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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
八章 華鞭・龍爪
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112話 夜長

 



「ねえ、何かリアンの様子が変じゃない?」


 夜のサトゥン城。

 室内に集まる仲間に、マリーヴェルは思ったままの疑問を投げかける。

 現在、室内にはメイア、ミレイア、ロベルト、ライティが集まっており、彼女の言葉にミレイアは首を傾げる。逆にメイアは心当たりがあるといった感じだ。


「リアンさんが? 先ほど村人の部屋の割り振りの件でお話しましたけど、そんなことはありませんでしたわよ?」

「確かに様子がおかしかったですね。さきほど廊下で会ったのですが、なぜか視線を合わせてもらえず、言葉もどうも上擦っていて……」

「そうそう! そんな感じだった! ミレイアには普通に接しているってのはちょっとイラッとするけど」

「い、イラッとするってあんまりじゃありませんこと!?」


 腕の中のリーヴェを撫でながら、ミレイアは妹に抗議するが右から左に流される。

 そんな様子を眺めながら、ロベルトは『あー』と言葉を濁しながら一応求められた言葉を述べる。


「俺とライティ相手も普通だけど、まあ、なんだ……そりゃ、仕方ねえよ。あんなことがあって意識するなって方が無理だ」

「ん、無理」

「何? ロベルトとライティは理由を知ってるの?」


 知ってるも何も、その原因らしい場面をしっかり見てしまった、とは流石に言えるはずもない。

 リアンがサトゥンに己の恋心を暴露されていたシーンを二人は偶然見ていた。

 その後、あの二人が小声で内緒話をしていたが、どういう流れになったのかはリアンの反応で大体の想像がつく。


 正直なところ、ロベルトはこの展開は悪くないと思っていた。

サトゥンがあまりに強引な点は気にかかるが、リアンとマリーヴェル、メイア、三人の想いは知っていたし、何より『それ』なら誰も傷つかずに済むかもしれない。

あとは三人がどう答えを出すかだが、心配はいらないだろうと何となく感じていた。

 ライティを膝の上に抱えたまま、ロベルトは視線を反らして言葉を返した。


「まあ、知っているっちゃ知ってるが、俺から聞くまでもねえよ。リアンのことだ、難しいこと考えず、すぐに行動起こすだろうし」

「何よ、気になるじゃない。教えてよ」

「俺から言えることは一つだけだ。マリーヴェル、メイアさん、俺の可愛い弟分をよろしく頼むわ」

「だからそれじゃ意味わかんないってば!」


 ロベルトに詰め寄ろうとしたマリーヴェルだが、彼女が動く前に室内にノックの音が響き渡る。

 ノック音の発生源である扉に視線は自然に集まる中、そこからゆっくりとリアンが入室してきた。

 先ほどまで噂をしていただけにビックリする面々だが、彼らが何かを口にするより早くリアンが言葉を紡いだ。


「あの……マリーヴェル、メイア様、その……」

「な、何……?」


 その様子がやはりどこかおかしい。

 顔色は真っ赤で、視線は下を向き、必死に恥ずかしさを押し隠しているような状態で、とてもではないがいつものリアンとは言い難い。

 いつもと違い過ぎる彼の様子に、流石のマリーヴェルも困惑せざるを得ない。

 そんななか、心配するようにメイアが彼に近づき、問いかける。


「リアン、どうしたのですか? 顔も赤く、熱っぽいようですが……まさか、どこか体調が悪いのでは」

「い、いえ! そんなことはないです! あの、僕は……えっと……」

「ちょっと、どう見てもおかしいわよ、今のリアンは。本当に具合が悪かったりしないの?」


 心配そうに詰め寄るマリーヴェルとメイアに、あうあうと言葉を発せないリアン。

 その光景を見守っていたロベルトだが、仕方ないとばかりにリアンに助け舟を出す。


「おい! リアン、二人に何か用があったんじゃないのか!」


 ロベルトの激励交じりの声に押され、リアンは大きく深呼吸をして、用件を口にした。


「マリーヴェル、メイア様……話があるんだ。少しだけ、時間をくれないかな。城の屋上まで来てほしい」

「わ、分かったわ」

「私も大丈夫ですよ」

「ありがとう」


