではないか!金を稼ぐことの何と容易いことか!くはははははは!」

「ば、馬鹿な……」


 積み込んだ筈だった。山の中の10は全て底へと積み込んだ筈だった。だが、何故か彼の手元に10があるのだ。

 先程のゲームでは、己の手札に10が来るようにカードを切った筈だった。だが、何故か己の手元に10は一枚もなく。

 ならば相手がイカサマをしているのかと視線を凝視しても、サトゥンがイカサマを行っている場面が彼には見つけられない。

 二十年という修羅場を潜り抜けた経験が、彼にサトゥンの異常さを嫌でも理解させてしまうのだ。


 ――こいつ、イカサマなして10を五枚常に揃えているのか。


 そんな奇跡、一体誰が信じると言うのか。こんなこと世界が滅びることがあっても許されないのではないのか。

 人知を超えたサトゥンの恐ろしき剛運に、男は奥歯を噛み締めながら身体の震えを必死に抑える。金貨12500枚、その重みが彼に初めて賭場の恐怖を与えたのだ。

 裏賭場のオーナーが抱えている全財産が確か金貨十万枚ときく。つまり、ここまではまだ裏賭場の許容量なのだ。

 例えここで負けても、裏賭場が潰れるようなことはないだろう。ディーラーの彼の命は保証出来ないが、それでもまだ許容内なのだ。

 だが、もし次に10を5枚揃えられてしまえば、さらに五十倍の配当となってしまう。五十倍、12500の五十倍とはすなわち。


 金貨、625000。


 何だ、その金額は。最早国家予算規模ではないか。そんなもの一体誰が払えるものか。

 どんな手を使っても、勝たなければならない。最早手段など選べない。そのような段階ではないのだ。

 男は視線を背後のあらくれ者達に送り、サトゥンの周辺へ立たせる。人数は十人、そのどれもが屈強な男たちだ。

 ディーラーとしてのプライドを捨て、男は店の存続のみを考え決断を下した。どんな手を使っても、サトゥンに金は持っていかせないと。

 そう、サトゥンは調子に乗り過ぎたのだ。裏賭場で、勝った負けたで金の遣り取りが許されるのは、あくまでオーナーの許容される中での出来事だ。

 それを遥かに超えてしまえば、この場所にルールなど無くなってしまう。一体誰が真面目に金など払うだろうか。

 男が下した判断は、サトゥンが次のゲームに勝ち次第、全てを反故にしてしまうこと。

 楽しそうにカードを再び交換しているサトゥンを眺めながら、男は下種びた笑みを浮かべて内心で毒づくのだ。


 ――調子に乗った貴様が悪いのだ。せいぜい気持ちよく勝てばいいさ、その後に地獄を見るのは貴様なのだから。


 そして、サトゥンはこのゲームに勝利してしまう。10を5枚揃えて、五十倍の確定だ。

 その瞬間、高笑いするサトゥンを荒くれ達が取り囲み、裏賭場内に物騒な空気が溢れかえった。

 荒くれ達は机や椅子を蹴り倒し、サトゥン以外の客へ怒鳴り散らし乱暴に散らしていく。そしてサトゥンを睨みながら暴言を叩きつけるのだ。


「こら、てめえ。ちょっと調子に乗り過ぎじゃねえか?裏賭場で好き勝手やらかしてくれやがって、ただで済むと思ってんのか?」

「ほむ?ふはは、何だお前は、勇者である私のサインが欲しいのか?

だが、しばし待つがいい!私は今、人間が楽しむカードゲームとやらに熱中しているのだ!サインなら山ほど後でくれてやろう!」

「気長に待ってられねえんだよ。いいからさっさと自分の死刑執行書にサインしやがれってんだよ!おらっ!」


 荒くれの一人が、サトゥン達のカードが置かれていたテーブルを、全力で蹴り上げて破壊する。

 散らばったカードを、サトゥンは呆然と眺め、全てのカードがひらりひらりと舞い落ちるのを見つめ続けていた。

 そんなサトゥンを怯えたとみたのか、荒くれ達は調子に乗ってサトゥンへと暴言を吐き続ける。


「んだあ?今更びびってんのか、おら!」

「てめえはやりすぎたんだよ。身ぐるみ剥いだくらいじゃ許してやんねえぞ?」

「切り刻んで魚のえさにしてやるから覚悟しろよ?ああ?何とか言ってみろや」


 サトゥンを何度も蹴り続ける男達だが、その行動は突如として止められることになる。

 荒くれの一人がサトゥンの頭を殴りつけようとした刹那、その身体が消えてしまったからだ。

 一体彼が何処に消えたのか。その答えは、激しい衝撃音の発した壁面にある。文字通り、荒くれの全身がそこにめり込んでいたからだ。

 何が起きたのか理解出来ぬ荒くれ達を余所に、それをやってのけた男は、淡々と言葉を紡ぐ。


「事の経過は見ていた。負けを帳消しにする為に暴力に訴えるのは、すなわち逆に暴力に訴えられても文句は言えんということだ。

サトゥン、この場は俺に任せておけ。お前はリアンに人間は傷つけないと誓ったのだろう。ならば後片付けは俺が請け負おう」

「グレンフォード……私はどうすればよいのだ!あんなに楽しかったカードゲームが、もう出来なくなってしまったではないか!

