太陽は輝くか、鷲は空を舞うか4
ハーフタイムにも拘らず、ミュンヘン・スタディオンに漂う空気は熱い。
その中で鷲介はミュラー達ベンチメンバーと共にピッチで体を動かしている。
(ジークさん、大丈夫なんだろうか……)
前半終了と同時、利き足である右足を抑え蹲っていたジークは担架に乗せられて控室に戻っていった。あの様子ではおそらく、誰かと交代になる可能性が高いように思える。
(ただでさえ同点に追いつかれたっていうのにエースが離脱なんて……)
暗雲たる思いで体を動かす鷲介。しばらくするとコーチ陣の一人が姿を見せ、控室に戻るよう伝えてくる。入場ゲート内に入ったところで傍に寄ってきたジャックが言う。
「鷲介、後半頑張れよ」
「ジャックさん、まだ俺が出ると決まったわけじゃありませんよ」
「ジークフリートさんが負傷交代するのならお前以外考えられないと思うけどな。
本来サブであるアレンやアレックスはスタメンだしカミロさんもFWはできるがバルセロナR相手には厳しい。
ツートップにしてフランツさんをセカンドトップにすることも考えられるが……」
そんなことを話しながら控室に戻る鷲介たちベンチメンバー。控室に入ると正面においてあるスコアボードに布陣が書かれている。
「……!」
「ホラな」
してやったりと言ったような声のジャック。後半の布陣であるそれには鷲介の名前もあった。
だが鷲介が驚いたのは出場する位置だ。本来の右ウイングでもなく中盤でもない、セカンドトップの位置に名前がある。
RバイエルンのFWの位置は基本、センターCFが一番前に出ており両ウイングはそれより若干下がっている。だがこのシステムでは逆に鷲介の名前が書かれたCFが下がっておりセカンドトップの位置に、そして両ウイングが前に突き出している。
「監督、これは……?」
「今から説明する」
そう言って監督は後半の戦術、鷲介がどう動くべきかを説明する。
それを聞きシステムの意味は理解した鷲介だが表情は曇ったままだ。
「自分にできるでしょうか」
「相手がブルーライオンCFCやRドルトムントクラスの守備力を持つチームなら厳しいだろう。
だがバルセロナRなら可能だと私は思う」
まっすぐな視線を向けて言うトーマス。
期待と信頼に満ちたそれに見つめられては鷲介もこれ以上弱音を吐けない。眼差しに力を込めて頷く。
「監督、ジークフリートさんの怪我はどうなんですか」
「軽い捻挫だ。今は傷みが激しく動けないが早ければ一週間で治るとドクターは診断した」
「ということは次節のレーベ・ミュンヘン戦は出場できないわけですか……」
表情を曇らせるミュラー。
「次節のことはいい。今は目の前の試合に全力を尽くすことを考えるんだ。
前回に続き、またしても追いつかれた。だが守備陣が奮闘しているのは見ていればわかる。今まで通り、作戦に従って全力でプレーしてくれ」
『はい!!』
「そしてFW陣、特に鷲介。得点を取れるかは君の動きにかかっている。頼むぞ」
「はい!」
「攻撃力は相手が上なのは間違いない。だがサッカーはより強いチームが勝つものだ。
この一戦で我がRバイエルンが、バルセロナRよりも強いチームであることを証明するぞ!」
『はい!!!』
いつになく熱い、気合のこもった監督の言葉に鷲介たちRバイエルンの選手はみな、覇気のある声で応じる。
そして時間となり入場ゲートへ向かう。すると同時に反対側の通路からバルセロナRイレブンが姿を見せる。
そしてその先頭にいる人物を見て、鷲介はぎょっとした。
「やぁ鷲介! やっぱり君も後半から出場するんだね!」
「ロナウド……!」
ニコニコと人懐っこい笑みを見せるブラジルの至宝。その後ろにはオリヴィエとラファエルの姿が見える。
「アルフレッドさんはどうした?」
「俺との交代だよ。二点目を決めた後足を痛めてね。
元々前節のリーグ戦でも痛めていたけど、あのアクロバティックシュートでその痛みが再発したみたいなんだ」
「ロナウド! よけいな事をぺらぺらと喋るな!」
叱責の声を飛ばすラファエル。強引にロナウドの背を押し先に行く。
他のバルセロナRイレブンもそれに続く。鋭い眼差しを向けながら。
