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Re:Make World‼︎  作者: 霜月アズサ
第2章 憧憬の神子 編

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第34話『神子ノエルの生き方』

 教皇づてに話があると言われて、聖騎士ペアの監視のもとシャロが訪れたのは、初めて彼が神子ノエルと出会った塔の最上階の部屋だった。


 石の螺旋階段を上がっていくと、扉をノックしてから入室する。するとそこに居たのは寂しげな背中を見せる灰髪の少女だ。体格の小さな彼女はベッドに腰を下ろして、こちらに見向きもせず外の世界を見つめていた。


 外の世界は光に包まれている。昨夜から打って変わって雪は降らずに眩しい光が青の大空を占拠しており、爆発の跡や血の跡を残してボロボロになった宮殿を、何事もなかったかのように照らしていた。皮肉なほどに美しく。


「――ポエム?」


 シャロがそう一言呼ぶと、ノエルの灰色の瞳は光の世界から背けられて、傷だらけの少年へと向けられた。


「ノエルですよ、シャ……ロさん。すみません、気づきませんでした」


「んや、別に良いんだけど。もう、窓開けてても良いんだ?」


「はい。まぁ、これから爺様が国民に昨晩のことを説明する以上、ボクの存在は隠しきれないので、閉めても開けても同じかと思い……どうせ同じなら、風通しを良くしようと思ったんです」


 秋のアンラヴェルの冷たい風がそよぎ、ノエルの髪と頬を優しく撫でる。その眼はシャロを見ているようで――誰のことも、見ていない。どこか虚なその様子は、彼女に儚さを加算していた。


「これからひと段落ついたら、ボクのことは全て明かされます。そして昨夜の事件のきっかけになったことと、『洗脳』の力を持っていることが原因で、忌子として処分されるそうです」


「――処分、ね。その爺様は、ノエルのことなんとも思ってないの?」


「あぁ、いいえ……爺様の愛情は確かですから、〈爺様は〉ボクを処分したりはしません」


 ただ、恐らくこれから現教皇は〈忌子を隠していた人間〉とされるだろう。それが原因で彼が教皇の座から外されれば、必ず空席を巡って後継者争いが始まる。その結果、ノエルとは関係のない者が就任すれば、


「世間から『忌子の処分』が求められて、新しい後継者のヒトは必然的にノエルの存在を消しにかかる……ってこと? じゃあ、それこそ『洗脳』の力を使っちゃえば良いんじゃない?」


 そう楽観的に尋ねると、ノエルは力なく首を振って俯いた。


「……駄目です、それだけは。『操り人形(フール・ドール)』は使わないと、決めたんです。それを使ってしまえば、ボクはきっと……悪魔に等しい存在に、なってしまいます」


「ええ〜? 追い詰められてる時にまで綺麗事吐くの〜?? シャロちゃんにはもうその感覚がわっかんないなぁ……」


 綺麗事を吐くだなんて、自分にとっては何年前の話だろうか、とシャロは自分の過去に思いを馳せた。細かい年月はわからないが、ここ5年間くらいは澄んだ心は持ち合わせていなかったように思う。


 なので久しぶりに聞いた綺麗な言葉に、シャロは苦いものを口にしたようにウェッと顔を歪めた。


「……ボクはただ、恩人が命を賭して守ってくれた自分の人生を、非道な行為をして生きることはしたくないんです。だから――ボクは清く、正しく反抗する」


「ふぅん。それで、明確にはどう反抗するの?」


「……昨晩、爺様と少し話しました。ある程度の復興作業が終わったら、新しく使用人を募集するそうです。今度は男女問わず、男性でも召使いに、女性でも聖騎士になれるというシステムで」


 昔こそ男尊女卑の風潮があって、力のある男性が聖騎士で、力のない女性が召使いだなんて決まりがあったが、そんな考えはもう古いだろう――と、教皇はかつてから常々考えていたそうだ。


 そして使用人のほとんどが亡くなったり、退職を迫られる状況になり、新しく使用人を募集しなければなくなったのをきっかけに、実際に新システムを導入する決心がついたのだという。


「へぇ、昔っからあるルールなのに壊しちゃうんだ。良いじゃん」


「ええ。なのでボクは爺様に『忌子として処理された』と世界へ偽の報道をして頂いたあと、そこへただの【ノエル】として入団希望を出すつもりです。実際どうなるかは相談しなければわかりませんが……」


 自分は物心ついた時から、フロイデのように身体を張って誰かを守れる騎士になりたかったから。そしてフロイデも、そんな叶いもしないような夢を聞いて、『応援する』と言ってくれたから。


 ――痛くて、苦しくて、辛かったであろうあの死の直前に、『夢を叶えろ』と情けない自分を鼓舞してくれたから。


「そしてボクは、騎士として生きてやります。もし新しい後継者に存在を消されても構わない。むしろそれこそが都合が良い。神子ノエルを殺したことにしてしまえば、ただのノエルが出来るんですから」


 そうノエルは薄く微笑んで、グレーの視線が空中へと泳がされる。


 ふらふらとして一点に定まらない視線。きっと彼女のその瞳は、部屋の中に香りが染みつくように残った、『恩人』との思い出を見ているのだろう。


 遠き日の思い出を追う彼女は、憂いの住む小さな顔の美しさを際立たせ、傍に居たシャロさえも魅了する。今にも空気に溶けて消えてしまいそうなのに、凛としたその目つきが、見る者の瞳を惹きつけてやまない。


