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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
三部
183/197

イタリアW杯、グループリーグ第三戦。日本対イタリア(1)







 ペルージャFCのスタジアム、スタディオ・レナード・アルベルト。

 クラブのレジェンドにちなんで命名されたこのスタジアムで今日、W杯グループAの最終節、日本対イタリアが行われようとしている。


「わっ」


 入場ゲートを抜け通路を通りやってきたスタンド。そこから聞こえた大歓声に傍にいたリーザが驚く。


「イタリア! イタリア!」

「グランデ、アズーリ!」


 試合前だというのに聞こえるイタリアサポーターの大声援はまるで夏の日差しのような暑さを感じさせる。

 当然日本サポーターも声を出しているがイタリアのそれよりは小さい。


「すごい応援だね……」

「そうだね」


 威圧のようなサポーターの声にリーザは怯えたような顔になり、隣にいる由綺と母サーシャの手を握ってくる。

 そんな少女を見て少し怯んでいた由綺は心中で怯えていた自分を叱咤。リーザに向かって微笑み頭を優しく撫でた。和らぐリーザ。


「さてさて、スタメンはどうなっているかねー」


 兄の言葉に由綺たちはスタジアム内にある電光掲示板に目を向ける。

 表示されている両国のスターティングイレブンと予想フォーメーション。

 まずは日本。システムは4-3-3。GKは兵藤健一。カメルーン戦に続いての出場だ。

 DFは右から田仲祐希、井口弘樹、藤中鉄一、大文字直康。秋葉の復帰の予想されていたが彼の代役だった藤中がスタメンとなっている。

 実際彼は練習映像でもいい動きをしていたし、昨日鷲介も藤中の調子が上がっていることを言っていた。怪我明けの秋葉より優先されるのは当然かもしれない。

 MFは鷹野英彦、瀬川亮太、中神久司の三人だ。英彦と瀬川のダブルボランチとなっているが、


「場合によっては英彦の奴が前に出たり、中神と前二枚になったりするだろうな」


 兄の言葉に由綺は自然と頷く。英彦は中盤はどこでもこなせる高いユーティリティプレイヤーだからだ。

 そしてFWは鹿島勇司、小清水一輝。そして鷲介の三人。


「がんばれよ鷲介ー!」


 空也が声を張り上げる。があまりにもいきなりだったのか再びリーザが怯えた顔になる。

 サーシャや由綺が再びリーザを慰め落ち着かせたところで、視線をイタリアのスタメンに向ける。


「予報通りイタリアはベストメンバーだな」


 マルクスの固い、用心するような声音。

 イタリアのシステムは日本と同じ従来の4-4-2。GKはユヴェントゥースTFC所属、今大会初出場であり世界一とも言われる名GK、ジャンルイジ・ドニ。

 DFは右からパオロ・プローディ、シルヴィオ・ネスタ、ロベルト・バレージ、ニコロ・フロレンツィ。

 パオロとシルヴィオはRNSミラン、ロベルトはユヴェントゥースTFC、そしてニコロはNASミランに所属しており田仲とコンビを組む名選手だ。

 堅守なイタリアのトップクラブ、その中でも絶対的レギュラーであるこの五人が作る守備陣は世界一の固さだとと言われている。

 中盤四人はアンジェロ・マテラッツィ、ニキータ・ヴェントーラ、サルバトーレ・マリオ、ステファノ・フェラーラ。

 ボランチはRNSミランのアンジェロとアシノ・ナポリ所属のニキータ。凄まじいスタミナを持つ潰し屋としても有名な選手だ。

 そして前二枚、ステファノはレヴィア・ドルトムント所属、ユヴェントゥースTFC所属のマリオは言わずもがな、”ゾディアック”の一人だ。

 イタリアの希望の星であるマリオ。しかし今大会はサポーターの非難を一身に浴びている。

 可哀そうだと思うのと同時、それが原因で調子を落としてくれていればラッキーと思う由綺は軽く自己嫌悪に陥る。

 頭を振ってそれを振り払い最後──FWに目を向ける。

 FW二人はアレッサンドロ・バッジョとエミリオ・フェラーラ。ユヴェントゥースTFC所属のバッジョは現役選手の中では絶滅危惧種と言われている”ファンタジスタ”であり、歴代最高の”ファンタジスタ”とも言われているイタリア代表の中核選手だ。