 リアンは二人を連れ、室内から去っていく。

 扉を閉め際、助け船をくれたロベルトに一礼することも忘れない。

 どこまでも生真面目な少年の背中を見届け、三人が去ったことを確認してロベルトは息を吐いて笑う。


「ガチガチになってまあ。全く、こっちにまで緊張が伝播しちまうっつーのな」

「あの、ロベルトさん。もしかして、リアンさんが二人にお話というのは……」

「ああ、ミレイアの想像通りだと思うぜ。リアンの奴、二人に自分の気持ちを伝えるみたいっぽい」


 ロベルトの言葉に、ミレイアは『まあまあまあ』と口元を押さえて喜びをあらわにする。

 そして、同時に大きく安堵してしみじみと胸の内を語るのだった。


「よかったですわ。マリーヴェルもメイアさんも私にとって大切な人ですから、どちらも悲しまずに済む結末になりそうです。リアンさんは非常に生真面目な方ですから、こういう形は不誠実だと言ってしまうかとヒヤヒヤしていたのです。王族や貴族では一夫多妻は当たり前ですので、この問題はリアンさんの心一つだと考えていたのですけれど」

「だよなあ。問題と言えば、そっちの家の問題は大丈夫なのか? 一応とはいえ、マリーヴェルの嬢ちゃんは末娘、お姫様だろ?」

「何も問題はありませんわ。リアンさんはかつてレグエスクを倒し、滅びゆく定めにあったメーグアクラス王国を救ってくれた英雄ですもの。お兄様からよく手紙が来ますのよ、『リアン君をマリーヴェルと婚姻させて王にし、自分は彼を支える宰相となる』って。お父様もまんざらじゃないのが困りものですわ」


 頭が痛いとばかりにミレイアは愚痴を零す。

 リアンのことを王も長兄であるリュンヒルドも大層気に入っており、特にリュンヒルドに至っては王になりたくない気持ちも相まってリアンを次王に推薦している始末だ。

 そんなお姫様らしい悩みの種を吐き出すミレイアに、ロベルトは笑いながら提案する。


「ははっ、リアンが王様か、そりゃいいな。ま、あいつのことだから、王様じゃなくてサトゥンの旦那について回って世界中の困った人々を助ける旅にでも行っちまいそうだけどな。いっそのことサトゥンの旦那を王にしちまえよ、そうすればリアンもセットでついてくるぜ?」

「サトゥン様が王様に……絶対に無理ですわ。玉座について三秒後に高笑いと共に遊びに行く姿が目に浮かびますもの」

「それを縛り付けるのが王妃様の役目だろ。ま、そっちも妹に負けずに頑張れよ、『メーグアクラス王女様』」

「はあ……え? ええええ!? ち、ちちち違いますわ! 私とサトゥン様はそういう……うううっ」


 ロベルトの言葉の意味、それがゆっくり浸透してしまったらしく、ミレイアは顔を真っ赤にしてリーヴェの背中に顔を埋める。

 そんな初々しい少女の反応を横目で見つつ、ロベルトは腕の中のライティを抱きかかえなおす。


「戦争真っただ中でも、こういう話ができる……それが俺たちの強みなんだろうな。サトゥンの旦那の能天気さが感染してるっつったらそれまでだけど」

「良いと思う。戦いが終わった後で、後悔するのは悲しいから」

「……やけに感情を込めて言ったな。それは何かの経験談か?」

「んん。ただ、そう思っただけ。ロベルト、私、後悔したくないよ? ロベルトは私のこと、好き?」


 体を預けたまま、そうつぶやく少女に、ロベルトは苦笑する。

 そして、背中からそっと抱きしめながら、優しく呟くのだ。


「……ばーか。好きじゃなかったら、こんな風にお前を受け入れてねえよ。ロリコンだと罵られようと知ったことじゃねえよ、仕方ねえだろ、好きになった女がお前だったんだから」

「ん。ロベルト、大好き。ロベルトの子ども、いっぱい産むね」

「……あと十年経ったらな。流石に今のお前に手を出せるほど、俺は人として大事なものをそこまで捨てきれねえわ……」

「私、もう大人なのに」

「あ、あの……流石にそんな話を目の前で聞かされると、こっちが困ってしまうのですけれど……」

「大丈夫。ミレイアもサトゥンといっぱい子作りしようね」


 ライティのストレート過ぎる言葉に、ロベルトだけでなくミレイアまで完全にノックアウト状態にされてしまった。

 悶え苦しむ二人を他所に、ライティは一人満足そうに頬をロベルトの胸に摺り寄せるのだった。




 

次回更新は3月12日(土) 夜を予定しています。

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