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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
八章 華鞭・龍爪
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110話 逃勝

 



「ひ、酷い目にあいました……」

「酷い目にあったのはこっちだ馬鹿女!」


 光撃を放つこと三十六発。

 ようやく魔力切れに陥り、ただのくしゃみと化したラターニャに、全力で突っ込みを入れるアーニック。

 冗談にもほどがある混沌とした戦いであったが、その中で冷静に事を運んだのはアーニックだ。彼は最低限度の魔法でラターニャの嵐をしのいだため、力をほとんど使用していない。

 それに対して、ラターニャは自慢の光砲を放つことができない。ガス欠を見透かしたアーニックは気を取り直して杖を向けなおす。


「散々振り回してくれたけど、もうおしまいだ。お前は馬鹿魔力さえなければ動きはとんだど素人だって分かっているんだ」

「ど素人にも意地があります! 自慢じゃないですが、魔獣アルドベアーのお肉を解体する上手さなら村一番なんですよ!」

「そんなこと聞いてないんだよ! なんなんだよ、本当に何なんだよお前はっ! 人のペースをかき乱して、バカの癖に滅茶苦茶で、頭に綿でも入ってんのかよ!」

「何言ってるんですか、人の頭に綿なんて入るわけないじゃないですか。そんな人いたら人間じゃないですよ?」

「お前は人間じゃないだろうが! あああもう、もう、殺す! 今から本気でお前を殺……」

「あ、それは無理です。この勝負、私の勝ちは決まりましたから! ぶい!」


 そういって盛大なブイサインを見せるラターニャ。

 彼女の満面の笑みに眉を寄せるアーニックだが、その理由はすぐにわかることになる。

 彼の魔力探知が、こちらに迫る三つの反応を捉えたのだ。誰も彼もが一流の使い手であることは明白で、恐ろしい速度で二人のもとに迫っていた。

 アーニックが何か言うよりも早く、ラターニャはむふんと胸を張ってみせる。


「引っかかりましたね! 誰かに見つかったら盛大に暴れて知らせるよう、あらかじめラージュ君たちに言われていたんですよ! どうです、参りましたか!」

「そんなバカな!? お前のさっきまでの大暴れや馬鹿過ぎる行動は全て演技だったのか!?」

「……もちろんですよ、ぜんぶ、えんぎですよ」

「おい、お前絶対演技じゃなかっただろ! 思いっきり動揺してるじゃないかよ! ――ちっ、きやがった!」


 舌打ちして睨みつける視線の先に、三人の英雄たちが舞い降りる。

 ラージュ、メイア、そしてカルヴィヌ。彼らはアーニックを取り囲むように位置を固定した。

 そして、ラージュがため息をつきながら呆れるように言葉を紡ぐ。


「……まさかとは思うけど、六使徒はみんな頭が残念なのかい? あれだけの戦闘になれば、仲間が駆けつけるかもしれないとは思わなかったのかい? もしそんな想定すらしていなかったのなら、どうやらこの戦争は僕の考える以上に随分と楽ができそうだけど」

「お前っ……ラージュ・ムラードか!」

「おや? 僕のことを知っているのかい。ふむ、君の情報はクラリーネから仕入れているが、君と面識はなかったはずだけどね。はじめまして、アーニック・ゲーニクル」


 ラージュの姿を視界に入れ、アーニックの瞳に殺意の炎が芽生える。

 そして、彼のやんわりとした、余裕に満ちた態度が怒りの火を更に轟轟と煽り立てる。


「エセトレアの神童、世界一の魔法使い……忌々しい、お前の存在は実に忌々しかったよ、ラージュ・ムラード! ずっとずっとお前のことは殺したかったんだ!」

「初対面の相手に出会って早々憎悪の言葉を吐かれるほど、僕はエセトレアで悪人となった覚えはないんだけど。逆恨みにしても悪意というものは随分と気分が悪いものだよ」

「逆恨みなものか! お前さえいなければ、お前さえいなければ僕の世界は変わっていた! お前さえ存在していなければ、お前の手にしている称号は全て僕の物になっていたはずだった! ナンバーワンの魔法使いは、僕だったはずなんだ!」

「称号? なんだ、つまらない。そんなものが欲しいなら幾らでも持っていくといいよ。ほら、僕が認めてあげよう。おめでとう、アーニック・ゲーニクル、君は世界一の魔法使いだ」


