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Re:Make World‼︎  作者: 霜月アズサ
第7章

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第179話『呼び名を変えるタイミングは読めない』

「――だから、少なくとも『無駄足』にはならねェ」


 翌朝。移動用のラクダを隣に従えたギルは、ヌタ族特製のククリナイフを革鞘に収めると、フラムとミレーユに視線を流した。


「他に選択肢はない。悪いが、ついてきてくれ」


「……はい」


「わかりました」


 緊張した返事とともに頷くフラムたち。彼らの腹を決めたような表情に、もう少し問答すると思っていたギルは眉をひそめた。


「……大丈夫か? 気は確かか?」


 テトリカから入手した、世界中に手紙を運べるという『ポストバード』の情報。それは曇天に差した一筋の光ではあったが、ほんの少し期待が持てる程度の、もろい光のはずだった。彼らをすんなり頷かせるほどの力はないはず。


 となると、集落の蒸し暑い環境のせいで、2人の頭がおかしくなっているのかもしれない――と、半分本気で心配し始めるギルに、フラムはむっと顔をしかめた。


「なんで人の覚悟を疑うんですか! 正気ですよちゃんと!」


「正気なら尚更おかしいんだよ。お前ら1回だって死ねないんだぞ」


「それもわかってます! でも……」


「ここから動くことを怖がっても、助かるわけじゃありませんしね、って……昨日、私とフラムさんで話してたんです」


 斜め下に視線を逸らしながら、おずおずと割り込んでくるのはミレーユだ。その言葉にギルはふと、昨晩見た光景を思い出した。ギルがテトリカと話している間、ひそひそと内緒話をしていた2人の光景を。


「そうなのか?」


「……はい。あと、ギルさんたちと一緒にいた方が、最終的に1番安全なんじゃないかって話も……気のせいかもしれないんですけど、ここの人たちなんだか怖くて……余所者だから仕方ないんですけど、それにしても……」


「あー」


 それに関しては俺らのせいだわ――と、正直に自白しそうになったのを飲み込んで、ギルは革鞘のベルトを腰に取り付けた。


「……じゃあ、お前らも砂漠を縦断するってことでいいんだな」


「はい」


「なら、貴様らにもテストをしてもらおう」


 読んだようなタイミングで現れたのはテトリカだった。その後ろには、手綱や鞍を取り付けられたラクダが2頭、のんびりと付き従っていた。何をするのか予想がついたらしいミレーユが、『テスト……』と不安げに呟く。


「クラインとリップハート、グリズリーは貴様らが寝ている間に済ませたからな。このテストが終わり次第、早速水都に向けて出発する。貴様らは……誰だ貴様ら」


「あ、フラムです……苗字はありません」


「ミレーユ=バレンタインです」


「テストは砂地で行う。フラム、バレンタイン、こちらへ来い」


 ラクダの手綱を引きながら、どこかへ歩いていくテトリカ。それにフラムたちが重い足でついていくのを見ながら、ギルは戯れてくるラクダの頭を押しのけた。


「なんでオメーの飼い主は頑なに名前で呼ばねェんだ。遅めの思春期か?」





 その後、フラムたちはラクダの騎乗テストをした。が、結果は散々だった。


 フラムはラクダに舐められ、指示を聞いてもらえず。ミレーユはそもそも動くのが怖くなり、指示すら出せなかったのである。結果、フラムは騎乗できたギルの後ろに、ミレーユはジャックの後ろに乗ることになった。


「よ、よろしくお願いします」


「……ウン」


 日も昇り、青空が広がる朝の時刻。青い顔で騎乗するミレーユには目もくれず、ジャックは不服そうに頬を膨らませた。


 その視線の先にいるのは、移動中の注意事項について共有するレムとテトリカだ。ジャックの目も(はばか)らず、近距離で接する2人に嫌悪感を抱いているのである。

 テトリカを護衛することについては、ひとまずレムが説き伏せたようだが――これは面倒な旅路になりそうだ。ギルは吐息をして、白いフードを目深に被った。


 話が終わり、戻ってきたテトリカたちがラクダの上のメンツを見上げた。


「今から注意事項を話す。よく聞け。まず、移動中は一列になって行動する。順番は先頭から私、クライン、リップハート、グリズリーだ」


「……エッ、いまオレいた?」


「お前はリップハートだろ」


「あそっか」


「……出発してすぐ、連戦が予想される。気力も体力も消耗するだろう。こまめな休憩を挟むつもりでいるが、緊急時は前後の者に知らせろ。そして、これを食え」


 ぱっと、ギルたちに向けて手を広げるテトリカ。その手中には、青色をした小さな豆のようなものが入っていた。ギルたちの知識や記憶にあるものではない。これも林檎もどきと同じ、大南大陸の特産品なのだろうと直感した。


