準々決勝前日
「皆さん、こんばんわ。加納博則です!
「福原恵次です。本日はよろしくお願いします」
「福原さん! もっとテンションあげましょうよ! 今、日本サッカーは決勝トーナメントと言う未知の荒野を突き進んでいるんですから!」
「いえ、だからこそ冷静にならないといけません。ここから先は間違いなく魔境なんですから。油断すれば目を覆うような結果となってしまいますよ」
「うぬぬ、相変わらず冷静ですね。分かりました。ではその分僕が盛り上げていきます! 本日のグレートサッカーの最初は当然、今イタリアで開催されているW杯の最新情報です!
初めてのアジア勢対決となったW杯決勝トーナメント一回戦のイラン戦に見事日本は勝利し、初めてのベスト8になりました!」
「ベンチメンバーを幾人も起用しましたが見事な完勝。大会前からスタメン組とベンチメンバーの差が弱点だと言われていましたがそんな不安材料を跳ねのける素晴らしい試合内容でした。
しかし喜んでばかりもいられません。先程申しあげたとおりここからは魔境、誇張抜きに一戦一戦が死闘です」
「そう! 準々決勝の相手は優勝候補の一つ、アルゼンチン代表なのです! そして今大会最強のFW陣を要しています!」
「ブラジル代表やドイツ代表をはじめ素晴らしいFWは数多くいますが、最強のFW陣と評するならば今大会のアルゼンチン代表となります。
グループリーグからの四戦すべての試合で出場したFWたち全員、ゴールを決めているのです。また総得点数も2位の日本と並び18得点」
「凄い攻撃力です! エースストライカーであり世界一とも評されるバルセロナ・リベルタ所属のアルフレッド・オマール・ケンペスも我が日本のエースである柳選手と並び7得点。
同じ”ゾディアック”であるアシオン・マドリー所属のミカエル・レオン選手も5得点。このお二人だけで総得点の三分の二を取っているのです!」
「一方で防御もとても硬いです。どの試合でも失点はしていますがたった一点であり総失点数は4。
大会屈指の攻撃力と堅固な守備。間違いなく今まで戦ったどの国よりも強い相手でしょう」
「そんな日本、いや世界中の視線を集めるであろう試合の開始時刻は日本時間の明日の四時。
視聴者の皆さまはしっかりと睡眠をとってご視聴くださいー!」
◆
「よしっっ!」
ホテルの自室で鷲介はスマホを握りながらガッツポーズをする。そしてそれに自前のPCに目を向けていたルームメイトの久司が反応する。
「どうした、大きな声を出して。
と言うかさっきから体をソワソワさせていたけど何を見ているんだ」
ベットに横になっている鷲介の下へやってくる久司。そんな彼に鷲介はスマホをかざす。
「……これはなんだ?」
「見てわかるだろう、俺の可愛い異母妹リーザの試合だ。
昨日よく行っているボルツプラッツで試合をしたらしくて名、人生初めてのハットトリックを決めたんだ。
しかも三点目が俺のようなキレのあるドリブルからのシュートで──」
「あー、わかったわかった」
背を向ける久司。全く自分から声をかけてきておいて失礼な奴だ。
とはいえいつものことなので鷲介は気にせず可愛い異母妹のプレーを見て心を癒す。
幼年期の、それも遊びのサッカー。戦術といった複雑なものがない単にボールを追いかける原始的なものだが、それを心から楽しんでいる姿は可愛らしくあり微笑ましくなる。日々の激闘で疲れている体や心に染み渡る。
しばらくして、再び久司は少し尖った声で話しかけてきた。
「鷲介、ずいぶん余裕だな。次の相手は世界屈指、いやおそらくNo1の攻撃力を持つアルゼンチンだぞ。
家族の映像を見るぐらい余裕があるのは何か策でもあるのか」
「いや別に。これを見ていたのは単にリーザが可愛いからだ。
しかししばらく見ないうちにずいぶん上手になった。ふふふ、これは将来のなでしこか。いや、ドイツサッカー協会も黙っていないからドイツとの取り合いになるのか」
「シスコンはほどほどにしろ。──マジでアルゼンチンの攻撃力は脅威だぞ」
鷲介からスマホを取り上げ、久司はやや据わった眼を向けてくる。