「鷲介! 今日もお互い、全力を尽くそう!」
「ああ。もちろんだ!」
ロナウドたちバルセロナRイレブンが入場ゲートから出ていく直前、響くロナウドの声。それに鷲介も聞こえるような大声で返し、ピッチに向かって走り出す。
ピッチ上に布陣する両チーム。CFとなった鷲介と違い、ロナウドはいつもの通り左ウイングだ。アルフレッドの位置にはラファエルの姿がある。
鳴り響く笛の音と共にRバイエルンとバルセロナRの死闘は再開される。前半終了間際で同点に追いついたバルセロナRはその勢いに乗ってか今までと同じく攻勢に出る。一方Rバイエルンもそれに全く引かず前がかりとなる。
共に最終ラインが両陣内の中央辺りにまで来るコンパクトな陣形。当初こそ互角にやりあっていたが次第にパスサッカー、ポゼッションを得意とするバルセロナRが優勢となっていく。
「鷲介!」
相手をかわしたアレンよりやってくるボール。トラップと同時に前を向く鷲介だが、すぐにマルセロが突っ込んでくる。
ギリギリかわす鷲介だがボールは足元から離れ、それをクリストフが拾い前に蹴りだす。
今日の鷲介は先程からこんな調子だ。CFとしてプレーしたことは幾度もあったがそれらはユース時代やドイツリーグの下位相手だ。自クラブと同格の相手にはほぼない。
また現在、共にコンパクトな陣形となっているためスピードにものを言わせてかわしても、すぐさま次の相手がやってくる。これがロナウドやミカエルならするりとかわせるのだろうが鷲介ではそうはいかない。
監督の指示通り動こうとしているが、このレベルの相手にどうすればうまく行くか試行錯誤しながらプレーしているので、どうしてもいつもよりワンテンポ動くのが遅れる。
結果ボールは捌けているがチャンスやゴールに直結するプレーやパスは出せず、得意のドリブル突破も上手くいっていない。
とはいえ監督の指示に逆らおうとは思わない。バルセロナR相手に”それ”ができるようになればこの試合に勝てる可能性が上がるのは間違いないし、チームがより強くなるからだ。
「くそっ……!」
ボールを奪われ鷲介はすぐに自陣に視線を向ける。クリストフの出したボールをディエゴが収める。そしてRバイエルン陣内中央を突き進み、ロビンから体を寄せられながらも左ハーフレーンにボールを出す。
それを収めるのはサイドより猛スピードで走ってきたロナウドだ。立ちはだかるフリオとの一対一。外に行くと見せかけて中へ切り返すロナウド。フリオを一瞬で置き去りにする流麗なダブルタッチだ。
腰を低くしたジェフリーがペナルティアーク前までやってきたロナウドの前に立ちはだかる。しかしロナウドは前を防がれようとした瞬間、パスを出した。
クルトの頭上を越えたフライパス。それに猛スピードでペナルティエリアに侵入したディエゴがダイレクトで合わせた。
決定的なシーンを見て鷲介は総毛立つ。だがゴール右に向かったシュートをアンドレアスの伸ばした左手が止める。
ゴール数十センチの距離に転がるボールをラファエルが押し込もうとするがクルトが体でブロックしボールは正面にこぼれた。だがそれに駆け寄るのはロナウドだ。
「コースを塞げー!」
鷲介が叫ぶのに応えるように、ジェフリーが再びロナウドの前に立ちはだかった。しかしロナウドはそれに構わずシュートを撃つ。
「……!」
ロナウドが打ったシュートを見て鷲介は大きく目を見開く。ジェフリーの空いた股の下を通過するボール。しかもボールスピードも速くボールは正確にゴール左隅に向かい、ゴールの左サイドネットを揺らしてしまった。
後半13分の時刻を示している電光スクリーンのスコアが2-3へと変化し、スタジアムがホームサポーターの悲しみの声に揺れる。
「くっそ……!」
前回同様、またしてもロナウドの活躍によって逆転されてしまったことに鷲介は歯噛みする。アウェーゴールの優勢もこの瞬間、無くなってしまった。
だが両頬を叩き、気持ちを無理やり切り替える。落ち込んでいる暇などない。勝つために、準決勝に進むためには最低2点必要なのだ。
(そろそろ相手もエサに食いついた頃……! 反撃と行かせてもらう!)