「ナニコレ」


「私たちヌタ族の間では、『ヒンヤリ豆』と呼ばれているものだ。呪われた大地で育てられた、特殊な豆だが食べても害はない。体温を少しだけ下げてくれる。キャラバンの必需品だ」


「……」


 テトリカから施された、しかも呪われた豆という事実が、ジャックの眉間の皺を深くする。が、ギルとレムが呆気なく食べてしまったのを見ると、ぎょっとして、仕方なくといった様子で口に放り込んだ。フラムとミレーユもそれに続く。


 そして満を持し、水都クァルターナへ出発した6人であったが――。


「なんっだあれ、牛か!? 馬か!?」


「なんで燃えながら突っ込んでくるんダ!?」


「あれはカザンヌーだ! 燃えてるのは呪われてるせいで、突っ込んでくるのはヌーの本来の習性だ! 焼死体になって轢き殺されたくなかったら走れ!」


 出発早々、ギルたちは燃え盛るヌー――『つ』の字に曲がったツノを持った、黒毛の牛のような動物の群れと遭遇。炎をまといながら、波のようになって垂直に突っ込んでくる彼らに、ギルたちは騒ぎ立てながらラクダを走らせた。


 やがてカザンヌーの脅威を振り切ると、今度はキラキラと輝く銀色の何かが、砂の中から打ち上がってはギルたちに降り注いできた。

 疾走するラクダに揺られながら、フラムが必死の形相でギルにしがみつく。


「こ、今度はなんなんですか……!?」


「ダンガンネズミだ! 全身が銀色で、地中に潜る性質を持つ! 襲撃者が現れると、3メートルから4メートルほど飛び上がり、弾丸の速さで墜落してくる……っ、絶対に当たるなよ! 脳天に食らえば一撃で死ぬからな!」


「こんなん、どうやって避けろってんでい!」


 などと騒いでいる間に、ダンガンネズミの生息地も突破。それからしばらく動物の襲来はなく、代わりに砂漠とは思えない重たい暗雲が空に立ち込めていた。


 ギルは顔をしかめる。


「……これも呪獣の兆候か?」


「いや。雨雲自体は、呪いの影響で自然の理が狂っているだけだと思う。だが……」


 雨が降り始めた空を、ラクダを走らせながらテトリカが見上げる。

 灰色の雲の向こう。そこからは確かに、キィキィと甲高い鳥の鳴き声が聞こえていた。文字通り、天と地ほどの距離があるにもかかわらずはっきりとだ。


「……おそらく、かなりの大物だろう。図体のデカい呪獣に対して、全力の逃走は意味をなさない。……迎撃する。とにかく今は、鳥が姿を現すまで向こうに走れ」


「向こう?」


「そうだ。あそこに水溜りと、数本の木があるだろう。俗に言うオアシスだ。貴様らには筒抜けになっているだろうから言うが、私の特殊能力は近くに植物がなければ意味をなさない。だから、なるべくあそこに近づきたい」


「ふぅん。だってよ、フラム。後ろの奴らに伝えてやれ。テメェのほうが声がデカい」


「は、はい」


 ここまで騒いで叫んだ疲れか、若干ぎこちない反応のフラムが振り返り、後方のジャックたちへテトリカの指示を伝える。そして皆の軌道が水場に向かって調整された頃、全身で暗雲を破って、天空から巨大な鳥が姿を現した。


「なっ……」


 そのあまりの大きさに、フラムが目を見開く。現れたそれは、古代の翼竜を想起させる、体長8メートルほどの怪鳥だった。それがひとたび羽ばたくと、地上に突風が巻き起こる。砂山が1つ消し飛んで、横殴りにギルたちに襲いかかった。