「アルフレッド、ミカエル、ディエゴ。攻撃の核であるこの三人とは俺はかつてリーグで対戦したこともあるし、アルフレッドとディエゴはチームメイトだからその凄さがわかる。
去年お前もCLで戦っただろうが、その時よりも実力はもちろん凄みも増している」
久司が言っているのは今期のミカエルたちの活躍だ。
彼らが所属するバルセロナ・リベルタとアシオン・マドリー。どちらもリーグ、カップ戦の優勝はレイ・マドリーに譲ってはいるもののシーズン終盤まで優勝争いを混沌とさせていた。
また彼ら個人のスコアポイントはリーグを制覇したRマドリーのエースたち、ラウル、エドゥアルド、アーギアを上回っている。アルフレッドはロナウドと並びリーグ得点王に、ミカエルとディエゴはゴールアシスト共に二桁を獲得。特にミカエルはシーズン中盤までアルフレッドと共に得点王争いをしていたほどだ。
CLでも活躍は目覚ましく、一部のメディアからは現時点で世界一のドリブラーではないかと言われているほどだ。
「直で目にしたお前ほどじゃないがわかっている。──ミカエルの奴、得意のドリブルはロナウドと同等、いやそれ以上かもな」
「多分それ当たっているぞ。何せ当人が笑いながら認めたぐらいだからな」
「そうか。──けどまぁ成長しているのは俺たちもだろ」
そう言って鷲介は不敵な笑みを浮かべる。
「確かにあの三人は大会屈指のトリオだが、安々とやられる気はない。俺の現時点でのゴールはアルフレッドと並んでいるし、CLでは超えているんだぜ。
アルゼンチンの試合は全試合見た。確かに目立たないが守備も堅牢だ。──けれど今まで戦ってきた相手と比べて脅威とは感じてもゴールを奪えないイメージはないな」
堅守、堅固な守りを持つと呼ばれるチームとはいくらでも戦ってきた。
アルゼンチンの守りは確かに硬いがネットを揺らせるゴールパターンはいくつでも思い浮かべられるし、単純な守りの硬さならイタリアの方が上だ。
ちなみにそのイタリアは同じ優勝候補だったフランスとの延長戦まで続いた死闘を制してベスト8に残っている。次の相手は難敵スウェーデンに競り勝ったイングランドだ。
「点の取り合いになるなら上等だ。受けて立ってやろうじゃないか。それとも久司はアルゼンチンに対して自信がないのか」
「んなわけあるか。相手がどこであろうと立ちふさがるなら叩き潰すだけだ。ふざけたことを言うんじゃねぇ」
今からでも試合をする気満々というような久司の顔。
それを見て、鷲介は彼に謝罪した後、安堵と彼への頼もしさに対し小さく微笑む。
「と、そろそろミーティングの時間だな。
試合前の最後のミーティングだが、明日のスタメン発表とアルゼンチン対策かな」
「アルゼンチンのスタメン報告もあるかもな」
部屋を出た直後の鷲介の言葉に久司は呆れる。
「さすがにW杯の準々決勝でそれはないだろ」
「可能性としては十分だぞ。──何せ過去にアルゼンチンリーグのカップ戦決勝で同じことをやった人だからな。
しかも相手は永遠のライバル、宿敵ともいえるリーベルFCだ」
「……マジか」
キリ・アグエロ。アルゼンチン代表監督である彼は時折対戦相手に対し自チームのスタメンを教えるという奇行をすることがある。その中でとくに有名なのが過去、岩永が所属するボカFCの監督をしていたエピソードだ。
当時行われたアルゼンチンリーグのカップ戦決勝の時、対戦相手であるリーベルFCの監督に決勝戦のスタメンを教えたという。この発表に一部の熱狂的なボカファンは怒り狂い、キリ監督に向けて様々な罵倒を発し殺害、犯行予告すら出た。
過激、過剰とも思われる反応だがアルゼンチンのサッカー熱は他の南米の国と比べても一際熱い。しかも相手のリーベルFCは共にアルゼンチンを代表するビッククラブであり、首都ブエノスアイレスを本拠とするクラブ。数十年もの長きにわたる永遠のライバルなのだ。
とはいえ試合に見事勝利したボカFC。翌日の新聞やテレビではボカFCのサポーターやご意見番から監督を絶賛するコメントがあふれたという。
「あの荒っぽいことで有名なアルゼンチンリーグ、それも相手が永遠のライバルであるリーベルFC相手に?