キックオフすぐに敵陣深くに侵入する鷲介。当然相手も守備ブロックをすぐ形成するが、鷲介に寄っているそれを見て心中でほくそ笑む。
味方──特にアレックス、エリックの位置を常に確認しながら動く鷲介。そしてフランツから鷲介にボールがやってくる。
(ここだ!)
カルロスとエドガーが挟もうとしているのを確認した鷲介はやってきたボールをダイレクトでリターン。そしてフランツもまたダイレクトでエドガーの背後に飛び出したアレックスへスルーパスを出した。
(よしっっ!)
オフサイドに引っかからないアレックスを見て鷲介は心の中で喝さいの声を上げる。単独フリーでボールを受けたアレックスはGKの動きを見てシュートを放つ。
しかし狙いすぎたのか、ゴール左隅に向かったボールはポストに跳ね返ってしまう。だがそれにエリックが駆け寄っており無人のゴールへボールを叩き込んだ。
「ナイスですエリックさん!」
「当然だぜー!」
チームメイトに祝福されるエリックの元へ鷲介も駆け寄る。逆転されて五分も経たず、同点に追いつくRバイエルン。
ノリに乗っていたところで痛烈な一撃を受けたバルセロナRは怒りのためか、キックオフしてすぐに前のめりに攻めてくる。
すっかりディエゴとロナウド、いやロナウドにボールを集めるバルセロナR。そのロナウドへクルトがマンマーク気味につき、さらには試合再開時にロビンと交代したドミニクと、彼と同じボランチの位置まで下がったフランツたちがバルセロナRの攻撃を防ぐ。
そして反撃、鷲介たちへパスを出すのはドミニクと同時に入ってきたミュラーだ。グループリーグにてCL出場したことはあるが決勝トーナメントでは初出場となる。
とはいえ緊張の様子が見られたのは最初の数分だけだ。サイドに飛び出すアレックス、裏に抜けようとするエリック、中央でボールをキープし捌き、時にはドリブル突破しようとする鷲介へボールを供給する。
そして後半20分、敵陣センターサークルで前を向いたミュラーを見た鷲介は側にいるカルロスとマヌエルの位置を確認し、右に流れる。
こちらの意図を悟った親友はすかさず、鷲介に釣られたマヌエルによってできたスペースにシュートのような強く速いスルーパスを出す。それにエリックが全速力で駆け寄り──飛び出してきたホセの動きを見たのか──ペナルティエリアのギリギリ外からシュートを放った。
動いたホセの脇を通過するシュート。だがスペイン代表のGKの一人である彼もさすがと言う反応を見せる。とっさに左足を伸ばしてそのシュートを横に弾く。
だがバルセロナRの抵抗もそれまでだった。零れたボールにはアレックスが駆け寄っており、余裕をもってボールをゴールに流し込んだのだ。
4-3。勝ち越しであり準決勝への道がハッキリと見えた事実に鷲介たちピッチ上のイレブンは大いに喜ぶのだった。
◆◆◆◆◆
(よくやった!)
勝ち越し弾に沸くRバイエルンイレブンを見てトーマスは思わずガッツポーズをとる。
普段表立って喜ぶことはないが、今回のようなギリギリの勝負の時は別だ。そして勝ち越しにもっとも大きく貢献したうちの一人──鷲介にトーマスは視線を向ける。
(よく相手守備陣の注意を集め、かき乱してくれた……!)