 ラージュの台詞に、アーニックは今にも飛びかからんほどに憎悪を込めて睨みつける。

 だが、ギリギリのところで立ち止まり、大きく息を吐き出して口元を歪める。


「そんな挑発には乗らない。頭に血が昇った僕を四人で叩き潰そうって魂胆なんだろうけど、そうはいかない」

「いや、そんなつもりは全くないんだけどね。君、策を弄して単独でおびき出さなければ勝てないほど強く見えないし。視野狭窄、魔法の才や『別のこと』に捕らわれて知の収集を疎かにしていないかい? 大量の軍を率いているにも関わらず、自分の力に溺れて単独行動をしてしまっている、その時点で君は将としては三流以下。おそるるに値しないと思っているよ」

「ぐっ……いいだろう! ラージュ・ムラード、そしてそこの馬鹿女! お前たちは僕が絶対殺すからな! 僕と第四軍の力で絶望させてやる! 絶対にだ!」


 負け惜しみのような言葉を言い残し、アーニックは体を空に溶けさせて転移した。

 その様を見て、ラージュは肩を竦めながら言う。


「ここで退く判断はできるらしいね。もっとも、遅すぎる気もするけれど」

「いいのですか? ここで叩いてしまった方が後々楽になるのでは」

「いや、あれは泳がせておきたい。ここで叩いて頭を失った魔法部隊が、ノウァを倒した男の部隊に合流されるのが一番拙いんだ。一部の合流は仕方ないけれど、その前に少しでも単独の状態で叩いておきたい。不満かもしれないけれど、ここは僕を信じてほしいな」

「いえ、ラージュがそう判断したなら問題はありません。それよりもラターニャ、大丈夫ですか? よくここまで逃げてきましたね」

「はい! 皆さんの指示通り、偵察任務を完了してきました! あの子に襲われた時はどうしようもないくらい怖かったですけど! 敵に見つかったら皆さんを呼ぶようにって指示も完全に頭から抜けてましたけど、その、結果としてはこうなりました!」

「ああ、忘れてたんだね……何にせよ、無事でよかった」


 苦笑するラージュに、ラターニャは頑張りましたと胸を張って笑顔を浮かべる。

 初めての戦場であったにも関わらず、息一つ乱していないのは流石は最強竜の申し子といったところだろう。

 そんな少女に末恐ろしさを感じていると、ラターニャはハッと思い出したようにラージュに助けを求め始めた。


「そうでした! ラージュ君、どうしましょう!? 私、このままじゃ村に帰れないんです! さっきの男の子に呪いをかけられたんですよ!」

「どういうことだい?」


 ラターニャはアーニックにかけられた転移の楔について説明をする。

 彼女がいるところならば、いついかなる時でも転移が出来るというアーニックの魔法だが、それを聞いてラージュは『そんなことか』と笑う。


「それなら僕が解呪するよ。この目は見えない魔力や力を明確な形に映し出せるからね。君に打ち込まれた魔力の楔だけど、僕ならどうとにもできる……いや、待てよ? それを利用すれば、少し面白いことができるかな? ふふ、お手柄かもしれないね、ラターニャ」

「わわ! ラージュ君がとても悪い顔をしています!」

「まあ、それは後でゆっくり考えるとして、まずは村に戻ろうか。レーヴェレーラ軍の進軍度合いは把握できたし、敵の材料はだいぶ出揃ってきた。もう十分だ」


 一度言葉を切って、ラージュは仲間たちを見渡しながら次の一手を紡ぐ。


「次はこちらから攻めよう。ノウァを倒した相手がもしも巫女シスハと同等の力の持ち主だとしたら、何としてもその相手とぶつかる前に他の軍はきっちり潰しておかなければいけない。次の一手で第二軍、第三軍、第四軍――この全てをねじふせてしまおう」


 ラージュが見つめる敵は、万を超える軍勢ではなく、たった一人の敵将。

 彼はレーヴェレーラの大軍ではなく、その先に聳える怪物を倒すための段階を踏んでいた。


 だが、彼の言葉に誰も否定の声はあげない。なぜなら彼女たちは知っているからだ。

 どれだけ多勢の兵よりも、たった一人の怪物がどんな戦況をもひっくり返してしまうこと――最強の勇者と共に戦う彼らはそのことを誰よりも強く理解しているのだから。




 

すみません、モデムが完全に壊れてしまい、とても拙い状態になっております(嘔吐)

次回更新は3月8日(火) 10時頃を予定していますが、臨時で使用している別回線のつながり次第では時間がずれたりするかもしれません。

新たなモデムが到着するまで、色々とご迷惑をおかけするかと存じますが、何卒よろしくお願いいたします。一日中つながらなかった時とかは後日二話まとめて更新とかあるかもしれません・・・本当にすみません・・・

 



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