みよ!私の大切なカードが酒に塗れてぐちゃぐちゃである!この悲しみを一体何にぶつければよいのだ!」

「カードが欲しいのか。街に銅貨十枚程度で売っている、後で買ってやるから安心しろ」

「本当か!?ならばよし!うははははは!約束であるぞ!そのカードを使って後で皆で遊ぶのだ!むははははは!」


 どうやら荒くれ達に微塵も怒りを感じていないサトゥンは、破壊されていない椅子に座り直し、満足気に高笑いしていた。

 そんな彼の様子に、グレンフォードは小さく笑みを零して思う。恐らくサトゥンは、こいつらにされたことなど子猫がやんちゃをした程度にしか感じていないのだろう、と。

 ならば後の処理は自分の仕事だと、グレンフォードは荒くれ達を睨みつけて拳を握りしめる。

 グレンフォードの威圧に、荒くれどもは恐怖に身を凍らせる。当然だ、グレンフォードは歴戦の英雄、幾度と修羅場を乗り越えてきた人間なのだ。

 その彼が敵意を向けているのだ、怯えない者がいる筈もない。先に踏み込めない荒くれ達だが、その絶望は更に加速する事になる。

 グレンフォード同様、カウンターで腰をかけて状況を眺めていた一人の女性がいた。

 全身は外套に隠され、口元だけしか見えないが、その女性が楽しげに口元を緩めながら、席から立ちあがりグレンフォードへと近づいたのだ。

 その女性の接近に何事かと視線を送る彼に、女性は透き通るような声で、グレンフォードに告げる。


「状況は私も見ておりました。この場を壊してくれた憤りは、お二人だけの感情ではありません。

微力ながら、私も手をお貸ししましょう。少しばかり強烈なお仕置きを、この子達に加えてあげませんとね――『爆ぜなさい、光弾』」

「――魔法使い、か」


 感嘆するグレンフォードの呟きに、女性は愉しげに微笑みだけで返す。

 そして、二人は荒くれ達に狙いを定め、その猛獣の牙をむいた。彼らに待っているのは、絶望の未来だけ。

 裏賭場の場内は、そんな二人に大熱狂だ。楽しんでいた場をぶち壊してくれた荒くれ達を、痛快にぶちのめしてくれる二人に声援を送っていた。

 そして争いの原因であるサトゥンは、バーで酒を呑みながら店員の女性達に囲まれちやほやされ、自分がいかに凄い勇者であるか、その武勇伝を語っては高笑いをしていた。見事なまでの駄目勇者である。