鷲介を投入しCFの位置に置いた理由はそれだった。彼が中央で動き相手DFたちの気を引くことで他の選手をフリーにして得点を奪う。
これはジークフリートが常日頃やっていることであり、3、4点目はそれが上手くいったからの得点だといえる。
この方法は実はそろそろ行おうとは考えてはいた。今季、鷲介の得点力が世界トップレベルに匹敵することは証明されていた。ならそんな脅威的なFWを囮にすれば彼以外の選手への注意が弱まり、チーム全体の得点力が上がる。
そしてジークフリートと二人でそれを行うのであればより効果が増すのは自明の理。これを以てリーグ、CL制覇へ突き進もうと思っていたのだ。
(もっともこの試合でやる気はなかったのだがね)
トーマスとしては、まずは国内リーグの優勝争いをしている強豪にやるのが先だと考えていた。
彼らも手強いチームだがCL決勝トーナメント常連クラブに比べれば若干落ちる。まず彼らに通用することを確かめてからCLにて運用するつもりだったのだが、バルセロナRのエースストライカーの劇的活躍で追いつかれたことやジークフリートの負傷交代と言うアクシデントが重なり、やらざるを得なくなった。
もっとも勝算はあった。これがRドルトムントなど守備力の高いクラブならリスクが高くて試さなかっただろうが、バルセロナRならうまくいくと思ってはいた。
そう思った理由は前回の試合で鷲介が活躍し、彼らに警戒されているということ。そしてロナウドと言う”ゾディアック”最強に彼らが十全の、いや依存と言うレベルの信頼を置いていることがわかったからだ。
(バルセロナRは欧州、いや世界最強の攻撃力を持つチーム。
それ故に優れたアタッカーへの注力や警戒は並外れている。──それがバルセロナRというクラブの恒久的な弱点だ)
常に攻撃を好み、代々優れたアタッカーを輩出、移籍で手に入れているバルセロナR。そう言うクラブだからこそ相対したクラブの優れたアタッカーには必要以上に警戒し、そうでない選手への警戒はどうしても薄れてしまう。
以前CLで戦った時もそうだった。あの時はジークフリートとスレイマニ、二人の世界トップクラスのFWに同じ指示を出しバルセロナDFをかき乱させて勝利した。──もっとも次の試合では覚醒したロナウドに戦術を覆されて敗退させられたが。
ジークフリートと同じ役目をアレックスやエリックに任せることはできないわけではない。だが今季の活躍のインパクトを考えればジークフリートの代わりができるのは鷲介だけだ。それに彼らにはロナウドと言うチームメイトもいる。ならなおのこと鷲介を警戒するだろう。
(そしてこれは鷲介のためにもなる)
今季目覚ましい活躍を見せている鷲介だが、実のところ活躍やゴールは個に寄ったプレーが多い。
この現象は個人技に優れた若手選手にありがちだが、鷲介たち”ゾディアック”の面々、アタッカーやストライカータイプの選手は特にその傾向が強いのだ。ロナウドやミカエルはもちろん、あのカールもだ。
おそらくクラブでの熾烈なレギュラー争い、試合で結果を残すため世界トップに通じる能力──個人技を磨き上げていくうちにそうなるのだろう。彼らの大半は十代と言う若さゆえに、戦術面ではどうしても経験を積んだ選手に劣ると理解しているための選択だろう。
だがそれ故に、彼らが生み出すチャンスはCLクラスのクラブにとって予想しやすく、潰されやすい。ここ最近の試合で鷲介が幾度も嵌められたように同じCL準々決勝第一戦、RドルトムントはカールがマンチェスターFCのDF陣に抑え込まれて敗北し、Aマドリーは先制しながらもミカエルの個人技を潰して発動したカウンターを食らい、引き分けに持ち込まれていた。
とはいえ深刻な問題でもない。彼らはまだ十代、時間が経てば自ずとより深く戦術を学び、理解するだろう。今の鷲介のようにゴールやアシストはなくとも、チームを生かすための動きを身に着けるだろう。
瞬く間に逆転されたバルセロナRはより激しく攻めてくる。しかしボールが集まるのはロナウドだ。バルセロナRもRドルトムントやAマドリーと同じ過ちを続けている。
その若きブラジルの至宝に相対するのはヴォルフFC戦から目覚ましい成長と活躍を見せるクルトだ。緩急のついたフェイントで突破しようとするロナウド。しかしクルトはそれに惑わされず中に切れ込もうとした彼の足からボールを蹴りだす。
後半、クルトにロナウドへのマークを任せたのも理由がある。練習中鷲介と相対し、その対処に慣れているのが彼だからだ。もちろんロナウドは技術面では鷲介を大きく上回っているが、スピードやそれが加わったドリブルは鷲介のそれと同レベル。
時には単独で仕留め、時にはチームメイトと挟み込み、又は嵌めて取る。あえてドリブルを誘発させて外へ追い込む。鷲介に応じた対処方法は──全てではないが──ロナウドに対しても有効に働いていた。
もっともそれでも突破されるときもある。しかしそこはブルーノやアンドレアス達、さらに交代で入ったドミニクがフォローすることで危機を防いでいた。
彼の個人技は脅威だが、さすがにクルトたちが注力していればそう易々と突破はされない。もちろんその分他の選手のチェックが緩くなるが、それを防ぐためにフランツをボランチの位置に下げたのだ。
「ドミニク!」
ピッチに響くフランツの声。直後ドミニクが動き、彼と共にディエゴを挟み込んでボールを奪う。
フランツの本職はCMFではあるがボランチの位置でもフィールド・アイを生かした的確なコーチングで相手のパスやシュートを防いでいる。これもまた彼のような経験を積んだ選手にしかできないことだ。
そして、ミュラー。鷲介やロナウドほどの実力はないが彼もあの年代の中では飛びぬけて優秀な選手だ。特にスペイン修行で鍛え上げられた課題の守備への対応とトップレベルのパススピードへの適応はCMFと言う高い位置、CLと言う舞台でも見事に発揮され、バルセロナRの面々相手にも何とか渡り合えていた。
また前線の選手に贈るパスも精度が増しており、特にユースで組んでいた鷲介へのパス精度はフランツのそれに匹敵、いや同等と言ってもいいかもしれない。
そしてそのミュラーが敵陣センターサークル内でボールを受けて前を向く。そこへアンドレスが立ちはだかるがミュラーはパスを出すふりをした次の瞬間、まるで鷲介のような鋭い動きとまた抜きで彼を抜き去り、さらに前に出る。
(鷲介たちに感化されたか。
彼らしくないが、いいプレイだ……!)