強心臓過ぎる……。今いくつだっけあの人」
「確か監督と同い年だな。若いころは監督のライバルの一人であり親友らしい。
監督が日本代表の監督に就任した直後、アルゼンチンサッカー協会に日本との親善試合を申し出たなんて話もあるからな」
「へぇ、仲がいいのか」
「いや、訊ねたときの監督の表情を見るに、一方的に好かれているって感じだな」
アルゼンチンとの対戦が決まった後、軽く話をしたときに出たキリ監督の話題。
彼を話すときヨアヒムは終始、どうして好意を向けられているかわからない、困ったような顔だった。
「遅いぞお前ら!」
ミーティングルームとなっている食堂に入った鷲介たちにそう言うのは一番前の席に座っている岩永だ。
まだ時間はあると言いそうになるが、闘牛よろしく興奮した様子の彼を見て鷲介たちは短く謝罪する。
(気合入ってるな)
(元々岩永は血気盛んだし、対戦相手が自分がプレーするリーグの国だからな)
(兵藤や田仲さん、テツはイタリアと戦うとき、そうでもなかったけどなー)
まぁ人それぞれだと思い、席に着く。
鷲介たちの後に姿を見せたメンバーにも飛ぶ岩永の怒声。仲の悪い柿崎とは一発触発となるが周囲がとりなし収まる。
そしてそのすぐ後に監督が姿を見せると、静かながらも張りのある声で言う。
「さて、予定されていた通り今から明日のアルゼンチン戦についてのミーティングを行う」
言葉の後、彼は壇上のPCを操作。後ろにある大きなスクリーンにフィールド図と11個の数字──明日のスタメン選手の背番号──を表示する。
「よっしゃ!」
小さくガッツポーズする岩永。ミーティング中なため声は小さいが。
アルゼンチン戦の日本代表のスタメン。システムはいつもの通り4-3-3。
GKは兵藤。DF四人は田仲、井口、テツ、直康。中盤三人は喜んだ岩永がボランチ、前の二人は久司と本村だ。
そしてFW三人は右に鷲介、中央に堂本、左に鹿島だ。
本来左にはWGである小清水、または柿崎を置くのだが鹿島を置いたのを見ると、状況的に鷲介を中盤に下げた4-4-2とする可能性があるということか。
表示されたスタメンを見て鷲介が思った後、続けて表示されるアルゼンチンのスタメン予想メンバー。
ヨアヒムはキリ監督を話していたときのような顔となって言う。
「表示したスタメンはトラブルがない限りこれでいくそうだ。今日の朝、相手の監督から連絡があった」
「え」
「マジですか」
「たまにそういうことをする監督だという話は聞いていますけど……」
ヨアヒムの言葉に当然、日本代表の面々も呆気に取られる。
予想していた鷲介も目を丸くする。まさかW杯の準々決勝でやってくるとは。口ではああいったものの、流石に思っていなかったのだ。
「昔ボカFCにいたときのカップ戦決勝で、あのリーベルFCに似たようなことをやった話は有名だがなぁ」
流石の岩永も驚きと呆れが混在した顔つきだ。
仲間たちに漂う戸惑いの空気。がそれを打ち消すように監督が手のひらを叩いて大きな音を発する。
「相手がどうであれ、私たちは勝利のために全力を尽くすだけだ。 ──では明日のゲームプランについて話そうか」
そう言ってヨアヒムはアルゼンチン戦について話し始める。
鷲介たちの意見を交えた対策は思った以上に時間がかかり、終了したのは夕暮れ前だ。
解散し、自室でホテルのラウンジで購入した軽食を口にしながら鷲介は対面に座る久司に言う。
「明日はきつそうだな久司」
「お前もだろ。まぁあのアルゼンチンに勝つためだからしょうがないが。
というか、ここまで来たらどのチームでもきついだろ」
「そうだな」
日本、アルゼンチン、オランダ、ドイツ、イタリア、イングランド、ブラジル、スペイン。
ベスト8まで残った国。力の差はあれど大きくはなく、一瞬の油断や状況が変わることで有利にも不利にもなる。
全身全霊で挑まなければ次のステージには進めないだろう。
(さて、今頃アルゼンチン代表は、いやミカエルの奴はどうしているのかな)