 ――あぁ、そんなにも綺麗な顔をしていたのか、この子は。


「……さて」


 ノエルが一言で空気を改めて、夢見心地だったシャロの意識を引き戻す。


「前置きが長くなりましたが、貴方をここに呼んだのは助けて頂いたお礼をするためです。実際はもっと複雑な事情のように爺様からはお聞きしていますけど、それでもボクを守るために潜入されたことに変わりはないとか」


「いや〜、まあ詳しく言うと保身のための任務だったから、しょーじき今ウチちょっと居心地が悪いんだケド……」


「ですが、結果的にボクは救われました。ですから、お礼をさせてください。ボクを助けてくださり、ありがとうございます」


「う……うん。うん、どんどんひれ伏して。そんで……難しいことわかんないケド、シャロちゃんも応援するからさ、死ぬ気で頑張って死ぬ気で生きろよ?」


 片目を閉じて腕を組み、せっかく守ってやったんだから、と恩着せがましい言葉を付け加えるシャロ。すると、しばらく呆気にとられたあと、


「……えぇ、言われなくとも」


 深窓の神子は、灰銀の短髪に目一杯の陽光を浴びて柔らかく笑った。

 





 ――それが、ノエルにとって1番最後の戦争屋との会話であった。


 あのあと戦争屋は陽が沈むと、活動拠点に帰ってしまったらしい。


 どこからどう情報が伝わってきたのか、『宮殿から離れる寸前、青髪の女の子と合流していた』なんて話がノエルのところにまで来たのだが、はて、青髪の女の子なんて戦争屋に居たのだろうか。


 シャロとは少し喋っていたのだが、未だに戦争屋のことはよくわからない。


 ただ、世間からは物凄く恐ろしい存在とされていて――実情は、別にそんなことはないような気がする、ということだけ知っている。


 外の世界の情報に疎いノエルなので、今回は偶然アンラヴェルに協力せざるを得なくなり、たまたまノエルの味方に見えているだけであって、実情は世間からの風評そのままなのかもしれないが。


 少なくとも自分の夢を聞いて、応援してくれたシャロだけは信じたい。



 ――そして、あれから数日後。

 陽の光を浴びながらノエルは、とある岬へとやってきていた。


 もちろん1人ではない。今までより行動に自由が利くようになったとはいえ、世間にとって危険な能力を持つ人物であることに変わりはないのだ。硬い表情をした聖騎士達が、少し離れた背後からノエルを監視していた。



 ――そんなことをしなくとも、ボクは能力なんて使わないのに。



 なんて現状の扱いを不服に思いながら、ノエルは穏やかな海風に短い銀髪を泳がせて、とある墓石の前に座り込んだ。


 刻み込まれている名前は【フロイデ=グラッパーノ】。


 決して純真な人ではなかったが、正義の人間として剣を振るい、誰よりもノエルを理解してくれていた恩人だ。そんな自分の英雄の墓石と向かい合って、花束を供えると、ノエルは墓石に――否、彼に向かって語りかけた。


 いざ墓を前にすると、段々と声が震えてきて。それでも言葉は止めずに、自分の近況や思い出なんかを語り続けて、最後にお祈りをする。


「フロイデ。貴方が明日も、幸と実りある時を過ごさんことを」


 彼が来世(あす)を迎えるのはいつ頃になるかわからないが、天国に行ったのであろう彼ならば、きっと生まれ変わって新しい人生を歩むと信じているから。


 普通ならば親が子供の寝る時にする、アクネ教式のお祈りの言葉なのだが、言葉そのままに使って彼の幸せを祈り続ける。


 青い蝶々がふわふわと舞い、ノエルの小さな肩に止まる。

 風がそよぎ、岬に咲く花々を一斉に揺らす。

 蝶は少しして飛び立つと、花の中へ消えていってしまった。


 あの夜の事件が嘘であったかのように、とても穏やかな日である。


「――ノエル様。すみませんが、もう少しでお時間です。宮殿へ戻りましょう」


「……あぁ、もう時間なんですね。わかりました、戻りましょうか」


 ノエルは監視役の聖騎士の言葉に素直に従い、立ち上がって墓石から離れた。


 あのヘヴンズゲート強襲事件から数日経ったが、未だにノエルの管理体制は厳しいものである。こうして外に出る時間すら僅かだ。これでも交渉に交渉を重ね続けた結果だというのだから恐ろしい。


 きっとそのうち現教皇が非難される事態にもなるだろうし、ノエルの予想した通り神子【ノエル=アンラヴェル】という人間が殺される日も近いだろう。


 ――それでもボクは、諦めないから。


 ノエルは最後に1度だけ墓石を振り返ると、己の英雄に、命を懸けた宣誓をするのであった。











― 第2章 深窓の神子 編・完 ―






これにて第2章『深窓の神子 編』(リメイク版)が完結となります!


1回前にも完結したのですが、状況が複雑であるという意見を頂いて、色々シーンを直したり消したり追加したりいたしました。なるべく違う道を通りつつ修正前と同じようなゴールに辿りつけたと思っております。


第3章も修正前のがあるのでそちらもリメイクしつつ、ようやくちゃんとした投稿も始めるので、応援して頂けたら嬉しいです。『あれ? このシーン回収されてなくね?』というご意見ありましたらぜひ聞いてください。


なお次のページは『キャラクター&専門用語まとめ(イラストつき)』第2弾になりますので、興味のある方はぜひお進みくださいませ。


長くなりましたが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!! 今後とも当作品『Re:Make World!!』をよろしくお願い致します。


(by霜月の猫)

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