 そしてRNSミランのエースストライカーであるエミリオ。ジャンルイジやバレージと並び今大会初スタメン&初出場だ。


「改めて思うがイタリアは錚々たるメンバーだ。この面子に真っ向勝負で勝てる国は同格の優勝候補の国々だけだろう」

「けどそれはあくまでこの面子が万全な状態での話だ。一人なら問題ないだろうが怪我明けかつ初スタメンが三人。日本も小野を欠いているがチーム力に大きな変化はない」


 そう言って光昭はにやりと笑う。


「まぁ日本としては彼らがいること自体がチャンスでもある。本調子ではない連中を容赦なく狙えるし試合中に怪我が再発、交代なんて起きれば間違いなくイタリアの試合のプランに影響はあるからな」

「別の視点から見ればレギュラーの怪我明け選手を三人まとめて投入するのは日本を警戒しているからか、それともそれだけで何とかなると侮っているかとも取れるが」

「昔じゃあるまいし後者はないでしょう。鷲介がいるんですよ。あいつの恐ろしさはわかっているでしょうし、特にRNSミランの連中は骨身にしみているでしょう。

 それに中神に英彦もいるんです。ウルグアイ戦のあいつらを見れば侮るなんて真似はできないはずだ」

「……そうだな」


 かすかに笑うマルクス。感慨深そうなその顔は鷲介、いや英彦の名前が出たからだろうか。


「にぃに、だいじょうぶかな」


 ぽつりと呟くリーザ。視線を向けると表情を曇らせている。

 とはいえその気持ちはわかる。スタジアムの雰囲気が完全なアウェーだからだ。

 もちろん日本サポーターも客席に入るし姿も見せる。だがそれを大きく上回る数のイタリアサポーターが放つ雰囲気は彼らの存在を無くすかのような圧を放っている。

 熱く、そして重苦しいそれから感じられるのは今いるサポーターの応援だけではない。上手くは言えないがW杯強豪国の歴史とそれらに関わってきた多くの人々の思いが積み重なったかのようなものも含んでいるのかもしれない。

 由綺としても完全アウェーの試合を観戦したことはある。だがそのどれよりも今日の試合会場の空気は重い。この空気は少なからず日本代表に影響を与えるだろう。


(頑張って、鷲君)


 そう思うと同時、ひざ下に組んだ両手に力が籠るのだった。











 控室を出て入場ゲートに向かう鷲介たち日本代表。

 入場ゲートにやってきて鷲介は目を丸くする。視線の先にはイタリア代表が勢ぞろいしていたからだ。

 また彼らが漂わせている静かな、神妙な空気にも驚く。あのマリオも鷲介に気付くが小さく笑みを浮かべすぐにゲートの向こう──ピッチの方に視線を向ける。


(エネルギーは全て試合に使おうってことか)


 今季のCL決勝の相手、マンチェスターFC戦もこうだったと思い出す鷲介。

 イタリアの空気に当てられたか鷲介たち日本イレブンも静かな様子で整列。

 そして時間になったのか審判が入場ゲートを潜り、それに鷲介たちは続く。

 WFUAの公式テーマソングが流れると同時に響く観客席からの大声援。眩いフラッシュを浴びながら入場する両国のイレブン。

 君が代にマメーリの賛歌。両国の国歌が流れ写真撮影。騒ぐ周囲とは打って変わって鷲介たち22人のサッカー選手たちは粛々とした態度でセレモニーを進める。

 握手交換も特に異変はない。鷲介にも普通にやんわりと握ってくる。ただこちらを見る眼差しには隠し切れない闘志が宿ってはいるが。

 最後のコイントスが終わり、チームキャプテンが自分のポジションに戻っていくのを見届け、鷲介は周囲を見渡す。

 空は快晴で風はない。スタジアムは満員でその大半がイタリアサポーターからはぴりぴりとした圧が放たれている。

 

(これほどの完全アウェーは初めてかもな)


 そう思う鷲介だが体に緊張はない。今すぐにでもトップギアに上げられる。

 また周囲の仲間たちもスタジアムの雰囲気に臆した者はいない。一番代表経験が少ないであろう英彦に目を向けるが、彼は鼻歌を歌っていそうな雰囲気だ。

 杞憂だったなと小さく息を吐き、そう言えば英彦が昔から妙にアウェーには強かったことを鷲介は思い出す。

 センタースポットに目を向けるとボールの元にいるのはバッジョと、そしてマリオだ。二人は真剣な顔で何かを話しあっている。


(何か仕掛けてくる気なのか)


