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Re:Make World‼︎  作者: 霜月アズサ
第2章 憧憬の神子 編

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番外編『ギル=クライン生存録』③★

 アンラヴェル聖騎士団によって収拾されたこの事件は、歴史でも類を見ない最悪の事件として扱われ、その犯人を突き止める為世界中に情報が巡らされた。


 そして僅かに生き残った大人達は、一時的にアンラヴェル国都にて住む場所と仕事を与えられ、ギルとその友人をはじめとする未成年は引き取りを願い出た『ドゥラマ王国』によって引き取られた。


挿絵(By みてみん)

(赤い丸部分が番外編(過去)時点でのドゥラマ王国、現在は領土が拡大されている)


 大東大陸の最南端に位置する、戦争を近くに控えた王国『ドゥラマ王国』。今回の引き取りにおける本心はボランティア精神ではなく『少しでも戦争で役立つ人材が欲しい』とのことであり、引き取られてから即適正の審査が始まった。


 冷静さと賢さに秀でており、速やかに指示を出せる者は参謀官の元へ。根性とパワーに秀でており、武術の才が見出せた者は兵士長の元へつけられる。


 その内どちらでもないと判断されたいわゆる『無能』は、その審査の後一体どこに連れて行かれたのかギルは知らない。


 幸いギルは、近距離戦闘において他を圧倒するような武の才能を見出された為、兵士見習いとしてドゥラマ王国内に居場所を与えられた。


 それに無限に回復し、死んでも即座に生き返る上位種の能力者――こんな都合の良い逸材、手放せるわけがなかったのだ。


 しかし若いながらにしてギルが才能に溢れていたこともあり、周りの兵士からはあまりよく思われていなかったようだ。当然ながらイジメじみたことが頻発した。


 最初は悪口を聞こえるところで言われたり、物を盗まれたりという程度の低いものであった。しかし日々イジメはグレードアップし、時には生きた虫が食堂での給食中に入れられたこともあった。


 なのでギルはそのまま食べて、わざわざ主犯者のところまで行って、よく噛み潰した虫の死体と唾液の混ざったそれを主犯者の目玉に吹きかけてやった。


 以来、いじめはなくなった。


 その内段々とギルのガサツ……サバサバした内面に惹かれる人間も続出し、入団時とは打って変わって一躍人気を集め、15歳の年には【ジャック=リップハート】という同い年の男と親交を深めたのだが――それはまた、別の話である。





 そして来たる戦争の日。『ドゥラマ王国』とその隣国による陸上での戦争――それが、ギル=クラインの人生の中で初めて体験する戦争であった。


 その頃は丁度、14歳の誕生日を過ぎた頃であっただろうか。年上や大人の兵士達と混じって人を殺めるために武器を持ち、一面に広がる曇り空の下の荒野へ一斉に駆けていった時のことはよく覚えている。


 掛け声を腹の底から空へ打ち上げて(たけ)り、旗持ちが国家の紋章を刺繍した軍旗を翻す。そこへ注がれる雨のような集中砲火。顔面を矢に撃ち抜かれてひっくり返った兵士を横目に見ながら、ギルは一直線に敵陣へと突っ込んでいった。


 そして踊るように剣を振るい、有象無象を斬って切り捌いて突き進む。ギルにとって初めての殺人は、思っていたほど抵抗はなかった。


「こんなもんか」


 周囲の敵を一掃して、返り血を鬱陶しげに見つめていた時、ふと口から出たのはそんな何気ない言葉であったように思う。


 ――確か、その時だった。突然背後から震えた息の音が聞こえて、何事かとギルは振り向いた。


 するとそこに居たのは、瀕死の敵兵であった。兜から顔を覗かせており、逝くにも逝けぬ苦しみに喘いでいるようだ。その敵兵が近づくこちらに気づいた時、放ったのはこんな言葉だった。


「……殺してくれ」


 その堂々としたようにも怯えたようにも見える態度に、ギルの中で湧いたのは愛情に近しい感情。可哀想だから、せめて安心させてから逝かせてやりたいと、ただ単に親切心からそう思った。