廊下の窓ガラスから見える、小雨降る曇天を見ながら鷲介は思うのだった。
◆
「俺、時々思うんだが、監督って頭のいい馬鹿だと思うんだよな」
「時々じゃなくて、僕は常にそう思っていますよ。W杯の準々決勝と言う舞台、しかも対戦相手に明日のスタメンを通達するなんて頭のいい馬鹿か狂人のどちらかです」
注文したミネラルウォーターに口をつけながら言うペドロにディエゴは苦笑する。
「お前の言い方だと狂人と言っているように聞こえるぜ」
「そうですか。そうかもしれませんね。これ、協会に知られたら機密漏洩とかで解任されるんじゃないですかね。そうなったら今回のW杯はおしまいですよ」
「それは心配ないな。あの人はそういうところは昔から、いや現役から抜け目がない。
ボカFCの時のあれもクラブと契約を交わしていたおかげてカップ戦優勝後も監督を続行したからな。
ま、一部の過激なサポーターからの激しい反発があったからか来シーズンの契約更新はせずに退任したが」
当時、ボカFCの一員だったディエゴは昔を思い出しながら言う。
「そしてその直後、リベールFCからのオファーを受けて監督になるんですからね。
……やっぱり狂人ですねあの人。自分の身の安全とか、考えていないとしか思えません」
「あの人は現役時代でもリーベル、ボカ両方のクラブに所属して人だからな。偶にいるだろ、クラブ間の暗黙の了解を平然と破る選手が。
……よくよく考えたらお前の言う通り、あの人ただの狂人かもしれん」
二人がいるのはアルゼンチン代表が止まっているホテルのラウンジだ。明日の日本戦へのミーティングが終わったばかりの今、ミーティングが行われた部屋の近いここにはディエゴたちアルゼンチン代表の面々の顔が多くある。
「ま、まぁ、あの人は狂人かもしれんが、同時に名将でもある。大した問題じゃないだろう」
「大した問題ですよ。これで負けたらどんな騒ぎが起きるか」
「おいおい! 何弱気なことを抜かしてやがる! 相手はたかが極東の小国だろうが」
突然響く大声にディエゴたちは目を丸くする。振り向けばそこには無精ひげを生やす傲岸不遜そうな顔つきの、2メートル近い巨漢の男の姿があった。
ホアキン・シメオネ。アルゼンチン代表のボランチを務める男だ。日本戦でもスタメン出場が決まっている。
「ベスト8に残ったとはいえ日本はその中では最弱。一方俺たちはW杯を幾度も制したアルゼンチンだ。負けるはずがねぇだろ」
「油断しすぎですホアキンさん。過去の歴史なんて今、この現実には何の関係もありません。彼らは強い。僕たちを下せるほどに。
同じ優勝候補であったイタリアが、母国のサポーターの声援を受けていた彼らが日本に屈したのは知っているでしょう。試合映像も見たでしょう?」
「当然だろ。──しかし俺から言わせれば”だから何だ”だな。同じ優勝候補であっても俺たちとイタリアとでは格が違った。それだけのことだろ」
フンと鼻息を突くホアキンにペドロは呆れたように息を吐く。
アルゼンチンリーグの二強の一つ、リーベルFCに所属する彼の実力は確かだ。だが相手を甘く見る悪癖も持ち合わせている。
「ホアキン、油断するな。分かっていると思うがお前が注視するのはミカエルと同じ”ゾディアック”──シュウスケ・ヤナギだ。
余裕をかましていると、瞬く間にやられるぞ」
「問題ねぇよ。あのミカエルの小僧と同格程度だろ。鼻歌交じりで対処してやるよ」
「──違うぞ、ホアキン。同格じゃない。今のあいつは俺よりも格上だ」
ホアキンの背後から聞こえてきた声。ディエゴたちが同時に視線を向けるとそこには明日のスタメンであるアルフレッドとレネ、そしていつになく神妙な顔をしたミカエルの姿があった。
「ミカエル……」
「格上だぁ?」
「シュウスケ・ヤナギは現時点で世界一のウイングであり、アルフレッドさんに匹敵するストライカーだ。
お前が世界トップクラスなのは認めてやるが、油断なんかしていたらズタズタにされるぞ。
俺との一対一の勝負、いまだに俺が勝ち越しているのを忘れるなよ」