 マリーヴェルとリアンは、ロベルトに連れられて街を歩いていた。

 結局悩んだが、二人はロベルトの提案を受け入れたのだ。彼があやしいことはこの上ないが、他に金を得るための有力な手が思いつかないのが現状だ。

 ならば、試しに飛びこんでみてもいいのではないだろうか。駄目ならこいつを半殺しにすればいい、というのがマリーヴェルの結論だった。

 後半の部分を諌めながら、リアンはマリーヴェルに同意をした。どんな結果になるにしても、まずは信じてみようと思ったのだ。

 先導するロベルトに、未だにうさんくさげな瞳を向けてマリーヴェルが訊ねかける。


「ちょっと、どこまで連れて行くのよ。中心街通り過ぎちゃってるわよ」

「そう急くなって、もうすぐだよ。文句をぶつけるのはそこの彼氏君相手だけにしてくれな」

「か、彼氏じゃない!リアンは戦友よっ!」

「お、そうなのか?てっきり恋人同士かと思ってたんだが。違うのか、坊主」

「ま、マリーヴェルと僕はそんなんじゃないです……凄く素敵な女の子だとは思痛っ」


 余計なことを言おうとしたリアンの尻をマリーヴェルが蹴り、その光景に満更でもないことを感じたロベルトは『若いっていいねえ』などと楽しげに呟く。

 顔を赤らめながらも、気を取り直してマリーヴェルは自分の前をいく青年に再び疑問を投げかける。

 疑うことを殆んど知らないリアンのパートナーとして、こういう状況ではどんどんマリーヴェルは踏み込んでいかなければいけないと考えていたのだ。


「それじゃ話を変えるわ。私達がお金を求めてるって貴方、最初から知ってたわね。どうして?」

「魔法……なんてもんが使えれば、俺も金に困ることはないんだけどねえ。勿論、理由はあるさ。

簡単だよ、お前達が港で騒動を起こしていただろう?あの場所に俺はいたんだよ」

「港って……デンクタルロス討伐後に転移したときかな」

「騒ぎがあるところは情報が渦巻いてる、そこに踏み込んでこそが俺の持論でね。

話を拾い集めていけば、なかなか面白いことになってるじゃないか。あのデンクタルロスを倒し、金貨一万枚もの借金を抱え込んでしまった『王女』マリーヴェル様?」

「か、抱え込んだのは私じゃない!失礼なことをいうな!」

「ま、そういう訳で悪いがお前達についてまわらせてもらったって訳だ。

当然、宿屋での会話も盗み聞きしてたんだぜ?お前達が今、金貨一万もの大金を一週間以内に集めにゃならん情報も、ばっちりよ」

「なるほど、全部知ってるって訳ね。それで、貴方は私達に何をやらせようって訳?」

「まあまあ、詳しい内容は依頼主のところへ行ってからにしようぜ。

とにかく俺はお前達が求める金になる情報を握っている。そして俺はお前達のような奴を探していたって訳だ」

「私達のような奴?」


 首を傾げるマリーヴェルに、ロベルトは振り返り、子供のように笑って話す。

 リアンより大人である筈の彼の顔が、何故か二人には同い年の子供のように思えて。


「一つはとにかく強いこと。あのデンクタルロスを倒したくらいなんだ、お前達はおっそろしいくらいに腕が立つ、条件は完璧だ。

そしてもう一つは、仲間を決して裏切らないこと。これが一番重要だ。その点を俺はお前達を信頼してるぜ」

「はあ?あんた、馬鹿なの?初対面の相手が、どうして仲間を裏切らないって判断できるの?頭お花畑なんじゃない?」

「まあ、普通はそう思うわな。言ったろ?俺はお前達の事情を全部盗み聞きしてたって。

いくら仲間の為とはいえ、全員で金貨一万枚を背負い込むような頭がお花畑の奴らだっているんだぜ?俺みたいなのがいてもいいと思わないか」

「――っ、性格悪」

「そうか?これでも良い性格してるって酒場のねーちゃん達から褒められてんだぜ」

「意味が違うわ!」


 飄々とマリーヴェルをあしらうロベルトに、リアンは何だか面白く感じて笑みを零す。

 思えば、リアンにとって歳の近い年上の男の知人は、これが初めてだった。サトゥンやグレンフォードとはまた違う、年上の同性。

 大人とは断定できないが、それでも精神年齢は自分達より少しばかり上のロベルトを、リアンは好ましく思っていた。マリーヴェルは正直ロベルトを微妙だと思っているが。

 そんなロベルトは二人の気持ちを知る由もなく、マイペースに話を続けていく。どうやら彼は意外と会話好きのようらしい。

 街の光景を指差しては、あの店は値段の割に良い味をしてるだの、あの店は可愛いねーちゃんがいて俺のお気に入りだだの。

 あげくの果てには、少しばかりいかがわしいお店を指差して、リアンに今度一緒に連れてってやるなどと言って、全力でマリーヴェルに蹴り飛ばされていたりしたが。

 やがて、目的の場所付近に到達したのか、ロベルトは二人へ振り返り、少しばかり真剣な表情になって説明を始める。


「さて、ここから先が目的の場所だ。

先に説明しておくが、ここから先はお前達が知る表の街じゃない。『裏の世界』だと思ってくれていい」

「『裏の世界』、ですか?」

「ああ、お前達も肌で感じただろうが、美味しい話なんざ太陽の光が届く世界になんて転がっちゃいないのさ。