 鷲介がそう思ったのと同時、マリオは離れセンターサークルから出ていく。そして一瞬だけこちらを見て、自分のポジションへ移動する。

 眼差しの意味は分からない。ただやる気に満ちていたそれを見て鷲介は笑みを深くする。


(勝負だ、マリオ)


 真剣勝負はU-17W杯以来。自分もそうだが彼もまた成長している。

 あらゆるポジションで十全の力を発揮する本物のオールラウンダー。現在はイタリア王者であるユヴェントゥースTFCの中核戦士として活躍しており、今季もゴールアシスト共に二桁を達成している。

 普段はアホだがサッカー選手としては少しも油断できないライバルを思い、鷲介は改めて気合を入れ直す。

 両国のサポーターの声援がガスコンロの火のようにピッチの熱を上げる。

 そしてそれが臨界に達しかけた時、主審の笛の音が高らかに鳴り響いた。

 とうとう始まったグループA最終戦、日本対イタリア。センターサークル内にいたバッジョとエミリオがボールを後ろに預けるのを見ながら鷲介は走り出し、


「え?」


 思わず足を止める。先程まで普通だったイタリアの選手たちに異変が起きていたからだ。

 一体どうしたことか。試合開始と同時にシルヴィオたち最終ラインがいきなり上がってきたのだ。

 先程までアタッキングサードにいた彼ら四人は開始と同時に一気にミドルサードとの境界線まで移動した。

 また変化はそれだけではない。それに連動するようにマリオ達中盤の選手も前に移動している。

 試合開始直後だというのに突然の変化に鷲介が目を白黒させたその時だ、ボランチの位置でボールを受けたシルヴィオはボールを大きく蹴りだす。

 鷲介はそれを見て反射的に振り返る。高く飛んだボールは一気に日本ゴールへ迫り、その落下地点にはエミリオの姿がある。

 人数は揃っている。だが鷲介と同じく皆、イタリアの奇襲に困惑しており対処が遅れる。

 その遅れに対し迷いなく動くエミリオ。競り勝った彼は頭で傍にいるバッジョにボールを渡す。

 

「レ・ファンタジスタ!」

「マーゴ! マーゴ!」


 スタジアムに轟く、イタリア10番の愛称。

 そのバッジョに近くにいた瀬川と大文字が前後から挟み込むが、バッジョは軽く右に体を動かして瀬川を、そして距離を詰めてきた大文字をこれまたほんのわずかに体を動かしてかわしてしまった。


「……!」


 その動きに鷲介は目を見張る。鷲介のようにスピードで抜き去ったわけでもカールのようなフィジカルで弾き飛ばしたのではない。もちろんミカエルやロナウド、久司のようにテクニックなドリブルでもない。

 緩やかながらも必要最小限の動き。どう動けばそうなるのかを見通しているかのような、不可思議と言える動きだ。

 ハーフレーンを突き進むバッジョ。ペナルティエリアが間近に迫った彼にテツが近づく。

 飛び込まずどっしりと腰を据えたテツ。バッジョを決して中にはいかせないポジショニングだ。

 それに対して少し減速したバッジョ。が、彼は急加速。より深く日本陣内に入り込む。

 中に入れさせなかったとはいえペナルティエリアライン上にいるバッジョをテツはもちろん追尾する。だがそれを見て鷲介は気づき、叫ぶ。


「バッジョだけを見るな! 来ているぞ!」


 先程ポストプレーをしたエミリオはもちろんマリオやステファノらが一気に日本ゴールに迫っている。

 鷲介と同じく誰かにボールが来ると予想したのか、井口たちはマリオ達へマンマークのような対応を取る。

 がバッジョは日本の対応が終わるより早く動く。右足でセンタリングを上げると見せかけてから左へ切り返し、ボールをゴール前に上げた。

 ふわりと浮いたボールに飛び込むのはやはりエミリオだ。だが井口がマークに付いており、また上がったボールが彼の頭より高かった。

 またボールの飛んだ先にはエミリオ以外誰もいない。注視していたマリオは兵藤も前にいるし、ステファノもその近くだ。

 これなら問題ない。ボールがエミリオの横に落ちていったのを見て鷲介は安堵する。

 が、次の瞬間、安心した気持ちは客席から起きた大声援により跡形もなく吹き飛んだ。

 爆発するような歓喜の声を聞き思わず周りを見渡す鷲介。そしてそれと同時に主審の笛の音が鳴る。

 