ミカエルの言葉にホアキンははっと嘲笑うような顔になる。
「練習中の話だろうが。ゲーム形式では互角、いや俺の優勢だった。……やれやれ、奴にしてやられた欧州組は警戒しすぎだな」
嘲笑するかのようなホアキンの言葉。
そんな彼にペドロを始めとする、欧州のクラブに所属するメンバーから注がれる、うっすらとした怒りと非難交じりの視線。
しかしそれを向けられてもホアキンは態度を変えない。
「まぁ見てろ。明日の試合では俺がきっちりアイツを抑えてやる。だからお前たちは早々に場違いな極東の島国のゴールネットを揺らして早々に決着をつけろ。
W杯を決勝で掲げるためにも、こんなところでもたもたしている暇はないんだからな」
そう言ってラウンジから立ち去っていくホアキン。
その姿が見えなくなったところで、アルフレッドはため息交じりに言う。
「やれやれ。いつもの通りとはいえ準々決勝の相手に対して油断しすぎだ。レネ、DFリーダーとしてうまくアイツをコントロールしろよ」
「南米予選のブラジル、コロンビア戦のように勝手しないといいんですけどね……」
ホアキンの暴走により得点を決めたブラジル戦、失点したコロンビア戦を思い出したのか、憂鬱そうな顔になるレネ。
「まぁホアキンのことはいつものことだからいいとして。俺としてはミカエル、お前のさっきの言葉に驚いたぞ」
「ええ、そうですね。シュウスケ・ヤナギを格上と認めるなんて、一体どうしたんだいミカエル」
数ある”ゾディアック”の中でミカエルが特に注視──ライバル視──しているのはバルセロナ・リベルタのロナウドにレイ・マドリーのミカエル、そしてRバイエルンのシュウスケ・ヤナギだ。
ミカエルは彼らが称賛される記事を見るたび心底面白くなさそうな顔をしていたし、話題に上がるたびに何かしらの難癖をつけていた。
しかしそう思ってディエゴは気づく。今回のW杯でも活躍している三者だが、彼らに対してミカエルが以前のような反応を見せていないことに。
「別に、ただの事実を口にしただけだ。今期のあいつはそう言わざるを得ないほどの活躍をしていた。二人だってそう思うだろう」
「……ま、確かにな」
「所属するロート・バイエルンはCLとカップ戦の二冠。そしてその中核となったのは紛れもない、”黒鷲”の彼だ」
数々の強敵を下し、宿敵であるRマドリー、昨季のCL王者であるマンチェスターFCにも勝利したRバイエルン。
その中心選手の一人としてシュウスケ・ヤナギが魅せたプレーの数々と記録として残したスコアポイント。それらがなければCL王者と言う栄冠をRバイエルンが手にすることはなかっただろう。
ミカエルの評──世界一のウイングであり、アルフレッドに匹敵するストライカー──も決して、的外れと言うわけではない。
もっとも”今の”と言うあたり、彼の心中の複雑な思いが伺えるが。
「ま、シュウスケ・ヤナギに注視するのはその辺にしておきましょう。
ウーリッジFCのオノ、バルセロナRのナカガミ、バエティーカFCのドウモト、NASミランのタナカ。
他にも僕たちのマルセロのようにグループリーグで頭角を示してきたフジナカ、タカノなど。今の日本は、要注意選手は幾人でもいますからね」
ペドロの言葉に周囲にいる皆が一斉に頷く。
彼らは皆、欧州でプレーするものたち。それ故に日本人選手についてもよく知っているし、極東の島国として侮ることもない。
いや、侮らない。ここにいる彼らはその代表ともいえるシュウスケ・ヤナギに一度は敗北したのだ。そんな彼らが侮るということは、自身を侮辱するのに等しいからだ。
「勝つぞ、明日の試合」
「当然だ」
ディエゴの言葉にミカエルが即答し、周囲の皆も試合中のような真剣な顔で頷くのだった。
リーグ戦 24試合 18ゴール10アシスト
カップ戦 3試合 3ゴール4アシスト
CL 10試合 18ゴール4アシスト
代表戦(三年目)2試合 3ゴール1アシスト
W杯 4試合 7ゴール5アシスト




