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可愛くて強い私の陛下、一生お守りいたします  作者: 倉本縞


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6.王位継承権

「……殿下、その……、私を愛人にしたいというお申し出についてなのですが」

「クラース卿、待ってください」

 宮殿に用意されたわたしの部屋に着くと、クラウス卿が困ったような表情で話しかけてきた。

 しかし、わたしはそれをさえぎり、言った。


「その前に、クラース卿、説明してください」

 わたしは腕組みし、クラウス卿を見上げた。クラウス卿は戸惑った様子でわたしを見返した。


「説明?」

「とぼけないでください」

 わたしはクラウス卿を睨みつけた。


「陛下は……、レーギョン様は、じき、お亡くなりになります」

「殿下!」

 わたしの言葉に、クラウス卿がぎょっとしたような表情になった。

「なんということを!」

 だが、わたしはさらに言いつのった。

「わかりきったことです! レーギョン様のあの状態を見て、気づかぬ人間などいると思いますか? 何も知らぬわたしを、王妃にすると言って石の国に連れてくるなど……、わたしを騙したのですか? わたしを騙すということは、父上を……、草原を騙すということです!」


 わたしは激しく言った。

「もうじき死ぬとわかっている人間と、結婚させようとするなんて! 何を考えているんですか!? レーギョン様だって、ご自分の状態をお分かりのはずです! それなのに……!」

「殿下」

 わたしは背後に控えるマイアを見た。


「クラース卿の返答次第では、父上にこう伝えます。ベルガー王国に謀られた、同盟は無効だ、と」

「お待ちください、殿下!」

 クラウス卿がわたしの前にひざまずいた。クラウス卿を見下ろし、わたしは静かに言った。


「正直に話してください、クラース卿。なぜ、この縁組を草原に持ちかけたのですか」

「……わかりました。ご説明いたします」

 うつむき、クラウス卿が絞り出すように話し始めた。


「お話しするのが遅くなったことはお詫びいたします。が、決して殿下を騙すつもりではありませんでした。殿下のお父上もご存じの話です」

「父上が?」

 わたしは顔をしかめた。

「そうです。私は草原の王に、こう申し上げました。『カーチェ・ルコルダル様を、わがベルガー王国の女王としてお迎えしたい』と」


「女王?」

 わたしは首を傾げた。

「わたしは、レーギョン様の妻、王妃となるべく、ベルガー王国に迎えられたのだと思っていました。違うのですか?」

「いいえ。……カーチェ様は、そもそもベルガー王家のお血筋でいらっしゃいます。カーチェ様の実の父君は、先代王の兄君、オーラング様です。レギオン様と婚姻を結び、王妃となれば、カーチェ様は第一王位継承者となられます。エルドリッド王は……、カーチェ様のお父上は、私の申し出を承諾される際、一つ条件を出されました。『カーチェ自身が女王となることを承知するならよし、でなければカーチェを草原に返してもらう』と」

 クラウス卿は言葉を切り、わたしを見上げた。


「私は、殿下をベルガー王国へ迎え入れ、それからすべてご説明申し上げようと思いました。……殿下がベルガー王国をご覧になり、その上で女王となるかならぬか、エルドリッド王がおっしゃった通り、ご自身でお決めいただきたいと思ったからです」

 わたしはクラウス卿を見た。必死になって説明する姿は、嘘をついているようには見えない。……けど、信用できるだろうか。クラウス卿は、石の国の民だ。草原と石の国は違う。その言葉を、信じられるだろうか。


「殿下が私の言葉をお疑いなのは、無理もございません」

 クラウス卿は、わたしの心を読んだように言った。

「ですが、殿下には決して偽りは申しません。……殿下は、これから先、私のお仕えする主となるお方です。己の主に、嘘偽りは申しません」

「クラース卿の、現在の主はレーギョン様でしょう。レーギョン様にはなんと? もうすぐ死ぬあなたの代わりに、草原から迎える見も知らぬ女と結婚し、その女に王位を譲れと言ったのですか?」