 今はどこに居るのかも、生死もわからない父親の語った『安心感』に関する独自の理論と、下手くそな笑顔で見送った母親の死。それらが影響した、一般常識から逸した考えが根底に染みついたギルは、瀕死の敵兵に微笑みを向けた。


 1年前より随分と上手に笑えていたはずだ。なのに敵兵は怯える目をやめてくれない。まるでこの世のものではないものを見るような目で、怯え続けていた。


「……」


 どうしても安心してくれないので拗ねたギルは、敵兵の腹を甲冑の隙間から突き刺してトドメを刺してやる。引き抜いたら剣の先は綺麗な血で汚れていて、ギルはそれを軽くパッと振り払った。


 遠くから聞こえる大砲の着弾による地響き。炎炎が勢いよく大輪の花を咲かす轟音。殺意をぶつけ合って甲高く擦らせる音。兵士達の悲鳴と雄叫びと狂乱の声。そこへ矢の雨が注いで方々で血が弾け飛び、土色の荒野が塗り替えられていく。


 空気は硝煙臭くて湿気を多く含み、ぬるりと生暖かい。天気は依然として悪く、ついにはまばらな雨が降り始めた。


「……」


 まるで地獄のようだな、なんて思いながら荒野を駆ける。現状ドゥラマ王国側の方が優勢そうだ。きっと明日の祝勝パーティーは良いものが出るだろう。なんて場違いなことを考えながら、彼はまた声の群れへ飛び込んでいった。





 ――そしていくつもの年月が過ぎていき、ついに16歳にまでなった年。確かチーズを始めとする乳製品が、謎に高騰していた年のこと。


 その頃のギルは、成長を重ねることで真髄を発揮し始め、顔の良さから数多の女性を虜にするようになっていた。


 例えばドゥラマ王国に使える若いメイド。例えば仲間と訓練明けに通っていた酒場の看板娘。父親似の顔立ちは人を選ばず本人の意思とは別に魅了し続けて、また本人の精神を毎日のように疲労させていた。


 別に恋愛に興味がない訳ではなかった。思春期ということもあって色んなことに関心があったし、物は試しと城下町に住む少女と付き合ったこともあった。


 ただ付き合って3日目で『なんか違えな』などと感じて、その少女をあっさりとした態度で振った。そしたら物凄く喚かれて、最後には『呪ってやる』なんて恨み文句を吐かれてどこかに消えられた。


 何をどう呪うんだなんて呆けていたら、後日自分の元に届くまさかの逮捕状。内容が読めなかったので、逮捕を言い渡しにきた野郎に読んでもらったところ、ギルの罪名は『強姦罪』とのことであった。


 被害者はギルがあっさり振った少女ということになっており、そこで初めて自分の置かれている状況に納得。一応自分が濡れ衣を着せられていることを話してみたものの、あまり取り合ってもらえずそのまま城の牢屋にぶち込まれた。


 きっとその時であった。ギルの中に微かにあった、女性との関わりに関する憧れが消失したのは。女とはなんて自分勝手で迷惑な奴なんだろう、なんて思っては、その頃のギルは牢屋の中で惰眠を繰り返していた。


 そんな無意味の時を過ごしていた頃、ギルは『彼ら』と出会った。


 同年のとある日、『ギルに会わせてくれ』と対面届けを出した奴が居たのである。


 まぁ暇だし誰かと喋れるなら良いか、なんて軽い気持ちでオッケーを出し、ドゥラマ兵に連れられてギルの元へやってきたのが金髪の美女(?)と眼鏡の細男。出会うなり、まず金髪の美女(?)が牢中のギルに声をかけた。



「初めまして、ギル=クライン。貴方、見るに耐えない腐った顔をしてるわね」



「……あァ?」


 説明するまでもなく、随分なご挨拶であった。ただなんとなく、その言葉がギルの興味を大きく惹いた。強姦の罪を着せられた少年にまずかける言葉が『腐った顔をしてるわね』だなんて、自分では到底思いつきやしないからだ。