「なあっ!?」


 客席から再び主審に視線を移し、鷲介は思わず叫ぶ。主審は腕を高く上げ、センタースポットの方に指差した。ゴールを認めるハンドサインだ。

 反射的に視線をゴールに向ける。するとどうしたことか、ボールが日本ゴール内に収まっていた。


「一体何があったんだ……」


 呟く鷲介はスタジアムにある電光掲示板に目を向ける。

 そこにはでかでかと1-0と表示されており、次にゴールシーンが映し出される。

 先程見た、左に切り替えしてセンタリングを上げたバッジョ。ボールはエミリオの頭を通過し落下。

 鷲介としては落ちた軌道のままボールがラインを割ってゴールキックになると思っていた。

 だが事実は違っていた。落ちたボールは右に跳ねてゴール左ポストに向かう。そしてポスト内側に当たりゴールラインを割っていた。

 それを見て鷲介は気づく。バッジョが放ったのはセンタリングではない。ゴール左を狙った超ループシュートだったことに。

 エミリオはもちろん飛び込んできたマリオらはそれを悟らせないための撒き餌。思い返せばマリオが兵藤の前に位置していたのも兵藤の目線をボールではなく自分に向けさせ、バッジョのシュートを気付かせないためだったのだろう。

 前半3分、イタリア先制。まさに電光石火の先制ゴールだ。


「レ・ファンタジスタ!」

「マーゴ! マーゴ!」



 再びスタジアム全体から巻き起こるイタリアサポーターの大歓声。轟くバッジョの二つ名。

 ファンタジスタの王を意味するレ・ファンタジスタとイタリア語で魔法使いを意味するマーゴ。

 名称こそ違うがこれらの字は敵はもちろん味方さえ魅了するためにいつの間にか呼ばれていたという。


「レ・ファンタジスタ!」

「マーゴ! マーゴ!」


 止む気配が全くないバッジョの二つ名を煩わしく思いながら鷲介は近くにいる久司と英彦に寄っていく。


「まんまとしてやられたな」

「フン、気にすることはねぇ。出会いがしらの一発を浴びただけ。すぐに取り返せばいい」

「そうだね。それに今のプレーはデザインされたものじゃない。警戒はするがそこまで深く考える必要もないだろう。

 藤中君たちもさして気に止めていないようだし」


 英彦の言う通り、視線の先にいるテツ達DFは先制ゴールに大喜びしているイタリアの選手たちとサポーターらの騒ぎの影で落ち込む様子は見せず綿密に言葉をかわしている。


「しっかしいきなり奇襲してきたのは驚いたな。何というかイタリアらしくない」

「確かに。でも次はこうはいかないよ。

 さ、僕たちは僕たちでやることをしよう。まだまだ時間はあるのだから」


 首を傾げる久司の横、英彦はうっすらと微笑む。

 アルカイックスマイルのようなそれを見た久司が軽く目を見開き、鷲介は小さく息を吐く。

 英彦は落ち着いてはいる。だが出会いがしらの一発に腹も立てている。


「レ・ファンタジスタ!」

「マーゴ! マーゴ!」

「鷲介、このうざ……大歓声を早く黙らせよう」

「はい」


 うざったいと言いかけて直す英彦に鷲介は素直に頷く。

 普段も試合中も常に落ち着いている英彦だが、代わりに心中が言動やプレーに出るというちょっとした欠点もある。

 ちなみに今季リーグ戦、カードこそ少ないがファウル数は所属するハンブルグ・フェアアインでもトップだったりする。

 鳴り響く試合再開の笛の音。鹿島から渡されたボールを鷲介は後ろに返そうとするが、


「んっ!?」


 猪のように突撃してくるマリオを見て一瞬、目を見張る。

 すぐに反転してボールを後方の仲間に渡し前に走り出すが、数メートルほど進みその足が止まった。


(また?)