「うわっ」


 咄嗟に目を瞑るギルたち。視界を奪われ、感覚だけで砂の中を走り抜けると、険しい顔をしたレムがぺっと唾を吐いた。


「最悪でい、口ん中も耳ん中もジャリジャリしやがる……」


「あんなに離れたところから、これほどの威力の攻撃を……近づかれたらまずいな。あの水場まで吹き飛びかねない……っ、リップハート! 貴様の攻撃の射程距離は!」


「……わかんねー! ケド、あれは流石に届かねー!」


「そうか。なら、私が足場を作るしか……」


「作るって、どうやって!」


 ギルは口元を拭いながら、前方のテトリカを睨みつける。するとテトリカは、風に泳ぐ黒髪をギルに向けたまま、


「私が水場の植物に触れ、あの鳥に向かって成長を促す。貴様らはそれを足場に呪獣に迫り、あの鳥を逃すか殺すかしろ。――急げ!」


 そう言い残して、水場に向かって加速していった。

 一方的な彼の命令に、ギルは眉を歪める。が、再び風の塊が降ってきていることに気づくと、ラクダを加速させ、仕方なくテトリカの後に続いた。


 水場に到着すると、テトリカは周辺に生えた木の1つに触れた。直後、枝葉がひとりでにざわめき始め、ゆっくりと背を伸ばしていく。そのスピードは次第に速くなり、ギルたちが到着した頃には当初の倍の大きさになっていた。が、


「攻撃が、また……!」


 焦ったようなフラムの声。刹那、荒れ狂う風が彼らに降りかかる。ギルは咄嗟にフラムを、レムはミレーユを地面に押さえつけ、テトリカとジャックは1人で身をかがめた。

 大地に風が降る。砂山が剥がれ、水場がめくれ、枝葉が暴れながらその身を吹き飛ばしていく。


「くっ……」


 テトリカは這いつくばりながら、強風に目を細め、上空の怪鳥を見やった。怪鳥は悠々と大空を旋回しながら、こちらに向かって少しずつ接近してきていた。

 ふと、自分の伸ばした大樹を見る。大樹は身体に全身に砂を被りながら、上半分を丸ごと吹き飛ばしていた。同じく、それを見ていたレムが叫んだ。


「そいつぁ、もう使い物にならねえのか!?」


「いや……再生しようと思えば出来る、だが――この木を破壊することは、あの鳥にとって想像以上に容易かった」


 また壊されるだろう、と口にしかけたテトリカ。それを遮り、声を上げたのはミレーユだった。


「私も、手伝います……!」


 ミレーユはレムの下から起き上がると、砂にまみれた身体で大樹のもとに走る。その姿にテトリカはぎょっとして、


「何をする気だ、バレンタイン!」


「私は、ものの形状を保存できます! だから、次に攻撃が来たときは……私がこの木を守ります!」


「は……」


「ほ、本当なんです……! だから、今のうちにお願いします!」


 焦るミレーユに急かされ、テトリカは半信半疑で木に触れた。割れた木が震え、枝を生やし、葉をつけながら上空に伸びていった。


「――攻撃が来ます!」


「はい!」


 フラムの声に応じ、大樹に触れるミレーユ。瞬間、成長を止めた大樹が青い光に包まれた。そこへ錐を揉む風が降り注ぐが、


「ぐっ……うう……!」


 固く目を閉じたミレーユが、踏ん張りながら大樹に触れ続ける。ぴくりとも動かない大樹の横で、青い髪を暴れさせ、全身に砂を浴びながら、彼女は風が止むまで耐え続けた。


 風が吹き抜けていくと、ミレーユは額に汗を浮かべ、朦朧としながらテトリカを振り返った。


「さ、さぁ、続きを……」


「……わかった」


 テトリカは表情を引き締め、ミレーユと入れ替わるように大樹に触れる。そしてギルとジャックに視線を配り、


「じきに貴様らの番が来る。ボケっとするなよ、護衛ども」


「……どうする? ジャック」


 鼻で笑ったギルが、隣のジャックに視線を移す。すると、ジャックは口を尖らせた。


「コイツは気に食わねー。ケド、弱っちいウサ公が頑張ってんだから、オレもやるしかねーダロ。頑張ろーぜ、ギル」


「……そうだな」

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