 一体どんなクソ野郎なのか。ギルは横目程度に伺っていた彼らの顔を、真っ正面から見ることにした。


「……なんだ、てめーらは」


 問いかけると男女(?)は顔を見合わせて、小声で何かやりとりをしていた。そして彼らは、少しするとこちらへ向き直り、


「半年に及ぶ獄中生活を経て髪質、肌質共に健康。体格も健康的で思考回路に異常なし、意思疎通も可能。これは確実に『神の寵愛』の【ギル=クライン】で間違いありません。彼の健康状態がそれを物語っています」


「はァ???」


 あまりの話のスルーぶりに、流石に素っ頓狂な声が出た。しかし更に、


「簡潔に説明をするわ、ギル。アタシはフィオネ、こっちはジュリオット。アタシ達はこの牢屋を管理する兵士長を買収して、貴方を解放しにきたわ」


「はァ???」


 フィオネと名乗った金髪の美女(?)が、突然語り始めた言葉に更に困惑。ギルの形の良い眉根がグッと寄って、顔にシワが刻み込まれた。


「今すぐに戦力が必要なの。聞いたわ貴方、この国で1番強いんでしょう? それに貴方は『何があっても死なない』。そう、貴方の存在はアタシ達にとって凄く都合が良いのよ」


「何言ってんだてめえ??」


「まぁそうね、戦力が必要な理由は色々あるわ。ただその理由のどれもが『世界がクソ過ぎた』って話に帰結するわね。だから、わかりやすく言えば【世界改変】がしたいの。その為には武力が必要でしょ?」


「マジで、何言ってんだてめえ??」


 同じセリフを2回繰り返すが、フィオネがこちらの態度を気にかける様子はカケラもない。むしろ自分の話した内容を、さも当然のことであるかのような威風堂々とした表情で振る舞い、腕を組んで片足に重心を寄せていた。


「どう? 検討して、出来れば賛成してくれると嬉しいんだけど」


「いやほんッとに話聞かねえなてめえ!! んッだソレ、世界改変〜?」


「ええ」


 聞き間違いかと思って聞き返せば、まさかの間髪を入れない即座の回答。間違いではないと知り『馬鹿じゃねェの?』と声を上げれば、これまた当然というような顔で紫紺の視線がギルを貫いた。


「アタシの特殊能力は【革命家ワールド・イズ・マイン】。未来視を可能にする能力よ。大雑把にしかわからないけれど、それだけで支配者の素質があると説明できるわ。それでも不安なようなら、実際にアタシを近くで見て判断なさい」


「はッ、未来視! つッッくづくイカれた野郎だなァ! で? その未来視の力があんなら、俺がお前らの条件を飲むか飲まないかもわかるんじゃねーのォ??」


「ええ。ただしアタシの運命は人より変えやすい分、周りからの干渉次第では変えられやすくもある。だから未来視を信じ切っている訳ではないわ。つまり、未来に関して貴方に教えてあげることはない」


 『まぁ、仲間になるというのなら話は別だけれど』と小声で付け加えてから、相変わらず癪に触る立ち姿で獄中のギルを見下ろすフィオネ。謎にスタイルが良いことに腹を立てながら、ギルは自分の頭を掻いて尋ねる。


「あそ。でも正直に、俺はお前みてェな頭沸いたよーな奴ァは好かねーよ」


「そう? 相性はかなり良い方だと思うんだけれど」


「おっまえマジで、本気で言ってンの……? じゃあそうだな、そんだけ言うなら実際に確かめようぜ。人間性が1発でわかる問題ってなんかねぇかな……あ。んじゃ突然だけど、お前って女の身体ってどの部位が好き?」


 ドン引きされる覚悟で、かつての兵士時代に同期の間で流行っていた質問を投げかけるギル。すると、フィオネは『あら』と少し驚いたような顔をして、


「はしたない質問ね。濡れ衣だと聞いていたけれど、強姦罪もあながち嘘ではないんじゃないかしら? ……まぁそうね、強いて言うなら脚よ」


「……アレ?」


 想定以上に本気の回答をされて拍子抜け。随分とお綺麗な顔をしているからこういった話は忌避すると思っていたのに。ギルが呆気に取られていれば、そんな様子を面白がるようにフィオネがくすくすと笑う。ので、ギルは頬をひくつかせ、