若者らしい野心に満ちた力強い突破を見てトーマスは思わず唇が笑みの形を作る。
前に出たミュラーは左ハーフレーンに向かっている鷲介にパスを出す。右から突っ込んできたアレックスがフリーだ。
だが鷲介はボールを受けると同時に前を向きペナルティアークから左足でミドルシュートを放つ。前に立ちはだかったマヌエルが動くよりも早く放たれたそれは彼の右太ももを掠めゴールへ向かう。
しかしボールはポストに当たり跳ね返る。それをエリックが駆け寄るがクリストフが必死の形相でクリアーしてボールはサイドラインを割る。
(ナイスシュートだ。よく周りを見ている)
鷲介が今シュートを撃ったのはバルセロナRのDFたちが鷲介が味方にパスを出すかデコイになることを警戒し、シュートを作るスペースを作っていたからだ。鷲介は首振りでそれを確認していたからこそシュートを撃ったのだ。
彼らも今日の鷲介がジークフリートのように動いていることに気づいていたようだが、これで彼らも鷲介がどう動くのか再び迷うことになる。
個人技に寄ったプレイとチームプレイに寄った動きの使い分け。まだ未熟だが平均点は与えられる。今のバルセロナRにはよく効くだろう。
アレンのスローインがエリックに渡る。上がってきたブルーノの方を振り向くエリックだが次の瞬間、強引に前に出てクリストフを突破する。
サポーターの声援が響く中、サイドから一気に中に切れ込むエリック。マヌエルが寄ってくるがエリックは距離を詰められるより早くグラウンダーのパスを中に送る。
今のプレイも今までのエリックからは中々見られなかった。しかしシーズン後半──特に最近から、今までの得点にこだわるFWとしてのエゴの強さを持ちつつも今のようなプレーが見られ、そしてそれらがチームの勝利に結びついていった。
(彼もまた、鷲介と同じく成長している)
場面場面による個人技とチームプレイへの切り替え。このままいけば彼がオランダ代表のエースストライカーになり、クラブでもジークの地位を脅かす可能性もあるだろう。
そしてエリックの贈ったボールへ駆け寄るのは鷲介だ。ペナルティエリアギリギリ中にいる彼は右足を大きく振り上げているが、その前にはカルロスが立ちはだかっている。
(パスを!)
トーマスが思うのと同時、鷲介はその通りに動く。右足で右斜めにパスを送り、それをエドガーと体をぶつけあっているアレックスがボールに突っ込んできた。
シュートを撃とうとするアレックスに対しホセは飛び出し、エドガーはファウル覚悟のチャージを見舞う。体勢を崩すアレックス。だが温和な彼らしからぬ獰猛な獣を思わせる表情で彼は足をボールに伸ばす。
右足のつま先によるトゥーキック。威力はないがスピードは速くゴール右隅に向かう。
飛び出したホセは左手を伸ばすがボールは彼の左腕のわきの下を通過すると、ゴールネットを優しく揺らした。
「よくやった!!」
トーマスが叫ぶのと同時、ホームサポーターの爆発したような歓喜の声がスタジアムに響き渡った。