美味しい話には裏がある。つまり、リスクを負う危険な話は、影に包まれた裏の世界にだけ持っていかれる。

――まあ、今更だが俺はそんな裏の住人だ。俺も数年前、様々な危険や危ない橋を潜り抜けてこの世界に足を踏み入れたって訳さ」

「危ない橋を、ですか」


 リアンの呟きに、ロベルトはにやりと笑って肯定するだけ。

 その彼の姿に、リアンは息を呑む。自分より少しばかり年上の青年が、裏の世界に入る為に、一体どのような危険な橋を渡ってきたというのか。

 彼の背中からは読み取れない過去、だがそれを訊ねてはいけない気がした。きっと踏み込まれたくない過去だろうから。

 自分を押し殺すリアンを余所に、ロベルトは『いくぞ』と二人に指示を出し、とある裏路地へと向かって行く。

 そして、その場所に立つ妖艶な女性に、ロベルトは口を開く。そんな二人の会話を、リアンは息を呑んで見つめて。


「ジュリアさん、久しぶり!俺とのデートの件は考え直してくれました?」

「うわ、また来たのねベル。ちょっと、勘弁してよ、折角良い男と会話出来て良い気分だったのに、台無しじゃない」

「ひ、ひでえ!そりゃないってもんでしょおお。俺だってなかなか良いセンいってると思うんだけど、ほら、顔も整ってるでしょ?」

「アンタは顔だけだから嫌なのよ。昔、土下座して『裏の世界教えてください何でもしますから』って私に泣きついたの誰だっけ?」

「男は成長するんですよ!今の俺は昔の俺とは違うんですって!それでどうです、今度の休みにでも」

「借金抱え込んでる駄目男はパス。それで、一体何の用なの?バーのツケでも払いにきてくれたの?マスターそろそろ切れそうよ?」

「ああー……そ、そのうち返すから、大丈夫だって。俺には大金の当てがあるんだから、余裕だって、ほんとほんと」


 目の前で繰り広げられる会話に、二人は呆然と立ち尽くす。なんかもう、色々と、これまで積み重ねてきたロベルト像が台無しだった。

 ロベルトの駄目っぷりが晒され、リアンは何も聞かなかったことにした。優しい少年である。

 ロベルトのボロボロさが暴かれ、マリーヴェルは彼を塵を見るような冷たい視線を送っていた。自分に正直な少女である。

 やがて交渉を終えたのか、ロベルトは二人に振り返り『奥へ行こう』と指示を出す。

 その指示にリアンは頷き、マリーヴェルは最早視線すら合わせずに彼へとついて行った。

 薄暗くなっていく裏路地を進みながら、ロベルトは忠告をするように二人に話を続ける。


「いいか二人とも、ここから先の人間は全員が裏の人間だ。

どいつもこいつも表では決して出会えない、刃を懐に抱えた狂人達だ。決して安易に信用するな」

「それだけは自信があるわ。私、裏の人間を名乗る馬鹿は絶対信じないことにしたから」

「いい心がけだ。いいか、今から向かう裏賭場の人間は、お前達が出会ったことのない人間しかいない。闇の住人達だ。

決して人間とは思うな。異界の何かだと思え。決してお前達と同じ世界に住む人間じゃない、そう考えるんだ。いいな」


 ロベルトの忠告にリアンは力強く頷き、マリーヴェルはじと目で足元の石を蹴り飛ばしていた。彼女なりの同意らしい。

 二人に説明を終え、ロベルトを先頭に、三人は地下への階段を一歩一歩進んでいく。そして、裏賭場へと扉を開いた。


 そして、三人はその光景を目撃する。

 裏賭場であった筈の場所は、台風が吹き荒れた後のように破壊されつくし、その場には十数人もの屈強な男達が失神し。

 奥の酒場では、客達が入り乱れて歓声をあげて祝杯をあげており。その中央では、どうみても二人が見知ったどこぞの勇者様が女に囲まれ酒を浴びるように飲んで高笑いしていた。


「うははははははは!そうだ!歌え!踊れ!酒を呑め!勇者である私をもてなすがいい!愉快愉快!実に痛快である!ぬははははははは!

なあに!金の心配はいらんぞ!店側が今日の賭けを帳消しにするかわりに今後の飲み食い全てを持つと言ったのでな!さあ!楽しめ!ここはこの世の天国であるぞ!」


 その光景を呆然と眺めていた三人だが、思考がまとまらぬ中、マリーヴェルは足元に落ちていた椅子を掴み、中央で高笑いしている馬鹿目がけて全力で放り投げながら思うのだ。

 この先、どんなことがあっても、もう二度と自称裏の住人とか名乗るような駄目男の言うことなど信じない、と。

 彼女の放り投げた椅子が勇者の顔面に直撃した音は、遅れて放たれたマリーヴェルの怒声によってかき消されることになる。


「情報収集そっちのけで一体何昼間から酒飲んで女集めて遊び呆けてんのよこの駄目勇者ーーー!」


 勝った筈の金貨625000枚を容易く放り捨て、酒と食事と女を楽しんでいる勇者サトゥン。マリーヴェルの叱責、実に正論である。







マリーヴェル内、ロベルタ株ストップ安、サトゥン株上場廃止。次も頑張ります。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。

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