「ほーん……でも悪ぃな、俺は尻派なんだ。これで相性の悪さは一目瞭然だろ? 長くは付き合えねえようだから、認めて大人しく帰れよお前」


「あら、買収代はもう払ってしまったんだから、すかんぴんな以上貴方を仲間にするまでは帰らないし、貴方に何を言われようとアタシは脚派よ。鍛えられて引き締まっている脚、それだけは譲れないし譲るつもりもないわ」


 目を細めてキリリとした美貌を見せつけるフィオネ。それを横目で見るジュリオットは、突然始まった性癖談義に付き合いきれないというように首を振る。


 だが、どんな目を向けられても双方折れるわけにはいかなかった。だからギルのふとした思いつきから始まった性癖議論は、そこから更に1時間も続き、


「――ハァ、ハァ……」


 馬鹿なことに、両者は汗だくになるまで語り続けていた。


「マジで、お前と好み真逆なんだけど。相性、これ以上ないくらい悪ぃじゃん……俺仲間にしに来たとか信じられないくらい外してくじゃん……せっかくなら嘘の1つ2つくらい吐いたらどうよ……ハァ」


「嘘は確かに戦略だけれど、ハァ、アタシ性癖に嘘はつけない主義なの……ハァ。いっときの問題の為に、性癖に嘘をつくなんて男として恥でしょう? ……ハァ」


「……」


 潤った唇から放たれたその言葉を、己の脳内で反芻(はんすう)して吟味(ぎんみ)するギル。じっくりゆっくりと味わうように繰り返す。


「……へぇ、中々良いこと言うじゃねえの……ハァ。別に、そういう考えは嫌いじゃない……ハァ。マジで、それ以外に関しては同意できねーけど……ハァ」


 『――つか、』とギルは耐えきれんといった様子で大の字に広がり、


「流石に長えって、ハァ。も、いいよ、んッッなに俺が必要ならやるよ、くれてやらあ!! いい加減お前の美脚談義は聞きたかねぇ……! ……ハァ」


 疲れない身体のはずなのに、何故か蓄積した疲労からつい折れてやると、同じく檻の向こうで膝に手をついていたフィオネは『……あら?』と顔を上げた。


「やっとその気になってくれたの?」


「その気っつか、この調子だとマジで俺が折れるまでぶッッッ続けでお前の性癖談義かまされそうな気がしたからだよ!! 大腿四頭筋とかンな専門家な話は求めてねーんだよ!! ほら、はよ出せこっから同行してやらァ!!」


 ぎゃんぎゃんと叫び散らし、鉄格子を掴んでけたたましく揺らすギル。するとフィオネはそれを一瞥(いちべつ)し、隣の青年に視線を流す。


「……どう? 本気で彼は同行するつもりかしら?」


「――嘘は、ついてないですね」


 フィオネに尋ねられ、今までのやりとりを呆れたように見ていたジュリオットがこのタイミングを待っていたかのように重々しく呟いた。しかしその声はフィオネにしか届かない。青年の目が紺色に輝いていることにもギルは気づかず、


「ただ、世界改変だなんて大層馬鹿げた夢を持ってるからには、早々におっ死んでくれるなよ!?」


 あと、雇用の環境に満足いかなかったら仲間やめっから、と吐き捨てれば、その挑戦を受けたフィオネは嗜虐的な微笑みをたたえ、


「当然、目的を達成するまでは死なないわ。というか――死なない為に貴方をこうして解放しにきたのよ? ぜひ番犬としてアタシを守って頂戴ね。ま、それなりに働いてくれれば報酬と環境はきちんと用意するつもりでいるから」


 そんなやりとりをして、フィオネは懐から取り出した鍵を牢屋に差し込み、鉄の格子で出来た扉を開放。数ヶ月ぶりに外の世界へ出たギルを、彼はジュリオットと共に迎え入れる。


 それが、後に賞金5000万ペスカの殺人鬼となる青年、もとい戦争屋の一角を担う男【ギル=クライン】がこの世に生まれた瞬間であった。




 その後フィオネから、ギルでようやくメンバーが3人目という話を聞いて、この先の未来を絶望視するのだが、それもまた――別の話である。

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