 わたしの言葉に、クラウス卿は唇を噛みしめた。

「陛下には……、ベルガー王家のお血筋の姫君を、草原からお迎えすることをお伝えいたしました。その姫君に、王位継承権を与えるために……」

「そのために結婚しろと?」

「そうです」

「なぜそんなことを!」

 わたしは我慢できず、怒鳴った。


「レーギョン様は、まだ十歳ではないですか! しかも明日をも知れぬお命だというのに、そんな子どもになんてことを……!」

「王侯貴族は、子どもであろうがなかろうが、その義務を果たさねばなりません。結婚も、その義務の一つです」

「ベルガー王国ではそうでも、草原では違います!」

 わたしは激しく言った。


「王家の血を引く貴族だって、他にいたでしょう! ただ地位のやり取りのために、死にかけている子どもを利用するなんて! どうしてそこまで……、なんのために!」

「王国の安定のためです!」

 クラウス卿が叫ぶように言った。


「……この国は、つい数年前まで、それはひどい状態でした。いえ、それは今も同じ。この国は、いまだ混乱の最中にあります。国王派と貴族派が対立し、一部の貴族は、恐れ多くも王をないがしろにして己の利権を貪ろうとたくらんでおります。……先ほど、殿下を襲撃した連中、それも貴族派の手の者でしょう」

「…………」


 だんだんわかってきた。

 クラウス卿の説明によれば、この石の国、ベルガー王国は、国王派と貴族派に二分されている。貴族派の一部の連中は、国王が草原と、縁組の名を借りた強力な軍事同盟を結ぶのをよしとせず、それでわたしを襲撃したのだろう。だいぶお粗末な計画だったが。

 クラウス卿は国王派の筆頭として、そう遠くない未来、王の死を見越してわたしを次の王として迎えた、ということか。


「下剋上を狙う貴族より、わたしのほうがマシと思ったのですか? わたしが王家の血を引いているから、……王家の瞳を持っているから?」

「それもあります」

 クラウス卿は怯まずにわたしを見た。暗褐色の瞳が燃えるように輝いている。こんな時だけど、わたしは思わずその瞳の輝きに見惚れた。


「ですが、それだけではありません。……殿下はお気づきではないでしょうが、私は何年も前から、殿下の成長を見守ってまいりました。次代の王の候補者の一人として、……失礼ながら、カーチェ様にベルガー国の王として、国の頂点に立つにふさわしい資質があるのかどうかを、見極めるために」

「……それで、わたしは合格したということですか? クラウス卿のお眼鏡にかなったと?」

「そうです」

 クラウス卿の不遜な態度に、わたしは興味を惹かれた。


 いつもは困ったような、控えめな態度なのに、この冷酷なまでの強固な主張、振る舞いはどうだろう。

 クラウス卿は、わたしとはまったく違った価値観、世界の中で生きている。それが面白い。


 父上は、わたしの気持ちを見越していたのかもしれない。

 草原を愛し、草原で生きることを望みながらも、わたしは心のどこかで退屈していた。非の打ちどころのない草原の戦士に求愛されても、それを受け入れる気になれなかった。

 それが何故なのか、やっとわかった。

 草原の戦士は、わたしと同じ考え、行動をとり、何一つ謎がない。

 だが、クラウス卿は違う。その考え方や行動は、わたしの知らない価値観と信念に基づいている。

クラウス卿は謎に満ち、わたしを驚かせてくれる。だからこんなにも心惹かれるのだ。


 女王か、とわたしは考え、すぐに心を決めた。

 おそらくクラウス卿は、まだ何かわたしに隠していることがある。それが何であれ、クラウス卿が考えていること、その望みを知りたい。もしクラウス卿がわたしを騙し、殺そうとするなら、戦うまでだ。


「わかりました」

 わたしは頷き、クラウス卿ににこっと笑いかけた。

 クラウス卿が、驚いたようにわたしを見上げる。

「この国の女王になることを、引き受けましょう。……ただし、わたしが直に、レーギョン様に確認します。わたしがレーギョン様から王位を受け継ぎ、この国の女王となることを認めてくださるのかどうかを」


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