 イタリアの動きは先程の試合開始直後と全く同じだ。11人のアズーリは皆、全体的に前掛かりとなっている。

 先制点を取ってさらなる追加点を取りに行くという姿勢なのはわかる。だがイタリアがそれをすることに大いに違和感を覚える。

 伝統的に堅守とカウンターを得意とするイタリア。もちろん攻撃が不得意というわけではないがそれでもこのようなサッカーはかの国らしくない。

 あえて言うならブラジルやアルゼンチン、スペイン、オランダなど攻撃をウリとした国がとるような行動だ。


「ずいぶん点を取ることに積極的ですね。イタリアらしくない」


 思わず鷲介は傍にいるバレージに話しかける。


「そうだな。だが効果はあるだろう」 


 イタリア代表のキャプテンは鷲介に視線を向けず前を見ながら答える。

 そっけない。そんなバレージに鷲介は首を傾げる。以前対戦した時は上から目線で挑発的な態度だったというのに。

 あえて彼に話しかけたのは先制点を取って浮かれている彼から何か情報を引き出せないかと思ってのことだったのだが──


(まぁいいか)


 そう思い鷲介は自陣に目を向ける。

 前掛かりとなっているイタリアだが二度目ともなれば日本は落ち着いてボールを回している。

 特に英彦が皆にコーチングをしてパスを誘導しており、バッジョらの突撃を見事回避していた。

 日本陣内を幾度も行き来するボールと動く両国のイレブン。そして久司が出したボールが転がるスペースに英彦が走り込んだのを見て、鷲介は動く。

 少しポジションを下げていた久司の代わりに、日本陣内のセンターサークル付近まで上がった英彦。彼はそのボールをダイレクトに蹴る。

 放たれたボールは選手たちの頭上をかすめるかのような速い浮き球だ。そしてそれに見事鷲介は反応している。 


(オフサイドはなし)


 鷲介のハイラインのずれを見極めての飛び出しにより起こるイタリアサポーターの悲鳴。

 それを聞きながらボールに向かって走る鷲介。しかしボールに近づくのは鷲介だけではなく前に出ていたジャンルイジもだ。

 しかし鷲介は全く動じない。90%だったギアを100%にしてさらに接近。目を見開くジャンルイジより先にボールに触れ、そして直後すれ違うように彼をかわす。

 現役で世界一のGKと言われているジャンルイジだが、そんな彼にも欠点──というか弱点はある。それがエリア外への飛び出しだ。

 古いタイプのGKである彼はペナルティエリア内での活動には無類の強さを見せる一方、現代のGKが時折見せるエリア外への飛び出しといったものはそれを得意とする面々に比べれば劣っている。

 今の飛び出しも悪くはないが、鷲介たち世界トップクラスの快速FWに対するものとしては赤点だ。


(これで同点)


 ジャンルイジをかわし鷲介はすぐにシュートを放つ。

 不安定な姿勢だったため放たれたシュートは弱くコースもゴールど真ん中。だが問題ない。ゴール前には誰も──


「!?」


 再び目をみはる鷲介。その理由は自分の背後から飛び出したバレージだ。

 全速力かつ最短距離でボールを追うバレージ。転がるボールの遅いが間に合うかは五分五分といったところだ。

 

「おおおつ!」


 力強い叫びを上げて体を投げ出すようなスライディングをするバレージ。彼が伸ばした足はゴールライン上でボールに触れ、ボールは宙に浮きあがる。

 落ちてくるボールに鷲介は駆け寄るが、バレージよりやや遅れて戻ってきていたマリオがボールを収め、大きく蹴りだした。

 日本陣内に飛ぶボール。だが大きく右サイドに飛んだそれは両国の選手が幾度か激しい奪い合いをした後ラインを割った。

 バッジョへの歓声は止まった。だが代わりに起こるのはバレージとマリオへの称賛だ。


「”クストーデ”!」

「”リベロ”!」


 イタリアサポーターから響く二人の愛称。それがさらにスタジアムの熱を上げていく。

 それを不快に思いつつ鷲介は近くに来たバレージに再び声をかける。


「まだ続けるんですか」


 イタリアの全体位置は、変わっていない。バレージらイタリアの最終ラインはハイライン──高い位置を取り続けているし、ジャンルイジもペナルティエリアライン上にいる。

 それが鷲介たち日本にとってどれだけリスクがあるのか今のシーンでわかっただろうに。

 

「当然だ。勝つためにこの戦いかたを選んだのだからな」


 バレージは鷲介に視線を合わせず言い、寄ってきたマリオと背を向けて何やら言葉を交わす。

 らしくないバレージ──イタリアの様子を見て、鷲介の警戒が一層高まるのだった。







リーグ戦 24試合 18ゴール10アシスト

カップ戦 3試合 3ゴール4アシスト 

CL 10試合 18ゴール4アシスト


代表戦(三年目)2試合 3ゴール1アシスト








W杯 2試合 5ゴール1アシスト

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